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act4:計算された恋
①
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すっかり眠りこけてしまったレインくんを背中に背負い、タクシーを拾って自宅に帰ってきた。
「レインくん、俺の家に着いたよ」
話しかけても薬が効いている彼には、その声が届かないだろう。
マンションの鍵を開け中に入って玄関でレインくんを降ろし靴を脱がせてから、よいしょっと横抱きして、真っ暗なリビングから寝室に直接運び込んでやった。
細いその身体を丁寧にベッドに横たわらせ、間接照明の明かりをつける。天井から吊るされたスポットライトがベッドの足元を照らすようにしているから、布団に入った後は遠くがぼんやりと光っているので、意識もまどろんで眠りやすい仕様にしていた。それだけじゃなく――
「……ほのかな明かりが君の顔を、更にキレイに見せてくれるから」
さっさと着ている服を脱ぎ捨て、レインくんが着ている服に手をかける。ジャケットは型崩れしないようにハンガーにかけてやり、シャツは自分のものと一緒に洗濯機に放り込んだ。
小麦色に日焼けしている上半身を眺めながらベルトを外し、長い足からスラックスをいそいそ脱がせて畳んで傍にある椅子の上に置く。
されるがままでいる彼に腕を伸ばして、下着を脱がせようとしたときだった。
「う、んな顔すんなって……笑ってろよな」
口元に薄い笑みを湛えながら寝言を呟いたレインくんにビックリしつつ、そのセリフを誰に向かって告げたのか気になってしまい、伸ばしていた手を慌てて引っ込めて、ぎゅっと拳を作った。
「夢の中で接客しているのかな? それとも俺に向かって、笑いかけてくれたのだろうか……」
枕の上にキレイな色をしている少しだけ伸びた金髪を散らして、背中を丸めて寝ているレインくんの頭を、ゆっくりと撫でてあげる。
はじめて彼を見たとき――コンビニの外からその姿が目に留まり、着ている服装や雰囲気などで現在恋愛をしていないと感知。すんなり落しやすそうだと判断して、日サロの店長に電話した。
「こんにちは。いきなりだけどお願いがあって」
『なぁによぅ。秀ちゃんのためなら、何だってするわよ。いつも私ばっかり、お世話になってるんだから』
「なら話は早い。落せそうなカモを見つけたんだよ。何とか理由をつけて職場に引っ張り込んで、そっちに連れて行くから」
彼が手にしていた雑誌がバイト情報誌だったのもあり、職を探しているのは明らかだった。
あれこれ打ち合わせしてから電話を切り、コンビニの中に入って彼に声をかけた――
まずは一目惚れさせる裏技をすべく、じっと顔を見つめてやる。
人は一目惚れをすると、約5~7秒の間は見つめているらしい。裏を返せばその間、目を合わせ続けられれば、相手に一目惚れをさせている錯覚を作ることができるというワケ。人の脳は見つめたから好きになったのか、好きだから見つめたのか区別ができないらしいのだが、ぶっちゃけた話、これは異性間だけのこと。同性同士だとつい、相手と自分を比較してしまうからね。
しかしながら長い間、異性を相手に仕事をしていたせいで見つめるのがクセになってしまって、思わずやってしまうんだ。簡単に、恋に落ちてはくれないものかと。
だが作戦はあえなく失敗に終わったので次の作戦として、日サロの店長に俺の話をしてもらうことにした。
意中の相手の好感度を上げる方法のひとつで、好きな人と自分の間に共通の友人がいる場合、その友人を通して自分の良い所を伝えてもらうと、相手からの評価が劇的にアップするという小技。
これをウインザー効果といい、間接的に伝えた方がより効果が高まるというもので、この方法だと話に信憑性が増す。
大倉さんはいい人だということを、彼の頭に刷り込んでもらった。ゲイということが分かっても、日サロの店長が誇張して俺のことを伝えてくれたお陰で、仕事中も変に避けられずに一緒に仕事ができた。
そして恋愛の鉄則――押してもダメなら引いてみなを実践。
