Piano~ピアノ~

相沢蒼依

文字の大きさ
17 / 58
Piano:好きになってもらいたい!

しおりを挟む
***
 
 結局ギリギリの時間に、叶さんのお店に到着した。早めに行っていらない妄想にとり憑かれ醜態を晒すのが、目に見えていたからである。

 店内はもう閉店準備をしているらしく、中は真っ暗だった。

 叶さんと会うのはライブハウス以来だった。メールで一方的にアクセスしていたからとはいえ、やはり緊張する。やっぱ第一声は挨拶からだよな。

 その後はメールでお礼はしたけど、ライブに来てくれたことを直接お礼言った方がいいだろう(今更な話なんだけど)

 それから……

「ごめん、待たせたわね」

 お店の鍵を手に持っている叶さんの姿。俺に声を掛けつつ、手早くk鍵を閉めていた。

「こっ、こんばんわっ」

 まさやんのボディブローを思い出せ、落ち着け俺……。今日も(いつもだけど)素敵な叶さんの姿を見ただけで、どうにも落ち着けない。顔の筋肉を引き締めなければ、キリリッ!

「あのっ、この間はライブに来てくれて、有難うございました。お陰でいい演奏ができました」

 本当はライブ終了後に言わなきゃならなかった言葉。叶さんの名前を聞いただけで、すっかりと忘れた上に、自分の名前も名乗っていなかったというお恥ずかしい失態ばかりしていた。

 いろんな意味でホント、顔を上げられません。

「こちらこそ楽しませてもらったから。行こうか」

 そう言って俺の腕に自分の右腕を絡めて、ゆっくりと歩き出す。突然の出来事に、引っ張られるようにして歩く俺。

「かっ、叶さん?」

「しゃんとして、私の彼氏なんだから!」

 上目遣いでギロリと睨まれる。慌てて姿勢を正して、叶さんをリードすべく歩いた。

(彼氏……いい響きだなぁ)

 ポワーンとしかけた瞬間、叶さんが話出す。

「あの男につけられてるの、三日前くらいから」

「あの男って?」

「イブにプレゼントを渡そうとした、しつこいリーマン」

「ええっ!? あれで諦めたんじゃなかったんだ」

「まったく! ケツの穴小さい男がやることだから、ある程度は目をつぶってたのに。今度はストーカーになるなんて」

 俺も同類な男です、すみません。←こっそり謝る

 叶さんは、かなり憤慨していた。

「ああ。だからあのとき、彼氏に見立てた俺を呼んだんですね」

「そういうこと。ひとりでいたら、襲われる可能性だってあるんだし」

「叶さんさえ良ければ、しばらく一緒に帰りますよ。だって心配だから……」

 俺の提案に、難しい表情でしばらく考えていた。

「それとも一緒に帰る人がいる、とか……?」

「それはない」

 即答! よっしゃ、叶さんに恋人はいない。

 心でガッツポーズを取りつつ、何かを考え込んでいる叶さんの顔色を窺う。

 そういや背に腹は代えられないって、メールで書いてあったよな。渋々俺と恋人ごっこしているんだし、期間限定とはいえ一緒に帰るのが嫌なのかも。

 ずずーんと凹みかけた俺を見上げながら、叶さんがやっと口を開く。

「毎回お店ってわけじゃないし、本社だともっと時間が遅くなるかもしれない。それでも頼んで大丈夫?」

「事前に場所と時間が分かれば調整は可能です。大丈夫ですよ」

 少しでも叶さんの傍にいたい、こんな俺でも役に立ちたい――

「有難う、賢一くん」

 照れたように笑う叶さんに、俺はもうメロメロ。しかも名前、くん付けで呼んでくれたよ。どうしよう。たったこんなひとことで一喜一憂できるこの状況が、ずっと続かないかなぁ。

「で、授業で分からない所があるっていうのは、嘘なんでしょ?」

「へっ!?」

「提出したレポート、半分は予習みたいなものでしょ。レポートができているのなら、授業に出て理解できてないと正直おかしいよね」

 サックリと痛いトコをついてくる、ああ全てお見通し。やっぱり、叶さんには敵わない――

「うう……。理解ができてますぅ」

「私だって、同じように学生時代にレポート提出しているから知ってるの。馬鹿!」

 そう言って、俺の頭をガシガシ撫でる。

「うち何もないけど、お茶くらい出してあげる。飲んでから帰りなさい」

「はいっ!」

「その代わり、変なコトしようとしたら追い出すからね」

 ギロリと睨む、叶さんの視線がイタイ。

「もっ勿論です、変なコトしません……」

 これを言うのが、やっとの俺だった。

 叶さんの家にあがれるだけでかなり興奮しているのに、二人きりの空間。俺、悶え死ぬかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...