Piano~ピアノ~

相沢蒼依

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Piano:好きになってもらいたい!

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***

「変なコトしようとしたら、追い出すから」

 先手を打つ形でキッパリと釘を刺された俺。だけど好きな人に手を出さない男なんている?

 複雑な心境を抱えながら、こっそり叶さんの横顔を見る。

 この間会った時とは違う香水の薫り。ラフな服を着てるだけで雰囲気が全然違う。サラサラな黒髪をタイトにまとめている様子も、キレイな顔がはっきりと見えるのでもう……

 ぬおぅ 、俺の欲情を掻き立てるには充分過ぎる材料だ。

 心の中で身悶え、頭を抱えた。

 俺が孤独にいろんな欲情と闘ってる間に、叶さんの自宅に到着した。マンション三階、鈴のキーホルダーが付いた鍵を扉に差し込む。

 色の白い手、細長い指……すべてが綺麗すぎるっ!

 やがて扉が開かれ、中に促された。

 玄関の扉が閉じた瞬間、目の前にいる叶さんに思わず抱きついてしまう。

 ――叶さん好きです、大好きなんです!

 後ろから抱きついているので、叶さんがどんな顔をしているかまったく分からない。声にならない想いが力になって、ぎゅうぎゅうと叶さんを抱き締めてしまう。

「……」

 あれ? 何も言わない、殴ってもこない――逆にされるがままになってる叶さんに不安を覚える。まるで嵐の前の静けさ……。

 はっと我に返り、放り出す勢いで叶さんから手を退けた。するとチラリとこちらを一瞥し、何事もなかったように家の中へ入って行く。

 何だろ、さっきの視線。哀しそうな目をしてなかったか? もしかして俺が泣かせた? 

 ガーン……。

 勝手にショックを受けてたら、中から怒号が響いた。

「いつまでそこにいるつもり? マジで追い出すよ」

 さっきとは打って変わり、怒っている叶さん。あの目は、見間違いだったのだろうか?

「お邪魔します……」

 おずおずと中に入る。リビングに入ったら、強引に手渡されたマグカップ。

「粗茶ですが、どーぞ」

 中身は日本茶。マグカップに日本茶? 不思議そうな顔して、叶さんを見た。

「うちにお客は来ることがないから湯飲み仕様なの。もっぱらこのスタイル」

 美味しそうに、お茶をすする。

「そこに座ったら?」

 窓辺に向かいながらコタツを指差してきたので、ちょこんと座る。

「いただきます……」

 同じようにお茶をすすってみた。そんな俺の横を通り過ぎて窓辺に佇むと、カーテンの影から外を見る叶さん。

 そんな彼女から視線を隣の部屋に移してみた。そこは寝室らしく、シングルベッドがあって。そのせいでいらない妄想が頭の中に展開されてしまい、マグカップを持つ手に力が入る。さっき抱き締めたこと(多少なりとも)後悔していたのに、また刺激的な材料があるなんて!

「こっち見てる」

 ポツリと叶さんが呟く。

「ごめんなさいっ! 勝手にあちこち見てしまって」

 ついベッドをガン見し過ぎた。

 肩をすくめて慌てて謝罪した俺に視線を移さずに、ずっと外を見続ける。

「外にいる、ストーカーのことよ」

 呆れた口調で言う。さっきから赤っ恥をかきすぎだろ。穴があったら入りたい……。

 ズズーンと落ち込んでいる俺の横をまたしても通り過ぎ、リビングの壁に手を伸ばして電気を消す。真っ暗な部屋に、カーテンの隙間から月明かりがそっと入りこんだ。

「叶さん?」

「恋人同士、部屋が暗くなったら、することはひとつでしょう」

 そう言ってまた、窓辺から外を見る。月明かりを浴びた叶さんの顔は、とても綺麗だった。

「いい加減、諦めてくれないかな」

 口調とは裏腹な眼差し。どこか切ないように見える、そして……

「何だか叶さん、淋しそう……」

「うん?」

 こっちを振り向いた叶さんの顔は、今まで見た中で一番儚げで消えてなくなりそうだった。

「俺こんなんだし頼りないかもしれないけど、何かできることがあれば手伝わせて下さい」

 叶さんが好きだから……

 そんな俺を見ながら、盛大なため息をつく。

「極力アナタに、頼ることにならないようにしなきゃ」

「何でそんなに突っ張るんですか?」

 自嘲的に笑う叶さんに、思わず怒鳴った。

「好きな人を助けたいと思って、何が悪いんですか? 俺、ホントに心配しているんですよ」

「賢一くん……」

「そりゃ俺は叶さんよりも年下だし、賢くないし馬鹿だしスケベだし」

 俺はこのとき自分がすごいことを言ってるのを、全然気づいてなかった。ただ怒りにまかせて、叶さんに想いをぶつける。

 そんな俺に何も言わず、ただじっと見つめていた。

「だけど……だけど叶さんを想う気持ちは、誰にも負けないつもりだし勿論、外にいるストーカーなんか問題が――」

 問題外と言おうとしたが言えなかった。叶さんの唇で塞がれたから。ほんの2、3秒の出来事が突然すぎて思考回路が見事に停止する。

「ウルサイ、ギャーギャー騒ぐな」

 ポカーン(○д○)

「それ飲んだら帰りなさい、ストーカーも消えたし」

 パチンとリビングの電気をつけた。

 俺は慌ててお茶を飲み干す。長居は無用な空気がひしひしと漂っていた。

「お茶ご馳走様でした、それじゃ失礼します」

「明日の予定はお昼頃までにメールできると思うから、宜しくね」

「分かりました、おやすみなさいです」

 そう言って、叶さん宅を後にした。

 未だ先程のことが信じられず、キツネにつままれた顔をして家路についた。

 夢じゃないよな――?
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