4 / 15
本編
第4話:信頼を得られたけど
しおりを挟むそれほど重症でもなかったので、一晩眠れば元気になった。
そしてその日から宣言通り真面目に勉強するようになった。
毎日のように部屋にやってくる教授に一通りの知識を叩き込まれた。中の人は違えど、今の俺は常に勉強をサボっているわがまま坊ちゃんユリスだ。監視の目も教授の態度も最初は厳しかった。
教えられる事は、義務教育レベルの知識から政治に関する事まで幅広い。一応前世の頃の記憶はあるので、一通りの計算は問題なく出来たが、文字に関して言えば日本語とは別物で読めなくて困惑した。
言葉は通じるのに文字は分からない事に焦ったが、どうやらこの年のユリスは読み書きすらまともに出来ない程不真面目だったみたいで、だいぶ呆れられる程度に済んだ。
複雑だが初めてユリスに感謝した。
文法はそれほど難しいものでもなく、英語は得意な方だったので同じ感覚で覚えていけばなんとかなりそうだった。
その他にも収穫はある。たとえば教授と仲良くなったことだ。
真面目に勉強するようになったおかげで、数カ月経つ頃には世間話をする事も増えた。
今日はなんとビスケットを手土産に持ってきてくれた。最近下町の中央広場にオープンしたパン屋の人気商品らしい。
今日の講習も終わり、せっかくだから教授をお茶に誘おうと思った時、タイミング悪く部屋をノックする音が聞こえた。
「失礼する。ユリス、調子はどうかな?」
「あ、えっと、順調です。レギオン兄様」
入ってきたのは予想通りレギオンだった。
監視のためなのか毎日のように講習が終わった時にやってくる。
レギオンとの関係も初めはギスギスしていて常に居心地が悪かったが、陰キャなりに頑張ってなんとか仲良くなろうと努力した。
今日は何を教わったかとか、メイドたちの井戸端会議の様子が面白かったとか、そんな他愛もない話をした。
そして何より、レギオンの心配をした。アデレーゼ家は両親が病で亡くなっている。その為レギオンはまだ若いのにこの屋敷の当主なのだ。
当然仕事や、周りからのプレッシャーも大きいだろう。
だからこそ立場上弟である俺が寄り添おう、そうすれば心を開いてくれるかもしれないと考えたのだ。
だが、いつか兄様の役に立てるよう努力しますと言えば、
「文字も読めないのに何を言っているんだ」
と、ぐうの音も出ない正論で叱られた。
まあその一件もあって、レギオンからも直々に文字の読み書きを教わった事もある。正直教授より教えるのが上手いんじゃないかレベルで、今授業が問題なく行えているのはレギオンのおかげでもある。
この事がきっかけで更に心の距離が縮まった気がするので言って良かった。
読み書きができるようになったおかげで、書斎の本を読む事もできた。訳あって外に出るのが怖くてずっと引きこもっていたので、いい暇つぶしになった。
まあ今までのユリスと違いすぎて周囲からは驚かれたが。
俺は元々ノベルゲームプレイヤーだから長い文字を読むのに抵抗感はない。むしろ文章から想像力を膨らませるのは得意だ。誰にも言っていないが、書斎の奥から発掘した官能小説で自慰するのが密かな楽しみだった。
でもまあ…最近それも出来なくなってしまったのだが…。
「実は教授からビスケットをいただいたのでその…」
「ああ、そうだったのか。十分な量があるし、この後2人でいただこう。教授も、いつもユリスを見てくださって感謝いたします」
教授も一緒に…と言おうとしたのに食い気味に2人でと言われてしまった。教授も教授で笑顔で頭を下げている。
最近オープンした店の人気商品なんだろ、食い下がってくれ! と念を送ったが教授は用事は済んだと言わんばかりに出て行った。
部屋にはレギオンと2人きりになった。
気まずさで身が縮こまりそうだった。
「さあユリス、行こうか」
レギオンは自然な手つきで俺の腰に手を回し込み、エスコートしてくる。
レギオンと仲良くなろうと積極的に話しているうちに、ある変化が訪れた。
ギスギスした雰囲気はなくなり、レギオンからも声をかけてくれるようになった時は、それはもう嬉しかったさ。これで処刑フラグはへし折ったはずだと喜んだのも束の間だった。
次第にレギオンが俺に執着するようになっていった。
初めは細かい気遣いから始まり、良い兄だなぁと思っていたのに、行動がエスカレートしていった。
何をするにも、レギオンは俺と一緒に居たがるようになった。しかも以前まで俺についていたメイドも世話係から外し、いつも2人きりだ。
そこまでしなくても良いと言うと、二言目には、
「私はユリスとの約束通り、ユリスをしっかり見守る義務がある。何もおかしい事ではないよ」
と返される。
元はといえば自分が言い出した事なので反論ができなかった。
「今日は、先週ユリスが気に入ってくれたオレンジの茶葉を仕入れたよ」
「え…あれ遠くの町からしか仕入れられない高級品ですよね…?」
「うん。でも最近のユリスは頑張り屋さんだし、喜んでもらいたくてね。迷惑だったかな?」
「迷惑ではないですが、そんな事に高いお金を支払う必要はありません。俺には庶民が嗜む安い茶葉で十分です」
「ユリスは良い子だね。よしよし」
レギオンはニッコリと笑みを浮かべて俺の頭を撫でる。じっとりと俺を見つめる瞳は、俺が逃げる事を許してくれそうにないと感じた。
この頭を撫でられる行為は、2人きりの時のみだが最近頻繁にされる。
手を払うと怒られそうで、今の関係が崩れて悪化するのが怖くて、振り払えなかった。
これから美味しいお茶とお菓子を頂くはずなのに、背筋がヒヤリとした。
473
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話
あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」
トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。
お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。
攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。
兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。
攻め:水瀬真広
受け:神崎彼方
⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。
途中でモブおじが出てきます。
義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。
初投稿です。
初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法
あと
BL
「よし!別れよう!」
元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子
昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。
攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。
……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。
pixivでも投稿しています。
攻め:九條隼人
受け:田辺光希
友人:石川優希
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグ整理します。ご了承ください。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。
あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。
だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。
よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。
弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。
そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。
どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。
俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。
そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。
◎1話完結型になります
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「君のいない人生は生きられない」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?
人気俳優に拾われてペットにされた件
米山のら
BL
地味で平凡な社畜、オレ――三池豆太郎。
そんなオレを拾ったのは、超絶人気俳優・白瀬洸だった。
「ミケ」って呼ばれて、なぜか猫扱いされて、執着されて。
「ミケにはそろそろ“躾”が必要かな」――洸の優しい笑顔の裏には、底なしの狂気が潜んでいた。
これは、オレが洸の変態的な愛情と執着に、容赦なく絡め取られて、逃げ道を失っていく話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる