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嬉しハズカシ新婚生活
ただいまから始まる!?
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「ただいま」
「お帰りなさい、どうしたのその猫?」
いつものように帰宅した正仁さんの手には、縞模様の子猫がいた。目の回りが白いので、マスクを被ってるみたい。
「すぐそこで拾いました、名前は八朔です」
「八朔って、名札でも付いてたんですか?」
小首を傾げる私に強引に子猫を渡して、さっさと室内着に着替えはじめる。
「俺がつけました。柑橘類のハッサクとは違いますからね」
「はあ」
八朔は抱っこしている私の手を、前足でぐいぐい押して飛び出そうとする。
「鞄の中にコンビニで買った猫缶が入ってるので、八朔にあげて下さい」
「はぁい」
――相変わらず、用意周到だなぁ。
床に八朔を置いて、鞄から猫缶を取り出す。
キッチンで準備していると、傍で正仁さんが手を洗いに来た。何故だか私の顔をじっと見つめてくる。不思議に思って視線を合わせてみたら、何故だかフッと避けられてしまった。
「私、何かやらかしました?」
「何もやってません。お風呂入ったんですね」
急に話題を変えるなんて、正仁さんらしくない。
洗った手をタオルで拭うとダイニングにあるテーブルに、そそくさと移動してしまった。
愛しの旦那様の様子を気にしつつ、猫缶の中身を皿にあけて床に置くと、八朔は素早くやって来て、勢いよく食べる。二人でしばらく、その様子をぼんやりと眺めていた。
『瞳ちゃん、人妻オーラ全開で綺麗になったよね』
彼女が台所で猫缶を開けてる姿を見た時、不意に思い出した言葉。
お風呂上がりなのだろう。しっとり濡れた髪に、体から石鹸の良い香りが漂ってきた。確かにここのところ、女性的な魅力がぐんとアップしているかもしれない。
思わず見とれていると、複雑そうな顔をしてこっちを見る。
「やっぱり私、何かやらかしました?」
一瞬、ドキッと胸が鳴った。
不埒な考えが読み取られたと錯覚したけど、彼女の発言で大丈夫だと確信する――まったく、何やってるんだ俺は。
「何もやってません、お風呂入ったんですね」
当たり障りのない返答をすると、複雑な表情が不思議そうな顔になり、まじまじと俺を見つめてきた。
洗った手を慌ててタオルで拭い、何事もなかったようにダイニングにあるテーブルに向かう。ひとみは八朔のご飯を床に置き、傍にしゃがみこんで食べている様子を見つめていた。
ひとりと一匹の微笑ましい様子に、自分がご飯を食べるのを忘れて眺める。
「ごめんなさい……。正仁さんのご飯を温めるの、すっかり忘れて出してなかった」
八朔が食べ終わる頃に、ハッとして顔を上げる。正仁さんはテーブルに頬杖をついて、じっとこっちを見ていた。
「その食いっぷり見ていたら、こっちまで食べた気になりました。余程、腹が減ってたんですね」
「本当にごめんなさい、すぐに用意します」
台所で慌ただしく動いてバタバタ用意していると、八朔が足元にまとわりついてくる。
「こらこら、邪魔しちゃダメですよ」
正仁さんが声をかけながら八朔の首根っこを右手で掴み、リビングに連行したので正直助かってしまった。
テーブルに晩ごはんを置いている間に、正仁さんは買ってきたであろう猫じゃらしで八朔と遊んでいて、何だか楽しそう。
「用意出来ました」
楽しそうにしてるのを中断させるのは、やっぱり気が引けるなぁと思いつつ、優しく声をかけてあげた。
「選手交代、お願いします」
そう言って私の手に、猫じゃらしを握らせる。さっき鞄の中を見た時に、猫缶と一緒に入っていた猫じゃらし。レジで猫を片手に、猫缶と猫じゃらしを買ってる、正仁さんを見たかったかも。
