欲しがり男はこの世のすべてを所望する!

相沢蒼依

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白熱する選挙戦に、この想いを込めて――

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***

「もしもし。はい、葩御(はなお)8100。元村16500」

 陵を信じて投票した有権者が自分の予想を超えていたことに、内心安堵のため息をついた。若者よりも年配者の多い地区だけに、スキャンダルな過去の出来事が明るみになった時点で、クリーンな政策を推し進める元村が優勢なのは目に見えていた。

 だからこそ、もっと差がつくと考えていたのだが、元村と半数あまりの開票差はまだまだ先が分からないだろう。

「二階堂、おまえはこの差をどう見る?」

 その場にいるスタッフが陵に労いの言葉をかけている間に、腕を組みながら隣で座っている二階堂に疑問を投げかけた。

「そうですね。開票がはじまったばかりなので、こうなるという確証は言えないですが、ギリギリまで陵さんが追う立場になるでしょうね」
「その根拠はなんだろうか?」
「テレビで例の件が放送されましたが、選挙戦最終日の3日間、地元で遊説せずに追い込みをかけられなかったのが、やはり痛かったと思います。それと昨日街頭で、無記名によるアンケート調査をしてみました」

 二階堂のセリフで、昨日午後から彼が不在だったことを思い出す。確か手の空いてるスタッフも、数名ほど一緒にいなくなっていた。

「そんなことをしていたなら、俺にも声をかけてくれたら良かったのに」
「秘書さんは陵さんの傍で、不安定になっているメンタルを支えてほしいと考えたので、あえて声をかけませんでした」
「さすがは選挙プランナー。陵の精神状態から有権者の動向を考えて仕事をするなんて、俺には絶対に真似ができない」
「僕では陵さんの傷ついた心を癒すことはおろか、支えることもできませんから。秘書さんには敵いません」

 互いに目線を合わせて苦笑いしているときに、ふたたび電話が鳴った。これ以上の差が開きませんようにと願いながら、電話に出たスタッフの声に耳を傾ける。

 二階堂は眼鏡のフレームを上げながら、ホワイトボードに鋭い視線を飛ばしていた。耳からの情報と共に数字で現状を把握しようとしているのが、真剣な横顔から伝わってくる。

 追う立場になると言いきった二階堂の言葉を思い出しながら、スタッフの返答を待つ。

「もしもし、葩御25800。元村42000……」

 微妙すぎる得票差を聞いて、事務所にいるスタッフ全員が険しい表情になった。

「すごいね。俺に2万5千人も票を入れてくれた人がいるんだ」

 暗く沈んだ雰囲気に包まれた事務所の中で、陵の弾んだ声が響き渡る。俺を含め、落ち込んでしまったスタッフを元気づけるために、気を遣って盛り上げただけかと思った。

「まだはじまったばかりですが、微妙に票が縮まっています。もしかしたらもしかするかもしれません」

 陵のセリフに反応したのか、ホワイトボードを凝視した二階堂が、メガネを光らせながら大きな声を出した。普段は落ち着き払っている彼が興奮しながら告げたおかげで、先ほどよりも事務所の雰囲気が活気に満ち溢れる。

 開票結果を聞いたのはまだ2度目――先が見えないというのに、選挙プランナーの口からもしかするかもしれないという言葉が出たら、みんなが揃って期待するだろうに。

「二階堂……」
「秘書さん、なんて顔してるんですか。貴方が一番、陵さんを信じなきゃいけないでしょう?」
「情けない話なんだが、開票結果を聞くたびに冷静になれないんだ。票差が縮まっていることを二階堂が指摘しなきゃ、まったく気がつかなかった」

 肩を竦めながら吐露したら、陵がわざわざ俺のところにやって来て、左腕に自分の腕を絡めてきた。

「克巳さん、俺のことが信じられない?」

 選挙戦の間は名字で呼んでいたのに、なぜだかいつものように名前を使って訊ねる。
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