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番外編
神在祭〜花畑の約束〜10
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『わぁ、すごい兄様! とってもお強いのね』
幼い少女は自分よりも年長の少年に向け、手を叩く。
青々とした若葉が芽吹き、新緑の緑が眩しい季節。 二人は内緒で宮を飛び出し、幼少同士の可愛い逢引を重ねていた。
『本当にすごいわ。これだったら、天照大神の用心棒だって夢じゃないわ』
少年は得意の剣術を披露し、照れくさそうに頭を掻く。
そんな少年に、少女は後ろに隠していた花冠を差し出した。
『いつも頑張っている兄様に、私からご褒美。頭につけてあげる』
背が低い少女は、まだ少年の頭に手が届かない。
少年は屈んで花冠をつけてもらった。
『あのね、このお花、あそこの花畑にある花で作ったのよ。案内してあげる』
少女は少年の手をとり、駆けていく。
後にその花畑は、二人のお気に入りの場所となった。
――いつまでも、いつまでも、そんな日々が続くと思っていた。 けれど、あなたの目には、別の人が映るようになった。
二人が大きくなって、青年と女性になった時。 いつしか、青年は神無月に訪れる女性を見つめるようになった。
青年の見つめる女性は、白い髪を持つ、綺麗な人だ。 その女性は最も親しい友人だった。
――兄様、どうして私を見てくださらない。私はいつも、兄様のお側にいるのに。
どうして、どうして……。
遠ざかっていく青年の姿。 そして、親しかった女性は、さらに手の届かない存在になってしまった。
『兄様。大きくなったら私達、夫婦になりましょうよ。私はいつまでも、兄様をお待ちします』
そう誓いあったあの日も、今は遠き日々。
------------------ -------------------
「天照大神にお会いするって、どうしてそんな話になってるんですか!?」
六日目の朝。目を覚ましたシキは、突然 告げられた状況に、素っ頓狂な声を出した。
とんでもないことを平然と言ってのけた張本人は、うるさそうにそれを受け止める。
「ご自分が仰っていることを分かっていますか!? 天照大神は神様の中でも最高位で、 僕達がお目にかかれる方ではないんです!」
「あぁ、だから猿田彦の案が失敗に終わったときは、オレは乗り込もうかと思う」
「首が飛ぶからやめて下さい!」
全力でシキは止めにかかる。
何がどういう結論でそのような発想に到ったのか。シキには分かるはずもない。
「考え直して下さい。いっそのこと、玉依姫様とご結婚された方が、まだマシです!」
「お前、オレの味方じゃなかったのか」
「首が飛ぶなら話は別です!」
こうなれば、カエデを殴ってでも止めようと、シキは彼の着物の裾を握る。
そんなシキを、カエデは宥める。
「落ち着け。案があると言っただろう。乗り込むのは、それが失敗に終わったときだ」
「……どうしてそういうことになったのか、ちゃんと説明して下さい」
でなければ、とてもカエデを送り出せそうにない。
カエデは冷静さを欠くシキを、静かな眼差しで見つめる。
「建御雷神は、神の中でも最強と言われるほど、お強い方だ。そんな名のある方が突然、誰にも場所を知られずに 消息を絶つなど、変だとは思わないか?」
「そうですね。僕も、不思議だと思います」
同意し、シキは頷く。
カエデはさらに続ける。
「しかも、建御雷神は、もう何年も会議に出席しておられない。それだけの方が天照大神に何も告げずに去るとは思えないんだ。 その証拠に、天照大神はそれに対し、何も咎めていない」
説明が進むにつれ、シキの裾を掴む力が弱まる。
「全ては、天照大神が握っている」
「……本当に、行ってしまうんですね」
諦めに似た気持ちがシキの胸の内に広がる。
もはや止める気も起きず、シキはカエデの服を放した。
誇り高い長門の長は、誰のものにもならない。 一人の女性だけを想い、独りで生きる。
そんな人が、何百年も森を守り、シキの生き方さえも変えてしまったのだ。
彼ならきっと、玉依姫が与えた障害をも越えていけるに違いない。
「行ってきてください。僕は、カエデ様のお帰りをお待ちしています」
シキに出来るのは、カエデを信じて待つこと、それだけだ。
「あぁ、行ってくるよ」
