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番外編
神在祭〜花畑の約束〜8
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「シキ。どうだった」
男侍従と分かれたシキは、カエデと合流するなり、ぶわっと泣き出した。
「カエデさまぁ~。僕、今まで生きてきた中で、一番 恥ずかしかったですぅ~」
もはや死んだ身となっていることを忘れているのか、シキはそんなことを口にする。
だが、なじるように言っても、今のシキは可愛いらしい少女にしか見えない。
頑張ったシキを労い、カエデは頭を撫でる。
「それで、どうだったんじゃ?」
話を戻そうと、猿田彦が促す。
するとようやく、シキは顔を上げた。
「あぁ、はい。先ほどの男性の話によると、どうやら玉依姫様と建御雷様は、幼馴染だったそうです」
「幼馴染?」
玉依姫には、あまり結びつかない単語に、カエデは眉をひそめる。
「昔、よく遊んでいらしたそうです。玉依姫様とは、お互い婚姻の約束をされていたほど、仲がよろしかったそうで」
「ほぅ、熱烈よのぉ」
「ですが」とシキは続ける。
「時が経つにつれ、建御雷様は他の女性を愛するようになり、姫様の想いは、片想いになってしまわれて。 それっきりだそうです」
玉依姫のことを考えたのか、シキの声も暗くなる。
――片想い……か。
カエデは胸中で呟く。
シキの話を聞くだけで、どうしようもない切なさが広がる。 他人事に思えないのは、過去に自分も同じ思いをしたからだろう。
「薄情な奴じゃな。姫様ほどの美人を捨てて、他の女に乗り換えるとは。いやはや、顔が良い奴の気が知れん」
「ほっとけ」
軽い嫌味に、カエデは投げやりに言う。
「僕が得た情報はこれだけです。そういえば、猿田彦様の方はどうでしたか?」
昨夜、念のためにと、猿田彦の式を建御雷神の社へ飛ばしていたのだ。
その結果を訊く。
「うむ。さっき、建御雷神の社へ向かわせた式が帰って来たんじゃが、駄目じゃな。社にもおらなんだ」
「収穫なしか……」
ここまで調べ上げて分かったことといえば、玉依姫と建御雷神の関係と、彼が社を留守にしていることのみ。
期限は今日を抜けば、あと二日しかない。 こんな状態では、建御雷神を見つけることは絶望的だ。
(……しかも、姫様が未だ彼に未練があるのか、それすらも定かではない)
細い糸は確かに繋がっているのに、暗雲がたちこめて先が見通せない。
カエデが思索にふけっていると、シキに背を押された。
「とにかく、今はここを出ましょう。見つかったら大変です」
「そうじゃな。行くぞ、カエデ」
思えば、自分達がいる場所は関係者以外、立ち入り禁止の場だ。
シキの言うことはもっともで、カエデは歩き出そうとした。
だが。
「おやおや。このような所に、ねずみが三匹 紛れ込んでおる」
ぎくりとして、三人は振り返る。
この声には、聞き覚えがあった。
「……玉依姫様」
三日後、もしかしたら妻になってしまうかもしれない人物がそこにはいた。
相変わらず、憎たらしいほどの美しさだ。
「いや、ねずみが二匹だな。一人は、未来の我が夫ではないか。こんな夜更けまで建御雷の捜索とはな。ごくろうなことよ」
どうやら、こちらの動向はお見通しらしい。
昨日、一昨日と、あれだけ多くの者達に訊ねて回ったのだから、彼女の耳に入るのも当然だろう。
「やはり、捜索は難航しておるようだな。だがまさか、我の侍従がたぶらかされるとは。そなたの補佐もやるな」
「こっ……これは……!」
玉依姫に視線に向けられ、シキは自分が未だに女装姿なのを思い出したらしい。
慌ててカツラを取る。
「それで、何の御用でしょうか。期限はまだあると思うのですが」
「なに、偶然そなた達を見かけたので、声をかけたまでだよ」
そう言い、玉依姫は するするとカエデに近づく。
そして、優雅な仕草でカエデの頬に触れた。
「そなたは建御雷と我を引き合わせようと考えているようだな。いい線はいっておる。だが、残念だ。 結局、そなたは我のものとなるのだからな」
「…………どういう意味でしょうか」
やけに自信を持った物言いに、カエデは目を細める。
玉依姫の顔がより近くなる。
「分からぬのだよ、我にも。彼の居場所が」
途方に暮れたような、そんな表情にカエデは目を見開く。
それと同時に、玉依姫は頬から手を放し、カエデの横をすり抜ける。
慌ててシキと猿田彦は道を空けた。
「まぁ、既に勝敗は決しておるが、せいぜいあがくがいい」
「……いいえ。まだ、決まってはいません」
何の勝算もないが、カエデは見栄を張る。
すると、そのまま通り過ぎていこうとしていた玉依姫がぴたりと止まった。
「そなたは誠、ユキによう似とる」
「…………え」
思わぬ人物の名に、カエデは声を洩らす。
固まるカエデに訊く暇を与えず、玉依姫はそのまま去っていった。
「……幼馴染である姫様にも居場所が分からないなんて。どうします? カエデ様……って、カエデ様? 聞いてます?」
シキに身体を揺すられ、カエデは はっと我に返る。
「……あ、あぁ。とにかく、今日はもう宿舎に戻ろう。話はそれからだ」
カエデは誤魔化すように、先頭を切って歩き出す。
今のカエデには、玉依姫が建御雷神の居場所を知らない事実よりも、彼女が口にしたユキの名ばかりが頭を巡っていた。
――何故、姫様は『ユキ殿』ではなく、『ユキ』と呼んだ?
