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白熱する選挙戦に、この想いを込めて――
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予定していた時間よりも少しだけ遅れてしまったが、商店街の遊説を行った。
駅前での罵倒に気落ちしていた稜だったが、そんなことがあったことを見せず、常に笑顔で有権者と向かい合い、握手をかわしながら自分をアピールしていた。
その姿をちょっと離れた場所から凝視しながら、心底安堵していたときに、ポケットにしまっているスマホが震えて着信を知らせた。
慌てて取り出して画面を確認したら二階堂からの電話で、タップしながら稜に背中を向けて耳にスマホを押し当てる。
「もしもし」
『二階堂です。あれから稜さんは大丈夫ですか?』
やはり、稜のことが気になったのだろう。開口一番でそのことを訊ねてきた彼を安心させるべく、目の前の様子を伝えてやる。
「最初はふさぎこんでいたが、今は笑顔で商店街の遊説をおこなっている最中だ。それと君のことを心配していた。あれからどうなった?」
「さすがは秘書さんですね。稜さんの心の傷を、瞬く間に治してしまったようで良かったです。その後、人に紛れて男をつけました。予想どおりの展開でしたよ」
電話の向こう側で笑う二階堂に、眉根を寄せてしまった。どこの誰かがわかって、後をつけたというのだろうか。
「二階堂、それって――」
「男は、元村陣営の事務所に入っていきました。よくある嫌がらせの手です」
有権者の中に紛れて、あんな罵声を浴びせるなんて、卑怯なことをしてくれる――。
「証拠の写真を撮りましたが、音声が入っていない以上、残念ながら今回は証拠になりません。これからはビデオカメラ持参で、遊説にでかけましょう。秘書さん、すぐに用意はできそうですか?」
「ビデオカメラは用意できるが、やはり今回の件は、相手陣営に注意をすることもかなわないのか?」
「牽制を込めて、してもいいんですけどね。でもあえてそれを見逃して油断させ、同じ過ちを繰り返したところを捕まえるのが、僕の考えでは得策だと考えてます」
さすがは百戦錬磨の選挙プランナー。傷ついた稜の気持ちを考えて、注意を促した自分が恥ずかしい。
「捕まえたあかつきには、名誉棄損罪や他にもなか罪状をつけて警察に突き出し、元村陣営に打撃を与える予定でいます」
「それは徹底的に、向こう側の痛い行為につながるだろう」
「でも間違いなく、その男をばっさり切りますよ。関係ないって。だから後援会にいる、頭の悪そうなヤツを使ったんだと思います」
つまり、一筋縄ではいかない相手ということか――。
「二階堂、これからこっちに合流するんだろ?」
腕時計を睨めっこしながら訊ねてみた。
「はい、そのつもりでいます。商店街の遊説が終わる頃までには、顔を出せると思います」
「稜の気持ちを立て直すのに、ちょっとだけ時間が押してしまったんだ。スケジュールどおりにはいかないだろうから、焦らずに戻ればいい。疲れていないか?」
二階堂の躰を思いやる言葉を告げると、電話の向こう側で息を飲むのが伝わってきた。
「どうした? 大丈夫なのか?」
「ライバルに情けをかけるなんて、秘書さんは余裕があるんですね。残念ながら僕は大丈夫です。それじゃあ」
まくしたてるように喋りきった途端に、通話が切られてしまった。
いつも冷静でいる二階堂が慌てた様子に、思わず口元に笑みが浮かんでしまった。
ライバルだからこそお互い万全な体勢で挑みたい気持ちがあるから、二階堂の様子を訊ねただけなのに。
「情けをかけるなんてことを、絶対にしない。そんな余裕なんてまったくないというのに、変に勘繰られてしまったな」
こそっと独り言を呟き、乗ってきた車に戻る。
これから必要になる物品や注意しなければならないことなどをメモにまとめて、合流する二階堂を待った。第一声は、ねぎらいの言葉をかけてあげなければと思いながら――。
