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番外編
神在祭〜花畑の約束〜7
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五日目の夜を迎えた。
この日も、仕事を終えた神々は疲れを癒そうと、酒を肴に談笑していた。
玉依姫から、「もう下がってもいい」と許しを得た男性も、廊下に出て自身の宿舎へと戻ろうとする。
角を曲がろうとしたところ、誰かに軽くぶつかってしまった。
「気をつけろ!」
男性は危うく転びそうになり、体勢を立て直す。
最初は不機嫌そうにしていた男性だったが、相手の顔を見ると、ぽっと頬を染めた。
ぶつかった相手は、思わず身もだえしてしまうような、幼い美少女だったのだ。
「ご、ごめん……なさい……」
少女は怒鳴られたのが怖かったのか、ぶつかって痛かったのか。
顔を赤くさせて涙を滲ませている。
「悪い、悪かったよ! まさか君のような小さな子だったとは!」
男性は先ほどの態度を一変させて謝罪する。
明らかに、男性の少女を見る目が変わっていた。
しくしくと泣き出す少女を慰めるためか、男性はさらに声をかける。
「あぁ、そうだ。何か困っていることはないかい? あるなら、私に言ってごらん。何でもいいぞ」
「……何でも、いいの? 本当?」
「あぁ、本当だとも」
鼻息荒く、男性は頷く。
少女は俯きながらも口を開いた。
「……あのね、私、玉依姫様の遠縁なの。姫様にお会いしたいのだけれど、恥ずかしくって。 せめて、姫様のことをもっと知りたいの」
「いいとも、いいとも。私は玉依姫様のお世話係を務めさせて頂いているからね。よく知っているんだ。何でも訊いてくれ」
すっかり少女の虜になってしまった男性は、少女の質問に、すらすらと答えていく。
その様子を、離れた場所で見守る者達がいた。
「まさか、シキ殿にこのような特技があったとは」
猿田彦は感心して女装したシキの姿を覗き見る。
「玉依姫様が男ばかりを世話係にしていたのが、幸いしたな。しかも、調べたところ、あの男は幼女好きだ。 シキに落せないはずはない」
と、覗き見る猿田彦の横で、カエデは言う。
シキが女装するにあたり、カエデは近くの百円ショップで巫女用のカツラを買い、服は猿田彦のツテで女性用の着物を 貸してもらった。
それさえあれば、元々女顔のシキは化粧などしなくても、十分 魅力的な少女になる。 あとはシキの演技力にかかっていたのだが、これならどうやら心配はなさそうだ。
「くー、男にしとくには勿体ないのぉ。嫁にほしいぐらいじゃ」
「やらんぞ」
「冗談じゃわい」
カエデの厳しい視線に、猿田彦は口を閉ざす。
あと少しで終わりそうになった時、二人の背後で「きゃあ」と、小さな悲鳴が聞こえた。
振り返ると、女性の侍従だった。
(――見つかったか)
関係者以外 立ち入り禁止の場所なので、人を呼ばれると厄介だ。
カエデはやむを得ず、ある手段をとることにした。
「ひゃっ!」
人を呼ぼうとする侍従を逃げられないように壁に背をつけさせ、腕の中に閉じ込める。
そして顔を近づけた。
カエデの美貌を間近で見た侍従の顔は、みるみる内に赤く染まっていく。
「人を呼ばないで。オレ達は、怪しい者ではありません。ちょっと探し物をしているだけなんです」
「は、はぁ」
そして、きわめつけに侍従の顎をとらえ、頬に口付けた。
それだけで侍従は茹でダコのように真っ赤になり、床に座り込んでしまった。
「すみませんが、黙っていてくれますか?」
「は、はい……!」
美しい微笑を向けられ、侍従は反射的に頷く。
侍従が見惚れているあいだ、二人は速やかにその場を離れた。
「……お主、シキ殿に女装をさせなくとも、今ので一発じゃろう」
「いいだろう。一度、やらせてみたかったんだ」
女性を口説くのも、長年 生きてきたカエデには手馴れたものだ。
