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ピロトーク:それぞれの想い
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「本当にごめんなさーい。渋滞的なものにハマって、イけなかったの♪」
渋滞的なものって渋滞じゃないのかな? 他に何があるんだろ。
不思議に思って郁也さんを見上げると、眉間に深いシワを寄せて睨み付けるように、葩御稜を見ていた。
この日が訪れるまで、彼らの話題をあえて避けて神経を使っていた日々――郁也さんがもう、えらく機嫌が悪くなるからだ。
「初めまして、編集長の三木と申します」
三木編集長さんが爽やかに挨拶をしながら、彼らとにこやかに握手をした。
――僕らも進んで挨拶すべきだよね?
郁也さんを肘でツンツン突くと、面白くなさそうな顔してプイッとそっぽを向く始末。人見知りの激しい僕から挨拶なんて無理だよ。
大人気ない郁也さんの態度に困り果てていると――
「ちょっ、桃ちゃんおひさ~♪」
芸能人スマイル全開の葩御稜が目ざとく郁也さんを見つけ、首に腕をぎゅっと絡めて、いきなり抱きついてきた。
隣にいた僕はその様子に驚きつつ、じりじりと後退せざるおえない。
「やっ、いきなり抱きついてこないでくださいっ」
すごーく顔が真っ赤になってる。勿論、怒っているからではない。
「だってぇ桃ちゃん、すっげー怒ってるんだもん。俺が待たせたから、寂しくなっちゃった?」
「んなワケないですって! 離してください」
「やぁだ♪ 機嫌直るまで、このまま抱きしめちゃう」
葩御稜に楽しそうに抱きしめられている真っ赤な郁也さんを複雑な心境で眺めつつ、少し離れた所にいる克巳さんをちらりと横目で捕らえてみた。
スタッフの人と何かを話しながら微笑んで、ふたりの様子を見ているようだった。
彼が芸能人でああいうパフォーマンスが日常だと、見慣れちゃうのかな。どうしてあんな風に、平気な顔して笑っていられるんだろ――
自分の感情との違いに内心気落ちしている僕の肩を、誰かがそっと叩いてきた。あたたかい手の平から、安心感みたいなものがじわりと伝わってくる。
置かれた手を追って隣を見ると、三木編集長さんが何やら目配せして、イチャイチャしているふたりの方にゆっくりと歩いて行ってしまった。
「すみませんねぇ。時間押してるんで、そろそろ桃瀬を解放してやってはくれませんか?」
「わかったよ、待たせたのに悪かったね。ミキティ」
「み、ミキティ?」
葩御稜が渋々といった感じで郁也さんから離れて、微笑みながら三木編集長さんに向かい合う。
「ジュエリーノベルのこと、少し調べらさせてもらったら面白いネタを発見しちゃった。何でもミキティってば、高校教師だったんだって?」
「……ええ、まぁ」
「だぁから三木先生イコール、三木ティーチャー。縮めてミキティ!」
嬉しそうに言う葩御稜に、苦笑いで応えるしかない三木編集長さん。
「いやぁ、そんなあだ名、高校教師以来ですね。何か嬉しいなぁ」
必死に大人の対応をする姿に、僕も見習わなくちゃと思わされた。
「へぇ、マジメそうなミキティのあだ名、生徒に何て言われてたの?」
「えっ!? いや、教えるほどでもないですって。それよりもほら時間が押してるんで、急がないと――」
妙なところに食いつかれてメガネをズリ下げながら話を逸らそうとしてるのに、華麗に無視してぷいっと横を向く葩御稜。
毎回こんな感じで収録が進められているのかと思うと、スタッフや共演者に対して同情してしまった。
何とかしてほしくて郁也さんを見たけど、肩をすくめるだけで助ける気は全くないようだ。
「ミキティが教えてくれたら収録始めるよ。どうする?」
どうするもこうするも、三木編集長さんに残された道がないじゃないか。
「あ、あだ名はですね、NHKと呼ばれていました……」
顔を激しく引きつらせて掠れた声で告げた言葉に、周りにいた人たちはみんな、ハテナ顔をした。NHKって、テレビの何かと関係があるのかな?
「AKBみたいな、何かの略でしょ?」
「はぁ、そのつまり……何か変にキモいの略です」
「ちょっ、何それ! ナイスすぎるあだ名なんだけど。ユニークな生徒さん、教えていたんだね」
三木編集長さんの肩をバシバシ叩きながら、お腹を抱えて思い切り笑いこける。
スタジオに入ったとき郁也さんが立場の話をしたけど、今まさに三木編集長さんの立場が、音が立てて崩れていくのを見た気がした。
「それつけたの、僕の妻です……」
「え~っ、ミキティってば生徒に手を出してたの!? 仕事だけじゃなく、そっちもヤり手だったんだ。人は見かけによらないねぇ」
「あは、ははは……。さて、仕事をしましょうか」
すっかり葩御稜のペースに乗せられ、言わなくてもいいことを言ってしまった三木編集長さんに、憐れみの視線を送った。
そんな僕の視線に気がつき、メガネを上げながら小さく頷いてくれた。
そして――
「彼の言葉に踊らされなきゃ、きっと大丈夫だから。思い切ってぶつかっていきなさい」
こっちに戻ってきてから、そっと耳元で囁いてくれた言葉。
もしかして僕にそれを教えるのに、ワザと葩御稜のペースに乗ってくれたの!?