微笑んで、カエデは頷く。
彼が動き出したのは、神在祭の最終日、七日目の夜だった。
幼い少女は自分よりも年長の少年に向け、手を叩く。
青々とした若葉が芽吹き、新緑の緑が眩しい季節。 二人は内緒で宮を飛び出し、幼少同士の可愛い逢引を重ねていた。
『本当にすごいわ。これだったら、天照大神の用心棒だって夢じゃないわ』
少年は得意の剣術を披露し、照れくさそうに頭を掻く。
そんな少年に、少女は後ろに隠していた花冠を差し出した。
『いつも頑張っている兄様に、私からご褒美。頭につけてあげる』
背が低い少女は、まだ少年の頭に手が届かない。
少年は屈んで花冠をつけてもらった。
『あのね、このお花、あそこの花畑にある花で作ったのよ。案内してあげる』
少女は少年の手をとり、駆けていく。
後にその花畑は、二人のお気に入りの場所となった。
――いつまでも、いつまでも、そんな日々が続くと思っていた。 けれど、あなたの目には、別の人が映るようになった。
二人が大きくなって、青年と女性になった時。 いつしか、青年は神無月に訪れる女性を見つめるようになった。
青年の見つめる女性は、白い髪を持つ、綺麗な人だ。 その女性は最も親しい友人だった。
――兄様、どうして私を見てくださらない。私はいつも、兄様のお側にいるのに。
どうして、どうして……。
遠ざかっていく青年の姿。 そして、親しかった女性は、さらに手の届かない存在になってしまった。
『兄様。大きくなったら私達、夫婦になりましょうよ。私はいつまでも、兄様をお待ちします』
そう誓いあったあの日も、今は遠き日々。
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「天照大神にお会いするって、どうしてそんな話になってるんですか!?」
六日目の朝。目を覚ましたシキは、突然 告げられた状況に、素っ頓狂な声を出した。
とんでもないことを平然と言ってのけた張本人は、うるさそうにそれを受け止める。
「ご自分が仰っていることを分かっていますか!? 天照大神は神様の中でも最高位で、 僕達がお目にかかれる方ではないんです!」
「あぁ、だから猿田彦の案が失敗に終わったときは、オレは乗り込もうかと思う」
「首が飛ぶからやめて下さい!」
全力でシキは止めにかかる。
何がどういう結論でそのような発想に到ったのか。シキには分かるはずもない。
「考え直して下さい。いっそのこと、玉依姫様とご結婚された方が、まだマシです!」
「お前、オレの味方じゃなかったのか」
「首が飛ぶなら話は別です!」
こうなれば、カエデを殴ってでも止めようと、シキは彼の着物の裾を握る。
そんなシキを、カエデは宥める。
「落ち着け。案があると言っただろう。乗り込むのは、それが失敗に終わったときだ」
「……どうしてそういうことになったのか、ちゃんと説明して下さい」
でなければ、とてもカエデを送り出せそうにない。
カエデは冷静さを欠くシキを、静かな眼差しで見つめる。
「建御雷神は、神の中でも最強と言われるほど、お強い方だ。そんな名のある方が突然、誰にも場所を知られずに 消息を絶つなど、変だとは思わないか?」
「そうですね。僕も、不思議だと思います」
同意し、シキは頷く。
カエデはさらに続ける。
「しかも、建御雷神は、もう何年も会議に出席しておられない。それだけの方が天照大神に何も告げずに去るとは思えないんだ。 その証拠に、天照大神はそれに対し、何も咎めていない」
説明が進むにつれ、シキの裾を掴む力が弱まる。
「全ては、天照大神が握っている」
「……本当に、行ってしまうんですね」
諦めに似た気持ちがシキの胸の内に広がる。
もはや止める気も起きず、シキはカエデの服を放した。
誇り高い長門の長は、誰のものにもならない。 一人の女性だけを想い、独りで生きる。
そんな人が、何百年も森を守り、シキの生き方さえも変えてしまったのだ。
彼ならきっと、玉依姫が与えた障害をも越えていけるに違いない。
「行ってきてください。僕は、カエデ様のお帰りをお待ちしています」
シキに出来るのは、カエデを信じて待つこと、それだけだ。
「あぁ、行ってくるよ」
微笑んで、カエデは頷く。
彼が動き出したのは、神在祭の最終日、七日目の夜だった。
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