52 / 83
嬉しハズカシ新婚生活
1
しおりを挟む
今、私は正仁さんに頼まれて、山田さんの会社に向かっている。書類を届けてから今川さんに、新婚旅行のお土産を渡すために。この間の休日に行こうとしていたんだけど、急なアクシデントで行けなくなってしまったから――正仁さんのせいで……。
最近は思い立ったが吉日みたいに、所構わずなのである。少しは私の気持ちを尊重して、自重してもらいたいのだけれど。
「他の会社に用事で行くのは久しぶりだな。ちょっとだけ緊張する」
そんな気持ちを隠して受付で名前を告げてから、営業企画室に通してもらった。
「あっ、ひーちゃん、わざわざ有り難う」
部署に入った瞬間、見知った顔が目に入ったので内心安堵しつつ、しっかり会釈をする。
「いえ、他に用事があったので。ちなみに今川さんにお逢いしたいんですけど……」
「ああ、例のお土産ね。今川部長は外に出てるから、会長室に行ってみるといいよ。今川夫人がいるから」
「蓮さんが?」
私が不思議そうな顔をして山田さんを見ると、山田さんは扉のそばを通った人物にいきなり話しかけた。
「今川くん、悪いっ!」
「山田課長、何ですか?」
正仁さんには負けるけど端正な顔立ちのイケメンな社員さんが、にこやかな表情で傍にやって来た。
「彼は今川部長の甥っ子なんだ。そんでもって彼女は取引先の方で用事があって、ウチに来たんだけど」
山田さんの説明を受けて、お互い目を合わせて会釈をした。
「今川くん、彼女を会長室に案内してほしいんだ。俺これから出なきゃならなくて。時間、大丈夫だよね?」
「山田課長に用事を頼まれて、断れる人がいるなら見てみたいですよ。ちょうど会長室のあるフロアに用事があるので、俺は大丈夫です」
今川くんと呼ばれたイケメン社員さんが、私に向かって満面の笑みを浮かべる。
「すみません、仕事がお忙しい中……」
恐縮しつつ様子を窺ってみたら、
「いえいえ、大事なお客様……ましてやこんな可愛らしい人をエスコートができるなんて、こちらとしては光栄です」
「じゃ、今川くん宜しくね」
渡した書類を手に、慌てた様子で山田さんが私たちの元から走り去っていく。
「それでは案内しますね、こちらです」
そう言って私の腰に腕を回し、扉を開けてくれた。その強引なリードに思いっきり戸惑ってしまって、今川さんの顔を見上げてしまった。
「ああ失礼、癖なんです。帰国子女なんですよ、俺」
「はぁ……。なるほど」
腰に回された手はすぐに外されたけど、正仁さんが見たら確実にレーザービームが勢いよく飛んでくるに違いない。
「うちの会長と、お知り合いなんですか?」
「いいえ。今川部長さんの奥さんと知り合いなんです」
「ああ、それで会長室に案内なワケなんだ」
そう言いながら、じっと私の顔を見つめてくる。もしかして、顔に何かついてるんだろうか?
不思議に思い見つめ返してみた。目元が今川部長さんに、結構似ているな。
「可愛らしいなぁ、自分の好みだなって思っても必ず、彼氏やら旦那が既におるもんな」
「はい?」
「すみません、つい愚痴ってしまって。最近の俺、めっちゃ恋愛運がないんです。今もアナタを口説こうかなぁって思ったら、左手薬指の指輪がキラリ」
そう言って、私の指輪を指差した。
「今川さんはイケメンなのに、彼女がいないのが逆に不思議です。選り取りみどりってイメージなんですけど」
率直な意見を伝えると、俳優のように肩を竦める。リアクションがいちいちオーバーだから日本人女性の目につくせいで、受け入れられないのではないかと思ってしまった。
「初対面の人に、思ったことが素直に言えるんですね」
「ハッ、すみません! 何か変に緊張しちゃうと、ベラベラ口走ってしまうんです」
正仁さんには、君の得意技と言われています。
「変に緊張って、俺そんなに何か出してますか?」
笑いながらじっと顔を見つめられたのだけど、これが緊張のモトなんですが。
