8 / 83
act:痺れ薬・略奪
1
しおりを挟む
探偵が入念に調べてくれたリコちゃんの行動履歴をもとに、仕事が終わった彼女が彼氏と待ち合わせしている場所――リコちゃんが勤めている会社前にあるカフェに向かうと、店先でスマホを眺める姿が目に留まった。
大事な彼女を心配した彼氏が、なにかあったときにすぐに対処できるところを待ち合わせ場所にしたのだろう。
適度に人が行き交う歩道から、理子ちゃんの背後にうまいこと回り込む。熱心にスマホの画面に視線を注ぐ彼女の文面を覗き見たあとに、形のいい耳元に顔を寄せて口を開く。
「ラブラブなメッセージを、これから送信しちゃうのかな?」
耳元にふわりとかかる吐息に感じたのか、リコちゃんは体をビクつかせながら振り返った。大きな瞳が俺を認識した瞬間に、頬が真っ赤に染まる。
「あはは、リコちゃんってば驚きすぎだよ。てか、俺にドキドキしてくれたとか?」
この間と同じようにサングラスをかけて、白いシャツにジーンズというラフな格好で現れた俺にときめいてくれるなんて、リコちゃんってば純情だな。
見入っていたスマホを胸に抱えながら、じりじりと俺から後退りしていく。
「やだなぁ、リコちゃん。そんな顔してたら、彼氏に嫌われちゃうって」
かけていたサングラスを外してワザとらしく肩を揺すり、通りの向こう側を指差した。それに従うようにリコちゃんが振り返ってそこを見ると、信号待ちをしている恋人が心配そうな表情で、こっちをじっと見つめる。
「大好きな彼女の一大事に、必死になって走ってきました! ぎりぎりセーフで、息を切らしながらご到着♪」
楽しげに実況中継をした俺の前に、仲良さそうに並んで立ったふたりに向かって拍手をしてやる。
「葩御さんっ――」
「稜って呼んでください、相田克巳さん。俺よりも年上なんですから、どうぞ遠慮せずに」
「どうして名前を知って……」
眉根を寄せた恋人が顔色を青ざめさせながら、リコちゃんを大きな背中に隠した。今頃リコちゃんを隠す遅すぎる対応があまりに滑稽で、笑いだしたくなる。それを隠すべく肩にかかる黒髪を格好よくなびかせて、返事をしてあげた。
「だって敵のことを知っておかないと、戦略が立てられないじゃないですか。恋は戦争なんですよ。攻め落とした方が勝ちなんだから、ね。守ってばかりいると、その鉄壁をぶっ壊して、リコちゃんをさらいますけど」
恋人の相田さんよりも俺のほうが背が低かったが、リコちゃんにいいところを見せなければと、彼に顔を寄せて睨みを利かせた。
するとリコちゃんは、相田さんが着ているスーツの袖をぎゅっと握りしめると、それに呼応する感じで相田さんがリコちゃんの手を掴み、しっかり握ってあげる姿が目に留まる。
(ふーん、見せつけてくれるじゃないか。苛立ってしまいたくなるけど、ここは感情を抑えなきゃ)
寄せていた顔を一歩だけ退くことで距離をあけ、ジーンズのポケットに手を突っ込む。距離をとった俺に、相田さんはこの間逢ったときとは違い、彼氏らしい態度を貫こうとしたのか、毅然としたまま口を開く。
「悪いけど君に、理子さんを渡すつもりはない。諦めてくれないか?」
「はい、そーですかと簡単に諦めるワケないでしょ。あのさ、なんだか雲行きが怪しくなってきたから、場所を変えてもいーい?」
手にしていたサングラスをかけて、顎で原因を指し示した。ふたりが息を揃えたようにそこを見たら、通りすがりの女子高生がこっちを見て、ヒソヒソとなにか喋っているのを確認してくれた。
「駆け出しだけど一応、芸能人だからさ。外でトンパチしたら、目立っちゃうでしょ。相田さんと一対一の男の話し合いをしたいんだけど、リコちゃん彼氏をお借りしてもいいかな?」
流れるように彼氏との話し合いを提案した途端に、リコちゃんは顔色を曇らせて相田さんに寄り添った。
「克巳さん、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ。しっかり話し合いをして、なんとかしてあげるから」
「じゃあ話は決まりだね。相田さん、俺ンちに行こう。リコちゃんバイバイ、気をつけて帰ってね」
その場に立ちすくむリコちゃんを残したまま、俺たちは並んで通りの向こう側に向かった。
遠くなっていく恋人の背中を、リコちゃんがいつまでも見つめていたのがわかり、イライラが自然と募っていったが、自宅マンションでおこなう作戦を実行するための原動力にしたのだった。
