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秘められた熱
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先輩との話し合いはスムーズとはいかず、平行線の状態がしばらく続いた。粘り強く説得し何とか決別できたが、いろいろな障害が生じた結果、東京では仕事ができなかった。
すべては、自分のワガママのせい――
そう言い聞かせて気分を新たに地方に仕事を求め、各地を転々とした。
その間、奈美の方もいろいろ大変なことがあったのを地元の知り合いに聞き、転居先を確認したが掴めなかった。
素直でまじめな性格の奴だから、きっと父親のそばにいるに違いない。地元に就職して、過ごしているだろう。
その読みで奈美の交友関係から探りを入れてみたり、ありとあらゆる手を使って休みの日を捜索に費やしていた。
そんなある日――
「んー、何となく……見慣れた文章のつくりをしてるような? 虹美の本屋へようこそ?」
日頃あったことを面白おかしく書いていて、その独特な読みやすい文章のリズムが、奈美が書いたものにソックリだった。
虹美――僕がつけたペンネーム。それを使ってくれてるなんて、すごく嬉しいじゃないか。
嬉しさのあまり迷うことなく、メッセージを送ってしまう自分。舞い上がってるといっていいかもしれない。
『やっと見つけた、僕の虹美』
お前は、奈美なんだろう? そうだと言ってくれ!
僕の願いを受けるように、すぐにメッセージが返ってきた。
「アナタ誰ですか? いきなり気持ち悪いですね」
思わず吹き出してしまった。僕を毛嫌いしていた、最初の頃の奈美を思い出した。
『ああ、済まんな。僕のつけたペンネームを使ってくれてるのが嬉しくて、つい名乗るのを忘れてしまった』
「もしかして苗字に、三がつく人ですか? もういい大人なのに、名前くらい名乗ってくださいよ」
生徒に諭される教師って、一体……。
『相変わらず、キツイ突っ込みしてくれるのな。変わってなくて何より。いやー、探すのに手間取ってしまって、こんなに時間がかかってしまった。待たせて悪いな、奈美』
そのまま大人になったような感じなのか。文章から全部、それが分かってしまうよ。
「私だって今までいろいろあって、大変だったんだよ。三木先生と連絡取りたくてもできなかったし」
『あー、悪い。当時バタバタしてて、書き忘れたから。奈美の親父さんが倒産して引越しするとは思わなかったし、本当に何が起こるか分からないものだな。お前はきっと文章を書くって確証だけがあったから、探し出すことができたんだよ。辞典を渡した甲斐があったな』
「なに、その自信。私が文章を書いてなかったら、見つけ出せなかったんじゃない」
『書く楽しさと読んでもらう喜びを、しっかりと植えつけてやったんだ。絶対に書くって思ってた。だから繋がることができたんだ』
パソコンの前で笑いながら、送信してやる。
きっと奈美は、ふてくされた顔をしてるんだろう。そのオデコにキスをしたい。お前の笑顔が見たいよ。
「でも三木先生に見てもらってた小説、あれから進んでませんから。誰かさんのせいで、ずっと放置したままですよ」
『じゃあこれからはじめようか。どうせお前のことだ、彼氏いないんだし、ちょうどいいだろ』
どうしてだというコメントに、声を立てて笑ってしまった。お前の日常は、全部読ませてもらったからな。把握済みなんだよ。
『そんなの、お前のブログを読んでいれば一目瞭然だ。ばか者! 毎日楽しそうに、ひとりで過ごしているじゃないか』
「先生はカレシ(仮)が、再開されるんですね」
『もう先生じゃないし(仮)もいらないだろ。奈美、こっちにきて僕のお嫁さんになれ』
ちょっとだけ、ドキドキしながら書いてみた。
あの時は何とも思ってなかったからスラスラ言えたのに、いざ書くとなると照れてしまう。
「相変わらずそういう大事なこと、文章にしちゃうのがイヤですよ。直接逢って言って欲しいです」
『文章で心を通わせるのが、僕たちの愛し方だと思ったから書いたんだけど。やっぱり直接、言わないとダメか・・・』
奈美を目の前にして、きちんと言えるだろうか。不安すぎるぞ自分。
「当たり前ですよ! ずっと待たせた上にこの仕打ちは、倍にして返しますから」
『我が侭は変わらないんだな。分かったよ、逢った時にちゃんと言うから倍返しは勘弁してくれ』
「分かりました。でも太ってたら、振るかもしれませんので覚悟してください」
送られてきたメッセージを読んでから、自分の体形を改めてじぃっと確認してみた。
太ってたら振る……。現実になりそうな気がするじゃないか。この下腹を見たら、眩暈を起こして無理って言われちゃうかもしれない。
どうしよう、これからダイエットしなければ!
