BL小説短編集

相沢蒼依

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シェイクのリズムに恋の音色を奏でて❤

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「あっちで一緒にグラスを傾けながら、ピアノの話をしてほしいな」

 中年男性が座っている聖哉の肩に触れて、自分が座っていたボックス席に促そうとしたので、助け舟を出すべく、カウンターから出ようと足を進ませた瞬間、彼が立ち上がった。

「申し訳ございません、お客様。僕はここでピアノを弾く仕事をまかせられているため、お客様と席をご一緒することがかないません」

「マスター、少しくらい、いいだろう?」

 頭を丁寧に深く下げる聖哉を前にしているというのに、中年男性は俺に話を振りやがった。客という立場を利用して、サービスさせようとすることに内心イラついたが、それを顔に出さないように、注意深く言の葉を告げる。

「彼の言うとおり、ここでの仕事はピアノを演奏することで、お客様の接待をするためではございません。ですので大変申し訳ありませんが、これ以上の接触をお控え願います」

 カウンターからちょこっと頭を下げる。すると――。

「ねぇおじさん、私たちでよければ、話を聞いてあげてもいいよ。ちょうど暇してるし」

 なんと、絵里さんが援護射撃をしてくれた。

「そうそう。彼の奢りはそのままで、私たちは自分のカクテルあるし、気を遣わなくてもいいよ!」

 華代さんまで話に加わったことで、今度は中年男性が困る番になった。まさに形勢逆転!

「あ、ぁあそうだ、用事を思い出した。悪いけど帰る」

 狼狽えながら中年男性は後退りし、出しっぱなしにしてるノートパソコンを閉じて小脇に挟み込み、急ぎ足でカウンターに近づくと、気前よく万券を置いていく。

「お預かりいたします、お釣りを――」

「いっ、いらない。それじゃ!」

 そして逃げるように店をあとにした。

「あのおじさん、めっちゃ失礼じゃない? 若い私たちが話を聞いてあげるって言ったのに、脱兎のごとく帰っちゃった」

 ゆるふわカールをかきあげながら華代さんが文句を言ったら、絵里さんがカウンターに置かれた万券をサッと手に取り、目の前に掲げる。

「でも結果的には、よかったじゃない。こうして、お店の売上に貢献してくれたんだから! マスターよかったよね?」

「聖哉を助けていただき、ありがとうございます」

 清々したと言わんばかりにマシンガントークを続けるふたりに、中年男性にしたよりも深いおじきをする。

「あ、あのっ、ありがとうございました。助かりました」

 聖哉も俺と同じように、腰から頭を下げてふたりに礼を言う。

「聖哉くんっていうのね、いくつなの?」

 まるで子どもに話しかけるような優しい口調で、絵里さんは聖哉に話しかけた。

 看護師として患者さんとのコミュニケーションから、病状をうまく聞き出し、医者に伝えたりすることもあるせいか、彼女はファーストコンタクトが上手いなと、いつも感心させられる。

「25歳です……」

「ねぇ彼女はいるの?」

 絵里さんの肩に手をかけて、身を乗り出しながら訊ねる華代さんは、聖哉に興味津々。

「いません。ピアノのコンテストに集中するのに忙しくて、作る暇がないです」

「忙しいつながりで、このコはどうかな? 絵里は看護師やってるから毎日多忙で、束縛する暇なんてないくらい、自由に付き合えると思うよ」

「ハナ! もういい加減にしてってば。ごめんね、勝手にこんな私を、押し売りされちゃうなんて嫌よね」

 絵里さんは持っていた万券を俺に手渡しながら、照れたように聖哉と話し出す。それに華代さんも入り込んで、さっきとはまた違ったにぎやかさが、店内にぱっと溢れる。

 まるで満席のようなにぎやかさを作ってくれたお礼に、中年男性からいただいたチップで、三人にカクテルを奢ってあげた。絵里さんと華代さんがフレンドリーに聖哉に接してくれたのが功を奏して、彼が嫌がることなく、ピアノを弾きに来てくれることにもつながったのだった。
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