みんなあたまがおかしいようです

尾持ち

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これから

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「家族でも大切な人でもないっていうのに、俺が真犯人を突き止めたいと思う?俺が殺したと思われてさえいなければ、どうだって良かったに決まってるだろ」

「それは、私も同意できますけど」
「しちゃうんだ」
「でも、そう言う割には先輩のしてることはおかしいですよ」
「おかしいって?」
「真犯人を突き止めたいわけじゃないんでしょう?それなら、先輩はどうして私をここに呼び出したんですか?」

 彼の主張を聞いてから、ずっと頭の中に浮かんでいた疑問を口にする。

「私を呼び出して、犯人だって突き止めておいて、その主張は通らないと思いますよ」
「へー、鋭い」

 一ミリもそう思っていなさそうな声で、先輩が言う。

「じゃあちょっと話題を変えようか、菜乃ちゃん」

 私はそれに反対しなかった。何かしらの意図があってそうするのだろうと、さすがの私でも察することができた。

「ここでお喋りを始めてすぐ──俺は君に、友達が自殺未遂したのにどうしてそんなに平然としていられるのか、みたいなことを聞いたね」
「ええ」
「今だから言うけど、俺が本当に聞きたいことは別にあった」
「あの子を殺しておいて、なんで平然としていられるんだ、みたいなことですか」
「惜しい!半分当たってる」

 半分。半分と言われても、それ以上は思いつかない。

「いや、もっとあるよね?ほら、人殺しの大多数は気にしてそうなこと」
「人殺しの大多数が何を考えてるのかなんて知りませんよ」
「犯人だとバレやしないかびくびくするもんじゃない?普通は」
「先輩に説明した気がしますけど、今までずっと、現実感がなかったからですよ。もっと計画を練ってあの子を殺していたなら、自分が殺したんだって実感があったのかもしれませんけど、勢いであの子を殺したので」
「それにプラスして、自殺だと処理されるような好条件が揃い過ぎていた。俺にふられた直後だったから。だから内心──少しは安心してたんじゃない?」

 なんだ、分かってるんじゃないですか。いちいち私に質問しなくたって、先輩の中で推測できてたんでしょう? そう口にしかけたところで、先輩の目が私の視線を捉える。

「でも、それとは別に、君が犯人だってみんなに知られてしまう可能性が、もう一個だけある」
「……先輩が警察に言いふらしたら、」
「違う」

 妙に力強く、彼が否定する。「俺から君のことを警察にチクったりはしない。そこだけは信じて」

「俺が何もしなくても、君の行いがバレる方法がもう一個ある」
「……」
「もしかしてほんとに気づいてない?」
「もしかしなくてもそうですよ」
「さやかちゃん」

 どこか楽しげに、彼はその名前を口にした。まるで何でも解決できる、魔法の呪文であるかのように。

「あの子はいま、意識不明の重体で、意志疎通もできずにいる。でも、あの子が意識を取り戻したらどうなると思う?」
「言うかもしれませんね」

 私があの子を殺そうとしたことを。
 足先が、ゆっくりと冷えていくのを感じた。あの子がいつか目を覚ます可能性。もちろんそれを考えていなかったわけではない。
 けれどそれは、どれくらいの確率で起こりうることなのか? 正直なところ私は、あの子が意識を取り戻すなんて未来は、おとぎ話と同じくらい空想めいたお話に思えてくる。

「あの子が目を覚ますと思ってるんですか?」
「逆に、それを考慮しないわけがなくない?」
「二階から飛び降りたんですよ。それで数週間経っても意識は戻らない」
「いやー、科学の進歩ってすごいんだよ。菜乃ちゃん」

 笑顔を貼りつけたまま彼が続ける。

「いつ目を覚ましたっておかしくないのは確かだし──これから医療は進歩していくはずでしょ? それで、脳死と植物状態の違いって授業でやった? もしかしなくても、目を覚ましてなくても脳波の動きでその人の意見を読み取れたりできる未来もいつか来るんじゃない?」
「一気にSFみたいなことを言い出しましたね」
「別にいいじゃん。俺が言いたいのは、君があの子に告発される可能性は、あの子が生きてる限りずーっとあり得るってこと」
「……先輩は、私に忠告してるんですか?」

 先輩が何を言いたいのか分からない。彼は警察に言いつける気はないと言った。あの子が生きてる限り、私が警察に突き出される未来はゼロではない。しかしそれを知っていたからといって、私は何をすべきだというんだ。
 毎晩神さまにお祈りして、あの子が目覚めないようにとお願いしておくくらいしか、私にできることはないように思う。

「ここまで言っても分からない?」

 妙に優しげな笑みを浮かべて、言い含めるように彼は訊ねる。私が犯人だと突き止められてから、彼のこういった表情をよく目にしてきたと内心思う。まるで私に同情しているような視線。確かに私は犯罪者で、人殺しで、同情に値する人間であるが、彼が向けてくる笑みには別の意味があるように思えた。
 たとえば、彼が見据えている先の未来に、私を憐れんでしまうような出来事が待ち受けているのだとしたら。
 「分かんないかなあ」と彼が言う。

「俺は君を脅迫してるんだけど」
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