ピロトークを聴きながら

相沢蒼依

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ピロトーク:ピロトークを聴きながら③

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(点滴の管の中の滴る液体を見ている内に、眠ってしまったみたいだ)

 ゆっくりと目を開け、周りを見渡してみたけど誰もいなくて、少し寂しかった。

「……郁也さん、どこに行っちゃったんだろ。周防さんと喋ってるのかな」

 僕が飲んでしまった薬について、詳しく説明を受けている最中なのかもしれない。薬のせいとはいえ――

「あんなに乱れた僕を、イヤな顔ひとつせずに最後まで付き合わせてしまって、悪かったな……」

 あんなことは心配しながら、辛そうな顔してすることじゃないのに。

「目が覚めていたんだ、気分はどうだい?」

「周防さん……。はい、お陰さまで随分と楽になりました」

 もう少しで無くなりそうだった点滴を見に来たのか、タイミングよく顔を出してくれた。

「ここに来たときよりも、顔色が良くなってるね。他には、辛いところないかな?」

 てきぱきと点滴の後始末をしながら、優しく訊ねてくる。

「胸のドキドキも治ってますし、呼吸も普通にしていられるので大丈夫です。有り難うございました」

 腕から点滴の針を抜かれ、自由になったので起き上がり、しっかりと頭を下げた。

「俺が出来る治療は、ここまでだからね。精神的なショックが大きいと思うから、焦らないでゆっくり生活しなきゃダメだよ」

 精神的なショック――

「ももちん、職場に休みを取ったみたいだから、これを機会にいっぱい甘えちゃいな」

「え――? わざわざ、休みを取ったんですか?」

「そりゃ、そうでしょうよ。大事な恋人が、寝込んでいるんだから。だけど休みの申請する前に編集長が休めって、粋な計らいをしてくれたみたい。恵まれた職場だよね」

「みんなに迷惑を、かけてしまって――」

 郁也さんだけじゃなく、三木編集長さんにも迷惑がかかってしまった。

「何、言ってんの! 涼一くんは被害者なんだよ。申し訳ないって思うの、絶対におかしいよ」

「でも……」

「今まで忙しく過ごしてた、ももちんと涼一くんに束の間の休息時間という、ご褒美が出来たって考えたらどうかな? 医者の俺からみたら、ふたり揃ってオーバーワーク気味だったからさ」

 端正な顔を、にゅっと寄せてきたので、どぎまぎしてしまう。迫力のあるキレイな周防さんに見つめられて、NOと言える人がいるなら見てみたい。

 太郎くんなら間違いなく、喜んで飛びついているだろうな。

「分かりました。ふたりでゆっくり、過ごすことにします」

「よしよし! それじゃあ、ももちん呼んでくるね。今、太郎の勉強を見てもらってるの」

 嬉しそうな顔して、呼びに行った周防さんだったけど、戻ってきたときは、顔を引きつらせていた。

 だって――

「また分かんねぇトコあったら、遠慮しないで聞きにこいよ。ウチに遊びに来てもいいしな」

 自分よりも背の高い太郎くんの頭を、思い切りぐちゃぐちゃと撫でている郁也さん。

「ホントっすか!? 遠慮せずに、遊びに行っちゃいますよ」

 嬉しそうにして頭を撫でられ、しっかり懐いている太郎くん。確かふたりの間には、微妙な空気が流れていたハズなのに。

 僕が首を傾げると、不機嫌な顔した周防さんが太郎くんに訊ねる。

「ちょっと勉強を見てもらって、お互いに打ち解けたりしたの?」

「いやいやぁ、何ていうか、男同士の友情みたいな?」

「そうそう! 俺が太郎の勉強を見る。そうすれば、周防が幸せになるんだからな」

 その言葉に僕と周防さんが眉根を寄せると、郁也さんと太郎くんが、仲よさそうに肩を組んだ。

「俺、勉強頑張ります! タケシ先生を幸せにします!」

「おーっ! 応援するぞ、頑張れ!」

 恐る恐る周防さんの顔を窺うと、額に青筋が立ってるように見えたのは、気のせいと言いたい。

 太郎くん、どうなっても知らないよ――
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