みんなあたまがおかしいようです

尾持ち

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きょうはく

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「この音声は誰にも漏らさないって言ったよね? でも、唯一の例外として──さやかちゃんが意識を取り戻した時だけ、君の許諾を得られたらこの音声を提出しようかと思ってる」

 先輩がスマホを机に置く。無造作な手つきで。机上にぶつかった瞬間に固い音が響く。なぜか胃が締めつけられるような心地がした。

「なぜかは分かる?」
「……」
「答えてもいいんだよ」
「……私が犯人だとあの子に告発されても、その証言が不利になるように」
「そう」

 話しながら、彼はスマホをもてあそんだ。机上に置いたまま、手首をひねってコマのように回転させる。彼が手を離しても、慣性によってスマホはゆるやかに回り続けた。残像で、円形の物体のようにも見えてくる。

「もし──『菜乃に突き落とされたんです』ってあの子が主張したとしても、そのすぐ後に菜乃ちゃんへの明確な殺意が表れている音声が出てきたりなんかしたら、さすがにさやかちゃんの証言を警察がまるっと信じ込むことはできないんじゃない? 俺は司法に詳しくはないけど」

 回り続けていたスマホは徐々に速度を落とし、じれったくなるような遅さになって、最後には完全に停止した。

「それを踏まえて、君は事情聴取で『あの子を殺そうとした覚えなんてありません』って証言してもいい。それがお気に召さなかったら、君を突き落とそうとしたあの子と揉みあいになって、結果的にああなってしまった、っていう正当防衛狙いの主張をしてもいいかもね。まあこっちの場合は、最初に嘘の供述を警察にしてたことになるし、不可抗力だとしてもある程度の罪には問われるかも」

 それでも、故意に殺したと見なされる場合より、ずっと罪は軽いだろうけど。先輩はそんな風に付け足した。

「だから俺は、君の罪が軽くなる証拠を持ってるわけなんだけど」
「……」
「だったら、俺に媚を売っておいた方が良いって君にも分かるよね?」

 「俺は君を脅迫してるんだけど」と彼は言っていた。その意味がようやく、理解できた気がする。

「……なんで」

 私はそう言おうとして、口の中が乾いていることに気がついた。掠れきっている自分の声に、焦りがより増していく。舌で口内を湿らせて、仕切り直す。

「……それならなんで、先輩は私の供述の方を録音しなかったんですか?」
「うん?」
「私がどうやってあの子を殺したのか、先輩に話していた時のことを……」

 確かあの時も、盗聴しているかどうかの問答をした。してないと言いつつも、本当は何かしらの手段で声を録っていて、そのデータは先輩の手の中にあるのかもしれない。しかしそうだとしても、今ここで脅迫のネタに使うなら、私があの子を殺したのだとはっきり明言しているあの音声をネタに揺すった方がいいはずなのに。
 「ああ」と先輩はにこやかに頷いた。人を脅している最中だとは思えない顔で。

「別に、そんな複雑な意図があるわけじゃないよ」
「……」
「何度も言うけど、俺は君を犯人として、警察に突き出したいわけじゃないからね」
「……」
「それに……」

 先輩が上体を屈めて、下から覗き込むようにして私の目を見つめる。

「選ぶ余地を与えたかったんだよね」
「選ぶ余地……」
「そう。だって、殺した証拠をばら撒かれたくなかったら言うことを聞けなんて、他に選択の余地がなさ過ぎるでしょ。相手は言われるまま従うしかないじゃん。でも俺が持ってる証拠は、さやかちゃんが意識を取り戻すっていう最悪の事態が起きた時くらいにしか活かされない証拠なわけで──」
「……」
「だから、無理やり従わせるんじゃなくて、あくまでも君の意思で、俺を選んで欲しかったんだよね」

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