困って苦笑いして受け流してる間に、会長室に到着した。正直、助かった。
「美人さんのエスコートはとても楽しかったです。旦那様に宜しく」
「はい、有り難うございました」
全然、美人さんではないのにな。
「ちなみに旦那様は、どこの部署にお勤めなんですか?」
「へっ!?」
「アナタのように素直で可愛い人を奥さんにできた、旦那様に興味がわきまして」
「えっと営業二課の、鎌田課長です……」
名前を教えると、腕を組んで考え出した今川さん。
「思い出した。合コンのときに山田課長と親しげに話し込んでた、メガネのイケメン……。ととっ、合コンの話は知っていましたか?」
「会社の交流が目的の合コンですよね? 知ってますよ」
笑顔で合コンに送り出した、当時の彼女でございます。
「彼の奥さんだったんですか、いや驚きました」
「はぁ……」
「合コンのときに何となく人を寄せ付けないオーラが出ていたんで、女子社員たちも近付けなかったんです。アナタがいたからなんですね」
普段から、そのオーラは漂ってます。人の好き嫌いがとても激しい人なんです。とは言えない……。無駄口を叩くと、また叱られちゃうからね。
とりあえず、笑って誤魔化す――
「山田課長とまた、合コンセッティングして下さいって伝えて下さい。宜しくお願いします」
「分かりました、有り難うございます」
そしてやっと、イケメンから解放された。
最近は思い立ったが吉日みたいに、所構わずなのである。少しは私の気持ちを尊重して、自重してもらいたいのだけれど。
「他の会社に用事で行くのは久しぶりだな。ちょっとだけ緊張する」
そんな気持ちを隠して受付で名前を告げてから、営業企画室に通してもらった。
「あっ、ひーちゃん、わざわざ有り難う」
部署に入った瞬間、見知った顔が目に入ったので内心安堵しつつ、しっかり会釈をする。
「いえ、他に用事があったので。ちなみに今川さんにお逢いしたいんですけど……」
「ああ、例のお土産ね。今川部長は外に出てるから、会長室に行ってみるといいよ。今川夫人がいるから」
「蓮さんが?」
私が不思議そうな顔をして山田さんを見ると、山田さんは扉のそばを通った人物にいきなり話しかけた。
「今川くん、悪いっ!」
「山田課長、何ですか?」
正仁さんには負けるけど端正な顔立ちのイケメンな社員さんが、にこやかな表情で傍にやって来た。
「彼は今川部長の甥っ子なんだ。そんでもって彼女は取引先の方で用事があって、ウチに来たんだけど」
山田さんの説明を受けて、お互い目を合わせて会釈をした。
「今川くん、彼女を会長室に案内してほしいんだ。俺これから出なきゃならなくて。時間、大丈夫だよね?」
「山田課長に用事を頼まれて、断れる人がいるなら見てみたいですよ。ちょうど会長室のあるフロアに用事があるので、俺は大丈夫です」
今川くんと呼ばれたイケメン社員さんが、私に向かって満面の笑みを浮かべる。
「すみません、仕事がお忙しい中……」
恐縮しつつ様子を窺ってみたら、
「いえいえ、大事なお客様……ましてやこんな可愛らしい人をエスコートができるなんて、こちらとしては光栄です」
「じゃ、今川くん宜しくね」
渡した書類を手に、慌てた様子で山田さんが私たちの元から走り去っていく。
「それでは案内しますね、こちらです」
そう言って私の腰に腕を回し、扉を開けてくれた。その強引なリードに思いっきり戸惑ってしまって、今川さんの顔を見上げてしまった。
「ああ失礼、癖なんです。帰国子女なんですよ、俺」
「はぁ……。なるほど」
腰に回された手はすぐに外されたけど、正仁さんが見たら確実にレーザービームが勢いよく飛んでくるに違いない。
「うちの会長と、お知り合いなんですか?」
「いいえ。今川部長さんの奥さんと知り合いなんです」
「ああ、それで会長室に案内なワケなんだ」
そう言いながら、じっと私の顔を見つめてくる。もしかして、顔に何かついてるんだろうか?
