42 / 154
闇-42
しおりを挟む
どれくらい時間が経ったのか不明だった。
静かな玉座の間で2人は見つめあっていた。
「これからも…俺はツキヨの前ではアレックスでいたい」
「アレックス様はアレックス様です」
「アレクサンダーなんて言いにくいしな…俺はアレックスだ。だから、ツキヨはツキヨでいてくれ。それだけが俺の希望だ」
「はい…」
ニッコリと笑い合った。
窓から見える天気は相変わらず明るい。
玉座の間を出て、廊下を歩く。御影石の床は磨かれて鏡のようだ。
「お城は誰もいないのですか?」
「用がないと集まらねぇな。あとは俺が呼んだり、呼ばれたり。用もないのにここにいるなんて意味が無ぇし。それなら各自、外に出て働けってことだ。エリも侯爵家で大臣職だけど基本的に来ねぇから」
「エリさんは侯爵で大臣だったのですか…そんな方とは思わず…失礼してしまって…」
「そんなこと大して気にもしねぇ性格だから気にすんな。エリの場合は仕立屋っていうこともあるが、帝国内外の情報を集めている」
廊下の途中の重厚な扉を開けると…どっしりとした執務机や本棚、雑然と置かれた書類や資料。
「ちぃーーーっと散らかっているが…俺の仕事場…執務室だな」
ツキヨは来客用の革張りの長椅子に促されて座る…滑らかな革で座り心地がいい。
どんとアレックスも座ると扉が叩かれて中に入るように言う…とティーワゴンを押してレオが入ってきた。
「レオさん!」
「ツキヨちゃんもお茶にしない?いろいろ疲れたでしょう?」
若草色の瞳が優しく微笑んでいる。
「はい、ありがとうございます」
「レオもこの帝国の宰相だ」
「え…」
思わず固まってしまったツキヨだった。
--------------------------
「あの…本当にすいません」
「いやいや、俺もこのままでいいんで」
レオとツキヨはお互いにぺこぺこと頭を下げていた。
【親子で似てる】
これ以上、驚くことはないのかとアレックスに確認をした方がいいのかとツキヨは悩んだ。
「ツキヨは条約締結記念の大舞踏会って知ってると思うが、その際にお披露目も兼ねて俺の婚約者として参加してぇと思ってる」
「え…」
また、固まったツキヨだった。
固まるのも無理はない。
条約締結記念の大舞踏会はエストシテ王国で毎年開催されているが貴族で成人した16才以上は国中から参加をするのが習わしとなっている。一つの街ができるくらいの人数が集まるので王都内でも出店が出たりしてちょっとしたお祭り騒ぎになる。
昨年、ツキヨは16才ではあったが使用人として働いていたため、成人として夜会には参加すらしたことがなく父の名代としてマリアンナや義姉妹が王都へ大舞踏会へ行く姿を見ていただけだった。
一泊する必要もあるため三人分のとんでもない量の大荷物をまとめた覚えがある。
土産話に国王を始め、王妃や側室、高位貴族たちが煌びやかなドレスに身を包み華麗に踊り、美酒美食が饗されて夢のような集まりだったと。
そして…「なんとか様が婚約されていた」「何々侯爵が素敵だった」「独身の貴族の息子に声をかけられた」「お見合いをする用意を…」「側室のヨハンナ様の着ていたのと同じドレスが欲しい」…と騒いでいた。
そんな華やかな舞踏会でも皇帝の席は空席で毎年同じ内容の挨拶の手紙が読まれるだけだった。
三人は「所詮は魔物の王。牛のような顔で角が生えて牙があって凶暴で乱暴で粗雑なものであり、華やかな席に自ら参加をしないと判断するくらいの知性があるのだけは褒められるわ」というのが感想だった。
「面倒臭いから行かなかっただけだ。ただ、今回はツキヨを俺の愛する女…可愛い奥様(予定)を紹介をしておきてぇんだ。ツキヨの顔が分かれば、おかしなやつも手を出さなくなるからな」
ツキヨはあの好色な公爵の顔を思い出して身震いがした…が、アレックスがそっとツキヨの隣に座り肩を抱きしめた。
「こーてーへーかの奥様に手を出す馬鹿はいねぇよ。俺はツキヨに誓った…俺が守る。安心しろ」
こめかみに軽く口づけた。
「仲のいいことも見せておけば尚いいかと」
レオも簡単に言う。
「え…」
再び、固まったツキヨだった。
「ドレスは今、布の用意をしている。それをエリに仕立ててもらう予定だ。まさにお披露目に相応しいものだ」