八朔は目を輝かせて、私が猫じゃらしで遊ぶのを今か今かと待っていた。今日は小さいモノに、癒される日だなぁ――隆之助くんの健やかな寝顔に、八朔の生き生きとした表情。
そんなことを考えつつ、いつの間にか私は夢中になって、八朔の相手をしていた。
ひとみが八朔と夢中で遊んでいる最中にご飯を食べ終え、食器を洗い風呂に入った。そんなに長時間浸かっていたワケじゃなかったが、風呂からあがっても君はまだ遊び倒している。
俺は上半身裸のまま濡れた髪をタオルで拭きながら、その様子をぼんやりと眺めていた。
八朔は疲れたのもあるのか眠そうな顔をしながら、それでも懸命に猫じゃらしに手を出している。その、うつらうつら具合が可愛いんだろう、君が笑いながら八朔の相手を楽しんでいた。
「君がそんなに、サービス精神旺盛だったなんて意外です」
「正仁さん!? いつの間にお風呂に入ったんですか? って私そんなに長時間、八朔と遊んでいたんだ」
俺の顔を見てから時計に目をやる。相変わらずの突飛な発言、しかも俺の言葉がスルーされた。
彼女の手から猫じゃらしを強引に奪取してニヤリと微笑んでみせたら、ギョッとした様子でソファの上で体を硬くする。
八朔は遊び疲れたのか、テーブルの影で体を小さくして寝ようとしていた。
「さて俺の可愛い子猫と、今から遊びましょうか」
半袖のパーカーと短パン姿の君を見やり、すぐさま狙いを定める。
「なっ、ちょっと止めて下さい。くすぐったすぎます」
猫じゃらしを首の下で、左右に動かしてやる。ソファの上でキャーキャー言いながら、逃げようとする君に体を覆い被せ、どこにも逃げられないようにした。
「ここはどうですか?」
左耳の後ろを狙ってグリグリしてみると、体をよじらせながら俺の体を押し戻そうと、両手で懸命に力を入れてるようだが所詮は無理な話。
「まっ、まさひ、とさん。んもう……ワザと……弱いトコ、狙ってやってま、すよね?」
涙目になりながら、キッと俺を睨み倒してくる――体を押し戻すより、猫じゃらしの手を掴めば止まると思うのに、冷静な判断が出来ないらしい。
「君の感じる場所は、すべて把握していますからね」
猫じゃらしを持ってない手で左の太ももを下から上へ、つつっと撫でてみた。
「んん~っ」
「もっと可愛い声で、啼いてみて下さい」
耳元に唇を寄せて呟きながら吐息をかけると、顔を真っ赤にしながら両手を使い、頑張って抵抗を試みようとする。
「やっ……」
これからスルことの邪魔されたくなかったので、細い手首を掴み顔を覗き込んでみた。
「――ここは?」
意味深に微笑んでから、右の鎖骨付近にちゅっと口づけ。びくんと体を震わせ、息を乱しながら俺を見上げる。
「んっ……正仁さんの体、スゴく熱い」
「好きな女が目の前で悶えてる姿に、興奮しない男はいないでしょう?」
そう言って色っぽく笑いながら、私の唇に近づいてきたのに、直前で動きが止まった。
「正仁さん?」
いつもならこのままキスして甘い状態に突入するハズなのに、何故だか難しい顔をして、私の顔をじっと見つめている。
「最近……他の人に誘われたり、声をかけられたりしませんか?」
ぼそぼそと告げられた質問に、首を傾げるしかない。
「お言葉ですが私、全然モテませんから。新入社員で入ってから一回も、誘われたり声をかけられたりとかなかったし。しかも社内でカマキリと恐れられている正仁さんの奥さんに、手を出すような強者はいないですって」
笑いながら言うと眉間に深いシワを寄せて、もっと難しい顔をした。
「君がモテなかったワケは、俺がいろいろと暗躍していたからです」
「はいっ!?」
それって、一体どういう事なんだろう?