不思議に思い見つめ返してみた。目元が今川部長さんに、結構似ているな。
「可愛らしいなぁ、自分の好みだなって思っても必ず、彼氏やら旦那が既におるもんな」
「はい?」
「すみません、つい愚痴ってしまって。最近の俺、めっちゃ恋愛運がないんです。今もアナタを口説こうかなぁって思ったら、左手薬指の指輪がキラリ」
そう言って、私の指輪を指差した。
「今川さんはイケメンなのに、彼女がいないのが逆に不思議です。選り取りみどりってイメージなんですけど」
率直な意見を伝えると、俳優のように肩を竦める。リアクションがいちいちオーバーだから日本人女性の目につくせいで、受け入れられないのではないかと思ってしまった。
「初対面の人に、思ったことが素直に言えるんですね」
「ハッ、すみません! 何か変に緊張しちゃうと、ベラベラ口走ってしまうんです」
正仁さんには、君の得意技と言われています。
「変に緊張って、俺そんなに何か出してますか?」
笑いながらじっと顔を見つめられたのだけど、これが緊張のモトなんですが。
困って苦笑いして受け流してる間に、会長室に到着した。正直、助かった。
「美人さんのエスコートはとても楽しかったです。旦那様に宜しく」
「はい、有り難うございました」
全然、美人さんではないのにな。
「ちなみに旦那様は、どこの部署にお勤めなんですか?」
「へっ!?」
「アナタのように素直で可愛い人を奥さんにできた、旦那様に興味がわきまして」
「えっと営業二課の、鎌田課長です……」
名前を教えると、腕を組んで考え出した今川さん。
「思い出した。合コンのときに山田課長と親しげに話し込んでた、メガネのイケメン……。ととっ、合コンの話は知っていましたか?」
「会社の交流が目的の合コンですよね? 知ってますよ」
笑顔で合コンに送り出した、当時の彼女でございます。
「彼の奥さんだったんですか、いや驚きました」
「はぁ……」
「合コンのときに何となく人を寄せ付けないオーラが出ていたんで、女子社員たちも近付けなかったんです。アナタがいたからなんですね」
普段から、そのオーラは漂ってます。人の好き嫌いがとても激しい人なんです。とは言えない……。無駄口を叩くと、また叱られちゃうからね。
とりあえず、笑って誤魔化す――
「山田課長とまた、合コンセッティングして下さいって伝えて下さい。宜しくお願いします」
「分かりました、有り難うございます」
そしてやっと、イケメンから解放された。
0
あなたにおすすめの小説
数合わせから始まる俺様の独占欲
日矩 凛太郎
恋愛
アラサーで仕事一筋、恋愛経験ほぼゼロの浅見結(あさみゆい)。
見た目は地味で控えめ、社内では「婚期遅れのお局」と陰口を叩かれながらも、仕事だけは誰にも負けないと自負していた。
そんな彼女が、ある日突然「合コンに来てよ!」と同僚の女性たちに誘われる。
正直乗り気ではなかったが、数合わせのためと割り切って参加することに。
しかし、その場で出会ったのは、俺様気質で圧倒的な存在感を放つイケメン男性。
彼は浅見をただの数合わせとしてではなく、特別な存在として猛烈にアプローチしてくる。
仕事と恋愛、どちらも慣れていない彼女が、戸惑いながらも少しずつ心を開いていく様子を描いた、アラサー女子のリアルな恋愛模様と成長の物語。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
譲れない秘密の溺愛
恋文春奈
恋愛
憧れの的、国宝級にイケメンな一条社長と秘密で付き合っている 社内一人気の氷室先輩が急接近!? 憧れの二人に愛される美波だけど… 「美波…今日充電させて」 「俺だけに愛されて」 一条 朝陽 完全無欠なイケメン×鈴木 美波 無自覚隠れ美女
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
曖昧な距離で愛している
山田森湖
恋愛
結婚4年目のアラサー夫婦、拓海と美咲。仲は悪くないが、ときめきは薄れ、日常は「作業」になっていた。夫には可愛い後輩が現れ、妻は昔の恋人と再会する。揺れる心、すれ違う想い。「恋人に戻りたい」――そう願った二人が辿り着いた答えは、意外なものだった。曖昧で、程よい距離。それが、私たちの愛の形。
イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~
美和優希
恋愛
木下紗和は、務めていた会社を解雇されてから、再就職先が見つからずにいる。
貯蓄も底をつく中、兄の社宅に転がり込んでいたものの、頼りにしていた兄が突然転勤になり住む場所も失ってしまう。
そんな時、大手お菓子メーカーの副社長に救いの手を差しのべられた。
紗和は、副社長の秘書として働けることになったのだ。
そして不安一杯の中、提供された新しい住まいはなんと、副社長の自宅で……!?
突然始まった秘密のルームシェア。
日頃は優しくて紳士的なのに、時々意地悪にからかってくる副社長に気づいたときには惹かれていて──。
初回公開・完結*2017.12.21(他サイト)
アルファポリスでの公開日*2020.02.16
*表紙画像は写真AC(かずなり777様)のフリー素材を使わせていただいてます。
貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳
大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。
でも、これはただのお見合いではないらしい。
初出はエブリスタ様にて。
また番外編を追加する予定です。
シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。
表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる