闇より深い暗い闇

伊皿子 魚籃

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闇-38

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 ぎらぎら、ごてごての応接間にマリアンナの高笑いが響き渡る。
「おほっほほほほほほ!そんな、高貴なお2人から娘にお褒めの言葉をいただけるなんて、光栄ですわ!娘も年頃でございますので今後も無作法な夫を抜きにして、ぜひ足をお運びくださいませ!
折を見て…ご縁がございましたらそれもまた良いことかと思います。
なぁんて、おほほほほほほほ!!」
 ばっしんばっしんと扇子で肘掛を叩く。
 メリーアンはを綴り続け、ミリアンは夢の世界で妄想をしていた。

【死んだ。俺は死んだ。確実に死んだ】
【まだ死ぬのは早えぇよ。この、根性無し!やる気無し!ヤマ無し!オチ無し!意味も無し!】

 とんとん…
「アルフレッド様、お待たせしてしまい申し訳ありません」と貴族然とした礼をしてマルセルが入ってきた。

【おい、なんか眩しい後光が見えるぞ!】
【ツキヨの親父様は半端ないんだからな!俺なんか眩しくて姿を拝めねぇんだからな!】

「マルセルさん、お久しぶりです。また突然訪問してしまい申し訳ありません。誕生した馬織機がなかなか素晴らしくて助言が欲しくなり…今夜は弟のニールも連れてきました【あぁぁぁぁ!懺悔します!贖罪を!罪深い俺に罰を!神様、仏様、マルセル様!!】」
「ついに仔馬が産まれたのですか?!素晴らしい!ぜひお聞かせください!
…ニール様、私はマルセル・ドゥ・カトレアと申しまして、王は男爵の地位を賜る身でございます。兄君のアルフレッド様とは趣味を通じて懇意にさせていただいております」
 レオにマルセルは美しい礼をする。レオもマリアンナたちの礼には何も思わなかったがマルセルの礼に感嘆する。
 礼には礼をと、レオも立ち上がり自己紹介をする。
「僕はニール・ドゥ・マリススといいマリスス公爵家の四男で兄と同じ遊学中です。よろしくお願いします【すごいな…後光を発する人間がいるとは…俺の人生はなんなのか…うぅ…反省する。俺は反省する!毎日反省文を書く!】」
 レオは美しい礼をした。

「では、早速ですが私の書斎へ行きましょう。狭いですが…」
 最強トリオには適当に挨拶をして応接室を出て三人で階段を上り二階のマルセルの書斎へ向かう。

【おい!!こ、この階段の手摺は?!まさか触れると…手の跡が残るなんて!】
【くくく…この屋敷の最新の防犯用の手摺だ。この薄い粉のお陰で侵入されたことが分かるんだぜ!】
【これならツキヨちゃんが一人で留守番をしても安心だな!】
【うちの屋敷も早く導入するべきだ…】

「ニール様、狭くて申し訳ありません」
 マルセルは書斎へ招き入れると扉を閉めた…瞬間、アレックスとレオは2人でやたらめったら、べったんべったんのぎっとんぎっとんに静寂の結界を隅から隅まで泣きながら何重にも張り巡らせた。
「相変わらず、女房殿たちは元気一杯だな」
 アレックスとレオは元の姿に戻った。男3人で狭い書斎はより狭くなった。
「俺はレアンドロ・トゥルナ・リゲルって言います。堅苦しいのは抜きにしてレオって呼んでください。アレックスとは古い友人です」
「レオさんですね。改めてよろしくお願いします」

「おう、早速だが…織機が完成した。これを見てくれ」
 アレックスの手のひらから黒い炎がずわぁっと広がるとそこに今日見た織機が現れた。
「こ、これは?!亡くなった妻の…妻の織機とほとんど同じです!!信じられない!」
 手から炎が出て織機が見えることよりも織機が完成したことにマルセルは驚きを隠せない。
「そしてこれが…試し織りした布だ」
 ベストの内ポケットから布を取り出して机に広げた。
「うお!なんだこれ!?本当に布なのか?」
「これが…シウクの布…まるで…まるで…満月のような、月のような神秘的に輝く色に見えますね…」
 レオとマルセルは息を飲み2人でそっと布に触れたり引っ張ったりした。
「マルセルの口から月っていう言葉が出てきたか…親子だねぇ…ツキヨも糸を見たときに月みたいだって言ったんだぜ」
 マルセルは何も言わずに布をじっと見つめていた。
「それから、帝国の一流の仕立屋エリザベスがこの話に興味を持っている。布ができたら一番にドレスを作りたいと。そして、やつも同じく月のようだと言うんだ。面白れぇな!」
「今後、これを売るのに『月色』にすれば雰囲気もいいし、なにより不思議な色合いにぴったりだ。月っていう謎めいているのがいい」
「レオさん、確かに『月色』って謎めいた雰囲気がいいですね!…製造過程も原料も徹底的に秘密にして帝国で謎の工程を踏み布にする…より謎めいて興味を持つ人が増えるかもしれません」

 アレックスはふと、この布に包まれた月の女神ツキヨを想像した。
「布が完成した暁には…ツキヨにこれを着てもらいたい。多くのやつらに見てもらえる日に着て宣伝のようにして…そうしたら、まずは目の肥えた女たちが噂にするだろう。
しばらく経つ頃にはこの布について王国中、帝国中に噂が広がってこぞって入手したがるだろうな」
 
 三人それぞれで頭の中の算盤を弾いていた。
 三人で顔を見合せにやっと笑った。
 三人ともちょっと悪い笑顔だった…。

「まずはドレス一着分の最高の糸を用意します。シウクの糸も今は最高水準の絹糸よりも素晴らしいものが少しずつ安定的に撚ることが出来始めているので…また、来る頃には一着分か二着分くらいの糸が用意できると思います」
 引出しから2束の糸を取り出したのをマルセルはアレックスとレオに渡すと2人はじっと糸を見つめる…以前のものよりも細く、繊細かつ神秘的な月色に輝き、触れるだけで奇妙な畏怖や強大な力をを感じるくらいだった。
「あとは…これを『シウクの糸』『シウクの布』とそのまま名前をつけると原料の草の名前そのままですぐにと分かってしまう…何か商品名をつけた方がいいと思うのですが…僕はあまり洒落た名前が浮かばなくて…お2人は何かありませんか?」

 アレックスとレオは1束ずつ持って考える。
「おい、レオも同じ考えじゃねぇのか?」
「あぁ。多分、同じだと思うなぁ…」
「2人とも同じなんて…どんなのですか?!」

「『オリエ布』だ」
「『オリエ糸』がいいと思う」

 微妙な差異があるがどっちみち一緒だということにマルセルは驚きつつもその名前に思わず目が潤んだ。
 まさに神秘の国の遠い、遠い東の国の一族の血が一本の美しい糸になりオリエの手によって月色の布になり、そしてそれを纏うツキヨの姿を考えた。

 マルセルの瞳から涙の粒が1つ零れた。
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