「合コンの話を耳にした時は、残業入れたり……その――」
「レーザービーム、がんがん飛ばしたり?」
私が覗き込むように正仁さんの顔を見つめたら、のしかかってた体を退けて、ソファに俯きながら座る。
「うっ……告白したくても、嫌われているのが手にとるように分かっていただけに……だから強制的に君に近づいてくる男を、勝手に排除していました。誰にも渡したくなかったですから」
「新入社員のみんなが青春を謳歌しているのに、どんだけ自分の魅力がないのかと、結構落ち込んでました。まさか正仁さんが、裏で糸を引いていようとは」
心底済まなそうな顔をして、チラリと私を見る。
「確かに正仁さんのこと、すっごく嫌ってましたけど、仕事に関しては実は憧れていたんですよ。いつも隙がなくてスゴいなって」
これは本当の話。時折、見惚れてしまうくらいだったから。
「はぁ」
「電話片手にパソコン弄りながら書類をチェックしてる姿とか、資料をたくさん展開しながら他の人に指示してる姿とか」
「よく見ていたんですね」
「実は……どこかで失敗するんじゃないだろうかと見てました」
「やっぱり――」
ため息をついて呆れた顔をしている、正仁さんに言えないこと――ホントは電話の最中に見せる、普段は見られない笑顔に心臓がドキッとしたり、パソコンを弄る細長い指に目が釘付けになっていたことは、ナイショだったりする。
「結局嫌っていたんですけど、気にはしていたんです。そしてあの意外な一面で、ぐさっとトドメをさされたんですよ」
「トドメの、あの姿ですか?」
日頃冷静沈着な正仁さんが、エネルギッシュにライブハウスで歌ってる姿は、すっごくギャップがありすぎて鳩に豆鉄砲な状態、あっさりと恋に落ちた。
嫌っていた分、かなり葛藤したけどね……
「まぁその後もいろいろあって、そのままお持ち帰りされたのもビックリしましたけど」
「けど?」
さっきまで顔を伏せていた正仁さんが、今度は私の顔を覗き込むように見る。
「夜の正仁さんもその。普段見られない情熱的な感じというか――」
う~ん、うまく伝えられない。
私のしどろもどろ具合を察知し、笑いを堪えながら色っぽい目付きをして、顔をじっと見下しながら微笑んできた。
「今更、照れることでもないのでは?」
「照れますっ。正仁さんから何かエロっぽいフェロモンが出てきてるから、頭が混乱して……もぅ」
「けん坊といい君といい、俺から何かが漂うだの出てるってワケが分かりません」
「本人が自覚してないトコが罪! ホント厄介……」
私は紅潮した頬を両手でペチペチ叩いて、気合を入れた。きちんと言わなきゃ伝わらないもんね。
「罪だの厄介だのと、今度は非難ですか」
「非難じゃないんです、誉めてるんですから。そんな正仁さんの種が欲しいんです」
「…………」
怪訝な顔をして、照れながら口元を押さえている私を見た。
「それは、俺を誘っているんですか?」
「ううっ。自分なりに頑張ってみたんですけど」
呆れ果てたような白い目で見られるせいで、視線が体にぐさぐさっと刺さる感じがする。
「全然誘われた感じがないです。むしろ俺はサラブレッドの種馬か、松阪牛の種牛みたいな錯覚を起こしました」
赤面している私の頭を、優しく撫でながら盛大に笑う正仁さん。
「だって……自分からこういうの言ったことがないし、ストレートに言った方が伝わるかなって思ったんです」
「ストレート過ぎます。君らしいと言えばそうなんですけど。もう少し煽るような言葉で、誘って欲しかったですね」
「煽るような言葉?」
私が不思議そうな顔をすると、頭を撫でていた右手を肩に移動させて自分に近づけさせた。そして耳元で、吐息をかけながら甘く囁いてくれる。
「正仁さん自身で私を満たして、中でたくさんイって欲しいとか、あなたの愛を私の中で、いっぱいぶちまけて下さい、とか?」
「さすが元バンドの作詞担当――私には、全然思いつきません」
思いついたとしても、口に出してなんて言えない。
