人魚姫は鬼畜な王子様を短剣で刺さない

楓子(かえでこ)

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番外編

7。収穫祭の夜

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 電車から降りた後、築島は無事学会に間に合い出席した。
 途中蛍に、”面倒だ、だるい、つまらない”などとメールしながらも、結局最後まで職務を果たした。 
 蛍はその間近くの本屋や喫茶店で待っており、メールには毎回”がんばって、あとちょっと”と返し、築島が終わってから一緒に帰宅した。

 帰りのタクシーは、渋滞に巻き込まれることなくスムーズに進んだ。
 普段なら食事でもしてから帰るが、蛍はこの後、先輩たちとのハロウィンパーティがある。彼女は築島の家に帰ると、先日買ってもらった仮装に着替え、そして築島に車で足立家まで送ってもらった。

 ちょっと派手じゃないかな。
 そう心配しながらも、浮き足立って玄関に向かう。彼女が呼び鈴を押すと、ガバッとドアが開いた。

「「ハッピーハロウィン!」」

 英里香は小悪魔、華は黒猫の仮装をしている。二人とも露出度が高く、蛍とはまた違ったタイプの仮装であったが、彼女たちにはよく似合っていた。

「英里香さんも華さんも、かっこいい~!」
「わー、蛍ちゃん、よく似合ってる!」
「先生ロリっ……もにょもにょ……ぴったりね!」

 先生ロリータコンプレックスをこじらせているからぴったりね! というセリフは飲み込まれる。

「ろり?」
「さっそくロリーポップあげるー♡」
「わぁ!」

 ”美容液っ”
 ”そうでしたっ”

「入って入って~ 私の家じゃないけど」
「もうみんな集まってるよ」
 足立宅は、小沢たちが言っていたように広々としていた。リビングの真ん中には手料理やケータリングが用意されている。南瓜が丸ごとくり抜かれて作られたカボチャプリンに、蛍は目を輝かせた。

「はーい、じゃあみんな集合~ 写真撮るよ」
 フランケンシュタインやミイラ男のような定番から、マッドハッターやマクドナルドなどの個性派が揃い、全員で並ぶとさらに見栄えがした。一部の者は写真をインスタに上げ、一部の者は食事を取り始めた。

「そうそう、みなさん~ 例のあれは一部五千円ですから」
「あと今日のわたしは、一見千円で~」
 英里香はテスト前に過去問のコピーをあげた見返りに現金を要求し、華は本日胸元と脚をチラ見した者には鑑賞料を取っていた。

「おまえの仮装は、悪魔じゃなくて死神だ」
「元々が小悪魔だっつうの」
「金取るくらいなら、そんな服着るなよっ」
「何言ってるのよ、徴収するために着てきたんだから」
 そして蛍は、築島先生をちゃんと連れて行ったことを褒められた。
「偉かったねー」
「えへへ」
 一通り写真も撮り終わり、食事も平らげると、あとは普通の大学生の飲み会だ。

「蛍ちゃんは、どんなひとがタイプなの~?」
「うーん、タイプ……なんだろう……」
「じゃあ、男の人のどんなところにドキドキする? 何されたら嬉しい?」
 質問されて、蛍は一考する。

「声、とか」
 先生に囁かれるの、ドキドキするな。

(できればどんな声が具体的に……)
(俺、低くない? 低いっていいよね?)
(僕は高い気がする……)
(築島先生ってどんな声してたっけ)

「あと膝に乗せてもらえたら、嬉しいな」
 先生のお膝に乗るの、好きだな。

(終わった……)
(蛍ちゃん、軽そうだし乗るんじゃね?)
(身長はセーフ。だけどガタイ的にはどうだろ……)
(先生なら、確かに余裕でしょうね)

「それと、ごはんを作ってくれる人が好き!」
 甘いフレンチトースト作ってくれる先生、大好き!

(レッツ・クックパッド)
(料理ね、料理)
(あーそういや先生、料理上手だったわ)
(築島先生、餌付けか……!)

 精神的に死亡する者若干名、新しいネタを手に入れたと喜ぶ者二名を生み出し、彼らのお酒はさらに進んだ。


 * * *


「ただいまぁ!」

 ドアを開けると、若干頬を染めた蛍が立っていた。黒いコートをきているから目立たないが、裾からは水色の仮装が覗く。
 薄着の築島は、彼女を入れてすぐドアを閉めた。

「おかえり」
「とっても楽しかったよー」
「そうか」
「先輩たちはね、夜の街に繰り出しに行ったの。ハシゴ・・・するんだって」
「あいつらはどれだけ飲めば気が済むんだ」
「わたしも誘ってもらったけど、やめておいた」
「正解だな。酔って潰れて、道端で寝るのは嫌だろう」
「うん、いや」
 リビングに戻るなり、築島は裾を引かれた。
「ねぇ、先生……」
「なんだ」
 一体、足立の家で何があったんだ。
 そう危惧するほど真剣で。
「お菓子をくれなきゃ、いらずらをします」
 蛍はその表情のまま、ただ単純に菓子を求めた。

「……どうぞ」
「? お菓子をくれなきゃ、」
「だから、どうぞ」
「……おかし、は……?」
「泣くな! あるから泣くな!」
 涙ぐまれて、用意していた洋菓子のバスケットを渡してしまった。
「わぁーありがとう!」
 彼女は早速リビングに広げ出した。
 こいつは食べてきた後じゃないのか。そう思うも蛍は笑顔で、どれから食べようか吟味している。
 仕方がない。飲み物でも用意するか。築島はコーヒーと紅茶を一つずつ用意しに行った。

 ソファに座ってコーヒーを飲みながら、マドレーヌを頬張る蛍を眺める。
 しかし不本意だ。
 お菓子をくれなきゃいたずらをしません、なら喜んで出すのだが……
「さっき……何て言ってた?」
「え? お菓子をくれなきゃ、いたずらをしますって」
 築島は手を出す。
「僕には?」
「えええっ。だって先生は、お菓子なんて食べないでしょ」
「辛党だからといって、参加資格がないわけではないだろう」
 蛍は慌てて探す。周りにはいま先生からもらったお菓子しかない。
 そうだと思い出して、カバンから棒付き飴をさっと出す。
「それはさっき玄関先で中西くんからもらったものだろう」
「……」
 見られていたか。
「彼女には喜んでいたずらをしない。で、きみからは?」
「……用意してない」
 築島は嬉しそうにため息をついた。
「また一つ、大義名分を手に入れてしまった」
 彼は立ち上がって、蛍の手を引いた。
「ま、まだ、食べてるし、」
「どうせ散々食べて来たんだろう。今度はこっちの腹を満たしてもらおうじゃないか」
「紅茶、入ったとこだし、」
「終わったら、また入れてやる」
「やぁ、痛いのはいやぁ、」
「そのうち慣れる」




~Trick or Treat~
 相手がきみなら、いたずらを取る。

 * * *

本編に続き、ここまでお付き合い頂きありがとうございましたm(_ _*)m
10月だったので、ベタにハロウィンネタにしてみました笑
またふと思い付いたら(?)、番外編を書こうと思っています~
ではではその日まで(*´ω`)ノ
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