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act:意外な優しさ
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「急がなきゃ!」
午後一時半から始まる会議に、何としてでも間に合わせなきゃならない。
慌てて資料室に入り、たくさんあるファイルと格闘すべく対峙した。手に汗を握りながら、上から下まで隅々チェックしてみたけど、該当したファイルが全く見当たらない。
最後の手段と考え半泣き状態で、扉にかけてある入室記録簿を確認してみた。最近使用した人は小野寺先輩と鎌田先輩、それと隣の部署の三人だけ……
(――良かった、大人数じゃなくて)
そう思った瞬間、背後に人の気配を感じたので振り向いてみたら、鎌田先輩が腕組みをしながら棚にもたれ掛かって、こちらを見ているじゃないの。しかも、口の端を上げて笑っているなんて……
明らかに私が困ってる状態を、背後から眺めて楽しんでいるみたいだ。
鎌田先輩の様子にイラッとしたけれど、何とか感情を押し殺して彼の傍に駆け寄った。
「あの資料を探したんですが、全然見つかりませんでした」
「そのことですが、私のデスクにファイルがありました。申し訳ない」
「へっ!?」
「調べ物に夢中になっていて、うっかりしていたようです」
先ほどまで浮かべていた笑みを消し去り、頭を下げる。鎌田先輩が謝っただけじゃなく、私に向かって頭を下げるなんて信じられないことだった。
……そういえば小野寺先輩が、今日の鎌田先輩はおかしいと言っていた。私がドジるならまだしも、鎌田先輩がそんなうっかりをするなんて。
(――アレッ!?)
「じっ、じゃあどうして、声をかけてくれなかったんですか?」
私が慌てふためいている状況を真後ろで、実に楽しそうに見学していた。
「だって鎌田先輩、ムダが嫌いだって言ってましたよね。これは明らかに、無駄な時間を過ごしたと思うんですけど」
ちょっと憤慨して訴えてみる。もうあまり、時間がないというのに――
「君は、資料室を堪能しましたか?」
「堪能?」
「ここにある資料ファイル、項目別の年式や配置がきちんと整えられているでしょう」
そういえば乱れがなかった。だから調べるのにそんなに時間をかける事なく、探しているファイルがないのが、短時間で分かったんだ。
「たまにしか使われていないという理由で乱れがないのですが、おおむねこの配置を常にキープしているんです。この配置を頭に叩き込んでおけば、使いたい時に簡単に見つけ出す事ができ、尚且つムダな時間をかける必要はありません」
「あ――」
「新人など下の者は雑務が中心ですから君もそろそろこの配置を、覚えておいてもいい時期なのでは?」
「もしかして、それをさせるのに資料室に……」
「一見ムダに見える時間でも、君にとっては有意義な時間だったでしょう?」
ふわりと笑いながら、優しく頭を撫でてくれた。とってもあたたかい手の平――それを感じた瞬間、頬が熱を持ってしまって、心臓が一気に駆け出してしまった。
そんな顔を見せないようにすべく思いっきり俯き、体をふるふると強張らせたら、頭を撫でていた手がそっと引っ込んでいく。
「君のデスクに、ファイルを置いておきました。これから急いで、作業に取りかかって下さい。終わったら、目を通しますので」
「はい……」
やっぱりすごいな鎌田先輩。文句を言ってしまった自分が、いろんな意味で恥ずかしいよ。
「最後までしっかり、資料を確認して下さい。それと……」
妙な間に違和感を覚え恐るおそる顔を上げたら、眉間にシワを寄せながら顎に手をあてて、何かを考えている姿が目に映った。
「……何か、他にあるんですか?」
鎌田先輩が二の句を告げないので自分から話しかけてみると、ハッとした顔をしてからメガネを押し上げる仕草をした。
「その……小野寺と話す時間があるのなら、自分の仕事に精を出しなさい」
「わかりました。それこそ時間の無駄ですもんね、急いで修正してきます!」
その場に佇む鎌田先輩にきちんとお辞儀をしてから、急いで自分のデスクに向かった。
むー、次はどうやって小野寺先輩の話を断ろう。お喋りな彼の言葉を遮るのは結構、難題だったりする。
部署に戻りながら、鎌田先輩が撫でてくれた頭を意味なく触ってみた。昨日といい今日といい、鎌田先輩にドキドキしっぱなしなんて、どうかしてるかも――
「っ、ドキドキしてる場合じゃないんだってば! 集中して書類の直しをしなきゃ」
