ドS上司の意外な一面

相沢蒼依

文字の大きさ
51 / 83
意外な一面 Wedding狂想曲(ラプソディ)

しおりを挟む
 小首をちょっとだけ傾げながら、怒ってるんだか困ってるんだかよく分からない、微妙な表情の正仁さんを見つめてみた。

 新婚旅行先の夜、キングサイズのベットに正座をして向かい合った私たち。いろんな緊張感でドキドキしていると、神妙な面持ちで正仁さんが先に口を開いてきた。

「俺はこれまで、温かい家庭というのを知らずに過ごしてきました」

「お式にもご両親、来て下さらなかったですもんね」

 お祝い金だけ送られてきただけで、実際に会ったことがない正仁さんのご両親。

「物心ついた時には既に冷えきった家庭でした。だけど近所や会社の体裁上、オシドリ夫婦を彼らは上手く演じていましたよ。それが限界になったのは、俺が中学の頃だったんです」

「山田さんにも少し、話を聞いてます。よく泊まっていたって」

 遠い目をしながら自嘲気味に笑いかける、その寂しげな笑顔――

「俺をどっちが引き取るか、毎日揉めていましたから……。あの家では落ち着いてなんていられなかったんです。でもそのお陰でバンドを始めるきっかけになったんですから、一概に全てが駄目だったわけではないんですがね」

「でも淋しい話です。ご両親が自分のために言い争うなんて」

「だから君のご両親に初めて会ったときは、かなり衝撃的でした。娘を奪うであろう男に、あそこまでウエルカムなんて」

 二人でそのときのことを思い出して、顔を見合わせて笑ってしまった。

 付き合って一か月後に、私の実家に行ったあの日。緊張を隠すためなのからメガネをちゃっかり装着し、強張った顔のまま挨拶した正仁さんに、父はいきなり抱きついたのである。

「いやぁひとみっ、でかしたな。いかにも出世しそうなイケメンを、ゲットしたじゃないか」

「ひとみが羨ましい! 母さん変われるものなら変わりたいわ」

 父は正仁さんの肩をバシバシ叩き、母は両手を握りしめて、二人揃ってすっごく喜んでいた。

 ちなみに三つ上の姉は、まだ未婚である。

「君があのご両親の元で育ったから、底抜けに明るくて、たくましい性格になったんですね」

「ははは……。でも正仁さんの親にもなったんですよ。遠慮なく仲良くして下さいね」

 微笑みながら言うと、優しく抱き締めてくれた。

「ひとみとなら……必ずあったかい家庭を、作ることができそうです。頼りない夫ですが、末永く宜しくお願いします」

「頼りないなんてとんでもないっ、私の方がダメダメな奥さんなのにっ。頑張って正仁さんが望むような、居心地のいい家庭を作りたいです」

 正仁さんの腕の中から、そっと顔を見上げる。

「だから末永く、宜しくお願いします正仁さん」

「ひとみ――」

 正仁さんが涙ぐんだように見えた瞬間、優しく塞がれた唇。その後の記憶は途切れ途切れなのは、言うまでもない。

 正仁さんの性格が屈折して素直じゃないのは、荒んだ家庭環境のせい――これからは私がたくさん愛情を注いであげれば、多少なりとも改善されるんじゃないかと期待していたりする。

 山田さんに噛みつきそうになってる正仁さんの頭を、これでもかと優しく撫でてあげた。

「山田さんは正仁さんを心配して、私に助言してくれたんですよ。怒らないであげて下さいね」

「っ………」

 私の手を振り払うことなく、されるがままの正仁さんを見て、驚いた表情をありありと浮かべている山田さん。

「何か……まさやんがひーちゃんの子供みたい。子供ができたら、取り合いしちゃうんじゃないの?」

 子供と言われて恥ずかしかったのか、撫でていた私の手を素早く掴むと、そのまま指を絡めて握りしめてくれる。

 ――絡められた指から伝わる正仁さんの温もり、すごく熱い……。これって照れているから?

「けん坊の方こそ年上女房を子供にとられて、イジイジしそうだよな。うちに泣きついて来るなよ、新婚家庭なんだから」

「はいはい。見てるだけでお腹いっぱいになりそうなラブラブっぷりは、もう結構ですよ。お邪魔虫は退散します」

 うへぇと顔を歪ませながら玄関に向かう山田さんを、二人並んで見送った。

「また遊びに来て下さいね」

「うん、ひーちゃんがまさやんのことを窘めるのを見るために、また遊びに行くから」

「けん坊っ!」

「うわっ!? お邪魔しました」

 山田さんは困った顔のまま、飛び出すように帰って行く。本当にこの二人は仲良しだな。

「まったく、けん坊の奴は」

「ふふっ、いいコンビですよ」

「君も人前であんな大胆なことをして、まったく……」

 私が不思議そうな顔をすると、いきなり横抱きにされた体。
 
「あのぅ、正仁さん?」

「これから行うことと同じように、以後人前で恥ずかしいことをしないで下さい」

 横抱きにされているので、顔の位置がすっごく近い。正仁さんがよくする、色っぽい目付きで見つめられ、否応なしにドキドキしてしまう。

「えっと、正仁さん……これから行うことって?」

 アヤシげなフェロモンがじわじわっと漂ってる時点で、質問するだけ野暮な話なワケで――まだ日が高いんですけど?

