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本編
5。告白
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講義後の夕暮れ時。
先輩たちはみんな帰っていった。本来ならわたしも一緒に帰宅するけれど、図書館に寄るからと言って一人残った。
そして再び研究室に向かう……
研究室のドアを開けると、築島先生は定位置でパソコンに向かっていた。
ドアの開け閉めの音で、先生はこちらに気が付いているはずだ。しかし微塵も反応を示さず、作業を続けていた。
なにも言われない……
”忘れ物か”とか、”なぜ戻ってきたか”とか。
聞かれないことがむしろ不自然さを醸し出した。
「先生……合宿の飲み会の後は、部屋まで送ってくださって、ありがとうございました」
「どういたしまして」
先生はわたしと目を合わせずに、間髪入れずにそう言った。
静かな研究室で、カタカタと先生のタイピング音だけが響く。わたしは次になんて言ったらいいか迷った。
「それで? こんなに時間が経った後で言いたいのは、ただの礼か?」
一区切り打ち終わったとき、先生はようやく作業の手を止めて、こちらを見た。その目はひどく挑発的に見えた。
いつもの先生じゃない……
やっぱり、夢ではなかったんだ。
「先生……」
なんで——
いや、違う。
「……抱いてください」
この間はなんであんなことをしたのか——きっと理由は簡単だ。先生が男性で、わたしが女性だから。それ以上の理由なんてないのだろう。わたしも無防備だった。
築島先生は、無駄な会話を好まない。
だったら、分かり切ったやり取りをするより、自分の結論から言おう。
あの晩のことがすべて現実だった上で、責めたいわけではないのだ。恨んでいるわけでもない。恨むには、それ以前に培われた尊敬の念が強すぎた。
いまの身体の状況を考えると——またしてもらいたいのだ。
「いきなりどうした」
先生は、わたしの目をじっと見据えたまま、そう言い放った。
負けちゃだめだ。そう思ったけど、なんか気恥ずかしくなって、わたしの方から視線を外してしまった。
「身体がうずうずして……どうしたらいいか、わからないから……」
わたしはうつむいた。
人は恥ずかしいと、下を向いてしまうらしい。
「今日来なければ、呼び出すつもりだった……」
再び正面を見たとき、先生は眼鏡を外していた。テーブルにあった眼鏡拭きで丁寧にその曇りをぬぐい、ケースに閉まう。
「でも、来るとは思っていた。きみは自分で処理できそうにないから」
そして先生は椅子を引いて立ち上がると、こちらへ歩んだ。
ごくりと唾を飲む。
先生はゆっくり近づいてきて、わたしの周りを一周した。
「あの晩、ほとんど意識のないきみに、僕は何をしたと思う?」
ゾクっとする。深みのある独特の声。
ああ、やっぱり、あの声は先生のものだったんだ……
先生が真後ろに立った。
「僕が欲しいか」
「ほしい、です……」
「なら、色々と覚えなくてはならない」
「なんでも、おぼえます」
背後でシニカルな笑い声がする。
「そうだな……きみは優秀な生徒だから」
* * *
先輩たちはみんな帰っていった。本来ならわたしも一緒に帰宅するけれど、図書館に寄るからと言って一人残った。
そして再び研究室に向かう……
研究室のドアを開けると、築島先生は定位置でパソコンに向かっていた。
ドアの開け閉めの音で、先生はこちらに気が付いているはずだ。しかし微塵も反応を示さず、作業を続けていた。
なにも言われない……
”忘れ物か”とか、”なぜ戻ってきたか”とか。
聞かれないことがむしろ不自然さを醸し出した。
「先生……合宿の飲み会の後は、部屋まで送ってくださって、ありがとうございました」
「どういたしまして」
先生はわたしと目を合わせずに、間髪入れずにそう言った。
静かな研究室で、カタカタと先生のタイピング音だけが響く。わたしは次になんて言ったらいいか迷った。
「それで? こんなに時間が経った後で言いたいのは、ただの礼か?」
一区切り打ち終わったとき、先生はようやく作業の手を止めて、こちらを見た。その目はひどく挑発的に見えた。
いつもの先生じゃない……
やっぱり、夢ではなかったんだ。
「先生……」
なんで——
いや、違う。
「……抱いてください」
この間はなんであんなことをしたのか——きっと理由は簡単だ。先生が男性で、わたしが女性だから。それ以上の理由なんてないのだろう。わたしも無防備だった。
築島先生は、無駄な会話を好まない。
だったら、分かり切ったやり取りをするより、自分の結論から言おう。
あの晩のことがすべて現実だった上で、責めたいわけではないのだ。恨んでいるわけでもない。恨むには、それ以前に培われた尊敬の念が強すぎた。
いまの身体の状況を考えると——またしてもらいたいのだ。
「いきなりどうした」
先生は、わたしの目をじっと見据えたまま、そう言い放った。
負けちゃだめだ。そう思ったけど、なんか気恥ずかしくなって、わたしの方から視線を外してしまった。
「身体がうずうずして……どうしたらいいか、わからないから……」
わたしはうつむいた。
人は恥ずかしいと、下を向いてしまうらしい。
「今日来なければ、呼び出すつもりだった……」
再び正面を見たとき、先生は眼鏡を外していた。テーブルにあった眼鏡拭きで丁寧にその曇りをぬぐい、ケースに閉まう。
「でも、来るとは思っていた。きみは自分で処理できそうにないから」
そして先生は椅子を引いて立ち上がると、こちらへ歩んだ。
ごくりと唾を飲む。
先生はゆっくり近づいてきて、わたしの周りを一周した。
「あの晩、ほとんど意識のないきみに、僕は何をしたと思う?」
ゾクっとする。深みのある独特の声。
ああ、やっぱり、あの声は先生のものだったんだ……
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「僕が欲しいか」
「ほしい、です……」
「なら、色々と覚えなくてはならない」
「なんでも、おぼえます」
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「そうだな……きみは優秀な生徒だから」
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