自分の想いを伝えるべくウザがられるのを見越して、これでもかと触れ合いつつ好きだと連呼してやる。
しかしながらきちんとタイミングを計って、それを仕掛けなければならない。印象に残るような場面を見極め、見つめながら告げたり耳元で囁いたり。
大抵はこの時点で落ちる場合が多いのに、レインくんは一筋縄ではいかない相手らしく、素っ気ないままだった。自分が彼を惹き付ける魅惑的な容姿をしていたらなと、思わずにはいられない――
「だから引いてみたんだよ、君の気を惹きたかったから。なのに……」
頭を撫でていた手を移動させ、薄い唇をなぞるように触れてみた。
「この唇で俺のことを、好きだと言ってほしいのにな」
押し続けてダメだったから引いてみた途端に、レインくんの人気が急上昇した。いきなりの出来事に首を捻っていたある夜、日サロの店長が電話で彼が店にやって来て、いろいろ勉強しているという話を聞き、感心させられたんだ。
孤軍奮闘している君を見て労いの言葉だけで片付けるのは、かなり至難のワザだった。俺のためじゃなく店のために頑張っていると分かっていても、すごく嬉しくて。どうしても手に入れたくて堪らなくなった。
「わざわざ薬を使って眠らせてここに連れて来てしまったのに、これ以上手が出せないなんて何をやってるんだ……」
既成事実さえ作れば、こっちのモノ――無理矢理キスしたみたいに、抱いてしまえばいいだけなのに。いつもそうやって気に入った奴を落とし込んで、自分のものにしていたのに。
「計算し尽くして落とし込むはずが、自分がどっぷりと落されているなんて笑うに笑えないじゃないか」
お店にとって、金の卵であるレインくん。その殻にノックしても反応が返ってこないから、こじ開けてやろうと思ったのに、どうしたらいいのか分からないなんてバカげているのにも程がある。
――彼自ら、殻を破ってはくれないだろうか。
「……慣れない恋はするものじゃないな。自分が酷く惨めに見えてしまう」
結局手が出せないまま、一緒に布団の中に入った。後ろからぎゅっとレインくんを抱きしめ、その存在を愛おしく思いながら眠りにつく。
せめて夢の中では、俺に笑いかけてほしいと思いながら――
「レインくん、俺の家に着いたよ」
話しかけても薬が効いている彼には、その声が届かないだろう。
マンションの鍵を開け中に入って玄関でレインくんを降ろし靴を脱がせてから、よいしょっと横抱きして、真っ暗なリビングから寝室に直接運び込んでやった。
細いその身体を丁寧にベッドに横たわらせ、間接照明の明かりをつける。天井から吊るされたスポットライトがベッドの足元を照らすようにしているから、布団に入った後は遠くがぼんやりと光っているので、意識もまどろんで眠りやすい仕様にしていた。それだけじゃなく――
「……ほのかな明かりが君の顔を、更にキレイに見せてくれるから」
さっさと着ている服を脱ぎ捨て、レインくんが着ている服に手をかける。ジャケットは型崩れしないようにハンガーにかけてやり、シャツは自分のものと一緒に洗濯機に放り込んだ。
小麦色に日焼けしている上半身を眺めながらベルトを外し、長い足からスラックスをいそいそ脱がせて畳んで傍にある椅子の上に置く。
されるがままでいる彼に腕を伸ばして、下着を脱がせようとしたときだった。
「う、んな顔すんなって……笑ってろよな」
口元に薄い笑みを湛えながら寝言を呟いたレインくんにビックリしつつ、そのセリフを誰に向かって告げたのか気になってしまい、伸ばしていた手を慌てて引っ込めて、ぎゅっと拳を作った。
「夢の中で接客しているのかな? それとも俺に向かって、笑いかけてくれたのだろうか……」
枕の上にキレイな色をしている少しだけ伸びた金髪を散らして、背中を丸めて寝ているレインくんの頭を、ゆっくりと撫でてあげる。
はじめて彼を見たとき――コンビニの外からその姿が目に留まり、着ている服装や雰囲気などで現在恋愛をしていないと感知。すんなり落しやすそうだと判断して、日サロの店長に電話した。
「こんにちは。いきなりだけどお願いがあって」
