71 / 83
白熱する選挙戦に、この想いを込めて――
22
しおりを挟む
***
「もしもし。はい、葩御(はなお)8100。元村16500」
陵を信じて投票した有権者が自分の予想を超えていたことに、内心安堵のため息をついた。若者よりも年配者の多い地区だけに、スキャンダルな過去の出来事が明るみになった時点で、クリーンな政策を推し進める元村が優勢なのは目に見えていた。
だからこそ、もっと差がつくと考えていたのだが、元村と半数あまりの開票差はまだまだ先が分からないだろう。
「二階堂、おまえはこの差をどう見る?」
その場にいるスタッフが陵に労いの言葉をかけている間に、腕を組みながら隣で座っている二階堂に疑問を投げかけた。
「そうですね。開票がはじまったばかりなので、こうなるという確証は言えないですが、ギリギリまで陵さんが追う立場になるでしょうね」
「その根拠はなんだろうか?」
「テレビで例の件が放送されましたが、選挙戦最終日の3日間、地元で遊説せずに追い込みをかけられなかったのが、やはり痛かったと思います。それと昨日街頭で、無記名によるアンケート調査をしてみました」
二階堂のセリフで、昨日午後から彼が不在だったことを思い出す。確か手の空いてるスタッフも、数名ほど一緒にいなくなっていた。
「そんなことをしていたなら、俺にも声をかけてくれたら良かったのに」
「秘書さんは陵さんの傍で、不安定になっているメンタルを支えてほしいと考えたので、あえて声をかけませんでした」
「さすがは選挙プランナー。陵の精神状態から有権者の動向を考えて仕事をするなんて、俺には絶対に真似ができない」
「僕では陵さんの傷ついた心を癒すことはおろか、支えることもできませんから。秘書さんには敵いません」
互いに目線を合わせて苦笑いしているときに、ふたたび電話が鳴った。これ以上の差が開きませんようにと願いながら、電話に出たスタッフの声に耳を傾ける。
二階堂は眼鏡のフレームを上げながら、ホワイトボードに鋭い視線を飛ばしていた。耳からの情報と共に数字で現状を把握しようとしているのが、真剣な横顔から伝わってくる。
追う立場になると言いきった二階堂の言葉を思い出しながら、スタッフの返答を待つ。
「もしもし、葩御25800。元村42000……」
微妙すぎる得票差を聞いて、事務所にいるスタッフ全員が険しい表情になった。
「すごいね。俺に2万5千人も票を入れてくれた人がいるんだ」
暗く沈んだ雰囲気に包まれた事務所の中で、陵の弾んだ声が響き渡る。俺を含め、落ち込んでしまったスタッフを元気づけるために、気を遣って盛り上げただけかと思った。
「まだはじまったばかりですが、微妙に票が縮まっています。もしかしたらもしかするかもしれません」
陵のセリフに反応したのか、ホワイトボードを凝視した二階堂が、メガネを光らせながら大きな声を出した。普段は落ち着き払っている彼が興奮しながら告げたおかげで、先ほどよりも事務所の雰囲気が活気に満ち溢れる。
開票結果を聞いたのはまだ2度目――先が見えないというのに、選挙プランナーの口からもしかするかもしれないという言葉が出たら、みんなが揃って期待するだろうに。
「二階堂……」
「秘書さん、なんて顔してるんですか。貴方が一番、陵さんを信じなきゃいけないでしょう?」
「情けない話なんだが、開票結果を聞くたびに冷静になれないんだ。票差が縮まっていることを二階堂が指摘しなきゃ、まったく気がつかなかった」
肩を竦めながら吐露したら、陵がわざわざ俺のところにやって来て、左腕に自分の腕を絡めてきた。
「克巳さん、俺のことが信じられない?」
選挙戦の間は名字で呼んでいたのに、なぜだかいつものように名前を使って訊ねる。
「もしもし。はい、葩御(はなお)8100。元村16500」
陵を信じて投票した有権者が自分の予想を超えていたことに、内心安堵のため息をついた。若者よりも年配者の多い地区だけに、スキャンダルな過去の出来事が明るみになった時点で、クリーンな政策を推し進める元村が優勢なのは目に見えていた。
だからこそ、もっと差がつくと考えていたのだが、元村と半数あまりの開票差はまだまだ先が分からないだろう。
「二階堂、おまえはこの差をどう見る?」
その場にいるスタッフが陵に労いの言葉をかけている間に、腕を組みながら隣で座っている二階堂に疑問を投げかけた。
「そうですね。開票がはじまったばかりなので、こうなるという確証は言えないですが、ギリギリまで陵さんが追う立場になるでしょうね」
「その根拠はなんだろうか?」
「テレビで例の件が放送されましたが、選挙戦最終日の3日間、地元で遊説せずに追い込みをかけられなかったのが、やはり痛かったと思います。それと昨日街頭で、無記名によるアンケート調査をしてみました」
二階堂のセリフで、昨日午後から彼が不在だったことを思い出す。確か手の空いてるスタッフも、数名ほど一緒にいなくなっていた。
「そんなことをしていたなら、俺にも声をかけてくれたら良かったのに」
「秘書さんは陵さんの傍で、不安定になっているメンタルを支えてほしいと考えたので、あえて声をかけませんでした」
「さすがは選挙プランナー。陵の精神状態から有権者の動向を考えて仕事をするなんて、俺には絶対に真似ができない」
「僕では陵さんの傷ついた心を癒すことはおろか、支えることもできませんから。秘書さんには敵いません」
互いに目線を合わせて苦笑いしているときに、ふたたび電話が鳴った。これ以上の差が開きませんようにと願いながら、電話に出たスタッフの声に耳を傾ける。
二階堂は眼鏡のフレームを上げながら、ホワイトボードに鋭い視線を飛ばしていた。耳からの情報と共に数字で現状を把握しようとしているのが、真剣な横顔から伝わってくる。
追う立場になると言いきった二階堂の言葉を思い出しながら、スタッフの返答を待つ。
「もしもし、葩御25800。元村42000……」
微妙すぎる得票差を聞いて、事務所にいるスタッフ全員が険しい表情になった。
「すごいね。俺に2万5千人も票を入れてくれた人がいるんだ」
暗く沈んだ雰囲気に包まれた事務所の中で、陵の弾んだ声が響き渡る。俺を含め、落ち込んでしまったスタッフを元気づけるために、気を遣って盛り上げただけかと思った。
「まだはじまったばかりですが、微妙に票が縮まっています。もしかしたらもしかするかもしれません」
陵のセリフに反応したのか、ホワイトボードを凝視した二階堂が、メガネを光らせながら大きな声を出した。普段は落ち着き払っている彼が興奮しながら告げたおかげで、先ほどよりも事務所の雰囲気が活気に満ち溢れる。
開票結果を聞いたのはまだ2度目――先が見えないというのに、選挙プランナーの口からもしかするかもしれないという言葉が出たら、みんなが揃って期待するだろうに。
「二階堂……」
「秘書さん、なんて顔してるんですか。貴方が一番、陵さんを信じなきゃいけないでしょう?」
「情けない話なんだが、開票結果を聞くたびに冷静になれないんだ。票差が縮まっていることを二階堂が指摘しなきゃ、まったく気がつかなかった」
肩を竦めながら吐露したら、陵がわざわざ俺のところにやって来て、左腕に自分の腕を絡めてきた。
「克巳さん、俺のことが信じられない?」
選挙戦の間は名字で呼んでいたのに、なぜだかいつものように名前を使って訊ねる。
0
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる