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白熱する選挙戦に、この想いを込めて――
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投票日まで残りあと4日になった。遊説で出かけるときには必ずビデオカメラを持参し、稜を囲む有権者に気を配っていたが、あれ以来元村陣営からは妙な妨害もなく、肩透かしを食らった感じで日々が過ぎていった。
二階堂が今日の夕方撮影した駅前での映像をテレビに繋いで、嬉しそうにほほ笑んで眺める。
そこにはマイクを使わずに歌いあげる稜の姿が綺麗に映っていて、その音声が事務所に響いた。
『膨らんだ感情を押し付けるように私の中へと深く沈みこんで キツく抱きしめて離さないでいて欲しい 心も身体も蕩けるようにアナタを愛したいから♪』
「ハリのある澄んだテノールが聞こえたおかげで、たくさんの有権者の足を止めることに成功しましたね」
レイザップのCMとタイアップした稜のセカンドシングル【アナタをアイシテル】のサビの部分は、俺との行為の最中にいきなりメモを取って作詞したものだったりする。
「やめてよ二階堂、大音量で映像を流さないでって」
駅前では堂々と歌った稜が慌てふためいて、二階堂からリモコンを奪取しようと手を伸ばしながら俺をチラ見した。
『これを歌うときは、いつも克巳さんを思い出しながら歌ってるんだ。心を込めて歌う俺の気持ちを、きっちり受け取ってほしいんだけど』
そう言われて唇を塞がれたのは、いつのことだったろうか――。
稜からの視線に口元を緩ませたら、くすぐったそうにほほ笑み返して顔を背ける。久しぶりに見る稜の照れた表情を見ることができて、仕事中だというのに不謹慎な気持ちになってしまった。
この場に誰もいなければ間違いなく、歌詞の願いを叶えてあげようと稜を抱きしめていただろう。
「相田さーん、お電話です。文藝春冬の記者だっていう方だそうで……」
その呼びかけに事務所がしんと静まり返り、テレビで流れている稜の演説だけが虚しく流れた。
「秘書さん、文春にすっぱ抜かれる記事でもあるんじゃ……」
接客用に設置されたソファから腰を上げて二階堂が声をかけてきたが、すぐには答えられなかった。だって――。
「ありえない。芸能活動していたときのスキャンダルについては、本人からすべて報告を受けているし、問題も解決したものばかりだ。今さらなにが出ても大丈夫なはずなのに」
事務所にいる者全員が俺に注目する中で、保留中になっている電話をとった。
「文藝春冬で記者をしている斎藤と申します。明日発売される記事について、少しだけお訊ねしたいことがありまして」
「はい、どんなことでしょうか?」
「高校生のときにモデルをしていた葩御稜さんが、学校のお友達と一緒に喫煙したり飲酒をした揚げ句に、その場にいた酔っぱらった女のコと淫らな行為もして、大騒ぎをしたという情報を、身内の方からいただいたんです。未成年での問題行動が事実なのか、本人に確認したかったのですが」
――身内の方から流された情報!? 彼の身内と言えば、母親しかいないじゃないか……。
「秘書さん、大丈夫ですか?」
受話器を持ったまま固まってしまった俺を見て、二階堂が声をかけてきた。その声にハッとして意識を現実に戻してから、斎藤と名乗った記者には少々お待ちくださいと告げて、保留ボタンを押す。
「稜、君の母親が高校生のときに起こしたことを、文藝春冬の記者に流したらしい。記憶はあるだろうか?」
「高校生のときに起こしたこと?」
稜は眉をひそめて、小首を傾げながら考え込む。
「……友達と一緒に喫煙したことや、お酒を飲んだこと。そして――」
最後の行為を濁した俺の言葉を聞き、稜の顔色が見る間に青ざめていった。
「明日発売の文藝春冬に、そのことが掲載されるという連絡だった。未成年での問題行動が事実なのか、本人に確認してくれって……」
「秘書さん、事実無根だと言って切ってください。そんな記事が出回ったら、選挙に影響が出てしまうでしょう。記事の差し止めの交渉もしてください」
メガネのフレームを光らせて立ち上がった二階堂が、悲鳴に近い声で叫んだ。
「はじめ、落ち着きなって。このタイミングで母親があの話をリークしたのは、俺に対する復讐だろうね……」
「稜?」
「稜さん、それって……」
切なげに顔を歪ませた稜が、両手で頭を抱えてしゃがみ込む。迷うことなく傍に駆け寄って、後ろから抱きしめてやった。
「当時の俺が悪さをしたのは事実なんだ。事務所の社長だった母親がお金をばらまいて、それをないものにした。それで円満解決したはずだったのに」
「わかりました。週刊誌とのやり取りは僕がしますので、秘書さんは稜さんの傍にいてあげてください」
