虚無・神様のメール・その他の短編

れつだん先生

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創価学会員の僕 リライト

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 夜勤の仕事に備え、夕方頃からうとうととしていると、部屋のチャイムが二度三度鳴った。僕の部屋にやってくる人間など、そうはいない。まだ寝ていたいと思ったが、またチャイムが鳴ったので仕方なく扉を開けた。冷たい風が流れ込んでくる。
「久しぶり、元気?」
 若い男が二人。どこかで見た事がある顔だ、と記憶を手繰っていく。創価学会青年部の岡田と山中だった。創価学会に入っている人間ならわかるだろうが、このようにして夕方から夜にかけて家に訪問しにやってくるのだ。目的は「集会に参加させる」というだけ。
 このアパートは、扉を開けたままにできないため、手でドアを支えながら挨拶をする。世間話も無く、岡田が一枚の紙切れを渡す。「○月○日、○○宅にて集会」と書かれている。貰えばすぐにゴミ箱へ捨てるので、部屋には一枚も置いて無い。そこに参加したのも、母親の顔を立てるという面目の上で、一度か二度しかなかった。
「池田先生のビデオを見るから、是非来て欲しいんだ」と岡田が言う。隣の山中とは喋った事が無かった。いつもどこを見ているのかわからない目が怖い。
「ええ、じゃあ、暇だったら」とそっけなく言い、扉を閉める。長話にならなかったと安心し、紙切れをゴミ箱へ捨てる。それから暫くして、またやってきたが、今度は居留守を使った。扉の隙間から紙切れが落ちてきた。それを僕はゴミ箱へ捨てた。

 母親とその祖母が創価学会員なので、当然ながら僕も創価学会員だ。僕に拒否権は無い。まだ、父親とその祖母が創価学会を良く思っていない人なので、その点では助かっていた。両親共に学会員だと、否応無く学会員にされ、小さな頃から集会に参加させ、洗脳されていくのだ。とは言うものの、僕も「父親には内緒」と言われ、小学生の間は少年部と呼ばれる小学生の集会に参加させられていた。同学年の子供に合えるという楽しみと、お菓子が食べられるという、それだけの理由だった。最初と最後に題目を唱えるが、僕が覚えているはずもなく、ただ手を合わせていた。学校からお札や聖書を持って帰ってくると問答無用で捨てられ、鳥居は潜ってはいけないと教えられていたので、遠足などではそこを通らないようにしていた。
 中学生の頃になると、毎日家にやってくる学会員が煩わしく思い、全く合わないようにしていた。母親が「私の顔を立てるため」と懇願したので、何回か参加したことがある。仕事を始めてもそれは止むことなく、学会員は僕の仕事が終わると同時にやってきて、残業の時はそれが終わるまで外で待っていた。題目を唱え、世間話をし、聖教新聞や創価学会の雑誌を広げ、池田大作や著名人のありがたいお話を紹介しあう。僕を正式に加入させるために、「俺は昔こうだったが、学会に入って変わった」などという話も聞かされた。

 一人暮らしになってから、訪問という攻撃の回数は徐々に増えていった。居留守を使うと母親に「ちゃんとしなさい」と怒られた。いつのまにか部屋に仏壇がやってきた。聖教新聞も届くようになっていた。当然一切触っていない。新聞もすぐに捨てている。どうせ内容は、「池田先生がどこぞの名誉会長に」だの「題目を唱えて人生が変わりました」ぐらいしか載っていない。
「池田先生を信じていれば、間違い無いから」と母親や祖母に言われる。選挙の時になると、岡田や母親が家にやってきて、「公明党に入れれば間違い無いから」と言われる。もう誰にも相談できないし、助けも呼べない。

 真面目に活動をしない僕に業を煮やした母親が、とあるおばあさんを連れてきたことがあった。後で聞くと、聖教新聞を毎日届けに来ているおばあさんで、母親の親戚だったようだ。
「仕事がなかなか見つからないんですよね」と、学会の話ではない世間話で先制を打つが、
「それはやっぱり題目を上げてないからだよ」と言われてしまう。僕はもうこの創価学会のしつこさには参っていたし、良くない噂も聞く。それに長年付き合っている彼女が、創価学会をかなり嫌っていたというのもあり、一度切れてやろうと思った。
「あのね、しつこすぎるんですよ。題目を上げたら何か変わるんですか? 変わるわけ無いでしょ。そんな神頼みみたいなこと、僕はやりたくないんですよ」
 おばあさんは、突然声を荒げた僕に微笑みながら、諭すように言葉を出していく。
「それは個人個人の気持ちで変わっていくものなのよ。あなたが変わりたいと思ってお題目を上げたら、変わっていくの」
「そんな無茶苦茶な話ないでしょ! たとえば仕事を見つけたいと思ったら、そんな念仏唱える前に求人の一つや二つ電話した方がいいし、金を貯めたいと思ったらその時間、働いた方がいい」
「そういう人もいるでしょうね。でも、それだけだと完璧とは言えないの。根本的に人間として変わらないと、その場しのぎになるだけなのよ」
 僕があまりにも大声を張り上げるので、隣の住人が少し扉を開け、僕たちの方に目をやった。母親はおばあさんの後ろでじっと僕を見ている。
「だから! あのね、神様なんていう存在しない物に頼ってても仕方ないでしょ? 結局は自分しか頼りにならないんだから。池田先生か何か知りませんが、ただの人間でしょ」
「そういう存在を信じていない人はいるわね」
「だから、それが僕なんですって。自分だけの力で生きていきたいんですよ」
「じゃあ、それでいいんじゃない? それで、人生が良くなるとは思わないけどね。少なくとも私たちは、お題目をあげて人生が良くなったと思ってる。でもあなたは、そうは思っていない。それでいいんじゃないの?」
 おばあさんは帰っていった。母親の顔は明らかに怒っている。
「自分だけの力で生きていくって? じゃあ勝手にしなさい」
 それ以降母親と連絡は取っていない。僕と彼女の仲をあの手この手で引き裂こうとしたような人間だ。自分の思い通りに行かない人間は、切り捨てるんだろう。

 それなのにも関わらず、週に二、三度は学会員がやってくる。選挙近くなると、僕がちゃんと公明党に入れるかどうかを確認するために、近くの学校へと無理やり連れて行かされる。聖教新聞は玄関に溜まって行く。仏壇は押入れを占領している。
「やあ、こんばんわ。集会があるんだけどね――」

 神様、どうか僕を助けてください。
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