「上手く言えたら、ご褒美にあげますよ?」
ええっ、今の言葉を言うの!? 恥ずかしすぎて、躊躇しちゃうんですけど。
喉をゴクンと鳴らし口を開こうとするけど、想いが空回りしてなかなか言葉にならない。
「焦らしプレイですか? 俺をどれだけ悶々とさせれば、気が済むんでしょうか」
「違っ、そんなつもりじゃないです」
「今日の夕方、会社では言えたじゃないですか。挿れて下さいって懇願したクセに」
「それはっ! あんなトコで正仁さんがあんなことをやって、しかも途中人が来たりして混乱したというか」
ますます赤面する私を正仁さんは軽々と横抱きし、寝室に強制連行していく。しかもリビングの電気を、きちんと消すことは忘れない。
「混乱じゃなく、興奮したの間違いでしょう。たまに違う場所でああいうのも、オツなものですよね」
優しくベッドに寝かせると窓際に歩み寄り、カーテンを開ける。月明かりが真っ暗な寝室を、ほのかに明るく照らした。横たわる私に素早くのしかかり、オデコに優しくキスをしてくる正仁さん。
「今は恥ずかしすぎて言えないでしょうが、危機的状況に追い込めば、あっさり言えますよ」
「えっと……あの~」
「言えなきゃ、ご褒美はナシです」
そして深く唇を合わせて、簡単に私の舌を絡めとる。正仁さんの上半身からは先ほど感じたよりも、体から熱が発せられていて、それだけでクラクラした。
――熱い夜……開幕です。
「お帰りなさい、どうしたのその猫?」
いつものように帰宅した正仁さんの手には、縞模様の子猫がいた。目の回りが白いので、マスクを被ってるみたい。
「すぐそこで拾いました、名前は八朔です」
「八朔って、名札でも付いてたんですか?」
小首を傾げる私に強引に子猫を渡して、さっさと室内着に着替えはじめる。
「俺がつけました。柑橘類のハッサクとは違いますからね」
「はあ」
八朔は抱っこしている私の手を、前足でぐいぐい押して飛び出そうとする。
「鞄の中にコンビニで買った猫缶が入ってるので、八朔にあげて下さい」
「はぁい」
――相変わらず、用意周到だなぁ。
床に八朔を置いて、鞄から猫缶を取り出す。
キッチンで準備していると、傍で正仁さんが手を洗いに来た。何故だか私の顔をじっと見つめてくる。不思議に思って視線を合わせてみたら、何故だかフッと避けられてしまった。
「私、何かやらかしました?」
「何もやってません。お風呂入ったんですね」
急に話題を変えるなんて、正仁さんらしくない。
洗った手をタオルで拭うとダイニングにあるテーブルに、そそくさと移動してしまった。
愛しの旦那様の様子を気にしつつ、猫缶の中身を皿にあけて床に置くと、八朔は素早くやって来て、勢いよく食べる。二人でしばらく、その様子をぼんやりと眺めていた。
『瞳ちゃん、人妻オーラ全開で綺麗になったよね』
彼女が台所で猫缶を開けてる姿を見た時、不意に思い出した言葉。
お風呂上がりなのだろう。しっとり濡れた髪に、体から石鹸の良い香りが漂ってきた。確かにここのところ、女性的な魅力がぐんとアップしているかもしれない。
思わず見とれていると、複雑そうな顔をしてこっちを見る。
「やっぱり私、何かやらかしました?」
一瞬、ドキッと胸が鳴った。
不埒な考えが読み取られたと錯覚したけど、彼女の発言で大丈夫だと確信する――まったく、何やってるんだ俺は。
「何もやってません、お風呂入ったんですね」
当たり障りのない返答をすると、複雑な表情が不思議そうな顔になり、まじまじと俺を見つめてきた。
洗った手を慌ててタオルで拭い、何事もなかったようにダイニングにあるテーブルに向かう。ひとみは八朔のご飯を床に置き、傍にしゃがみこんで食べている様子を見つめていた。
ひとりと一匹の微笑ましい様子に、自分がご飯を食べるのを忘れて眺める。
「ごめんなさい……。正仁さんのご飯を温めるの、すっかり忘れて出してなかった」
八朔が食べ終わる頃に、ハッとして顔を上げる。正仁さんはテーブルに頬杖をついて、じっとこっちを見ていた。