立ち上がるなりテキパキと指示をして、二階堂が電話での交渉をしてくれたのだが、残念ながら雑誌は次の日に発売されてしまい、それをもとにワイドショーが展開されてしまったのだった。
投票日まで残りあと4日になった。遊説で出かけるときには必ずビデオカメラを持参し、稜を囲む有権者に気を配っていたが、あれ以来元村陣営からは妙な妨害もなく、肩透かしを食らった感じで日々が過ぎていった。
二階堂が今日の夕方撮影した駅前での映像をテレビに繋いで、嬉しそうにほほ笑んで眺める。
そこにはマイクを使わずに歌いあげる稜の姿が綺麗に映っていて、その音声が事務所に響いた。
『膨らんだ感情を押し付けるように私の中へと深く沈みこんで キツく抱きしめて離さないでいて欲しい 心も身体も蕩けるようにアナタを愛したいから♪』
「ハリのある澄んだテノールが聞こえたおかげで、たくさんの有権者の足を止めることに成功しましたね」
レイザップのCMとタイアップした稜のセカンドシングル【アナタをアイシテル】のサビの部分は、俺との行為の最中にいきなりメモを取って作詞したものだったりする。
「やめてよ二階堂、大音量で映像を流さないでって」
駅前では堂々と歌った稜が慌てふためいて、二階堂からリモコンを奪取しようと手を伸ばしながら俺をチラ見した。
『これを歌うときは、いつも克巳さんを思い出しながら歌ってるんだ。心を込めて歌う俺の気持ちを、きっちり受け取ってほしいんだけど』
そう言われて唇を塞がれたのは、いつのことだったろうか――。
稜からの視線に口元を緩ませたら、くすぐったそうにほほ笑み返して顔を背ける。久しぶりに見る稜の照れた表情を見ることができて、仕事中だというのに不謹慎な気持ちになってしまった。
この場に誰もいなければ間違いなく、歌詞の願いを叶えてあげようと稜を抱きしめていただろう。
「相田さーん、お電話です。文藝春冬の記者だっていう方だそうで……」
その呼びかけに事務所がしんと静まり返り、テレビで流れている稜の演説だけが虚しく流れた。
「秘書さん、文春にすっぱ抜かれる記事でもあるんじゃ……」
接客用に設置されたソファから腰を上げて二階堂が声をかけてきたが、すぐには答えられなかった。だって――。
「ありえない。芸能活動していたときのスキャンダルについては、本人からすべて報告を受けているし、問題も解決したものばかりだ。今さらなにが出ても大丈夫なはずなのに」
事務所にいる者全員が俺に注目する中で、保留中になっている電話をとった。
「文藝春冬で記者をしている斎藤と申します。明日発売される記事について、少しだけお訊ねしたいことがありまして」
「はい、どんなことでしょうか?」
「高校生のときにモデルをしていた葩御稜さんが、学校のお友達と一緒に喫煙したり飲酒をした揚げ句に、その場にいた酔っぱらった女のコと淫らな行為もして、大騒ぎをしたという情報を、身内の方からいただいたんです。未成年での問題行動が事実なのか、本人に確認したかったのですが」
――身内の方から流された情報!? 彼の身内と言えば、母親しかいないじゃないか……。
「秘書さん、大丈夫ですか?」
受話器を持ったまま固まってしまった俺を見て、二階堂が声をかけてきた。その声にハッとして意識を現実に戻してから、斎藤と名乗った記者には少々お待ちくださいと告げて、保留ボタンを押す。
「稜、君の母親が高校生のときに起こしたことを、文藝春冬の記者に流したらしい。記憶はあるだろうか?」
「高校生のときに起こしたこと?」
稜は眉をひそめて、小首を傾げながら考え込む。
「……友達と一緒に喫煙したことや、お酒を飲んだこと。そして――」
最後の行為を濁した俺の言葉を聞き、稜の顔色が見る間に青ざめていった。
「明日発売の文藝春冬に、そのことが掲載されるという連絡だった。未成年での問題行動が事実なのか、本人に確認してくれって……」
「秘書さん、事実無根だと言って切ってください。そんな記事が出回ったら、選挙に影響が出てしまうでしょう。記事の差し止めの交渉もしてください」
メガネのフレームを光らせて立ち上がった二階堂が、悲鳴に近い声で叫んだ。
「はじめ、落ち着きなって。このタイミングで母親があの話をリークしたのは、俺に対する復讐だろうね……」
「稜?」
「稜さん、それって……」
切なげに顔を歪ませた稜が、両手で頭を抱えてしゃがみ込む。迷うことなく傍に駆け寄って、後ろから抱きしめてやった。
「当時の俺が悪さをしたのは事実なんだ。事務所の社長だった母親がお金をばらまいて、それをないものにした。それで円満解決したはずだったのに」
「わかりました。週刊誌とのやり取りは僕がしますので、秘書さんは稜さんの傍にいてあげてください」
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