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消えゆく命2
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数日後、カエデの元に一つの文が届いた。
「謝罪?」
シキからの言葉に、カエデは眉をひそめた。
ちなみに、人間の姿で肉まんを食べながらである。 カエデは度々こうして人間の姿に化けて、人間の食べ物を買い付けにやってくる。
現在、彼らはコンビニの前にいた。
「はい。数日前……会議があるというのに焼き芋を買いにいこうとした際、隣町の子供達に絡まれていた ところを、助けたそうですね」
「……お前、まだそんな事を気にしていたのか」
「ええ、勿論」
「……まぁいい、続けろ」
カエデは続きを促す。
「それで、隣町の長……タイカ様が、その事について長自ら謝罪しい来い、と」
「……あいつか…」
カエデはため息をついた。
タイカは、数十年前からカエデを敵対視している隣町の長だった。非常に好戦的で、各地にいる精霊の長たちに勝負を挑んでは全勝しているという強者だ。だが数十年前、カエデがタイカをあっさりと負かして以来、タイカは復讐心に燃え、何度も勝負を申し込むようになった。
あまりの執念に、カエデはタイカの話題になるだけで今やため息がもれる。
そのことをシキに話すと。
「すごいじゃないですか。あの猛将タイカ様に勝つなんて。何がご不満なんですか?」
「お前は分かっていない……。オレがあいつの事だけでどれだけ苦労していることか……」
平和主義者の彼としては、タイカはいい迷惑でしかなかった。
「それで、謝罪の件ですが……」
「ああ、行くよ。行かないと怒り出して、あいつは何をするか分からん。シキ、いつもすまないね」
そもそも領土に少し踏み込んだだけでここまでするタイカの考えがカエデには理解出来ない。ここまで縄張り意識が強いのは、恐らくタイカぐらいのものだ。
こんな面倒ごとまで処理するシキの苦労を申し訳なく思い、労わりの言葉をかける。するとシキは少女のような愛らしい笑顔を向けた。
「いいえ。カエデ様に助けて頂いたご恩がありますから。これぐらい当然です」
その笑顔を見て、カエデの胸の内に複雑な思いが広がる。
――ご恩か。……シキ、オレはお前を助けてなどいないよ。 助けたのはオレじゃなくて――
シキは、最初からカエデの側にいたわけではなかった。
シキは最初、足を怪我して動けなくなった通りすがりの鹿でしかなかったのだ。恐らく、それをユキが哀れに思わなければ、カエデは助けようとしなかっただろう。
――それなのに
『カエデ様! 僕をお側に置いて下さい! 恩返しをさせて下さい!』
あの子鹿を助けて何年か経った時、突然、霊体となった少年が自分の許へ訪ねてきた。 シキがあの子鹿だと言わなければ、思い出せなかっただろう。 だがそんなことより、霊体になってまで自分の所へ恩返しにやって来たことに驚いた。
カエデはシキに「霊体になってまで恩返しはしなくていい。お前は自由なんだ」と断ったのだが。
『カエデ様が僕は自由だと仰るのなら、カエデ様のお側にいるのも、僕の自由ですよね?』
と言い返されてしまった。
それからというもの、シキはカエデがほったらかしにしておいた雑事を素早く処理し、見事な働きぶりを見せてくれた。 シキのおかげでカエデがやることといえば、会議に出ること見回り、昼寝をするぐらいになった。
現金だが、あの時シキを追い返さなくて良かったと心底思う。
カエデは肉まんを全て食べ終えると、立ち上がろうと腰を上げようとする。が、不意に足元がふらつき、カエデはシキにもたれかかった。
「大丈夫ですか!?」
「……あぁ、大丈夫だ。ちょっとバランスがとれなくて」
すぐに体勢を立て直し、何ともなかったように歩き出す。 シキは不思議そうに首を傾げながらも、置いていかれまいと、後を追っていった。