「その食いっぷり見ていたら、こっちまで食べた気になりました。余程、腹が減ってたんですね」
「本当にごめんなさい、すぐに用意します」
台所で慌ただしく動いてバタバタ用意していると、八朔が足元にまとわりついてくる。
「こらこら、邪魔しちゃダメですよ」
正仁さんが声をかけながら八朔の首根っこを右手で掴み、リビングに連行したので正直助かってしまった。
テーブルに晩ごはんを置いている間に、正仁さんは買ってきたであろう猫じゃらしで八朔と遊んでいて、何だか楽しそう。
「用意出来ました」
楽しそうにしてるのを中断させるのは、やっぱり気が引けるなぁと思いつつ、優しく声をかけてあげた。
「選手交代、お願いします」
そう言って私の手に、猫じゃらしを握らせる。さっき鞄の中を見た時に、猫缶と一緒に入っていた猫じゃらし。レジで猫を片手に、猫缶と猫じゃらしを買ってる、正仁さんを見たかったかも。
八朔は目を輝かせて、私が猫じゃらしで遊ぶのを今か今かと待っていた。今日は小さいモノに、癒される日だなぁ――隆之助くんの健やかな寝顔に、八朔の生き生きとした表情。
そんなことを考えつつ、いつの間にか私は夢中になって、八朔の相手をしていた。
ひとみが八朔と夢中で遊んでいる最中にご飯を食べ終え、食器を洗い風呂に入った。そんなに長時間浸かっていたワケじゃなかったが、風呂からあがっても君はまだ遊び倒している。
俺は上半身裸のまま濡れた髪をタオルで拭きながら、その様子をぼんやりと眺めていた。
八朔は疲れたのもあるのか眠そうな顔をしながら、それでも懸命に猫じゃらしに手を出している。その、うつらうつら具合が可愛いんだろう、君が笑いながら八朔の相手を楽しんでいた。
「君がそんなに、サービス精神旺盛だったなんて意外です」
「正仁さん!? いつの間にお風呂に入ったんですか? って私そんなに長時間、八朔と遊んでいたんだ」
俺の顔を見てから時計に目をやる。相変わらずの突飛な発言、しかも俺の言葉がスルーされた。
彼女の手から猫じゃらしを強引に奪取してニヤリと微笑んでみせたら、ギョッとした様子でソファの上で体を硬くする。
八朔は遊び疲れたのか、テーブルの影で体を小さくして寝ようとしていた。
「さて俺の可愛い子猫と、今から遊びましょうか」
半袖のパーカーと短パン姿の君を見やり、すぐさま狙いを定める。
「なっ、ちょっと止めて下さい。くすぐったすぎます」
猫じゃらしを首の下で、左右に動かしてやる。ソファの上でキャーキャー言いながら、逃げようとする君に体を覆い被せ、どこにも逃げられないようにした。
「ここはどうですか?」
左耳の後ろを狙ってグリグリしてみると、体をよじらせながら俺の体を押し戻そうと、両手で懸命に力を入れてるようだが所詮は無理な話。
「まっ、まさひ、とさん。んもう……ワザと……弱いトコ、狙ってやってま、すよね?」
涙目になりながら、キッと俺を睨み倒してくる――体を押し戻すより、猫じゃらしの手を掴めば止まると思うのに、冷静な判断が出来ないらしい。
「君の感じる場所は、すべて把握していますからね」
猫じゃらしを持ってない手で左の太ももを下から上へ、つつっと撫でてみた。
「んん~っ」
「もっと可愛い声で、啼いてみて下さい」
耳元に唇を寄せて呟きながら吐息をかけると、顔を真っ赤にしながら両手を使い、頑張って抵抗を試みようとする。
「やっ……」
これからスルことの邪魔されたくなかったので、細い手首を掴み顔を覗き込んでみた。
「――ここは?」
意味深に微笑んでから、右の鎖骨付近にちゅっと口づけ。びくんと体を震わせ、息を乱しながら俺を見上げる。
「んっ……正仁さんの体、スゴく熱い」
「好きな女が目の前で悶えてる姿に、興奮しない男はいないでしょう?」
そう言って色っぽく笑いながら、私の唇に近づいてきたのに、直前で動きが止まった。
「正仁さん?」