息の飲んで三木編集長さんの顔を見上げると、優しく頭を撫でてくれた。その仕草のお陰で変にこわばっていたいろいろなものが、キレイに解けていく――
やっぱりすごいや! さすが郁也さんの上司。
多少の緊張を残しつつ、葩御稜と向かい合わせで座った。捕って食われないように、気を引き締めていざ対談に挑む――
渋滞的なものって渋滞じゃないのかな? 他に何があるんだろ。
不思議に思って郁也さんを見上げると、眉間に深いシワを寄せて睨み付けるように、葩御稜を見ていた。
この日が訪れるまで、彼らの話題をあえて避けて神経を使っていた日々――郁也さんがもう、えらく機嫌が悪くなるからだ。
「初めまして、編集長の三木と申します」
三木編集長さんが爽やかに挨拶をしながら、彼らとにこやかに握手をした。
――僕らも進んで挨拶すべきだよね?
郁也さんを肘でツンツン突くと、面白くなさそうな顔してプイッとそっぽを向く始末。人見知りの激しい僕から挨拶なんて無理だよ。
大人気ない郁也さんの態度に困り果てていると――
「ちょっ、桃ちゃんおひさ~♪」
芸能人スマイル全開の葩御稜が目ざとく郁也さんを見つけ、首に腕をぎゅっと絡めて、いきなり抱きついてきた。
隣にいた僕はその様子に驚きつつ、じりじりと後退せざるおえない。
「やっ、いきなり抱きついてこないでくださいっ」
すごーく顔が真っ赤になってる。勿論、怒っているからではない。
「だってぇ桃ちゃん、すっげー怒ってるんだもん。俺が待たせたから、寂しくなっちゃった?」
「んなワケないですって! 離してください」
「やぁだ♪ 機嫌直るまで、このまま抱きしめちゃう」
葩御稜に楽しそうに抱きしめられている真っ赤な郁也さんを複雑な心境で眺めつつ、少し離れた所にいる克巳さんをちらりと横目で捕らえてみた。
スタッフの人と何かを話しながら微笑んで、ふたりの様子を見ているようだった。
彼が芸能人でああいうパフォーマンスが日常だと、見慣れちゃうのかな。どうしてあんな風に、平気な顔して笑っていられるんだろ――
自分の感情との違いに内心気落ちしている僕の肩を、誰かがそっと叩いてきた。あたたかい手の平から、安心感みたいなものがじわりと伝わってくる。
置かれた手を追って隣を見ると、三木編集長さんが何やら目配せして、イチャイチャしているふたりの方にゆっくりと歩いて行ってしまった。
「すみませんねぇ。時間押してるんで、そろそろ桃瀬を解放してやってはくれませんか?」
「わかったよ、待たせたのに悪かったね。ミキティ」
「み、ミキティ?」
葩御稜が渋々といった感じで郁也さんから離れて、微笑みながら三木編集長さんに向かい合う。
「ジュエリーノベルのこと、少し調べらさせてもらったら面白いネタを発見しちゃった。何でもミキティってば、高校教師だったんだって?」
「……ええ、まぁ」
「だぁから三木先生イコール、三木ティーチャー。縮めてミキティ!」
嬉しそうに言う葩御稜に、苦笑いで応えるしかない三木編集長さん。
「いやぁ、そんなあだ名、高校教師以来ですね。何か嬉しいなぁ」
必死に大人の対応をする姿に、僕も見習わなくちゃと思わされた。
「へぇ、マジメそうなミキティのあだ名、生徒に何て言われてたの?」
「えっ!? いや、教えるほどでもないですって。それよりもほら時間が押してるんで、急がないと――」
妙なところに食いつかれてメガネをズリ下げながら話を逸らそうとしてるのに、華麗に無視してぷいっと横を向く葩御稜。
毎回こんな感じで収録が進められているのかと思うと、スタッフや共演者に対して同情してしまった。
何とかしてほしくて郁也さんを見たけど、肩をすくめるだけで助ける気は全くないようだ。
「ミキティが教えてくれたら収録始めるよ。どうする?」
どうするもこうするも、三木編集長さんに残された道がないじゃないか。
「あ、あだ名はですね、NHKと呼ばれていました……」
顔を激しく引きつらせて掠れた声で告げた言葉に、周りにいた人たちはみんな、ハテナ顔をした。NHKって、テレビの何かと関係があるのかな?
「AKBみたいな、何かの略でしょ?」
「はぁ、そのつまり……何か変にキモいの略です」
「ちょっ、何それ! ナイスすぎるあだ名なんだけど。ユニークな生徒さん、教えていたんだね」
三木編集長さんの肩をバシバシ叩きながら、お腹を抱えて思い切り笑いこける。
スタジオに入ったとき郁也さんが立場の話をしたけど、今まさに三木編集長さんの立場が、音が立てて崩れていくのを見た気がした。
「それつけたの、僕の妻です……」
「え~っ、ミキティってば生徒に手を出してたの!? 仕事だけじゃなく、そっちもヤり手だったんだ。人は見かけによらないねぇ」
「あは、ははは……。さて、仕事をしましょうか」
すっかり葩御稜のペースに乗せられ、言わなくてもいいことを言ってしまった三木編集長さんに、憐れみの視線を送った。
そんな僕の視線に気がつき、メガネを上げながら小さく頷いてくれた。
そして――
「彼の言葉に踊らされなきゃ、きっと大丈夫だから。思い切ってぶつかっていきなさい」
こっちに戻ってきてから、そっと耳元で囁いてくれた言葉。
もしかして僕にそれを教えるのに、ワザと葩御稜のペースに乗ってくれたの!?
息の飲んで三木編集長さんの顔を見上げると、優しく頭を撫でてくれた。その仕草のお陰で変にこわばっていたいろいろなものが、キレイに解けていく――
やっぱりすごいや! さすが郁也さんの上司。
多少の緊張を残しつつ、葩御稜と向かい合わせで座った。捕って食われないように、気を引き締めていざ対談に挑む――
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