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変わった人との出逢い
今川side
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「だからぁ付き合う気、まったくないんだってば」
「だってあんなに盛り上がって、話をしたじゃないか」
天下の会社の往来で一体、何の話を大声でしているのやら。こういうトラブルの処理は部下の山田くんが得意としているのだが、生憎留守にしている。しょうがない、俺が出張るか――
部署から顔を出すと見慣れたメンツだった。ひとりは隣の部署、営業二課の外川 猛彦で、もうひとりは秘書課の朝比奈 蓮。
どうせ朝比奈さんが思わせ振りな態度をとったが為に、いたいけな外川くんが翻弄されたというだけだろう。
「会社の往来で、何をしてるんです?」
俺が声をかけると、待ってましたと言わんばかりにこちらに走り寄って来た。
「付き合えないって言ってるのに、しつこく付きまとわれて困ってたんですぅ」
困ってたというより、かなりキツい言い方して怒っていたんですという言い間違いじゃないのか? ……厄介事に巻き込まれるのはご免被りたいが、いた仕方ない。
「彼女は完璧に君を拒絶しているようですが? しかもここは会社の往来なんです。少しは、考えたらどうでしょう」
彼だけではなく彼女にも伝わるように言ってみたのだが無理だったようで、きょとんとした表情を浮かべて俺の顔を見た。
挙げ句の果てには、会長にコビ売ってると男に罵られる始末……。部下の山田くんが、すっごく大人に見える。
はあぁっと深い溜め息をついてしまった。
「彼女が会長の孫娘だろうが一般人だろうが関係なく、注意しますよ。会社の往来は公共の場、非常に耳障りで低俗な内容の話し合いは部署で仕事していた私に、支障きたしましたからね」
(――まったく迷惑な話だ)
「君もよく人を見て、相手を選んだ方がいい。誰カレ構わずに良い顔していたらその内、後ろから刺されますよ」
とご丁寧に分かりやすく彼女に対して指摘したのに、またしても小首を傾げて何で? みたいな顔をされてしまった。やれやれ――
俺が彼女を認識したのは、彼女が入社してきた日。会長の孫娘が来る――しかもかなり可愛いらしいと社内の男連中が、たくさん浮かれていた記憶がある。
どこかの部署に寄った帰りに、新入社員とすれ違った時に会ったのが一回。二度目はお昼を食べに外に出ようとしたら、男性社員数人に囲まれて楽しそうにしているところを見た。
三度目は、いつの春だったか……。ハッキリとは覚えていないが、陽射しが気持ちよくて窓から会社裏にある桜をぼんやり眺めていた時に、彼女が桜の木の下で切なそうな表情を浮かべていたのを偶然目撃した。そのときに見た感じが、別人みたいだなぁと思ったのである。
そして現在、四度目の出会い。正直、苦手な人物だと改めて思う。常識を持って行動して欲しい。
その後、外川くんを何とか丸め込み、その場を治める事に成功した。単純な人間で良かったと思いながら部署に戻ろうとした途端に、袖口を突然強い力で引っ張られた。予期せぬ事態に驚いた俺はその引っ張ったモノを思いっきり振り払ってみたが、思いきりよすぎて重心が上半身に乗ってしまい、足がもつれてしまって――
慌てた彼女が俺を助けようと手を伸ばすが一瞬遅く、一緒に床へ倒れ込んでしまった。
起き上がろうと両手に力を入れてみるが右手に何か、ふっくらとした柔らかい感触が……。
瞬間的でソレが何か判別した俺は、慌てて両手をバンザイする。ヤバい、かなり大きなアレを思いっきり触ってしまった。
久しぶりの手ごたえに、赤面しているであろう。ああ、情けない――
「倒れた弾みで、どこかに触ったりとかはないから、大丈夫だから」
などと、苦し紛れの嘘をついた。
「名前を教えて下さい」
ひ~……絶対バレてる(滝汗)
名前を聞いて会長に告げ口し、そして北の寂れたトコに飛ばされるに違いない!
「訴えるために、名前を聞いてるんでしょうか? ホントにどこも、触ってないですよ」
嘘に嘘を塗ったくる俺、全然常識人じゃない。
赤面しながら弁解する俺の顔を見て、なぜか嬉しそうにクスッと笑った。
「触ってないの分かってます。私が個人的に、名前を知りたいだけなんです」
そう言って、胸元に頬をよせてくる彼女。
「何か、策略があるのでしょう? オジサンをからかうのは、やめなさい」
「からかってないです。興味が沸いたんです」
何で赤面してるおじさんに興味がわくかな……? んもぅ、勘弁してくれ。
「断り続けて下さいよ、今川部長。小悪魔がほくそ笑んでます」
――ああ天の助け、この声は山田くん!
