人魚姫は鬼畜な王子様を短剣で刺さない

楓子(かえでこ)

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本編

6。初めての寝室

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 着いてこい、と言われて研究室を後にした。
 築島先生と薄暗い駐車場に歩み、開けてもらった助手席に乗り込む。先生が運転する車で、夜道を移動した。

 緊張は伝染するというけれど、落ち着きも伝染するらしい。会話らしい会話は何もなかったけれど、築島先生のゆっくりとした呼吸や態度は、わたしにも伝わってきた。だからわたしも、不思議なほど落ち着いていた。

 到着したのは、先生の家だった。
 大きな一軒家。モデルハウスそのままみたいに、かっこよかった。

「ここにひとり暮らし、ですか……?」
「結婚しているように見えるか?」
「みえない、です……」

 この家のどこかにたくさんの薬品があるのかと思うと、ちょっと覗いてみたいなと思った。
 先生の後に続いて、奥の部屋に通される。大きなベッドがあるから、寝室だと思う。

「服を脱いでくれ」

 先生はそう言うと、自分はジャケットを脱いだ。
 わたしは、戸惑う。だってわたしはワンピースしか着ていないのに。カーディガンのような羽織物もないし。脱げというのは、これのことだろうか……

 葛藤がある。ただでさえ、人前で裸になるなんて恥ずかしいのに、築島先生の前でなんて。
 わたしは深呼吸ひとつした。何でも覚えるって言ったじゃないと、自分に言い聞かせる。言われたことに抵抗していたら、覚えることなんてできない。

 ためらいながらも、わたしは背中のファスナーを下ろした。
 ワンピースはストンと落ちて、それを拾って近くの椅子の背においた。これ以上はむり。

「下着姿か……まぁいい」

 先生はわたしのワンピースをハンガーにかけてから、ベッドの縁に腰掛けた。
 じっとこちらを見ている。

 わたしは、抱いてくださいって頼んだわりに、全然セクシーな下着をしてこなかった。というより口からセリフが飛び出てしまっただけで、あの会話からそのままこんな展開になるなんて、考えてもいなかった。

 いつも通りのブラとショーツに、お揃いのキャミソール。
 レースがついてるみたいな見た目が綺麗なのじゃなくて、肌触り重視の、どっちかっていうとスポーティーなやつ。わたしは胸がそんなに大きくないし、子どもっぽく見えてないかが気になった。

「おいで」

 一メートルしか離れていないのにそう言われて、吸い寄せられるように先生の膝に股がった。こんなに近づいていいのかわからなかったけど、間違った判断ではなかったようだ。
 先生は右手でわたしの左頬をさすった。そして左手は腰に回されたから、わたしは両腕をそっと先生の首に回した。

 綺麗な顔……
 先生の顔を、こんなにまじまじと見たことはなかった。
 それにすごく紳士的な表情をしている。先日わたしにしたことや……これからするであろうことを行う人には、到底見えない。

 先生もわたしの目を見ていた。
 そして先生の視線がわたしの唇に落ちたかと思うと、ゆっくり顔が近づいてきて唇同士が触れた。本当に優しく、触れたかと思うと、少し離れて、また触れた。

「僕の下唇を、甘噛みして」
 言われた通りに、甘噛みする。

「そう……口を少し開けて、僕の舌の侵入を許すんだ」
 そうして先生の講義が始まった……


 * * *
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