ピロトークを聴きながら

相沢蒼依

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アソパソマソ

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 夏休み子ども映画劇場――毎年この時期になると、映画会社が配給する作品を大々的に宣伝すべく出版社は、映画公開時期に合わせて、自社雑誌で特集やインタビューを組んだり、本屋に並べる原作本の帯に映画宣伝を入れたり、協力をする事をするのだが。

「ジュエリーノベルにアソパソマソの宣伝を、どうやって入れるんですか?」

「そうなんだよ。どうやってタイアップするか――誰か、いい案ないか?」

 アソパソマソは小さいコ向けのアニメで、大活躍しているキャラクター。

 地球の平和を守るため、悪さをするウザいコバエマンと戦ったり、ときには自分の頭をちぎって、弱っている人を助けたりする、心優しいヒーローなのであった。

 ジュエリーノベル自体、幅広い層に読んでもらうべく、いろいろと趣向を凝らして小説を掲載しているが、さすがにそこにアソパソネタを突っ込むのは、ケンカ上等に近いんじゃないだろうか。

 はぁと小さくため息をつき、企画用紙の裏にこっそりと、アソパソマソを描いてみる。

 以前、周防の病院でドラ○もんを描いた際に、女のコに泣かれてしまったという痛い経験をしているので、このアソパソマソを、

「どうだ! この絵を宣伝に使ってみたら?」

 なぁんていう、厚顔無恥な事は出来ない。誰かすっげーいいことでも提案してくれないかなぁと、ペンを走らせていると――

「おい、何を必死に描いてるんだ?」

 俺の行動を不審に思ったのか三木編集長が席を立ち、わざわざ俺のところまでやって来て、企画用紙をさっと手早く取り上げた。

「わっ!? それはダメですって!」

「……いや。とりあえずコレに色を塗れ、桃瀬。よく分からんが、何か浮かびそうな気がする」

「エ━━━(;゚д゚)━━━・・」

 絵に関して頼まれるのは、出版社で行われる飲み会以来である。しかもこれは、マジメな仕事の話なのに。

「いいから早くやっつけろ! お前の独創的なそれが、俺の頭に何かを教えてくれそうなんだ」

 銀縁メガネを光らせ、きーっと怒る編集長に恐れをなして、手早くかつ丁寧に彩色していった。

「出来ました。これどうぞ……」

 恐る恐る手渡したら、むむっと唸って顎に手を当て、考え始めてくれる。



 やがて――

「こういう感じで本物のアソパソマソをポスターにして、それを広告として雑誌に載せたら、それでいいんじゃないか?」

 言いながら、俺の描いた絵を皆に見せた。

「えっと……爽やかな感じが、読者心をそそるかと」

「確かに……何ていうか、正義感やいろんな物が、沸々と見えそうですよね」

「自分を分け与えているところに、若干共感するような」

 他にもいろんな意見を言ってくれた社員たち。だがどうして口を揃えたみたいに、揃いも揃って、しどろもどろなんだ?

「やったな、桃瀬。お前のお陰で、何とかなりそうだ、感謝するぞ!」

 優しい編集長の言葉に、胸に何かがこみ上げる。もしかしてこの絵は、子どもたちに受け入れられるかもしれない。

 今度、周防の病院に行ったときに試してみようと思った、ある日の出来事でした。

 めでたし めでたし
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