予定していた時間よりも少しだけ遅れてしまったが、商店街の遊説を行った。
駅前での罵倒に気落ちしていた稜だったが、そんなことがあったことを見せず、常に笑顔で有権者と向かい合い、握手をかわしながら自分をアピールしていた。
その姿をちょっと離れた場所から凝視しながら、心底安堵していたときに、ポケットにしまっているスマホが震えて着信を知らせた。
慌てて取り出して画面を確認したら二階堂からの電話で、タップしながら稜に背中を向けて耳にスマホを押し当てる。
「もしもし」
『二階堂です。あれから稜さんは大丈夫ですか?』
やはり、稜のことが気になったのだろう。開口一番でそのことを訊ねてきた彼を安心させるべく、目の前の様子を伝えてやる。
「最初はふさぎこんでいたが、今は笑顔で商店街の遊説をおこなっている最中だ。それと君のことを心配していた。あれからどうなった?」
「さすがは秘書さんですね。稜さんの心の傷を、瞬く間に治してしまったようで良かったです。その後、人に紛れて男をつけました。予想どおりの展開でしたよ」
電話の向こう側で笑う二階堂に、眉根を寄せてしまった。どこの誰かがわかって、後をつけたというのだろうか。
「二階堂、それって――」
「男は、元村陣営の事務所に入っていきました。よくある嫌がらせの手です」
有権者の中に紛れて、あんな罵声を浴びせるなんて、卑怯なことをしてくれる――。
「証拠の写真を撮りましたが、音声が入っていない以上、残念ながら今回は証拠になりません。これからはビデオカメラ持参で、遊説にでかけましょう。秘書さん、すぐに用意はできそうですか?」
「ビデオカメラは用意できるが、やはり今回の件は、相手陣営に注意をすることもかなわないのか?」
「牽制を込めて、してもいいんですけどね。でもあえてそれを見逃して油断させ、同じ過ちを繰り返したところを捕まえるのが、僕の考えでは得策だと考えてます」
さすがは百戦錬磨の選挙プランナー。傷ついた稜の気持ちを考えて、注意を促した自分が恥ずかしい。
「捕まえたあかつきには、名誉棄損罪や他にもなか罪状をつけて警察に突き出し、元村陣営に打撃を与える予定でいます」
「それは徹底的に、向こう側の痛い行為につながるだろう」
「でも間違いなく、その男をばっさり切りますよ。関係ないって。だから後援会にいる、頭の悪そうなヤツを使ったんだと思います」
つまり、一筋縄ではいかない相手ということか――。
「二階堂、これからこっちに合流するんだろ?」
腕時計を睨めっこしながら訊ねてみた。
「はい、そのつもりでいます。商店街の遊説が終わる頃までには、顔を出せると思います」
「稜の気持ちを立て直すのに、ちょっとだけ時間が押してしまったんだ。スケジュールどおりにはいかないだろうから、焦らずに戻ればいい。疲れていないか?」
二階堂の躰を思いやる言葉を告げると、電話の向こう側で息を飲むのが伝わってきた。
「どうした? 大丈夫なのか?」
「ライバルに情けをかけるなんて、秘書さんは余裕があるんですね。残念ながら僕は大丈夫です。それじゃあ」
まくしたてるように喋りきった途端に、通話が切られてしまった。
いつも冷静でいる二階堂が慌てた様子に、思わず口元に笑みが浮かんでしまった。
ライバルだからこそお互い万全な体勢で挑みたい気持ちがあるから、二階堂の様子を訊ねただけなのに。
「情けをかけるなんてことを、絶対にしない。そんな余裕なんてまったくないというのに、変に勘繰られてしまったな」
こそっと独り言を呟き、乗ってきた車に戻る。
これから必要になる物品や注意しなければならないことなどをメモにまとめて、合流する二階堂を待った。第一声は、ねぎらいの言葉をかけてあげなければと思いながら――。
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