純愛カタルシス💞純愛クライシス

相沢蒼依

文字の大きさ
66 / 126
恋愛クライシス 一ノ瀬成臣の場合

13

しおりを挟む
☆☆☆

 それは幸恵さんと付き合って、もうすぐ一年が過ぎようとした頃だった。仕事は順調だったが、アキラの指摘したとおり、離婚の話し合いも平行線のまま、人には言えない交際が続いた。

 これだけときが経ってしまうと、不倫しているという罪悪感もすでに麻痺し、いつかちゃんと幸恵さんと付き合い、結婚することができることを支えに、日々を過ごすしかなかった。

 この日は午後から仕事だったので、午前中を漫然としながら時間を過ごしている俺のスマホに、急な呼び出しがあった。着信音で誰なのかすぐにわかるようにしていたこともあり、待たせないようにすぐに画面をタップする。

「もしもし!」

『もしもし一ノ瀬くん、今大丈夫?』

 幸恵さんからのコールを嬉しく思いながら、明るい声で話しかける。前日まで旦那さんが在宅していたので、三日間逢えていない。

「午後から仕事なので、今は体が空いてます」

 旦那さんが帰るタイミングがわからないので、俺からは連絡しづらくて、こういうときはいつも幸恵さんからのアクセス待ちだった。

『じゃあ、ウチに来てくれない? 重たい物を戸棚に戻してほしいの』

「すぐに行きます!」

 三日ぶりに逢えることにウキウキした気分が、足取りに表れる。瞬く間にアパートの隣にある幸恵さんの自宅に着き、ピンポンを押して、珍しく鍵がかかっていない家に入り込み、そのままリビングに顔を出した俺を、笑顔の幸恵さんがキッチンで出迎えてくれた。

「一ノ瀬くん、逢いたかった」

「ホントですか? 重たいものを移動させる、便利な男だと思ってません?」

 以前は言えなかったこういう文句も、平然と言えるようになったのは、幸恵さんが「アナタだけしかいないの」って、俺を頼りにしてくれるから。旦那さんじゃなく俺を頼ってくれることで、俺は彼女に愛情をもって接することができた。

「この三日間、旦那の相手をして疲れてる私に、酷いことを言うのね」

「だって重たい物を戸棚に戻してほしいって、俺を呼び出したから」

「だったらなんて言って、一ノ瀬くんを呼び出したらよかったのかな?」

 キッチンからリビングに移動して俺に近づいた幸恵さんは、抱きつきながら顔を見上げる。

「旦那さんの相手って、その……」

「言わなくてもわかるでしょ。適当な愛撫してから、突っ込んで腰振って終わり。一ノ瀬くんは全部丁寧にしてくれるのにね」

「…………」

 俺を持ちあげるように旦那さんと比較されても、正直嬉しくない。だって幸恵さんが旦那さんに触れられている事実を、再認識するだけになる。

「一ノ瀬くんのその顔。すごく妬いてる?」

「妬いてます」

 焦れた低い声がリビングに響く。それを聞いた幸恵さんは、さも満足げに笑った。

「あの人に抱かれても、私が好きなのは一ノ瀬くんだから。妬く必要はないのに」

「それでも妬きます。大好きな人がほかの人に抱かれたのを知って、妬かない男はいないと思います」

 言い終えてから、顔を寄せてキスをした。触れるだけのキスを数回して、濃厚なキスに移行し、幸恵さんの体をキツく抱きしめる。

「だったらこれから上書きして。一ノ瀬くんの愛を私の体に知らしめてほしい」

 トロンとしながら俺に体重を預けた幸恵が、ぎゅっと抱きしめ返してくれた。体に感じる拘束感で、不意に思い出す。

「あ、急いで入って来たので、鍵をかけるのを忘れました」

「この時間帯は、誰も来ないわ。それよりも、早く私を感じさせてほしいの。私を一ノ瀬くんだけのものにして」

 その言葉に喜び勇んで幸恵さんを横抱きにし、慣れた足取りで寝室に向かった。

「一ノ瀬くん、早くして!」

 ベッドにおろすと、珍しく自分から着ている服を脱ぎ、あっという間に上半身だけ裸になる積極的な幸恵さんを見てるだけで、自然と興奮してしまった。

「幸恵さん待ってください。俺も服を――」

「そのままでいいから、早く抱いて!」

 せっかちな幸恵さんは俺に抱きつき、その勢いで一緒にベッドの上に倒れる。

「昨日旦那さんともシたのに、そんなに俺がほしいんですか?」

 俺の腰に両足を絡めながら下半身を押しつける幸恵さんに、思わず訊ねてしまった。

「ほしいに決まってるでしょ。大好きな一ノ瀬くんだから、我慢できないの」

「幸恵さん……」

「三日間ずっと一ノ瀬くんに逢いたかった。私の寂しかった気持ちがわかる?」

 涙を滲ませて顔を歪ませる彼女の頬に唇を押しつけた瞬間、寝室の扉が勢いよく開け放たれた。その物音にギョッとしながら、彼女を抱きしめると、旦那さんが唖然とした面持ちで俺を凝視する。

「俺の家で、なにやってんだ、コラ!」

 旦那さんはズカズカ足音を立てて近づくなり、俺の襟首を掴んで幸恵さんと引き離すと、顔面に目がけて拳を振りおろした。

 無様にベッドから転がり落ちたが、なんとか受け身をとり、頬に手を当てる。殴られることがわかっていたので、歯を食いしばったが、口の中が切れて血の味がぶわっと広がった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

雨はまだ降り続いている…〜秘密の契約結婚〜

和泉 花奈
恋愛
主人公の観月 奈緒(25)は、ある日突然仕事に行けなくなり、ずっとお家の中に引きこもっている。 そんな自分を変えたくて足掻き苦しんでいるが、なかなかあと一歩が踏み出せずにいる。 勇気を出して家から出た奈緒は、たまたまぶつかった須藤 悠翔という男に出会い、運命が大きく揺れ動く。 ※突然で申し訳ないのですが、投稿方式を変えました。 これまで1〜3話をまとめて1話にしておりますが、各話1話ずつそれぞれで公開することにしました。 急な変更に伴い、読者の皆様にご迷惑をお掛けして申し訳ございません。 これからも引き続き作品の応援をよろしくお願い致します。                   2025/10/21 和泉 花奈

アンストッパブル!ベイビーズ

新多目 朔
恋愛
夢を見つけられないまま、気づけば東京で十年。 平凡な日々に埋もれていた斎藤宏章の前に、ある夜、突然“非日常”が現れる。 それは――大ファンのAV女優・桜那との出会いだった。 圧倒的な存在感。 まぶしいほどに正直で、欲望にも感情にもブレーキをかけない。 彼女の笑顔に、言葉に、触れられそうな距離に、 宏章の止まっていた時間が少しずつ動き出す。 これは、 恋も、欲望も、人生も―― 一度動き出したら止められないふたりの物語。 アンストッパブル!ベイビーズ ──衝動から始まる、12年越しのラブストーリー。

処理中です...