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冴木学の場合
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「どうにかなりそうなくらいに、美羽が好きだよ」
現在進行形で、自分の気持ちを表現したセリフ。ただ好きって言うよりも、強く伝わるかなと考えた言葉に、美羽姉はちょっとだけ震えた声で語りかける。
『――私は学を愛してます』
俺を見て、告げられたセリフとは思えないものだった。美羽姉の口から吐き出された言葉が、部屋の空気を伝って俺の耳に届いた瞬間、夢を見てるみたいな気分になって、心がふわふわしたんだ。
目の前にいる美羽姉が俺に優しくほほ笑んだのを認識したら、これは夢じゃなく現実なのがすぐにわかり、全身が一気に熱くなった。
表現できない感情が同時に込みあげると、涙腺が勝手に崩壊してしまい、ほろりと涙が零れ落ちる。そんな顔を見られたくなかった俺は、ほほ笑む美羽姉に背中を向けてしまった。本当なら俺も同じ言葉を、迷うことなく告げたかったのに。
(こういうところが情けなくて惨めで、マジで嫌になる……)
そんな俺の背中に手を添えて、同じ言葉をもう一度告げてくれた優しい美羽姉。目尻に浮かんだ涙を袖で拭ってから、ゆっくりと振り返る。小学5年生のときから好きだった美羽姉に、つのりまくった想いを告げるために、心を込めて笑顔で口を開く。
「俺も美羽を愛してる!」
この言葉を告げるまでに、はっきりわかっているだけで、俺は三回失恋している。その中でも決定的な失恋は、美羽姉が結婚の報告をするために、ウチに遊びに来たときだった。
お袋はちょうど不在で、俺は仕事が休みだったため、家でゴロゴロしていたタイミングだった。頭に寝癖をつけたまま玄関にて、その報告を受けることになったんだ。
『学くん聞いて。私ね、授かり婚したの~!』
「え……」
『彼とは結婚を前提にお付き合いをしていたんだけどね、その……デキちゃって』
頬を染めながら嬉しそうに報告する美羽姉に、幼なじみとして笑顔でおめでとうを言わなければならなかった。すぐに反応しなければいけないのに、ショックがデカすぎて、言葉がまったく出てこない。
大人になってきちんと仕事をして、美羽姉に認められるくらいに立派になったら、告白しようと決めていた。美羽姉の好みに入らない俺だから、断られることがわかっていたけど、それでも諦めずに粘り強く仕事を頑張ってこなしていた矢先だった。
『学くん、聞いてる?』
「美羽姉がお母さんになるって、なんか、その……不安しかない」
複雑な気持ちがそのまま違う言葉に変換されて告げた行為は、本当に酷い幼なじみだと思う。
『そう思われても仕方ないよね。小さかった学くんの面倒も、ちゃんと見れていなかったし』
「そんなことない。ごめん、ちょっと驚いて。美羽姉結婚と妊娠おめでと……」
笑わなきゃいけない場面なのに、作り笑顔すらできない。ひきつり笑いが精いっぱいなんて。
現在進行形で、自分の気持ちを表現したセリフ。ただ好きって言うよりも、強く伝わるかなと考えた言葉に、美羽姉はちょっとだけ震えた声で語りかける。
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『学くん聞いて。私ね、授かり婚したの~!』
「え……」
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『そう思われても仕方ないよね。小さかった学くんの面倒も、ちゃんと見れていなかったし』
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