頬を叩いて気合を注入したお陰で、きちんと書類の修正をする事が出来たのだった。
「急がなきゃ!」
午後一時半から始まる会議に、何としてでも間に合わせなきゃならない。
慌てて資料室に入り、たくさんあるファイルと格闘すべく対峙した。手に汗を握りながら、上から下まで隅々チェックしてみたけど、該当したファイルが全く見当たらない。
最後の手段と考え半泣き状態で、扉にかけてある入室記録簿を確認してみた。最近使用した人は小野寺先輩と鎌田先輩、それと隣の部署の三人だけ……
(――良かった、大人数じゃなくて)
そう思った瞬間、背後に人の気配を感じたので振り向いてみたら、鎌田先輩が腕組みをしながら棚にもたれ掛かって、こちらを見ているじゃないの。しかも、口の端を上げて笑っているなんて……
明らかに私が困ってる状態を、背後から眺めて楽しんでいるみたいだ。
鎌田先輩の様子にイラッとしたけれど、何とか感情を押し殺して彼の傍に駆け寄った。
「あの資料を探したんですが、全然見つかりませんでした」
「そのことですが、私のデスクにファイルがありました。申し訳ない」
「へっ!?」
「調べ物に夢中になっていて、うっかりしていたようです」
先ほどまで浮かべていた笑みを消し去り、頭を下げる。鎌田先輩が謝っただけじゃなく、私に向かって頭を下げるなんて信じられないことだった。
……そういえば小野寺先輩が、今日の鎌田先輩はおかしいと言っていた。私がドジるならまだしも、鎌田先輩がそんなうっかりをするなんて。
(――アレッ!?)
「じっ、じゃあどうして、声をかけてくれなかったんですか?」
私が慌てふためいている状況を真後ろで、実に楽しそうに見学していた。
「だって鎌田先輩、ムダが嫌いだって言ってましたよね。これは明らかに、無駄な時間を過ごしたと思うんですけど」
ちょっと憤慨して訴えてみる。もうあまり、時間がないというのに――
「君は、資料室を堪能しましたか?」
「堪能?」
「ここにある資料ファイル、項目別の年式や配置がきちんと整えられているでしょう」
そういえば乱れがなかった。だから調べるのにそんなに時間をかける事なく、探しているファイルがないのが、短時間で分かったんだ。
「たまにしか使われていないという理由で乱れがないのですが、おおむねこの配置を常にキープしているんです。この配置を頭に叩き込んでおけば、使いたい時に簡単に見つけ出す事ができ、尚且つムダな時間をかける必要はありません」
「あ――」
「新人など下の者は雑務が中心ですから君もそろそろこの配置を、覚えておいてもいい時期なのでは?」
「もしかして、それをさせるのに資料室に……」
「一見ムダに見える時間でも、君にとっては有意義な時間だったでしょう?」
ふわりと笑いながら、優しく頭を撫でてくれた。とってもあたたかい手の平――それを感じた瞬間、頬が熱を持ってしまって、心臓が一気に駆け出してしまった。
そんな顔を見せないようにすべく思いっきり俯き、体をふるふると強張らせたら、頭を撫でていた手がそっと引っ込んでいく。
「君のデスクに、ファイルを置いておきました。これから急いで、作業に取りかかって下さい。終わったら、目を通しますので」
「はい……」
やっぱりすごいな鎌田先輩。文句を言ってしまった自分が、いろんな意味で恥ずかしいよ。
「最後までしっかり、資料を確認して下さい。それと……」
妙な間に違和感を覚え恐るおそる顔を上げたら、眉間にシワを寄せながら顎に手をあてて、何かを考えている姿が目に映った。
「……何か、他にあるんですか?」
鎌田先輩が二の句を告げないので自分から話しかけてみると、ハッとした顔をしてからメガネを押し上げる仕草をした。
「その……小野寺と話す時間があるのなら、自分の仕事に精を出しなさい」
「わかりました。それこそ時間の無駄ですもんね、急いで修正してきます!」
その場に佇む鎌田先輩にきちんとお辞儀をしてから、急いで自分のデスクに向かった。
むー、次はどうやって小野寺先輩の話を断ろう。お喋りな彼の言葉を遮るのは結構、難題だったりする。
部署に戻りながら、鎌田先輩が撫でてくれた頭を意味なく触ってみた。昨日といい今日といい、鎌田先輩にドキドキしっぱなしなんて、どうかしてるかも――
「っ、ドキドキしてる場合じゃないんだってば! 集中して書類の直しをしなきゃ」
頬を叩いて気合を注入したお陰で、きちんと書類の修正をする事が出来たのだった。
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