カエデの姿が突然、人間の群集の中から消えたことに、気付く者は誰もいなかった。
「謝罪?」
シキからの言葉に、カエデは眉をひそめた。
ちなみに、人間の姿で肉まんを食べながらである。 カエデは度々こうして人間の姿に化けて、人間の食べ物を買い付けにやってくる。
現在、彼らはコンビニの前にいた。
「はい。数日前……会議があるというのに焼き芋を買いにいこうとした際、隣町の子供達に絡まれていた ところを、助けたそうですね」
「……お前、まだそんな事を気にしていたのか」
「ええ、勿論」
「……まぁいい、続けろ」
カエデは続きを促す。
「それで、隣町の長……タイカ様が、その事について長自ら謝罪しい来い、と」
「……あいつか…」
カエデはため息をついた。
タイカは、数十年前からカエデを敵対視している隣町の長だった。非常に好戦的で、各地にいる精霊の長たちに勝負を挑んでは全勝しているという強者だ。だが数十年前、カエデがタイカをあっさりと負かして以来、タイカは復讐心に燃え、何度も勝負を申し込むようになった。
あまりの執念に、カエデはタイカの話題になるだけで今やため息がもれる。
そのことをシキに話すと。
「すごいじゃないですか。あの猛将タイカ様に勝つなんて。何がご不満なんですか?」
「お前は分かっていない……。オレがあいつの事だけでどれだけ苦労していることか……」
平和主義者の彼としては、タイカはいい迷惑でしかなかった。
「それで、謝罪の件ですが……」
「ああ、行くよ。行かないと怒り出して、あいつは何をするか分からん。シキ、いつもすまないね」
そもそも領土に少し踏み込んだだけでここまでするタイカの考えがカエデには理解出来ない。ここまで縄張り意識が強いのは、恐らくタイカぐらいのものだ。
こんな面倒ごとまで処理するシキの苦労を申し訳なく思い、労わりの言葉をかける。するとシキは少女のような愛らしい笑顔を向けた。
「いいえ。カエデ様に助けて頂いたご恩がありますから。これぐらい当然です」
その笑顔を見て、カエデの胸の内に複雑な思いが広がる。
――ご恩か。……シキ、オレはお前を助けてなどいないよ。 助けたのはオレじゃなくて――
シキは、最初からカエデの側にいたわけではなかった。
シキは最初、足を怪我して動けなくなった通りすがりの鹿でしかなかったのだ。恐らく、それをユキが哀れに思わなければ、カエデは助けようとしなかっただろう。
――それなのに
『カエデ様! 僕をお側に置いて下さい! 恩返しをさせて下さい!』
あの子鹿を助けて何年か経った時、突然、霊体となった少年が自分の許へ訪ねてきた。 シキがあの子鹿だと言わなければ、思い出せなかっただろう。 だがそんなことより、霊体になってまで自分の所へ恩返しにやって来たことに驚いた。
カエデはシキに「霊体になってまで恩返しはしなくていい。お前は自由なんだ」と断ったのだが。
『カエデ様が僕は自由だと仰るのなら、カエデ様のお側にいるのも、僕の自由ですよね?』
と言い返されてしまった。
それからというもの、シキはカエデがほったらかしにしておいた雑事を素早く処理し、見事な働きぶりを見せてくれた。 シキのおかげでカエデがやることといえば、会議に出ること見回り、昼寝をするぐらいになった。
現金だが、あの時シキを追い返さなくて良かったと心底思う。
カエデは肉まんを全て食べ終えると、立ち上がろうと腰を上げようとする。が、不意に足元がふらつき、カエデはシキにもたれかかった。
「大丈夫ですか!?」
「……あぁ、大丈夫だ。ちょっとバランスがとれなくて」
すぐに体勢を立て直し、何ともなかったように歩き出す。 シキは不思議そうに首を傾げながらも、置いていかれまいと、後を追っていった。
カエデの姿が突然、人間の群集の中から消えたことに、気付く者は誰もいなかった。
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