ユキの名を聞くだけで、こんなにも動揺する自分が恨めしい。
その事を悶々と考えていると、いつの間にか宿舎に着いていた。
男侍従と分かれたシキは、カエデと合流するなり、ぶわっと泣き出した。
「カエデさまぁ~。僕、今まで生きてきた中で、一番 恥ずかしかったですぅ~」
もはや死んだ身となっていることを忘れているのか、シキはそんなことを口にする。
だが、なじるように言っても、今のシキは可愛いらしい少女にしか見えない。
頑張ったシキを労い、カエデは頭を撫でる。
「それで、どうだったんじゃ?」
話を戻そうと、猿田彦が促す。
するとようやく、シキは顔を上げた。
「あぁ、はい。先ほどの男性の話によると、どうやら玉依姫様と建御雷様は、幼馴染だったそうです」
「幼馴染?」
玉依姫には、あまり結びつかない単語に、カエデは眉をひそめる。
「昔、よく遊んでいらしたそうです。玉依姫様とは、お互い婚姻の約束をされていたほど、仲がよろしかったそうで」
「ほぅ、熱烈よのぉ」
「ですが」とシキは続ける。
「時が経つにつれ、建御雷様は他の女性を愛するようになり、姫様の想いは、片想いになってしまわれて。 それっきりだそうです」
玉依姫のことを考えたのか、シキの声も暗くなる。
――片想い……か。
カエデは胸中で呟く。
シキの話を聞くだけで、どうしようもない切なさが広がる。 他人事に思えないのは、過去に自分も同じ思いをしたからだろう。
「薄情な奴じゃな。姫様ほどの美人を捨てて、他の女に乗り換えるとは。いやはや、顔が良い奴の気が知れん」
「ほっとけ」
軽い嫌味に、カエデは投げやりに言う。
「僕が得た情報はこれだけです。そういえば、猿田彦様の方はどうでしたか?」
昨夜、念のためにと、猿田彦の式を建御雷神の社へ飛ばしていたのだ。
その結果を訊く。
「うむ。さっき、建御雷神の社へ向かわせた式が帰って来たんじゃが、駄目じゃな。社にもおらなんだ」
「収穫なしか……」
ここまで調べ上げて分かったことといえば、玉依姫と建御雷神の関係と、彼が社を留守にしていることのみ。
期限は今日を抜けば、あと二日しかない。 こんな状態では、建御雷神を見つけることは絶望的だ。
(……しかも、姫様が未だ彼に未練があるのか、それすらも定かではない)
細い糸は確かに繋がっているのに、暗雲がたちこめて先が見通せない。
カエデが思索にふけっていると、シキに背を押された。
「とにかく、今はここを出ましょう。見つかったら大変です」
「そうじゃな。行くぞ、カエデ」
思えば、自分達がいる場所は関係者以外、立ち入り禁止の場だ。
シキの言うことはもっともで、カエデは歩き出そうとした。
だが。
「おやおや。このような所に、ねずみが三匹 紛れ込んでおる」
ぎくりとして、三人は振り返る。
この声には、聞き覚えがあった。
「……玉依姫様」
三日後、もしかしたら妻になってしまうかもしれない人物がそこにはいた。
相変わらず、憎たらしいほどの美しさだ。
「いや、ねずみが二匹だな。一人は、未来の我が夫ではないか。こんな夜更けまで建御雷の捜索とはな。ごくろうなことよ」
どうやら、こちらの動向はお見通しらしい。
昨日、一昨日と、あれだけ多くの者達に訊ねて回ったのだから、彼女の耳に入るのも当然だろう。
「やはり、捜索は難航しておるようだな。だがまさか、我の侍従がたぶらかされるとは。そなたの補佐もやるな」
「こっ……これは……!」
玉依姫に視線に向けられ、シキは自分が未だに女装姿なのを思い出したらしい。
慌ててカツラを取る。
「それで、何の御用でしょうか。期限はまだあると思うのですが」
「なに、偶然そなた達を見かけたので、声をかけたまでだよ」
そう言い、玉依姫は するするとカエデに近づく。
そして、優雅な仕草でカエデの頬に触れた。
「そなたは建御雷と我を引き合わせようと考えているようだな。いい線はいっておる。だが、残念だ。 結局、そなたは我のものとなるのだからな」
「…………どういう意味でしょうか」
やけに自信を持った物言いに、カエデは目を細める。
玉依姫の顔がより近くなる。
「分からぬのだよ、我にも。彼の居場所が」
途方に暮れたような、そんな表情にカエデは目を見開く。
それと同時に、玉依姫は頬から手を放し、カエデの横をすり抜ける。
慌ててシキと猿田彦は道を空けた。
「まぁ、既に勝敗は決しておるが、せいぜいあがくがいい」
「……いいえ。まだ、決まってはいません」
何の勝算もないが、カエデは見栄を張る。
すると、そのまま通り過ぎていこうとしていた玉依姫がぴたりと止まった。
「そなたは誠、ユキによう似とる」
「…………え」
思わぬ人物の名に、カエデは声を洩らす。
固まるカエデに訊く暇を与えず、玉依姫はそのまま去っていった。
「……幼馴染である姫様にも居場所が分からないなんて。どうします? カエデ様……って、カエデ様? 聞いてます?」
シキに身体を揺すられ、カエデは はっと我に返る。
「……あ、あぁ。とにかく、今日はもう宿舎に戻ろう。話はそれからだ」
カエデは誤魔化すように、先頭を切って歩き出す。
今のカエデには、玉依姫が建御雷神の居場所を知らない事実よりも、彼女が口にしたユキの名ばかりが頭を巡っていた。
――何故、姫様は『ユキ殿』ではなく、『ユキ』と呼んだ?
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その事を悶々と考えていると、いつの間にか宿舎に着いていた。
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