見えないライン

相沢蒼依

文字の大きさ
37 / 37
番外編

絡まる想い

しおりを挟む
 バルコニーから見える大きな桜の木を、タバコを吸いながらなんとはなしに眺めていた。

「ここでタバコを吸うのも、だいぶ楽になってきたな。暖かくていいや」
 
 外の暖かさに頬を緩ませつつ、ぽつりとひとりごとを呟いた。紫煙の行く先を眺めながら、またタバコを吸ったとき。

「ねぇねぇ、三木先生ってば、どうしてちゃんと読んでくれないの? 感想欲しいのに!」

 束ねられた原稿用紙らしき紙を手に持ち、ふてくされた顔の奈美が傍にやって来た。

「あー? どうして僕がそんなもの読んで、感想言わなきゃならないんだ。ときめかない文章を読んでも、何も出てこないぞ」

「んもぅ、いちいちときめかなくていいから! 文章の流れとか重複部分や細かい指摘が、私としては欲しいんだけなんだってば」

「タダではやらん」

「うわぁ最低。もう、いいもん!」

 僕の頭に紙の束をばさりとぶつけ、身を翻して家の中に戻って行く。

 やれやれ――自分がしている行動が高校時代と同じだって、どうして分からないんだろうか。(成長していないと言いたい)

 僕を操縦する簡単な方法が分からないなんて、まだまだだな。

 苦笑いしながら短くなったタバコを灰皿にぎゅっと押し付け、同じように家の中に入った。

 テーブルに置かれたノートパソコンの前にしゃがみ込み、可愛くない顔をしてゲームをしようとしている後ろ姿が目に留まる。

「どうして愛しの旦那がいる目の前で、堂々と乙ゲーを始めようとするんだ」

 一応新婚なんだぞ、ラブラブなんじゃないのか?

「それは、三木先生が萌えをくれないからだい。ビジュアルはしょうがないとして、ときめく言葉とか押さえなきゃいけないポイントみたいなところの、大事な要素が大幅に欠けてるからね」

 こっちを見ずパソコン画面に釘付けのまま、酷いことをぽんぽん言い放つ奈美。

(ほー、言ってくれる。ビジュアル、こんなので悪かったな!)