いつもならこのままキスして甘い状態に突入するハズなのに、何故だか難しい顔をして、私の顔をじっと見つめている。
「最近……他の人に誘われたり、声をかけられたりしませんか?」
ぼそぼそと告げられた質問に、首を傾げるしかない。
「お言葉ですが私、全然モテませんから。新入社員で入ってから一回も、誘われたり声をかけられたりとかなかったし。しかも社内でカマキリと恐れられている正仁さんの奥さんに、手を出すような強者はいないですって」
笑いながら言うと眉間に深いシワを寄せて、もっと難しい顔をした。
「君がモテなかったワケは、俺がいろいろと暗躍していたからです」
「はいっ!?」
それって、一体どういう事なんだろう?
「合コンの話を耳にした時は、残業入れたり……その――」
「レーザービーム、がんがん飛ばしたり?」
私が覗き込むように正仁さんの顔を見つめたら、のしかかってた体を退けて、ソファに俯きながら座る。
「うっ……告白したくても、嫌われているのが手にとるように分かっていただけに……だから強制的に君に近づいてくる男を、勝手に排除していました。誰にも渡したくなかったですから」
「新入社員のみんなが青春を謳歌しているのに、どんだけ自分の魅力がないのかと、結構落ち込んでました。まさか正仁さんが、裏で糸を引いていようとは」
心底済まなそうな顔をして、チラリと私を見る。
「確かに正仁さんのこと、すっごく嫌ってましたけど、仕事に関しては実は憧れていたんですよ。いつも隙がなくてスゴいなって」
これは本当の話。時折、見惚れてしまうくらいだったから。
「はぁ」
「電話片手にパソコン弄りながら書類をチェックしてる姿とか、資料をたくさん展開しながら他の人に指示してる姿とか」
「よく見ていたんですね」
「実は……どこかで失敗するんじゃないだろうかと見てました」
「やっぱり――」
ため息をついて呆れた顔をしている、正仁さんに言えないこと――ホントは電話の最中に見せる、普段は見られない笑顔に心臓がドキッとしたり、パソコンを弄る細長い指に目が釘付けになっていたことは、ナイショだったりする。
「結局嫌っていたんですけど、気にはしていたんです。そしてあの意外な一面で、ぐさっとトドメをさされたんですよ」
「トドメの、あの姿ですか?」
日頃冷静沈着な正仁さんが、エネルギッシュにライブハウスで歌ってる姿は、すっごくギャップがありすぎて鳩に豆鉄砲な状態、あっさりと恋に落ちた。
嫌っていた分、かなり葛藤したけどね……
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「けど?」
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う~ん、うまく伝えられない。
私のしどろもどろ具合を察知し、笑いを堪えながら色っぽい目付きをして、顔をじっと見下しながら微笑んできた。
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「…………」
怪訝な顔をして、照れながら口元を押さえている私を見た。
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「煽るような言葉?」
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思いついたとしても、口に出してなんて言えない。
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喉をゴクンと鳴らし口を開こうとするけど、想いが空回りしてなかなか言葉にならない。
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――熱い夜……開幕です。
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