聞き慣れた部下の声に、安堵の溜め息をついた。
「こんな部署の入り口で何、押し倒されてるんですか」
笑いを堪えながら、彼女を退けてくれる。上司として、かなり恥ずかしい場面を見られてしまった。
「何すんのよ、ホモ山田!」
ホモ発言は置いておいて、山田くんと彼女は知り合いらしい。聞いてみると同期とのことだった。じゃあ初めて彼女を認識した時に、山田くんもあの中にいたのか――
「ホモ山田、この人を紹介して」
彼女がびしっと、俺に向かって指差しする。
「俺の上司です、以上」
山田くんはうんとイヤな顔をして渋々紹介した。
「アンタって超バカ。人に紹介するのに、ワザと名前を伏せたでしょ」
簡潔な紹介に納得していると傍にあるデスクを手の平でバンバン叩いて、苦情を言う彼女。
「その言葉、そのままそっくり返すよ。人にものを頼んでる態度じゃないから、教えなかったんだい」
「きーっ! ムカつく……」
山田くんに見事やり込められた彼女はイライラしながらも、きちんと頭を下げた。
「山田くんどうか彼を、私に紹介して下さい。お願いします」
「……名前教えても、大丈夫ですか?」
律儀に、許可をとってくれる山田くんに、苦笑いを浮かべながら頷いた。
「彼は営業企画部部長の今川 真人(いまがわ まさと)さんです」
渋々彼女に教えると今度は両手で思い切り山田くんを押し退けて、俺の傍にやって来る。大きな目を更に大きく見開き、顔をじっと見つめてきた。
何だか、顔に穴が開きそうだ……。見つめられるほどのイケメンじゃないぞ←自信満々
「今川さんは彼女いるんですか? どんなコが好みなんですか? あと、おいくつなんですか?」
一気に質問の嵐――まるでテレビで見るリポーターのようだ。
「初対面の人によく、そんな質問できるよな」
ボソッと呟く山田くんに、彼女は腰に手をあてながら言い放つ。
「ホモには興味ないわよ。せいぜいあのメガネのイケメンと、ちちくりあっていればいいわ」
「だから俺は、ホモじゃないからっ。社内に変な噂が流れたら俺、仕事が出来なくなる……」
ふたりのやり取りを何とはなしに眺めながら、さっきの事を考えてみる。彼女は俺のどこに、興味が沸いたのだろうか?
「だってあんなに盛り上がって、話をしたじゃないか」
天下の会社の往来で一体、何の話を大声でしているのやら。こういうトラブルの処理は部下の山田くんが得意としているのだが、生憎留守にしている。しょうがない、俺が出張るか――
部署から顔を出すと見慣れたメンツだった。ひとりは隣の部署、営業二課の外川 猛彦で、もうひとりは秘書課の朝比奈 蓮。
どうせ朝比奈さんが思わせ振りな態度をとったが為に、いたいけな外川くんが翻弄されたというだけだろう。
「会社の往来で、何をしてるんです?」
俺が声をかけると、待ってましたと言わんばかりにこちらに走り寄って来た。
「付き合えないって言ってるのに、しつこく付きまとわれて困ってたんですぅ」
困ってたというより、かなりキツい言い方して怒っていたんですという言い間違いじゃないのか? ……厄介事に巻き込まれるのはご免被りたいが、いた仕方ない。
「彼女は完璧に君を拒絶しているようですが? しかもここは会社の往来なんです。少しは、考えたらどうでしょう」
彼だけではなく彼女にも伝わるように言ってみたのだが無理だったようで、きょとんとした表情を浮かべて俺の顔を見た。
挙げ句の果てには、会長にコビ売ってると男に罵られる始末……。部下の山田くんが、すっごく大人に見える。
はあぁっと深い溜め息をついてしまった。
「彼女が会長の孫娘だろうが一般人だろうが関係なく、注意しますよ。会社の往来は公共の場、非常に耳障りで低俗な内容の話し合いは部署で仕事していた私に、支障きたしましたからね」
(――まったく迷惑な話だ)
「君もよく人を見て、相手を選んだ方がいい。誰カレ構わずに良い顔していたらその内、後ろから刺されますよ」
とご丁寧に分かりやすく彼女に対して指摘したのに、またしても小首を傾げて何で? みたいな顔をされてしまった。やれやれ――
俺が彼女を認識したのは、彼女が入社してきた日。会長の孫娘が来る――しかもかなり可愛いらしいと社内の男連中が、たくさん浮かれていた記憶がある。
どこかの部署に寄った帰りに、新入社員とすれ違った時に会ったのが一回。二度目はお昼を食べに外に出ようとしたら、男性社員数人に囲まれて楽しそうにしているところを見た。
