闇より深い暗い闇

伊皿子 魚籃

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闇−148

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 またも周囲の暴風雨でゲリラ豪雨な台風に巻き込まれているツキヨだが、この状態が終わるまで抜け出せないのは目に見えていた。
 その陰でアレックスたちがニヤニヤと暗躍していることは理解はしている。変態紳士淑女同盟による調査で自分のドレスのセンスや食材の好み、会場のイメージなどの希望はほとんど叶えられているため巻き込まれる大変さはあれど怒るほどではなく、むしろ楽しいひと時を過ごすことができて思い出となっている。

 同盟に対しては喜んで感謝をしていいのかわからないが。



 ツキヨが幼いころから慣れ親しんだ庭や玄関先の植栽はマリアンナたちによって滅茶苦茶にされてしまったが、オジーがこのお茶会のためにかつての使用人たちが集まり改めて手入れをして青々とした芝や花々を取り戻したと胸を張って庭を見せびらかした。

 応接室や玄関はアレックスがマルセルと一緒に母のオリエが好んだ色調に戻しガタガタになっていた家具はそれに合わせて新しく購入をした。
 そして、仕事の関係で今後は来客が増えることを見越して応接室の隣りにあった食堂と繋げて更に広くしたとマルセルは仕事が好調なことも交ぜつつ照れ臭そうに説明をする。
 オリエが結婚したときに持参した珍しい東国の花瓶や飾皿などマリアンナに売られてしまったものもレオが追跡して見つけ出し、取り戻したと付け加えるとレオはツキヨにニッコリ微笑んだ。

 その微笑みに慣れない使用人女子が鼻血をブッこいて二人倒れたが、「再教育が必要ですわね」とビクトリアがズルズル引っ張って回収してしまった。

 庭にはいないが、ツキヨも世話をしていた二頭の馬も馬肉にされる前にたまたまスホールが見つけ、雇い主のコ=チョウラン侯爵に頭を下げて引き取ってもらい、今は領地内を駆け回るマルセルのために厩舎で元気にしていると、なぜかフロリナにスホールはアピールするように話す。

 今日のデザートは領地内の野菜や果物をふんだんに使い、明日はもっと凄いご馳走を用意するんだとダンとルルーはフンスッ!と気合を入れていた。

 そんな大変だった経緯を笑い話を交えながらダンたちは話すが、その裏でマリアンナとメリーアン、ミリアンはどう過ごしているのかとツキヨはふと考えてしまう。姉妹でエストシテ王国の名門貴族のマリスス公爵家に嫁ぎ、母であるマリアンナも慣れない娘たちのためにと共に暮らしているとは聞き及んではいるが、ツキヨから送った祝いの手紙の返事もあの三人にしては素っ気ない定型文のような内容だった。
 公爵家の妻となると手紙もきちんと書くように言われていのかもしれないと思うもののなんとなく心配な気持ちが拭えなかった。



「おっ!ツキヨ!ほら、踊ろうぜ!」
「え?」

 気がついたらスホールが得意のハーモニカを取り出して軽妙な音楽を奏でるとレオは鼻血に耐えた使用人女子と、ダンとルルー夫婦がフォークロアダンスを踊り始めた。
 その輪にアレックスとツキヨが交じり懐かしいリズムに合わせてステップを踏む。
「おぉっ!嬢ちゃまはさすがですなー」
 オジーたちが合いの手をいれて更に盛り上げる。

 なぜかマルセルは着飾ったエリと踊っていたのをツキヨは見なかったことにした。


 再会と結婚を祝う賑やかなお茶会は日が暮れるまで続けられたのだった。


***


 賑やかなお茶会が終わり、広くなった応接室兼食堂では明日もあるからとやや軽めの夕食を食べる。
 久しぶりのダンとルルーの料理をもっと味わいたい!とツキヨはぐぬぬと耐えるとマルセルは相変わらず食いしん坊だね!と耐える娘をからかう。
 当然、アレックスは眼光鋭い菫色の瞳で「その食いしん坊の詳細を聞かせてもらおう」とマルセルに迫っていた。

 また、ツキヨの個人情報が垂れ流しにされたのだった。

 

 数年後、皇后陛下により個人情報保護法という法が立案されるが皇帝陛下が秒で廃案にするということが何年も繰り返されるという会議が帝国の名物になったとかなってないとか。


***

 明日もあるからとマルセルたちも早めに寝支度をすると三々五々お開きになった。

 ツキヨは朝から汗一つかかず働いていたフロリナから、なぜかカトレア男爵家の侍女になったかのように客間に案内をされた、と思っていたがそこは小さなころに使っていたツキヨの部屋の前だった。
「ここは、もう物置部屋になってしまっていたはず」
「まぁ、そんな悲しい過去は窓から投げ捨てましょう」
 カチャと小気味良い金属音を鳴らし扉が開かれた。
 照明が置かれた明るい部屋には小さな応接スペースとその横に大きな寝台が置かれていた。
 カーテンはツキヨが当時オリエに選んでもらった藍色に小さな星の模様が入ったものと似たようなものが再現され、寝台のカバーも同系色に揃えられていた。
 応接スペースの前に立つと「ホコリまみれで物が詰め込まれていたのに……応接椅子も置いて広くなって……る?」とオリエ布のハギレでできたクッションを抱える。
「はい、お館様とマルセル様がツキヨ様がいつでも来てゆっくりできるようにと、肝いりで整えましたわ」
 横の見慣れない扉もフロリナが開けると一緒ではあるがトイレと洗面台と浴室があった。全体的に広いため使い勝手は悪い印象はない。
「ツキヨ様の部屋の横にあった本当の物置を潰して浴室などを作ったのですが、収納は当時のままなのでお館様は叫んでいましたわ」
 眉間のしわをフロリナはぐりぐりと揉むのを見ると叫んだ内容の想像は簡単にできた。

『俺は下履き一枚でもいいがツキヨのドレスが百着しか入らねぇ!俺が作り直すからレオ、道具箱持ってこい!はぁ?!間に合わねえだとぉっ?!!クッソぉぉぉぉ、俺としたことがぁっ何たる失態!!』

 ツキヨもフロリナと一緒に眉間をぐりぐり揉んだ。

「私はこれで充分です……」
「充分じゃねぇよ」

 可愛らしい部屋に似つかわしくないおっさん―――アレックスが入ってきた。

 収納の前にドンと立つ。
「この収納を今より拡げられないなら亜空間に繋げて……」
「そこまで大きくなくても……数日程度来るくらいだと思いますし」
「いや、物質転換してドレスを小さくしちまうとか」
「アレックス様がいないとどうやって元に戻すかわからないので……」
「小さくしても置けば限度はあるからな。やっぱり亜空間……」
「あの、ここに危険なものは設置しないでほしいのですが」
「くそっ!増築かっ!」
「家の形を変えないでください」


「わかった、俺が馬鹿だった。形を変えないで亜空間に増築して物質転換した小さいドレスを置くことにしたから、安心しろ」
 ふぅ、素晴らしい案だ……とアレックスは呟き収納を覗いたり大きさを測り始めた。

 フロリナは浴室の準備をして寝衣を取り出して、勝負に負けたツキヨを慰めながら新しい浴室へ足を運んだ。

「きっと、大丈夫ですわ。きっと」
 乳白色の湯に浸かるツキヨに遠い目をしたフロリナが声をかける。

 ぶくぶく沈みたくなる気分だったが次、ここに来るときは安易に収納を開けないようにしようとツキヨは心に決めた。
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