『なぁによぅ。秀ちゃんのためなら、何だってするわよ。いつも私ばっかり、お世話になってるんだから』
「なら話は早い。落せそうなカモを見つけたんだよ。何とか理由をつけて職場に引っ張り込んで、そっちに連れて行くから」
彼が手にしていた雑誌がバイト情報誌だったのもあり、職を探しているのは明らかだった。
あれこれ打ち合わせしてから電話を切り、コンビニの中に入って彼に声をかけた――
まずは一目惚れさせる裏技をすべく、じっと顔を見つめてやる。
人は一目惚れをすると、約5~7秒の間は見つめているらしい。裏を返せばその間、目を合わせ続けられれば、相手に一目惚れをさせている錯覚を作ることができるというワケ。人の脳は見つめたから好きになったのか、好きだから見つめたのか区別ができないらしいのだが、ぶっちゃけた話、これは異性間だけのこと。同性同士だとつい、相手と自分を比較してしまうからね。
しかしながら長い間、異性を相手に仕事をしていたせいで見つめるのがクセになってしまって、思わずやってしまうんだ。簡単に、恋に落ちてはくれないものかと。
だが作戦はあえなく失敗に終わったので次の作戦として、日サロの店長に俺の話をしてもらうことにした。
意中の相手の好感度を上げる方法のひとつで、好きな人と自分の間に共通の友人がいる場合、その友人を通して自分の良い所を伝えてもらうと、相手からの評価が劇的にアップするという小技。
これをウインザー効果といい、間接的に伝えた方がより効果が高まるというもので、この方法だと話に信憑性が増す。
大倉さんはいい人だということを、彼の頭に刷り込んでもらった。ゲイということが分かっても、日サロの店長が誇張して俺のことを伝えてくれたお陰で、仕事中も変に避けられずに一緒に仕事ができた。
そして恋愛の鉄則――押してもダメなら引いてみなを実践。
自分の想いを伝えるべくウザがられるのを見越して、これでもかと触れ合いつつ好きだと連呼してやる。
しかしながらきちんとタイミングを計って、それを仕掛けなければならない。印象に残るような場面を見極め、見つめながら告げたり耳元で囁いたり。
大抵はこの時点で落ちる場合が多いのに、レインくんは一筋縄ではいかない相手らしく、素っ気ないままだった。自分が彼を惹き付ける魅惑的な容姿をしていたらなと、思わずにはいられない――
「だから引いてみたんだよ、君の気を惹きたかったから。なのに……」
頭を撫でていた手を移動させ、薄い唇をなぞるように触れてみた。
「この唇で俺のことを、好きだと言ってほしいのにな」
押し続けてダメだったから引いてみた途端に、レインくんの人気が急上昇した。いきなりの出来事に首を捻っていたある夜、日サロの店長が電話で彼が店にやって来て、いろいろ勉強しているという話を聞き、感心させられたんだ。
孤軍奮闘している君を見て労いの言葉だけで片付けるのは、かなり至難のワザだった。俺のためじゃなく店のために頑張っていると分かっていても、すごく嬉しくて。どうしても手に入れたくて堪らなくなった。
「わざわざ薬を使って眠らせてここに連れて来てしまったのに、これ以上手が出せないなんて何をやってるんだ……」
既成事実さえ作れば、こっちのモノ――無理矢理キスしたみたいに、抱いてしまえばいいだけなのに。いつもそうやって気に入った奴を落とし込んで、自分のものにしていたのに。
「計算し尽くして落とし込むはずが、自分がどっぷりと落されているなんて笑うに笑えないじゃないか」
お店にとって、金の卵であるレインくん。その殻にノックしても反応が返ってこないから、こじ開けてやろうと思ったのに、どうしたらいいのか分からないなんてバカげているのにも程がある。
――彼自ら、殻を破ってはくれないだろうか。
「……慣れない恋はするものじゃないな。自分が酷く惨めに見えてしまう」
結局手が出せないまま、一緒に布団の中に入った。後ろからぎゅっとレインくんを抱きしめ、その存在を愛おしく思いながら眠りにつく。
せめて夢の中では、俺に笑いかけてほしいと思いながら――
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