精霊徒然日記

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番外編

神在祭~未来への語り部~7

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「では、始め!」

玉依姫の合図により、闘技場の空気はより一層張り詰めたものへと変化した。
カエデは小刀を握りしめ、攻撃に備える。
早速カエデに襲いかかって来たのは、玉依姫の忠誠心ばかりが強い信仰者だった。

「やぁぁぁ!!」

力が入りすぎて動きが固くなってしまっている相手の刃を、カエデは軽々とかわし、刀を振るう。彼らの動きはカエデからすれば全く足腰がなっておらず、動きを止めることなど容易い。一人、二人と、確実に地に沈めていく。

(どうやら、最初にやってくる奴は全員素人ばかりのようだな…)

いくら五十人もいるといえど、全員が全員戦いに慣れた者ではないらしい。
そうだとすれば、カエデにも勝機はある。

(問題は、オレの体力が持つかどうかだな)

最初から全力で挑んでしまえば、無限ではないカエデの体力は一気に底をついてしまう。
多くの数を相手にする場合は敵の強さを見極め、それに応じて力の加減をしていかなければならなかった。

カエデは十人ほどの信仰者を一滴の血を出すこともなく気絶させると、他の神々を見やる。
どうやら襲い掛かって来ない男達は、カエデの力量を推し量って様子を見ているようだった。その慎重な思考と刀の構えを見る限り、普段から訓練を重ねていることは疑いようもなかった。

――少し早いが、あれをやるか

カエデは戦闘開始早々にして構えを解くと、体内に流れる力に集中する。
いきなり構えを解き、無防備となったカエデに、ほとんどの者は訝しげに様子を窺う。
その中には、カエデを倒す好機とばかりに、何人かの男達が一斉にカエデに飛び掛かった。

ところが。

「――た、玉依姫様……」

男達が飛び掛かった先に、カエデの姿はなかった。
彼らの目の前には、つい先ほど退場して高みの見物をしているはずの玉依姫が、そこにはあった。

「なぜ、あなたがそこに…」

玉依姫の存在を認識した男達は、目先の寸前で刀を止める。
動揺する男達に、玉依姫は綺麗に微笑んで見せた。

「隙あり、だな」
「は……?」

玉依姫らしからぬ口調で呟いた言葉に、男達は理解が追いついていかない。
彼らが気付いたのは、目の前の玉依姫に気絶させられた後のことだった。

「た、玉依姫様…。なぜ」

突然味方であるはずの男に攻撃をしかけてきた玉依姫に、男達は動揺を隠せない。

「馬鹿者!こいつは玉依姫様ではない!こいつは…」

一人の男が仕掛けに気付いて声を上げたが、もはや遅かった。
玉依姫は優美な衣装を閃かせて男達に襲いかかる。
男達が固まっている数舜の内に十数人をなぎ倒していく。その尋常ではない動きは、おおよそ玉依姫のものではあり得なかった。

「お前ら!こいつは長門の長だ!姿を変え、我々を攪乱させているだけだ!」

玉依姫――もといカエデは、肯定の証とばかりに女性の姿のまま口角を上げた。
――そう。カエデが思いついた秘策とは、変化の術によって玉依姫に化け、神々の隙をつくというものだったのだ。

「やはり、そう長くは欺けないな」

カエデは玉依姫の姿のまま、前衛にいる最後の一人を仕留めにかかる。
その時、カエデは自身が纏っている衣装のことをすっかり忘れ、脚を大きく振り上げて男の脳天から地面に叩きつけた。

「なぁ!?」

近くでその様を見た男達は、変化とはいえ玉依姫の細く長い脚を間近で見てしまい、赤面をしてしまう。それによって何人かの男達は動きを止めてしまい、カエデの剣の餌食となっていった。

(そういえば、今のオレの恰好……)

カエデは今更ながら変化した自分の恰好を見下ろす。
カエデが変化したのは、本日の玉依姫をそっくりそのまま真似たものだ。
本日の玉依姫は、当時の清――中国の民族衣装を着用していた。裾の長い深衣には、太腿のあたりからスリットがあしらわれており、大きく開脚をしてしまえば足など簡単に見えてしまう仕様だった。
この露出度の高い衣装のお陰で大幅に体力を消耗することもなく、予想以上の神々を倒すことができたのだが。

(まさかこんな事で敵の戦力を削ぐことができるとは)

思わぬ収穫により、この作戦を続行しようかと考えたが、特別観客席から漂う殺気により断念することになった。

「たかが一人に何をしておる!条件変更だ。殺せ!我の体を晒した罪、ここで裁いてくれる!」

玉依姫は席から立ち上がり、鬼の形相でカエデを睨みつけてくる。
玉依姫の特別席からは随分と距離が離れているはずなのだが。どうやら玉依姫は今の様子をしっかりと目で見ていたようだ。

(この姿のまま戦ったら姫に殺されそうだな……)

玉依姫の殺気を受けたカエデは、背筋に冷たい汗が通っていくのを感じる。

玉依姫の姿に化ける策は、言ってしまえば子供騙しでしかなく、そう何度も通じることはない。しかし一時的にも神々は玉依姫の姿に戸惑い、カエデに隙を与えてくれた。それだけでも、十分な効力を発揮しただろう。
五十人いた男達の戦力も、三十人ほどには削ぐことができていた。
これ以上は本当に殺されかねないと判断したカエデは、玉依姫の変化を解く。

「ふぅ…。やっぱりこの姿の方が動きやすいな」

いつもの戦闘装束へと戻ったカエデは、自分の体を動かして感覚を確かめる。
女性の衣装は裾が長く、戦闘を行うのには動きにくかったのだ。

「よくも姫様のお姿を真似てくれたな…」
「覚悟しやがれ」

周りを見渡してみれば、残り三十名の神々がカエデの逃げ道を防ぐようにしてカエデを取り囲んでいる。どうやら、玉依姫の叱責により全員が殺る気になってしまったようだった。
しかしそれこそ、カエデの本当の目的だ。

「――来い、本気で相手をしてやる」

彼らの怒りを受けて立つべく刀を持ち直すと、カエデは神々の軍勢へ切りかかっていった。
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