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消えゆく命3
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カエデとシキは、タイカが指定した場所である隣町の森に入ろうとした。
そこで待っていたのは、突然の殺気だった。
「シキ!」
後ろからついて来るシキの腕を掴み、横抱きにして刃をかわす。
先程まで自分達が踏んでいた草が、ぱっと散った。
カエデはシキを抱いたまま、刃を向けて来た犯人を見上げる。
「何のつもりだ。タイカ」
隣町の長、タイカは赤い髪の色が特徴的な、カエデと同じくらいの年の少年だった。耳には古風な耳飾りをしている。 少年の髪色は、まるで炎を思わせた。
「待ってたぜ、カエデ。オレと勝負しやがれ」
口元に微笑を浮かべ、長年のライバルを見下ろす。
彼の身体から陽炎のように立ち上るエネルギーが、長であることを示している。
「タイカ、今日オレは謝罪をしに来ただけだ。お前と勝負するためではない」
「謝罪なんてどうだっていいんだよ。今、お互い400勝目。あとオレが一勝すればお前に勝てる。そうすれば、この大陸でオレは一番になれる」
「阿呆が。一番なんぞになってどうする」
「そんなもん、その時に考えるさ。……とにかく、オレはあの噂が事実なのか、確かめたい」
「噂?」
カエデは眉をひそめた。
噂とは、何のことだろうと思い返そうとした。 が、そんな暇はないらしい。
カエデは前方から迫って来る火の玉を横飛びにかわす。 すると、火の玉をよけたせいで、それは木の幹に直撃し、一気に燃え上がった。
ここは隣町の領土とカエデの領土との境目にある。今燃え上がっている木は、カエデの領地の方だった。
「カエデ様! 何やってるんですか!よけたら木が焼けてしまうじゃないですか」
「……あぁ、これはまずいな」
「長が自分の治める森を燃やしてどうするんですか!」
「……」
シキの言うことは最もで、カエデは何も言うことが出来ない。
カエデはとりあえず火が広がらぬように、木に触れ、力を流し込む。 するとカエデの手が光ったかと思うと、ジュッという音を立てて火がおさまっていく。
「シキ、逃げるぞ。しっかりつかまっていろよ」
「はい!」
「待ちやがれ!」
カエデとシキが逃げようと走り出すのを、後からタイカが追っていく。
右へ、左へと彼らを追っていくうちに、タイカはカエデの姿を見失ってしまった。
「畜生、どこだ」
まだ近くに身を潜めているはずだ、と周りを見渡す。
「……いた」
タイカの口角がつりあがる。
彼の目の先には、カエデの黒っぽい髪の毛が茂みの端に見えていた。
タイカは手に持っている刀を構える。
「そこにいるのは分かってるんだぞ。カエデ!!」
名を呼ぶと同時に、刀を横に振り払う。
茂みの葉が飛び散り、カエデが姿を現した―― と思われた。
「っ!」
茂みから出て来たのは黒髪のかつらに「バーカ」と書かれたのっぺらぼうのかかしだった。
「ふざけるな――――!!」
------------------------------------------------------------
一方タイカが怒号を上げている頃、カエデとシキは何事もなかったかのように悠然と自分の領地である森を 歩いていた。
「それにしてもカエデ様。あのカツラはどこで手に入れたんですか?」
「人間界で言う百円ショップという店だ。近頃は便利になったものだ」
「そのお金はどこで?」
「自動販売機の下とか、道端とかにもたまに落ちている。あとバイトもたまに」
「……仮にも長が何やってるんですか」
シキは自分の主人に呆れたような顔をする。 カツラについての話題が終わると、カエデはため息をついた。
「……タイカのあの血の気の多い性格は、なんとかならないものか。あいつはまだ若いから仕方がないのかも しれないが。それでも前の長の方が物分かりがよかった」
見た目としてはタイカと年齢はさほど変わらないように見えるが、実際のカエデは数百年の時を生きている。 苦労多き長を見てシキは何気なく訊ねる。
「じゃあ、カエデ様が生まれた時はどうだったんですか?」
「……オレの生まれた頃……か」
シキに訊かれ、カエデの脳裏にその時のことがありありと鮮明に映し出されていく。
――オレが最初に見たのは、ユキの涙だった
『……あんた、何で泣いてるんだ?』
深い緑色の瞳を大きく見開き、こちらの方をじっと見つめている。その瞳からはぽろぽろと大粒の涙がこぼれていた。
自分は目の前の彼女の涙から生まれたのだと、なんとなく分かった。
『おい……?』
涙を拭ってやりたくて、まだ名前もなかったカエデは手を伸ばして彼女の頬に触れる。 彼女のゆるくウェーブのかかった白くて長い髪が腕をくすぐる。
その時の彼女が、あまりにも悲しそうで、儚くて、カエデは生まれてから彼女の傍にいるようになった。 目を離したら、すぐに彼女は消えて自分の目の前から消えてしまうのではないかと思ったのだ。
――実際、そうだった
ユキは自分の知らない所で町を守り、力を使い果たして消えかかっていた。
――あなたのその力は大切なものを守るときに使いなさい。 今までありがとう―――
それがユキの最後の言葉だった。
そしてカエデは次代の長となった。
