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二
第6話 提案
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タイミングよく、話が終わったちょうどに小夜子が戻ってきた。小夜子が佐和の隣に座るのを眺めながら、僕は呟いた。
「僕より警察に相談した方がいいんじゃないかな?」と僕が言うと、小夜子はがたがたと震えだした。それを一瞥した後、佐和が衝撃的なことを言った。
「どうやら小夜子の父親は、かなり力のある人間らしいんだ」
僕は驚いて、吸っていた煙草を床に落とした。慌ててそれを拾い、灰皿で揉み消した。
「……それでも、娘への虐待が発覚すれば、力を失うだろうし、なによりこの子が保護される」
「そう、力を失う。だとしたら父親は小夜子をどうすると思う?」
一瞬でその答えが頭に浮かんだ。
「……まさか」
「そう、そのまさかだよ。最近やたらと蒲田付近で怪しい人間を見かけてる。この間センセに手伝って貰って半殺しにしたデブ、憶えてる?」
「ああ、うん、覚えているよ」
「そいつはこんなものを持っていたんだよ」
と言い、右ポケットからくしゃくしゃの紙切れを渡してきた。それは紙切れではなく、写真のコピーだった。
小夜子の写真だった。現物より痩せているし、髪の毛だって短いし、服装は若者らしく、派手だ。
「……父親が、探している?」
「その通り。半殺しで済ませたのも、雇い主である父親のところへ戻させて、警告を与えるためだったんだ」
なるほど……合点がいった。だから小夜子の格好も、髪の毛を伸ばして、地味にさせていたのだ。
「でも、なぜ蒲田周辺にいることが向こうに知れたの?」
「それはわからない。様々な場所で探させて、蒲田で目撃者を見つけたのかもしれない。金ならあるだろうし」
「とても悲しくて、腹の立つ話だったよ。こんな絵に描いたようなクズ以下のサイコ野郎がいるなんて。しかも実の娘を殺すために嗅ぎ回っているなんて、もうなにも言えない……」
それまで佐和と真剣に話し過ぎたので、隣に小夜子の存在を忘れていた。
「だから、センセの力を借りたい」
「いや、確かに僕だって力になりたい。こんな酷い話はないからね。でも、僕はなんの力も持っていないし、金だってない。だから悪いんだけれど、力にはなれそうにない」
言い終わると、佐和はサディスティックな笑みを浮かべた。
「センセはかなり大きな力を持ってるじゃん」
なんとはなしに話がわかってきた。
「……もしかして、これを記事にしろと?」
「その通り。でも、なにもこの話を記事にして、告発しようとは思っていない。このクソ親父に、牢獄なんて生ぬるいと思わないか?」
「父親をどうする?」
「おびき寄せて……後はわかるよね?」
これ以上ないほど楽しんでいる。しかしそれは佐和だけではなかった。僕も笑みを浮かべている。鏡がないから見えないけれど、かなりサディスティックな笑みなのは間違いない。
僕はすぐさまミツギに電話をかけた。タイミング悪く、デート中だかなんだかでヒステリックになじってきたが、ネタを聞いた瞬間、歓喜の声を上げた。「すぐさま記事にしなさい」とのご命令。それを伝えると、佐和も同じように歓喜の声を上げた。小夜子はずっと無表情で俯いていた。
解散し、ブック・オフへ立ち寄る。ここよりも大きい店が大森駅にあるが、距離があるのでたまにしか行っていない。変わらない品揃えを眺めて、一時間ほどで家に帰る。部屋につくなりパソコンの前に座り、佐和と小夜子の話をテキストにまとめる。何度か最初から推敲し、読み直してからメールに添付してミツギに送信する。
夢中になっていたせいで、深夜を超えたことに気づかなかった。慌てて夕方の分と夜の分の薬を飲み、横になる。眠れないので本を読んだりしながら、なんとか二時過ぎには眠れた。
「僕より警察に相談した方がいいんじゃないかな?」と僕が言うと、小夜子はがたがたと震えだした。それを一瞥した後、佐和が衝撃的なことを言った。
「どうやら小夜子の父親は、かなり力のある人間らしいんだ」
僕は驚いて、吸っていた煙草を床に落とした。慌ててそれを拾い、灰皿で揉み消した。
「……それでも、娘への虐待が発覚すれば、力を失うだろうし、なによりこの子が保護される」
「そう、力を失う。だとしたら父親は小夜子をどうすると思う?」
一瞬でその答えが頭に浮かんだ。
「……まさか」
「そう、そのまさかだよ。最近やたらと蒲田付近で怪しい人間を見かけてる。この間センセに手伝って貰って半殺しにしたデブ、憶えてる?」
「ああ、うん、覚えているよ」
「そいつはこんなものを持っていたんだよ」
と言い、右ポケットからくしゃくしゃの紙切れを渡してきた。それは紙切れではなく、写真のコピーだった。
小夜子の写真だった。現物より痩せているし、髪の毛だって短いし、服装は若者らしく、派手だ。
「……父親が、探している?」
「その通り。半殺しで済ませたのも、雇い主である父親のところへ戻させて、警告を与えるためだったんだ」
なるほど……合点がいった。だから小夜子の格好も、髪の毛を伸ばして、地味にさせていたのだ。
「でも、なぜ蒲田周辺にいることが向こうに知れたの?」
「それはわからない。様々な場所で探させて、蒲田で目撃者を見つけたのかもしれない。金ならあるだろうし」
「とても悲しくて、腹の立つ話だったよ。こんな絵に描いたようなクズ以下のサイコ野郎がいるなんて。しかも実の娘を殺すために嗅ぎ回っているなんて、もうなにも言えない……」
それまで佐和と真剣に話し過ぎたので、隣に小夜子の存在を忘れていた。
「だから、センセの力を借りたい」
「いや、確かに僕だって力になりたい。こんな酷い話はないからね。でも、僕はなんの力も持っていないし、金だってない。だから悪いんだけれど、力にはなれそうにない」
言い終わると、佐和はサディスティックな笑みを浮かべた。
「センセはかなり大きな力を持ってるじゃん」
なんとはなしに話がわかってきた。
「……もしかして、これを記事にしろと?」
「その通り。でも、なにもこの話を記事にして、告発しようとは思っていない。このクソ親父に、牢獄なんて生ぬるいと思わないか?」
「父親をどうする?」
「おびき寄せて……後はわかるよね?」
これ以上ないほど楽しんでいる。しかしそれは佐和だけではなかった。僕も笑みを浮かべている。鏡がないから見えないけれど、かなりサディスティックな笑みなのは間違いない。
僕はすぐさまミツギに電話をかけた。タイミング悪く、デート中だかなんだかでヒステリックになじってきたが、ネタを聞いた瞬間、歓喜の声を上げた。「すぐさま記事にしなさい」とのご命令。それを伝えると、佐和も同じように歓喜の声を上げた。小夜子はずっと無表情で俯いていた。
解散し、ブック・オフへ立ち寄る。ここよりも大きい店が大森駅にあるが、距離があるのでたまにしか行っていない。変わらない品揃えを眺めて、一時間ほどで家に帰る。部屋につくなりパソコンの前に座り、佐和と小夜子の話をテキストにまとめる。何度か最初から推敲し、読み直してからメールに添付してミツギに送信する。
夢中になっていたせいで、深夜を超えたことに気づかなかった。慌てて夕方の分と夜の分の薬を飲み、横になる。眠れないので本を読んだりしながら、なんとか二時過ぎには眠れた。
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