純愛カタルシス💞純愛クライシス

相沢蒼依

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エピローグ

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「はー、本当に呆れるわね」

「一ノ瀬ちなみに、休日はどうやって過ごしてるんだ?」

 興味本位で訊ねた編集長を、一ノ瀬はなんとはなしに見るなり、実に爽やかに微笑んだ。それは今まで見ることのできなかった笑顔で、あまりの様変わりに、上司ふたりは顔を見合わせる。

「編集長に訊ねられても、プライベートを晒すなんて、恥ずかしくて答えたくないですって」

 恥ずかしいと言ったくせに、まったく恥ずかしそうな表情を見せない時点で、臥龍岡の額に青筋が薄っすらと表れる。

「一ノ瀬てめぇ、編集長に訊ねられてるのに答えないとか、随分と生意気な口をきくようになったんだな? おまえの仕事が絡んでるから、訊ねてるのによ!」

「え? そんなんですか?」

 一ノ瀬はキョトンとした面持ちで、編集長を見つめる。

「この写真じゃあ、雑誌の売り上げに繋がらないからな。ジャンルが違うだろ?」

「そりゃあまぁ、そうなんですけど。不機嫌を極めたアキラに、真面目に撮れって脅されたから、俺なりにちゃんとしただけですよ?」

「はあ? 俺のせいかよ!」

 臥龍岡の顔をじっと見つめながら真実を告げた一ノ瀬に、古くからの友人は頭から煙が出ているんじゃないかと思うくらいに、無駄にキレまくる。

「アキラが脅さなきゃ、また違った写真が撮れたはずだ」

「兄弟喧嘩はあとにしろ。それで実際のところは、なにをしてる?」

 ふたりのやり取りを兄弟喧嘩と称して、うまいこと言い争いをとめた編集長に、部署の面々は心の中で拍手を送った。

「彼女をバイクに乗せて、ツーリングしてます。行先は彼女がいつも決めてるので、どこに行くかはわからないんですけど、大抵は景色の綺麗な場所なので、ここぞとばかりにカメラの撮影にいそしんでます」

 一ノ瀬の話に耳を傾けながら、編集長は小さく相槌を打った。

「風光明媚な場所に赴き、積極的に写真を撮ってることで、一ノ瀬のカメラの腕があがったといったところか。絶倫女神さまとの逢瀬も、多少は関連してるだろうが、そればかりじゃないようだぞ?」

 編集長は隣にいる臥龍岡に咎める視線を送ったことで、副編集長としての面目は丸つぶれだった。

「ちょっとくらい、読みが外れても仕方ないでしょ。ワンナイトラブばかりしてた、一ノ瀬の過去がいけないのよ!」

「千草の写真を送れとおまえに言われたから、デートするたびにきちんと送信してるんだけどな」

「あれはふたりの距離感を知るために、送るように言ったの。嫌なくらいに仲がいいのがわかったから、もう送らなくてもいいわよ」

 臥龍岡の写真フォルダを圧迫しかけるくらいに、一ノ瀬はちゃんと写真を送っていた。最初は全身から撮られた写真が、回を重ねる毎に、ふたりの距離感を示すような写真になった。

 それを確認するたびに、友人として臥龍岡は安堵し、自分のお役目がそろそろ終わりを迎えることを寂しく思った。そんな気持ちを悟られないように、強がりを言ってしまうことを一ノ瀬はわかっているし、編集長も理解している。

 顔を横に背けて、プリプリしている臥龍岡を無視して、編集長は一ノ瀬に訊ねる。

「この間俺が聞いた『これから、どうするんだ?』という問いの答えを、わざわざ副編集長にさせたのか?」

「俺が言わなくても、アキラが気づくと思ったので」

「ちょっと、どういうことよ?」

 意味深に笑いつつ、臥龍岡に匙を投げた一ノ瀬。ふたりのやり取りを眺めていた編集長は、大きなため息をついてから語りかけた。

「一ノ瀬のカメラの腕が下がったのを、最初に指摘したのはおまえだろ。だから腕が上がったことにもすぐに気づくと思った一ノ瀬は、みずから俺にアピールせずに、副編集長をうまいこと使ったということだ」

「ということで、グラビアだろうがなんだろうが、どんな写真でも撮れますので、どうか編集部で使ってやってください」

 言いながら丁寧に頭を深く下げる一ノ瀬に、編集長はふたつ返事するしかなかった。
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