先代長ユキの涙から生まれたカエデは、周りの者達より圧倒的に力を持っていたのだ。
――オレはユキの言葉通り、大切なものを守れているのだろうか
そこで待っていたのは、突然の殺気だった。
「シキ!」
後ろからついて来るシキの腕を掴み、横抱きにして刃をかわす。
先程まで自分達が踏んでいた草が、ぱっと散った。
カエデはシキを抱いたまま、刃を向けて来た犯人を見上げる。
「何のつもりだ。タイカ」
隣町の長、タイカは赤い髪の色が特徴的な、カエデと同じくらいの年の少年だった。耳には古風な耳飾りをしている。 少年の髪色は、まるで炎を思わせた。
「待ってたぜ、カエデ。オレと勝負しやがれ」
口元に微笑を浮かべ、長年のライバルを見下ろす。
彼の身体から陽炎のように立ち上るエネルギーが、長であることを示している。
「タイカ、今日オレは謝罪をしに来ただけだ。お前と勝負するためではない」
「謝罪なんてどうだっていいんだよ。今、お互い400勝目。あとオレが一勝すればお前に勝てる。そうすれば、この大陸でオレは一番になれる」
「阿呆が。一番なんぞになってどうする」
「そんなもん、その時に考えるさ。……とにかく、オレはあの噂が事実なのか、確かめたい」
「噂?」
カエデは眉をひそめた。
噂とは、何のことだろうと思い返そうとした。 が、そんな暇はないらしい。
カエデは前方から迫って来る火の玉を横飛びにかわす。 すると、火の玉をよけたせいで、それは木の幹に直撃し、一気に燃え上がった。
ここは隣町の領土とカエデの領土との境目にある。今燃え上がっている木は、カエデの領地の方だった。
「カエデ様! 何やってるんですか!よけたら木が焼けてしまうじゃないですか」
「……あぁ、これはまずいな」
「長が自分の治める森を燃やしてどうするんですか!」
「……」
シキの言うことは最もで、カエデは何も言うことが出来ない。
カエデはとりあえず火が広がらぬように、木に触れ、力を流し込む。 するとカエデの手が光ったかと思うと、ジュッという音を立てて火がおさまっていく。
「シキ、逃げるぞ。しっかりつかまっていろよ」
「はい!」
「待ちやがれ!」
カエデとシキが逃げようと走り出すのを、後からタイカが追っていく。
右へ、左へと彼らを追っていくうちに、タイカはカエデの姿を見失ってしまった。
「畜生、どこだ」
まだ近くに身を潜めているはずだ、と周りを見渡す。
「……いた」
タイカの口角がつりあがる。
彼の目の先には、カエデの黒っぽい髪の毛が茂みの端に見えていた。
タイカは手に持っている刀を構える。
「そこにいるのは分かってるんだぞ。カエデ!!」
名を呼ぶと同時に、刀を横に振り払う。
茂みの葉が飛び散り、カエデが姿を現した―― と思われた。
「っ!」
茂みから出て来たのは黒髪のかつらに「バーカ」と書かれたのっぺらぼうのかかしだった。
「ふざけるな――――!!」
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一方タイカが怒号を上げている頃、カエデとシキは何事もなかったかのように悠然と自分の領地である森を 歩いていた。
「それにしてもカエデ様。あのカツラはどこで手に入れたんですか?」
「人間界で言う百円ショップという店だ。近頃は便利になったものだ」
「そのお金はどこで?」
「自動販売機の下とか、道端とかにもたまに落ちている。あとバイトもたまに」
「……仮にも長が何やってるんですか」
シキは自分の主人に呆れたような顔をする。 カツラについての話題が終わると、カエデはため息をついた。
「……タイカのあの血の気の多い性格は、なんとかならないものか。あいつはまだ若いから仕方がないのかも しれないが。それでも前の長の方が物分かりがよかった」
見た目としてはタイカと年齢はさほど変わらないように見えるが、実際のカエデは数百年の時を生きている。 苦労多き長を見てシキは何気なく訊ねる。
「じゃあ、カエデ様が生まれた時はどうだったんですか?」
「……オレの生まれた頃……か」
シキに訊かれ、カエデの脳裏にその時のことがありありと鮮明に映し出されていく。
――オレが最初に見たのは、ユキの涙だった
『……あんた、何で泣いてるんだ?』
深い緑色の瞳を大きく見開き、こちらの方をじっと見つめている。その瞳からはぽろぽろと大粒の涙がこぼれていた。
自分は目の前の彼女の涙から生まれたのだと、なんとなく分かった。
『おい……?』
涙を拭ってやりたくて、まだ名前もなかったカエデは手を伸ばして彼女の頬に触れる。 彼女のゆるくウェーブのかかった白くて長い髪が腕をくすぐる。
その時の彼女が、あまりにも悲しそうで、儚くて、カエデは生まれてから彼女の傍にいるようになった。 目を離したら、すぐに彼女は消えて自分の目の前から消えてしまうのではないかと思ったのだ。
――実際、そうだった
ユキは自分の知らない所で町を守り、力を使い果たして消えかかっていた。
――あなたのその力は大切なものを守るときに使いなさい。 今までありがとう―――
それがユキの最後の言葉だった。
そしてカエデは次代の長となった。
先代長ユキの涙から生まれたカエデは、周りの者達より圧倒的に力を持っていたのだ。
――オレはユキの言葉通り、大切なものを守れているのだろうか
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