三度目は、いつの春だったか……。ハッキリとは覚えていないが、陽射しが気持ちよくて窓から会社裏にある桜をぼんやり眺めていた時に、彼女が桜の木の下で切なそうな表情を浮かべていたのを偶然目撃した。そのときに見た感じが、別人みたいだなぁと思ったのである。
そして現在、四度目の出会い。正直、苦手な人物だと改めて思う。常識を持って行動して欲しい。
その後、外川くんを何とか丸め込み、その場を治める事に成功した。単純な人間で良かったと思いながら部署に戻ろうとした途端に、袖口を突然強い力で引っ張られた。予期せぬ事態に驚いた俺はその引っ張ったモノを思いっきり振り払ってみたが、思いきりよすぎて重心が上半身に乗ってしまい、足がもつれてしまって――
慌てた彼女が俺を助けようと手を伸ばすが一瞬遅く、一緒に床へ倒れ込んでしまった。
起き上がろうと両手に力を入れてみるが右手に何か、ふっくらとした柔らかい感触が……。
瞬間的でソレが何か判別した俺は、慌てて両手をバンザイする。ヤバい、かなり大きなアレを思いっきり触ってしまった。
久しぶりの手ごたえに、赤面しているであろう。ああ、情けない――
「倒れた弾みで、どこかに触ったりとかはないから、大丈夫だから」
などと、苦し紛れの嘘をついた。
「名前を教えて下さい」
ひ~……絶対バレてる(滝汗)
名前を聞いて会長に告げ口し、そして北の寂れたトコに飛ばされるに違いない!
「訴えるために、名前を聞いてるんでしょうか? ホントにどこも、触ってないですよ」
嘘に嘘を塗ったくる俺、全然常識人じゃない。
赤面しながら弁解する俺の顔を見て、なぜか嬉しそうにクスッと笑った。
「触ってないの分かってます。私が個人的に、名前を知りたいだけなんです」
そう言って、胸元に頬をよせてくる彼女。
「何か、策略があるのでしょう? オジサンをからかうのは、やめなさい」
「からかってないです。興味が沸いたんです」
何で赤面してるおじさんに興味がわくかな……? んもぅ、勘弁してくれ。
「断り続けて下さいよ、今川部長。小悪魔がほくそ笑んでます」
――ああ天の助け、この声は山田くん!
聞き慣れた部下の声に、安堵の溜め息をついた。
「こんな部署の入り口で何、押し倒されてるんですか」
笑いを堪えながら、彼女を退けてくれる。上司として、かなり恥ずかしい場面を見られてしまった。
「何すんのよ、ホモ山田!」
ホモ発言は置いておいて、山田くんと彼女は知り合いらしい。聞いてみると同期とのことだった。じゃあ初めて彼女を認識した時に、山田くんもあの中にいたのか――
「ホモ山田、この人を紹介して」
彼女がびしっと、俺に向かって指差しする。
「俺の上司です、以上」
山田くんはうんとイヤな顔をして渋々紹介した。
「アンタって超バカ。人に紹介するのに、ワザと名前を伏せたでしょ」
簡潔な紹介に納得していると傍にあるデスクを手の平でバンバン叩いて、苦情を言う彼女。
「その言葉、そのままそっくり返すよ。人にものを頼んでる態度じゃないから、教えなかったんだい」
「きーっ! ムカつく……」
山田くんに見事やり込められた彼女はイライラしながらも、きちんと頭を下げた。
「山田くんどうか彼を、私に紹介して下さい。お願いします」
「……名前教えても、大丈夫ですか?」
律儀に、許可をとってくれる山田くんに、苦笑いを浮かべながら頷いた。
「彼は営業企画部部長の今川 真人(いまがわ まさと)さんです」
渋々彼女に教えると今度は両手で思い切り山田くんを押し退けて、俺の傍にやって来る。大きな目を更に大きく見開き、顔をじっと見つめてきた。
何だか、顔に穴が開きそうだ……。見つめられるほどのイケメンじゃないぞ←自信満々
「今川さんは彼女いるんですか? どんなコが好みなんですか? あと、おいくつなんですか?」
一気に質問の嵐――まるでテレビで見るリポーターのようだ。
「初対面の人によく、そんな質問できるよな」
ボソッと呟く山田くんに、彼女は腰に手をあてながら言い放つ。
「ホモには興味ないわよ。せいぜいあのメガネのイケメンと、ちちくりあっていればいいわ」
「だから俺は、ホモじゃないからっ。社内に変な噂が流れたら俺、仕事が出来なくなる……」
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