しれっとするカエデに、「お主の容姿は、宝の持ち腐れじゃぁ」と、猿田彦は嘆息した。
五日目の夜を迎えた。
この日も、仕事を終えた神々は疲れを癒そうと、酒を肴に談笑していた。
玉依姫から、「もう下がってもいい」と許しを得た男性も、廊下に出て自身の宿舎へと戻ろうとする。
角を曲がろうとしたところ、誰かに軽くぶつかってしまった。
「気をつけろ!」
男性は危うく転びそうになり、体勢を立て直す。
最初は不機嫌そうにしていた男性だったが、相手の顔を見ると、ぽっと頬を染めた。
ぶつかった相手は、思わず身もだえしてしまうような、幼い美少女だったのだ。
「ご、ごめん……なさい……」
少女は怒鳴られたのが怖かったのか、ぶつかって痛かったのか。
顔を赤くさせて涙を滲ませている。
「悪い、悪かったよ! まさか君のような小さな子だったとは!」
男性は先ほどの態度を一変させて謝罪する。
明らかに、男性の少女を見る目が変わっていた。
しくしくと泣き出す少女を慰めるためか、男性はさらに声をかける。
「あぁ、そうだ。何か困っていることはないかい? あるなら、私に言ってごらん。何でもいいぞ」
「……何でも、いいの? 本当?」
「あぁ、本当だとも」
鼻息荒く、男性は頷く。
少女は俯きながらも口を開いた。
「……あのね、私、玉依姫様の遠縁なの。姫様にお会いしたいのだけれど、恥ずかしくって。 せめて、姫様のことをもっと知りたいの」
「いいとも、いいとも。私は玉依姫様のお世話係を務めさせて頂いているからね。よく知っているんだ。何でも訊いてくれ」
すっかり少女の虜になってしまった男性は、少女の質問に、すらすらと答えていく。
その様子を、離れた場所で見守る者達がいた。
「まさか、シキ殿にこのような特技があったとは」
猿田彦は感心して女装したシキの姿を覗き見る。
「玉依姫様が男ばかりを世話係にしていたのが、幸いしたな。しかも、調べたところ、あの男は幼女好きだ。 シキに落せないはずはない」
と、覗き見る猿田彦の横で、カエデは言う。
シキが女装するにあたり、カエデは近くの百円ショップで巫女用のカツラを買い、服は猿田彦のツテで女性用の着物を 貸してもらった。
それさえあれば、元々女顔のシキは化粧などしなくても、十分 魅力的な少女になる。 あとはシキの演技力にかかっていたのだが、これならどうやら心配はなさそうだ。
「くー、男にしとくには勿体ないのぉ。嫁にほしいぐらいじゃ」
「やらんぞ」
「冗談じゃわい」
カエデの厳しい視線に、猿田彦は口を閉ざす。
あと少しで終わりそうになった時、二人の背後で「きゃあ」と、小さな悲鳴が聞こえた。
振り返ると、女性の侍従だった。
(――見つかったか)
関係者以外 立ち入り禁止の場所なので、人を呼ばれると厄介だ。
カエデはやむを得ず、ある手段をとることにした。
「ひゃっ!」
人を呼ぼうとする侍従を逃げられないように壁に背をつけさせ、腕の中に閉じ込める。
そして顔を近づけた。
カエデの美貌を間近で見た侍従の顔は、みるみる内に赤く染まっていく。
「人を呼ばないで。オレ達は、怪しい者ではありません。ちょっと探し物をしているだけなんです」
「は、はぁ」
そして、きわめつけに侍従の顎をとらえ、頬に口付けた。
それだけで侍従は茹でダコのように真っ赤になり、床に座り込んでしまった。
「すみませんが、黙っていてくれますか?」
「は、はい……!」
美しい微笑を向けられ、侍従は反射的に頷く。
侍従が見惚れているあいだ、二人は速やかにその場を離れた。
「……お主、シキ殿に女装をさせなくとも、今ので一発じゃろう」
「いいだろう。一度、やらせてみたかったんだ」
女性を口説くのも、長年 生きてきたカエデには手馴れたものだ。
しれっとするカエデに、「お主の容姿は、宝の持ち腐れじゃぁ」と、猿田彦は嘆息した。
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