『見た目は、そんなに変わってない。ただちょっとだけ下腹が、その・・・あとは、白髪が増えた程度だ。頼むから、振らないで欲しい!
じゃないと今までの努力が、水の泡になる。それだけは避けたい。仕事も安定したし、真面目にお前しか想ってないから。神と仏に誓う!』
んもう必死である。こんな僕を愛してくれる人なんて、奈美以外ありえないだろう。
「分かりましたよ、一応信じてあげます。で、いつどこで逢いますか――?」
内心ホッとしながら、逢う約束を取り付けた。
久しぶりに逢う奈美はきっと、あの頃よりも大人っぽくなっているんだろうな。
バルコニーに出て、ぼんやりタバコをくわえた。
これから紡いでいく僕らの物語は、どんな話になるだろうか。
ボキャブラリーが増えた奈美にやられっぱなしにならないよう気を引き締めつつ、体のラインも引き締めなければ。
タバコから出る紫煙と一緒に、桜の花びらが舞っていく。
奈美の住んでいるところはまだ桜が咲いていない地方なので、この花びらを届けたいと思った。
花びらは無理でも――
仕事で使うデジカメを持ってきて、近くで咲いている桜の木を撮影する。
急いでパソコンに取り込み、メールに添付した。
『近いうちにこの桜と一緒に、お前のところに行くから待っていて欲しい。ずっとお前だけを愛していた』
本当はもっと伝えたいことがあるが、多くは語るまい。このひとことがあれば、きっと伝わるはずだから。
ぽんと送信して、急いで旅行に行く支度をする。
ここに帰ってくる時は、もしかしたらひとりじゃないかもしれないな。
そんな淡い期待をしながら、いそいそと準備した。
亡くしてしまった妹、苦労したことなどいろいろあったけど頑張った分、手元に何かが帰ってくる。そう思わせてくれたのは、彼女のお陰かもしれない。
――奈美と一緒に幸せになりたい――
この秘められた想いが原動力となり、僕を突き動かしてくれた。この先もずっと、お前のために頑張り続けたいと思う。
おしまい
このあと番外編があります(^^♪
先輩との話し合いはスムーズとはいかず、平行線の状態がしばらく続いた。粘り強く説得し何とか決別できたが、いろいろな障害が生じた結果、東京では仕事ができなかった。
すべては、自分のワガママのせい――
そう言い聞かせて気分を新たに地方に仕事を求め、各地を転々とした。
その間、奈美の方もいろいろ大変なことがあったのを地元の知り合いに聞き、転居先を確認したが掴めなかった。
素直でまじめな性格の奴だから、きっと父親のそばにいるに違いない。地元に就職して、過ごしているだろう。
その読みで奈美の交友関係から探りを入れてみたり、ありとあらゆる手を使って休みの日を捜索に費やしていた。
そんなある日――
「んー、何となく……見慣れた文章のつくりをしてるような? 虹美の本屋へようこそ?」
日頃あったことを面白おかしく書いていて、その独特な読みやすい文章のリズムが、奈美が書いたものにソックリだった。
虹美――僕がつけたペンネーム。それを使ってくれてるなんて、すごく嬉しいじゃないか。
嬉しさのあまり迷うことなく、メッセージを送ってしまう自分。舞い上がってるといっていいかもしれない。
『やっと見つけた、僕の虹美』
お前は、奈美なんだろう? そうだと言ってくれ!
