人魚姫は鬼畜な王子様を短剣で刺さない

楓子(かえでこ)

文字の大きさ
8 / 39
本編

8。ーお風呂

しおりを挟む
 飛んで行きそうな意識を必死で食い止めた。
 先生はシャワーと言ったけれど、すぐには起き上がれないわたしを見て、湯船にお湯を溜めに行ってくれた。隣りのバスルームから、滝のような水の音がする。

「立てそうか?」
「は、はい……」
 腕の力を使って上半身を起こした。ただ思うように身体が起き上がらない。

「まったく……無理なら無理と言うんだ。講義でもそうだが、きみは頑張り過ぎだ」

 先生はそう言うと、いきなりわたしを抱き上げた。
 はっとする。先生はわたしがわたあめくらいの重さしかないかのように、軽々しく持ち上げたから。
 バスルームまで運んでもらって、溜まったお湯に入れてもらう。
 先生は立ち去ろうとした。

「先生は……?」
「……入ってもいいが」

 そう言って、先生は一度戻って服を脱いだ。
 一緒にお風呂って、果敢なことを言っちゃったかな……
 わたしは後ろを向いて、ブクブクと湯に身を沈めた。だけどそれよりもすごいことしちゃったしな。

 それより、一体これはどういう関係なのだろう。
 教師と生徒? ううん、そういう二人は、一緒にお風呂に入ったりはしない。
 じゃあ、恋人同士? これも違う。愛の言葉も、交際しようといった意思表示もないから。

 部屋に入ってからの言動を総合しても、先生は愛情たっぷりに接してはくれない。だけど妙なところで優しさを感じる。先生に嫌われてはいなさそうだけど、好かれているのかはわからない。それに、自分が先生をどう思っているかも、確かではなかった。
 もちろんずっと尊敬はしているけれど、先生本人を、よくは知らないのだ。

 水の音がして振り向くと、先生が湯船に腰を沈めていた。先生は一度肩まで浸かって、濡れた手を出して髪をかきあげた。

「先生はなにを考えて……いるんですか?」
 おかしな口調になってしまった。前半まで、友だちに話しかけるときみたいな言い方だったから。宙を見ていた先生の視線が、わたしに定まった。

「二人でいるときは敬語でなくて構わない」
 先生が再びお湯に腕を沈めたとき、小さな水しぶきがした。

「それで、何を考えている、とは?」
 築島先生は、少し壁を作ったような言い方をした。質問の意図を理解しながらも、それを汲み取って答えてはくれなさそうな。
 踏み込んではいけない感じがした。少なくともまだ……
 だからわたしはかぶりを振った。

「近づいてもいい?」
「ああ、いいよ」

 水中を移動して近づき、先生の胸に頭を預けた。
 聞きたいことがたくさんあるのに、言葉が出てこない。
 不思議で、分からないことがたくさんあるのに……

 築島先生は腕を回して、わたしの頭を撫でてくれた。

 でもいいんだ、いまが心地いいから。
 考えるのは、もう少し後にしよう。


 * * *
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる

春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。 夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。 形のない愛は信じない。 でも、出来立ての肉は信じてしまう。 肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。 これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

田舎の幼馴染に囲い込まれた

兎角
恋愛
25.10/21 殴り書きの続き更新 都会に飛び出した田舎娘が渋々帰郷した田舎のムチムチ幼馴染に囲い込まれてズブズブになる予定 ※殴り書きなので改行などない状態です…そのうち直します。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

処理中です...