「生意気な奥さんに、お仕置きをしなければ……です」

「テクニカルなお仕置きは、勘弁してほしいです」

 気がつけば寝室に拉致、乱暴にベットの上に落とされてしまった。

「きゃっ!? んもぅ!」

「テクニカル? あれのどこがテクニカルなんです? 具体的に言ってみて下さい」

 んもぅ屈折しまくった性格を、何とかしてほしい。好きな相手を弄り倒すって、どんだけ――

 私が赤面して困ってる間に、どんどん脱がされていく服。

「ほら、きちんと答えないと、テクニカル中級編に進めませんよ」

 甘い吐息と一緒に耳元で囁かれた衝撃的な事実に、目を見開いて固まってしまった。

 ――アレが初級編になるの!? じゃあ今まで初級編で悶絶しつつ、記憶が飛んでたワケになるんですけど。

「まっ、正仁さんのあっちのスペックは、どんだけ高いんですか? 何か私、軽くショック……」

「俺の全てを教えるのには、たっぷり時間がありますからね。ゆっくり時間をかけて、ひとみを愛してあげますから……。受け止めてくれるんでしょう?」

 片側の口角を上げずに優しく微笑む正仁さんを、拒むことなんてできないに決まってる。

「勿論受け止めますよ、正仁さんの愛をください」 

 そう言って私は目を閉じた。瞼に優しいキスを、そっとしてくれる正仁さん。

「今日はもう出掛けられません。君を抱くのに一度だけでは、おさまりそうにないですから」

 息が止まりそうな激しいキスをする正仁さんに驚きつつ、しっかり受け止めようと必死に頑張る私。

 どんなテクニカルな世界が待ち受けているのか全然想像つかないけど、正仁さんの愛を全身全霊で受け止めるから。

 ――それが妻の役目だよね。

 だけど赤ちゃんができたら、テクニカルは少しだけ自重してもらわなきゃ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~

美和優希
恋愛
木下紗和は、務めていた会社を解雇されてから、再就職先が見つからずにいる。 貯蓄も底をつく中、兄の社宅に転がり込んでいたものの、頼りにしていた兄が突然転勤になり住む場所も失ってしまう。 そんな時、大手お菓子メーカーの副社長に救いの手を差しのべられた。 紗和は、副社長の秘書として働けることになったのだ。 そして不安一杯の中、提供された新しい住まいはなんと、副社長の自宅で……!? 突然始まった秘密のルームシェア。 日頃は優しくて紳士的なのに、時々意地悪にからかってくる副社長に気づいたときには惹かれていて──。 初回公開・完結*2017.12.21(他サイト) アルファポリスでの公開日*2020.02.16 *表紙画像は写真AC(かずなり777様)のフリー素材を使わせていただいてます。

貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈

玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳 大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。 でも、これはただのお見合いではないらしい。 初出はエブリスタ様にて。 また番外編を追加する予定です。 シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。 表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。

数合わせから始まる俺様の独占欲

日矩 凛太郎
恋愛
アラサーで仕事一筋、恋愛経験ほぼゼロの浅見結(あさみゆい)。 見た目は地味で控えめ、社内では「婚期遅れのお局」と陰口を叩かれながらも、仕事だけは誰にも負けないと自負していた。 そんな彼女が、ある日突然「合コンに来てよ!」と同僚の女性たちに誘われる。 正直乗り気ではなかったが、数合わせのためと割り切って参加することに。 しかし、その場で出会ったのは、俺様気質で圧倒的な存在感を放つイケメン男性。 彼は浅見をただの数合わせとしてではなく、特別な存在として猛烈にアプローチしてくる。 仕事と恋愛、どちらも慣れていない彼女が、戸惑いながらも少しずつ心を開いていく様子を描いた、アラサー女子のリアルな恋愛模様と成長の物語。

その卵焼き俺にも食わせろ!―ワンナイトラブから逃げたはずなのに、契約で縛られてました!?―

鷹槻れん
恋愛
新沼 晴永(にいぬま はるなが/36)は俺様上司として恐れられる鬼課長。 そんな彼に毎日のように振り回されるのが、犬猿の仲(だと彼女が勝手に思っている)部下の小笹 瑠璃香(こざさ るりか/28)だ。 飲み会の夜、酔ってふにゃふにゃになった瑠璃香を晴永がまんまと持ち帰り――翌朝待っていたのはワンナイトの証拠と契約結婚の書類!? 晴永には逃げようとする瑠璃香を逃がすつもりはないらしい!? 笑いと誤解と契約の、ドタバタラブコメディ! ○表紙絵は市瀬雪さんに依頼しました♥(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)

美しき造船王は愛の海に彼女を誘う

花里 美佐
恋愛
★神崎 蓮 32歳 神崎造船副社長 『玲瓏皇子』の異名を持つ美しき御曹司。 ノースサイド出身のセレブリティ × ☆清水 さくら 23歳 名取フラワーズ社員 名取フラワーズの社員だが、理由があって 伯父の花屋『ブラッサムフラワー』で今は働いている。 恋愛に不器用な仕事人間のセレブ男性が 花屋の女性の夢を応援し始めた。 最初は喧嘩をしながら、ふたりはお互いを認め合って惹かれていく。

契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」  突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。  冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。  仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。 「お前を、誰にも渡すつもりはない」  冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。  これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?  割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。  不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。  これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

処理中です...