僕の願いを受けるように、すぐにメッセージが返ってきた。
「アナタ誰ですか? いきなり気持ち悪いですね」
思わず吹き出してしまった。僕を毛嫌いしていた、最初の頃の奈美を思い出した。
『ああ、済まんな。僕のつけたペンネームを使ってくれてるのが嬉しくて、つい名乗るのを忘れてしまった』
「もしかして苗字に、三がつく人ですか? もういい大人なのに、名前くらい名乗ってくださいよ」
生徒に諭される教師って、一体……。
『相変わらず、キツイ突っ込みしてくれるのな。変わってなくて何より。いやー、探すのに手間取ってしまって、こんなに時間がかかってしまった。待たせて悪いな、奈美』
そのまま大人になったような感じなのか。文章から全部、それが分かってしまうよ。
「私だって今までいろいろあって、大変だったんだよ。三木先生と連絡取りたくてもできなかったし」
『あー、悪い。当時バタバタしてて、書き忘れたから。奈美の親父さんが倒産して引越しするとは思わなかったし、本当に何が起こるか分からないものだな。お前はきっと文章を書くって確証だけがあったから、探し出すことができたんだよ。辞典を渡した甲斐があったな』
「なに、その自信。私が文章を書いてなかったら、見つけ出せなかったんじゃない」
『書く楽しさと読んでもらう喜びを、しっかりと植えつけてやったんだ。絶対に書くって思ってた。だから繋がることができたんだ』
パソコンの前で笑いながら、送信してやる。
きっと奈美は、ふてくされた顔をしてるんだろう。そのオデコにキスをしたい。お前の笑顔が見たいよ。
「でも三木先生に見てもらってた小説、あれから進んでませんから。誰かさんのせいで、ずっと放置したままですよ」
『じゃあこれからはじめようか。どうせお前のことだ、彼氏いないんだし、ちょうどいいだろ』
どうしてだというコメントに、声を立てて笑ってしまった。お前の日常は、全部読ませてもらったからな。把握済みなんだよ。
『そんなの、お前のブログを読んでいれば一目瞭然だ。ばか者! 毎日楽しそうに、ひとりで過ごしているじゃないか』
「先生はカレシ(仮)が、再開されるんですね」
『もう先生じゃないし(仮)もいらないだろ。奈美、こっちにきて僕のお嫁さんになれ』
ちょっとだけ、ドキドキしながら書いてみた。
あの時は何とも思ってなかったからスラスラ言えたのに、いざ書くとなると照れてしまう。
「相変わらずそういう大事なこと、文章にしちゃうのがイヤですよ。直接逢って言って欲しいです」
『文章で心を通わせるのが、僕たちの愛し方だと思ったから書いたんだけど。やっぱり直接、言わないとダメか・・・』
奈美を目の前にして、きちんと言えるだろうか。不安すぎるぞ自分。
「当たり前ですよ! ずっと待たせた上にこの仕打ちは、倍にして返しますから」
『我が侭は変わらないんだな。分かったよ、逢った時にちゃんと言うから倍返しは勘弁してくれ』
「分かりました。でも太ってたら、振るかもしれませんので覚悟してください」
送られてきたメッセージを読んでから、自分の体形を改めてじぃっと確認してみた。
太ってたら振る……。現実になりそうな気がするじゃないか。この下腹を見たら、眩暈を起こして無理って言われちゃうかもしれない。
どうしよう、これからダイエットしなければ!
『見た目は、そんなに変わってない。ただちょっとだけ下腹が、その・・・あとは、白髪が増えた程度だ。頼むから、振らないで欲しい!
じゃないと今までの努力が、水の泡になる。それだけは避けたい。仕事も安定したし、真面目にお前しか想ってないから。神と仏に誓う!』
んもう必死である。こんな僕を愛してくれる人なんて、奈美以外ありえないだろう。
「分かりましたよ、一応信じてあげます。で、いつどこで逢いますか――?」
内心ホッとしながら、逢う約束を取り付けた。
久しぶりに逢う奈美はきっと、あの頃よりも大人っぽくなっているんだろうな。
バルコニーに出て、ぼんやりタバコをくわえた。
これから紡いでいく僕らの物語は、どんな話になるだろうか。
ボキャブラリーが増えた奈美にやられっぱなしにならないよう気を引き締めつつ、体のラインも引き締めなければ。
タバコから出る紫煙と一緒に、桜の花びらが舞っていく。
奈美の住んでいるところはまだ桜が咲いていない地方なので、この花びらを届けたいと思った。
花びらは無理でも――
仕事で使うデジカメを持ってきて、近くで咲いている桜の木を撮影する。
急いでパソコンに取り込み、メールに添付した。
『近いうちにこの桜と一緒に、お前のところに行くから待っていて欲しい。ずっとお前だけを愛していた』
本当はもっと伝えたいことがあるが、多くは語るまい。このひとことがあれば、きっと伝わるはずだから。
ぽんと送信して、急いで旅行に行く支度をする。
ここに帰ってくる時は、もしかしたらひとりじゃないかもしれないな。
そんな淡い期待をしながら、いそいそと準備した。
亡くしてしまった妹、苦労したことなどいろいろあったけど頑張った分、手元に何かが帰ってくる。そう思わせてくれたのは、彼女のお陰かもしれない。
――奈美と一緒に幸せになりたい――
この秘められた想いが原動力となり、僕を突き動かしてくれた。この先もずっと、お前のために頑張り続けたいと思う。
おしまい
このあと番外編があります(^^♪
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