 僕は無言で後ろから体を抱きしめながらノートパソコンに手を伸ばして、画面を閉じてやる。

「あっ、ちょっと! これからいいトコなのに何するの!?」

「何するのって、決まってるだろ」

 形のいい奈美の耳を食むと、体をビクつかせた。

「奈美を実際にこの手で感じさせることができのは、僕だけなんだからな。毎晩ひーひー言ってるのは、どこの誰なんだっけ?」

「ふん! 毎晩ヒーヒー言いながら、息を切らしてる誰かさんにだよ」

 確かに――頑張りすぎて息を切らしながら、必死こいてるけどさ。ひとえに、奈美の感じてる姿が見たいから。

 今まで我慢していた分、愛し合いたいって思っているんだ。お前を僕に溺れさせたいから……。

 いろんな想いを胸に抱えて、しっかりと抱いているというのに、この口の悪さはいかがなものだろうか。

 ふてくされた顔をした奈美のオデコに、そっとキスをしてやる。

 ――そんなことで、誤魔化されないんだから。

 瞳はそう語っていたが、感情は正直なもので頬が赤く染まった。こういう表情のひとつひとつに、俺自身は簡単に翻弄されてしまうんだよな。

 含み笑いをしながら後ろから洋服のボタンを外そうと、いそいそ手を伸ばしてみたら。

「えっ、これからするの?」

「んー、自分で脱ぐか?」

「いや、待って。昨日――」

 僕の手を掴んで動きをストップさせつつ慌てふためく。真っ赤な顔を隠すのに俯いても、握りしめられる手から伝わってくる熱がしっかりと照れを表していた。

「昨日は昨日。今日は今日なんだよ。それにこういう事態を招いたのは、奈美のせいなんだからな」

「私、何もしてないじゃない」

「思いっきり目の前でしただろ。2次元の男に、ちゃっかりときめいてくれちゃって!」

「それとこれとは、話は別だよ。もうバカなんだから……」

 掴んでる僕の手を、ぎゅっと握りしめた。伝わってくる熱が心地いい。

「それでも嫌なんだよ。生涯奈美は、僕だけのものであって欲しいと思ってるから」

「三木先生――私も同じように思ってる」

「へー、そうなのか」

 素っ気無く言ったつもりなのに、思った以上にぬるい声色で答えてしまった。

「いい加減、その三木先生もやめたらどうだ。同じ苗字になったのに、いつまでたってもその呼び名は可笑しいだろ?」

 咳払いをして言うと、だってーと口の中でごもごも呟く。

「私の中では三木先生は三木先生だから、いきなり別の名前で呼べって言われても、やっぱり戸惑っちゃうよ……」

 テレながら上目遣いで僕を見るその姿が、意外に可愛いと思ってしまった。

 そんな気持ちに導かれるように、衝動の赴くまま顔を寄せて唇を奪う。

「……っ、んっ…」

 乱れた吐息が、静まり返ったリビングにこだました。

 唇を離すと途惑いに満ちた瞳と視線が絡んだのに、ふっと避けられる。自分を意識してほしくて、濡れた唇を親指で拭ってやった。

「じゃあ名前に、先生をつけたらどうだ? それなら呼べるだろう」

 イメクラを率先するわけじゃないが、僕なりに呼びやすいよう考えてみた。果たして素直に、いうことを聞いてくれるだろうか?

「えっと……靖伸、先生――」

「お前の心も唇も、綺麗な身体も全部僕だけのものだからな。覚えておきなさい」

 そう言って、その場に押し倒した。

「みっ、靖伸せんせ、いきなりこんな」

「口答え禁止。悪い生徒にはお仕置きです」

「そんな、意地悪言わないで」

「愛してる、奈美――」

 文句を言いそうな唇に、再び唇を重ねてやる。そして奈美の首筋に唇を這わせながら、ボタンを外していった。

「あ、待って……」

(ここまでして待てと言うのか)

「あの、えっと、ここじゃなく寝室に行こう?」

 たまに別な場所でするのも、オツなものだと思うのだが。

 顔を真っ赤にさせて譲歩しようとしてる姿に、しょうがないなとため息をついた。

「目の前でワザと乙ゲーしたり、そういう事を言って、わざと僕を煽っているのか? 余計にここで、やりたくなるんだけど」

「そそそんなつもりは全然ないよ。落ち着いてしたいっていうか……」

 落ち着いてしたいって、何なんだそれ。

 脱ぎかけのシャツから見える鎖骨に、そっと唇を這わせる。白い肌に、キレイな赤い花が咲いた。

「ちょっ、ダメ! やだってば」

 困らせたい。もっと焦らせて、感じさせたい――毎晩抱いているのに、全然足りないとか重症だよな。

 無言で膝裏に腕をさし込み、奈美の身体を持ち上げてやった。

「しょうがない、ワガママな生徒の言うことを聞いてやるよ」

 ゆっくりした足取りで寝室へと向かい、ベッドに優しく横たわらせた。

 柔らかい肌に触れるたびに切なそうな表情を浮かべて、僕の名前を甘い声で呼ぶ。

 その声がもっとと強請っているように聞こえるのは、気のせいだろうか。

 胸に甘ったるい疼きを感じながら、奈美の耳元に唇を寄せた。

「僕の操縦法なんて簡単なんだから、今度は上手く使ってお強請りしてごらん。何だって言うことを聞いてしまうかもよ?」

 笑いながら言うと僕の躰に腕を回して、ぎゅっと抱きしめる奈美。

「じゃあ、えっと――」

 告げられた言葉を聞き頷くと、甘いひとときを仕切り直すべく深く唇を重ねた。

 絡まるお互いの想いを、もっと絡ませるように――

 おしまい
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

氷の宰相補佐と押しつけられた厄災の花嫁

瑞原唯子
恋愛
王命により、アイザックはまだ十歳の少女を妻として娶ることになった。 彼女は生後まもなく始末されたはずの『厄災の姫』である。最近になって生存が判明したが、いまさら王家に迎え入れることも始末することもできない——悩んだ末、国王は序列一位のシェフィールド公爵家に押しつけたのだ。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

恋は、やさしく

美凪ましろ
恋愛
失恋したばかりの彼女はひょんなことから新橋の街中で上司にお姫様抱っこされ……!? ――俺様な美形上司と彼女とのじんわりとした恋物語。 性描写の入る章には*マークをつけています。

距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜

葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」 そう言ってグッと肩を抱いてくる 「人肌が心地良くてよく眠れた」 いやいや、私は抱き枕ですか!? 近い、とにかく近いんですって! グイグイ迫ってくる副社長と 仕事一筋の秘書の 恋の攻防戦、スタート! ✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼ 里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書 神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長 社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい ドレスにワインをかけられる。 それに気づいた副社長の翔は 芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。 海外から帰国したばかりの翔は 何をするにもとにかく近い! 仕事一筋の芹奈は そんな翔に戸惑うばかりで……

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

処理中です...