精霊徒然日記

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番外編

神在祭~未来への語り部~6

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神在祭七日目。
神在祭も最終日となり、仕事を終えた神々や長達は、カエデと玉依姫の取り巻き達の観戦で大いに盛り上がっていた。出雲大社を背景にして設けられた戦場の周りを囲むようにして、観客は戦が始まるときを待っている。元々噂となっていたカエデと玉依姫の取り巻き達との勝負は、もはや個人の戦いを逸してしまうような賑わいで満ちていた。
そんな観客達の中には、賭博によって金銭を儲けようとする者達が続出していた。

「此度の勝負は、どちらが勝つかねぇ」
「やはり玉依姫様だろう。地方の長ごときが、玉依姫様の軍勢に叶うはずもないわ」

そのような囁き声が、はらはらと落ち着かない猿田彦の耳にも飛び込んでくる。
実際、勝率としても玉依姫の軍勢の方に大いに分があることは間違いようもなかった。

「カエデ殿は本当に大丈夫なんじゃろうか……」

以前見たカエデの表情から何か策があるようではあったが、猿田彦は心配でならない。
実際に戦う者よりも見守る者の方が、気を揉むのは本当のことのようだ。

――今のところ、誰も不審な奴はおらぬな

猿田彦は最後の確認で観客席全体を見回す。

すると、始まりの合図である太鼓の音が上がった。
その合図により、観客は会話を止めて闘技場の方へと目を向ける。
間もなくして闘技場の端から、本日の主役であるカエデと玉依姫が、観客の歓声と共に姿を現した。

「どうやら、逃げはしなかったようだな。カエデ殿」

闘技場の舞台中心まで歩を進めると、玉依姫はカエデに話かける。
腰に手を当てカエデを煽る様は、自身の勝利を微塵も疑っていない顔だ。

「そうですね。流石の私でも、事実無根な疑惑はこの場で晴らしたいと思いまして」

負ける気など全くない、と言わんばかりのカエデの台詞に、玉依姫は片眉を吊り上げる。

「ほぉ、随分と自信があるようだな。…お手並み拝見といこう」

カエデの挑発に目を細めて受け止めると、玉依姫は観客の方へ体を向けた。

「皆の衆、今宵はよくぞ集まってくれた。皆の務めにより、今年も多くの良縁が結ばれた。
天照大神の代わりに我が礼を言おう。…そして皆の労をねぎらい、このような催しを企画した。疲れを癒し、存分に楽しむといい」

玉依姫の労いの言葉により、観客は次第に熱を増していく。
観客の熱狂した雰囲気に、玉依姫は笑みを浮かべた。

「勝敗はどちらかが倒れるまで。相手を殺めた場合は失格とし、その時点で敗北となる。
また、この闘技場から出た場合も失格とする。以上が決闘における条件だ。……カエデ殿、異論はあるか?」
「ありません」

カエデが玉依姫の条件に頷くと、一斉に和楽器の音が闘技場中に響き渡る。戦闘開始前のファンファーレだった。
それが流れると同時に、カエデは玉依姫から間合いを取る。
しかしカエデが臨戦態勢に入った一方、玉依姫は何も構える様子がなかった。

その様子にカエデが眉をひそめていると、玉依姫はカエデに視線を向けた。

「悪いが、カエデ殿。我は占者であるため、戦闘能力はない。よって我の代理を立てさせてもらう」
「…分かりました」

玉依姫が取り巻き達を代理に立てるだろうことは、想定の範囲内であったため、カエデは驚くこともなく了承する。
しかし玉依姫の背後から現れた男達の規模は、カエデの想像を遥かに超えるものだった。

「……!」

カエデは入口から現れる男達を前にし、軽く目を見開く。
そこに現れた男達は玉依姫の取り巻き達だけではなく、戦を得意とした神々までもが連なっていたのだ。その規模は、闘技場の戦闘範囲の四分の一をも占めていた。

「十……二十……三十……って、おい。五十人はおるぞ、あの数は!五十人を相手に戦えというのか!」

猿田彦は闘技場の観客席から現れた男達の数を指折り数える。
観客席から見ても、五十人という数は凄まじい数であることが分かる。

(いくらなんでも、これは卑怯じゃ!姫様め、お人が悪い…)

本当に自分は必要ないのかと、猿田彦はカエデに視線を送る。
するとカエデは気づいてくれたようで、猿田彦と視線が交わった。
しかし。

(……な。本当に大丈夫なのか…?)

カエデは猿田彦に救援を求めるわけでもなく、片目をつむって笑ってみせただけだった。
その顔は、どう見ても絶望的な状況とはかけ離れた表情だ。

一体、どうすればそのように飄々としていられるのか。猿田彦には理解できなかったが、彼の姿を見ていると何とかしてくれるのではないか、そんな事を思ってしまう。
カエデの逞しさに逆に猿田彦が励まされるような気さえした。

(カエデ殿を信じるしかないのか……)

カエデが立ち向かうのであれば、自分の成すべきことをしなければならない。
後は勝利の神に祈る他、猿田彦にできることはなかった。
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