大事な彼女を心配した彼氏が、なにかあったときにすぐに対処できるところを待ち合わせ場所にしたのだろう。
適度に人が行き交う歩道から、理子ちゃんの背後にうまいこと回り込む。熱心にスマホの画面に視線を注ぐ彼女の文面を覗き見たあとに、形のいい耳元に顔を寄せて口を開く。
「ラブラブなメッセージを、これから送信しちゃうのかな?」
耳元にふわりとかかる吐息に感じたのか、リコちゃんは体をビクつかせながら振り返った。大きな瞳が俺を認識した瞬間に、頬が真っ赤に染まる。
「あはは、リコちゃんってば驚きすぎだよ。てか、俺にドキドキしてくれたとか?」
この間と同じようにサングラスをかけて、白いシャツにジーンズというラフな格好で現れた俺にときめいてくれるなんて、リコちゃんってば純情だな。
見入っていたスマホを胸に抱えながら、じりじりと俺から後退りしていく。
「やだなぁ、リコちゃん。そんな顔してたら、彼氏に嫌われちゃうって」
かけていたサングラスを外してワザとらしく肩を揺すり、通りの向こう側を指差した。それに従うようにリコちゃんが振り返ってそこを見ると、信号待ちをしている恋人が心配そうな表情で、こっちをじっと見つめる。
「大好きな彼女の一大事に、必死になって走ってきました! ぎりぎりセーフで、息を切らしながらご到着♪」
楽しげに実況中継をした俺の前に、仲良さそうに並んで立ったふたりに向かって拍手をしてやる。
「葩御さんっ――」
「稜って呼んでください、相田克巳さん。俺よりも年上なんですから、どうぞ遠慮せずに」
「どうして名前を知って……」
眉根を寄せた恋人が顔色を青ざめさせながら、リコちゃんを大きな背中に隠した。今頃リコちゃんを隠す遅すぎる対応があまりに滑稽で、笑いだしたくなる。それを隠すべく肩にかかる黒髪を格好よくなびかせて、返事をしてあげた。
「だって敵のことを知っておかないと、戦略が立てられないじゃないですか。恋は戦争なんですよ。攻め落とした方が勝ちなんだから、ね。守ってばかりいると、その鉄壁をぶっ壊して、リコちゃんをさらいますけど」
恋人の相田さんよりも俺のほうが背が低かったが、リコちゃんにいいところを見せなければと、彼に顔を寄せて睨みを利かせた。
するとリコちゃんは、相田さんが着ているスーツの袖をぎゅっと握りしめると、それに呼応する感じで相田さんがリコちゃんの手を掴み、しっかり握ってあげる姿が目に留まる。
(ふーん、見せつけてくれるじゃないか。苛立ってしまいたくなるけど、ここは感情を抑えなきゃ)
寄せていた顔を一歩だけ退くことで距離をあけ、ジーンズのポケットに手を突っ込む。距離をとった俺に、相田さんはこの間逢ったときとは違い、彼氏らしい態度を貫こうとしたのか、毅然としたまま口を開く。
「悪いけど君に、理子さんを渡すつもりはない。諦めてくれないか?」
「はい、そーですかと簡単に諦めるワケないでしょ。あのさ、なんだか雲行きが怪しくなってきたから、場所を変えてもいーい?」
手にしていたサングラスをかけて、顎で原因を指し示した。ふたりが息を揃えたようにそこを見たら、通りすがりの女子高生がこっちを見て、ヒソヒソとなにか喋っているのを確認してくれた。
「駆け出しだけど一応、芸能人だからさ。外でトンパチしたら、目立っちゃうでしょ。相田さんと一対一の男の話し合いをしたいんだけど、リコちゃん彼氏をお借りしてもいいかな?」
流れるように彼氏との話し合いを提案した途端に、リコちゃんは顔色を曇らせて相田さんに寄り添った。
「克巳さん、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ。しっかり話し合いをして、なんとかしてあげるから」
「じゃあ話は決まりだね。相田さん、俺ンちに行こう。リコちゃんバイバイ、気をつけて帰ってね」
その場に立ちすくむリコちゃんを残したまま、俺たちは並んで通りの向こう側に向かった。
遠くなっていく恋人の背中を、リコちゃんがいつまでも見つめていたのがわかり、イライラが自然と募っていったが、自宅マンションでおこなう作戦を実行するための原動力にしたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる