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「玲司が駆けつけてくれたから、なにもされなかったよ」

「誤魔化すなって。おまえ、アイツに胸倉掴まれてたろ。もしかして上級生相手に、喧嘩を売ったのか?」

 怜司は不思議そうな表情で、わざわざ腰を曲げながら僕の顔を覗き込む。

「僕がそんなことする人種じゃないことくらい、わかってるクセに」

「じゃあなんで?」

 納得いかないみたいといったなまなざしを玲司から注がれても、僕は実際なにもしていないのは事実。

「浩司兄ちゃんの名前を言ったことが、気に障ったみたいだよ」

「はあ? たったそれだけで、あのバカはキレたのかよ。心底飽きれた」

 飽きれたと言ったタイミングで、掴まれてる手が放された。玲司らしい熱いぬくもりから解放された手が外気に晒されて、ちょっとだけ冷たくなる。

「玲司ありがとう。本当に助かった……」

 その冷たさをなんとかすべく、スラックスのポケットに片手を突っ込む。

「教室の扉から緑色の制服が見えて、そのあとに従うように龍がついて行くのが見えたからさ。なにかあったらと思って、慌ててあとをつけたわけ」

「そうだったんだ。よく見てたね」

 僕に近づいていた怜司の顔が、音もなく遠のいていく。

「龍本人が思ってるより、結構モテることを意識してほしいんだけどさ」

「僕が?」

 中学時代、一度も告白されたらことのない僕をモテるなんて言うこと自体、おかしな話である。

 告げられたセリフに疑問を感じ、首を傾げた僕に、玲司は渋い表情で説明しはじめる。

「誠実さを表すような龍の身なりや、物腰の柔らかさは、大変受けがよかったみたいで、クラスの女子から仲を取り持つように、実は結構頼まれたけど、思いっきりスルーさせてもらった」

「僕の身なり? よくわからない」

 何度も目を瞬かせる僕がおかしかったのか、玲司がくすくす笑う。

「そういうとこが、龍のいいところなんだって。だから俺は好きなんだよ」

 僕の視線から逃げるように、ぷいっと顔を背けるなり、教室に戻る玲司。彼の気持ちを知っていながら断ってる僕としては、声をかけづらかった。

 このことに困り果てた結果、玲司の姿が見えなくなるまで、その場に立ちつくしてしまったのだった。
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