私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~

相沢蒼依

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私の推しは須藤課長!

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「童貞喪失したくらいで、俺はなにも変わらない。いつもどおりだろ」

 そう言い切った須藤課長は私の腰を抱き寄せて、椅子から立ち上がらせると、私の右手をジャケットの裾に掴ませるという奇妙な同伴で、メンバーにコーヒーを配りはじめた。

「あのぅ、須藤課長。コーヒーくらい私が配りますって」

 ついでにジャケットの裾を引っ張りながら物申したら、キッと睨まれてしまった。

「ダメだ。ヒツジに配らせると、コイツらが色目を使って声をかける恐れがある」

「皆さんそんなことしませんって。ねぇ?」

 言いながらメンバーに視線を飛ばしたというのに、慌てて俯いたりパソコンの画面を食い入るように見つめたりして、誰ひとりとして私の視線に合わせようとしなかった。

(なにこれ? 腫れ物に触れないようにされるこの態度――)

「ヒツジちゃん、諦め。輪をかけてめんどくなった須藤課長に絡まれんように、みんな必死になっとるだけや」

 猿渡さんもパソコンのモニターを見ながら、仕方なさそうに教えてくれた。

 須藤課長は皆のコーヒーを配り終え、いつも使ってる私の椅子をなぜか引きずり、自分のデスク脇に設置する。

「ヒツジ、さっき頼んだことはやったのか?」

 ここに座れと私の椅子をぽんぽんしたので、それに素直に従った。

「いえ、まだ手をつけてません」

「しょうがないヤツだな、まったく♡」

 口では文句を言ってるのに、口調がやけに甘ったるくて、私を非難してるようにまったく聞こえない。しかも、私のデスクに置いてある須藤課長のスマホをわざわざ取りに行かせてしまうことに、非常に申し訳なさを感じた。

「ほら、受け取れ。さっき俺が言ったことを、きちんとやるんだぞ♡」

「はい。みーたんのお世話とログインボーナスですね」

 簡単すぎる上に、会社の仕事とまったく関係ないことなので、真面目に業務をこなしているメンバーに、悪いなと思わずにはいられない。

「さすがは俺の恋人! よく覚えていたな!」

「あ、はぁ……」

 しかもやたらとテンションの高い須藤課長を大人しくする術を、私はわからなかった。

(これはもう、みーたんを人質にして、ちょっと黙ってもらう方向で調整してみようかな)

「こんなに出来がいいと、誰かが横取りするかもしれない。すごく心配だ……」

 私を見ながらすごいことを言い出した須藤課長に、激しく首を横に振ってみせる。

「そんな心配いらないですって。誰も私に目をとめませんし」

「そんなことはない。愛衣さんの性格の良さは、俺が一番知ってる。それに夜の良さも――」

「あ~うっせぇな! 猿渡よりも煩い。ここはふたりきりの部屋じゃなく、会社なんだぞ。少しは皆の目を気にして慎んでくれ!」

 相当イラついたんだろう。松本さんが立ち上がって、私たちに指を差しながら怒鳴った。

「松本さん、諦めなヨット。付き合いはじめは誰だって、頭がおかしくなるものだかライオン」

「そうそう、身に覚えくらいあるでしょう。ねぇ?」

 原尾さんと高藤さんが目を合わせて微笑み合う。

「松本さんの意見に、俺は同意しますけどね。まだ問題を解決したわけじゃないんですから、気を緩ませていては危険です」

 ぴしゃりと言い放った山田さんのセリフで、やっと須藤課長の顔が引き締まった。

「せやな。それで今日はなにをして、奴らを追い詰めるん? とっとと仕事を終わらせて、ヒツジちゃんとイチャイチャしたければ、これからスピードあげなあかんで」

 猿渡さんのひとことで、ほかのメンバーからも須藤課長に視線が注がれる。注目を受けた恋人は、嬉しそうに瞳を細めて皆に笑いかけた。

「専務たちの悪事を暴くために、今日中に証拠品をすべて集めることが目標だ。見落としは許さない、おまえたちならやれるな?」

 私の推しは、メンバーから迷惑がられるくらいに煩くて、パワハラだって日常的にやっちゃう人だけど、仕事と私に一途なのは素敵なことで。

「私もみーたんと一緒に、須藤課長を応援します。お手伝いさせてくださいね!」

 わんにゃん共和国の画面を見せながら須藤課長に微笑みかけたら、目の前にある顔がこれでもかと言わんばかりに赤く染まった。

 恋に初心な彼を手玉に取りながら、今日も一日仕事を頑張ろうと思う♡

おしまい

最後まで閲覧と応援、ありがとうございました!
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