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本編
第3話:宣言
しおりを挟む俺の姿がユリス・アデレーゼになっている。
訳が分からない。
状況が飲み込み切れずに混乱している状態だというのに、突然部屋にノック音が響く。
誰だこんな時に…と思い、ガチャリと開かれたドアから入ってきた人物を見て、俺は口を開けた。
「レギオン…」
レギオン・アデレーゼ本人がそこにいた。ユリス同様少し若いが、先日からゲームでその姿を見ていたから間違いない。
俺はユリスになり、目の前にはレギオンが居る。そしてここは地元には存在していない立派な洋館。そういえば、この内装もゲームの背景で見たような気がする。
ということは…ゲーム開始時より少し前の時間軸のようだが、俺はあのノベルゲームの中に入ってしまった?
そんな馬鹿な、これは夢だと思いたくても、後頭部の痛みがこれは夢ではないと伝えてくる。
「はあ…ユリス、何度言ったら分かるんだい? 私の事はちゃんと兄様と呼べと言っただろう? だが、その様子だと無事のようだな。ああ、君もご苦労」
「とんでもございません、アデレーゼ当主様」
レギオンは呆れたようにため息を吐き、メイドに労いの言葉をかけた。
入ってきた男はレギオンと呼んで否定しなかった、そして俺を見てユリスと呼んだ。
やっぱり俺はユリス・アデレーゼ本人のようだ。
混乱して回らない頭で状況を聞くに、俺…ユリスはいつものように講習をサボり、勝手に下町へ行こうとしていたと。そして移動手段に使おうとしていた馬車の業者の制止を無視して馬に悪戯していたところ、後ろ足で蹴られて後頭部を地面に打ち付けて気を失ったと。
…いや、馬に蹴られて怪我が後頭部だけとかユリスすごいな…そこはやっぱりゲームの中だからか若干ファンタジー要素があるようだ。
「ユリス、お前の行動は些か目に余る。もっとアデレーゼ家の令息としての自覚を持ち、その名に恥じない振る舞いを心掛けなさい」
キッと睨みつけられ、思わず肩が震える。
俺は不意に今まで見たゲームのレギオンの事を思い出す。
俺が見たエンディングの中には、ゲームの主人公はレギオンと結ばれ、レギオンはその恋仲を引き裂こうとしたユリスを恨み処刑するシーンがあった。
全分岐クリアしたわけではないが、レギオンを怒らせたユリスはろくでもない目に合う。
レギオンはゲーム開始して親密になり始めてから常にユリスを敵視していた。
いつ殺してもおかしくないほど、強い殺気をユリスに向けていた。
それでもユリスは弟だから殺されまいと自由奔放に振るまい、最終的にはレギオンの逆鱗に触れて処刑される。だいたいのルートではそうなる。
つまりどういうことかというと…今のようにレギオンとの関係が険悪なままだと将来俺は処刑されることがほぼ確定している。俺を処刑するレギオンは今までの恨みを晴らすかのように、拒絶すればするほど残酷に殺してくるのだ。
自分もあんな風に殺されてしまうのだろうか…そんなの嫌だ。
血の気が引いて顔が真っ青になったのだろうか、メイドが恐る恐る声をかけてくる。
レギオンも困惑しつつもすこし心配そうな顔をしている。
「まだ言い足りない事はあるが、容態を悪化させるのは不本意だ。だが最後に1つだけ、明日の講習は絶対受けなさい。お前の為に教授はわざわざ来てくださっているのだ。ユリス、分かったね?」
「は、はい…えっと、レギオン…兄様」
恐る恐る返事をすると、彼は一瞬驚いたように口を開いた。
メイドに至っては「えっ…?」と声を上げている。
確か作中のユリスはレギオンを呼び捨てにしていた。その度に注意されても無視。
だがこの険悪な関係を改善させるには、まずここを直すべきだろうと考えた。人格が変わっていることを悟られないかひやひやしたが、驚かれただけで流石にそこまでは思われなかった。
更に俺はレギオンに、もう一つあることを宣言する。
「レギオン兄様、俺は今までのこと全て反省しました。これからは改心してアデレーゼ家の令息として恥じぬよう頑張ります。己の立ち振る舞いも正します。だから…」
だから俺を殺さないでください、と言いかけたところを寸でのところで止める。
処刑はまだずっと先の未来のことだからだ。
ゲーム内のレギオンは俺に対してかなり敵意が剥き出しだった。
俺の顔色が悪かろうと全く気にしないほど、兄弟の仲は冷え切っていた。でも先程は困惑しつつも若干心配している様子が見えた。
それなら未来で起こるだろう最悪な事態を回避する事だって可能なはずだ。
「だから、俺を見守っていてください。そして俺が道を外しそうになれば、叱って正してほしいです…!」
最後の方は声が震えていたと思う。
何せ俺にはあの処刑シーンが脳裏に焦り付いているからだ。俺は本物のユリスとは違う。陰キャの気の弱い俺は怒られないか不安で仕方なかった。
レギオンの顔を見るとレギオンは目を大きく開けて驚いていた。
やっぱりこの発言はユリスらしくなかったよな…?
でも他にどう言えば良いか分からなかった。
「…その言葉、確かに覚えた。言っておくが甘えは許さない、覚悟しておけ。…だがまあ、今日は休め」
そう手を振ってレギオンは部屋から出て行った。
バタンと扉が閉まったと同時に、緊張の糸がプツンと切れ、俺はベッドに倒れ込んだ。何故かどっと疲れた。
心配そうにしているメイドに、しばらく1人になりたいと言って部屋から出てもらった。
入り口にいるので何かあれば呼んでくださいと言われ、二つ返事で承諾した。
「ややこしい事になったなぁ…どうなるんだこれ…」
とりあえずレギオンと仲良くなり、険悪な関係が改善すれば、あのノベルゲームの時のように殺意むき出しで迫ってこないはずだ。
ゲームが始まる前のことではゲームでの知識を活かせない。というかもっと真面目にやりこんでおけば良かった…おおよそのシナリオはともかく、流石にもシナリオの細かい分岐方法とか全然覚えていないわ。
コミュ障なりになんとか頑張らねばならない。
はあ…胃が痛くなってきたわ…。
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