アレックスはニカニカと笑う。
「もしや、以前見せてもらったあの不思議な糸ですか?」
「そうだ。それを布にして最新のドレスに仕立てて舞踏会へ行く」
「あの…つまりそれは…母の織機が完成をしたのですね?!」
「おう。近く見に行くか。織機もどんどん作るように頼んである」
「はい!ぜひ、連れて行ってください!母の織機を…見たいです!!」
ツキヨは思わず飛びつく勢いでアレックスに抱きついた…そしてツキヨに顔が見えないのをいいことにデレデレとしていた。
二杯目の温かい紅茶がレオによって淹れられた。
「婚約に関してはこれで滞りなく進むかと思うので…あとは落ち着いたら式をする…となる…。それは城でやるのか?それなりに人が集まることになるけど…」
1人の応接用の椅子にレオも座っている。
「まぁ、ここでいいだろ。他に広いとこもねぇんだし。作るもんでもないだろ」
「せっかくだから季節のいい時期にちょっと豪奢な雰囲気の屋敷を建てて、そこで式をしたら他の貴族や裕福なやつらも真似をして同じことをすれば経済も動くと思う。それがだめなら迎賓館として使うとか…公共事業として短期的だけど雇用にも繋がると思うんだが…」
「それも考えたが、一時的なのはどうかと俺は思うんだよな。中長期的なものならいいけどよ…あぁ、そうかそこで完成後にそこの人員として雇うのもいいな」
ツキヨはアレックスとレオのあーだこーだと規模の大きすぎる話を聞いているだけだった…。
そして、この大規模な話を聞いて皇帝陛下の元へ嫁ぐことを初めて意識した。
静かな玉座の間で2人は見つめあっていた。
「これからも…俺はツキヨの前ではアレックスでいたい」
「アレックス様はアレックス様です」
「アレクサンダーなんて言いにくいしな…俺はアレックスだ。だから、ツキヨはツキヨでいてくれ。それだけが俺の希望だ」
「はい…」
ニッコリと笑い合った。
窓から見える天気は相変わらず明るい。
玉座の間を出て、廊下を歩く。御影石の床は磨かれて鏡のようだ。
「お城は誰もいないのですか?」
「用がないと集まらねぇな。あとは俺が呼んだり、呼ばれたり。用もないのにここにいるなんて意味が無ぇし。それなら各自、外に出て働けってことだ。エリも侯爵家で大臣職だけど基本的に来ねぇから」
「エリさんは侯爵で大臣だったのですか…そんな方とは思わず…失礼してしまって…」
「そんなこと大して気にもしねぇ性格だから気にすんな。エリの場合は仕立屋っていうこともあるが、帝国内外の情報を集めている」
廊下の途中の重厚な扉を開けると…どっしりとした執務机や本棚、雑然と置かれた書類や資料。
「ちぃーーーっと散らかっているが…俺の仕事場…執務室だな」
ツキヨは来客用の革張りの長椅子に促されて座る…滑らかな革で座り心地がいい。
どんとアレックスも座ると扉が叩かれて中に入るように言う…とティーワゴンを押してレオが入ってきた。
「レオさん!」
「ツキヨちゃんもお茶にしない?いろいろ疲れたでしょう?」
若草色の瞳が優しく微笑んでいる。
「はい、ありがとうございます」
「レオもこの帝国の宰相だ」
「え…」
思わず固まってしまったツキヨだった。
--------------------------
「あの…本当にすいません」
「いやいや、俺もこのままでいいんで」
レオとツキヨはお互いにぺこぺこと頭を下げていた。
【親子で似てる】
これ以上、驚くことはないのかとアレックスに確認をした方がいいのかとツキヨは悩んだ。
「ツキヨは条約締結記念の大舞踏会って知ってると思うが、その際にお披露目も兼ねて俺の婚約者として参加してぇと思ってる」
「え…」
また、固まったツキヨだった。
固まるのも無理はない。
条約締結記念の大舞踏会はエストシテ王国で毎年開催されているが貴族で成人した16才以上は国中から参加をするのが習わしとなっている。一つの街ができるくらいの人数が集まるので王都内でも出店が出たりしてちょっとしたお祭り騒ぎになる。
昨年、ツキヨは16才ではあったが使用人として働いていたため、成人として夜会には参加すらしたことがなく父の名代としてマリアンナや義姉妹が王都へ大舞踏会へ行く姿を見ていただけだった。
一泊する必要もあるため三人分のとんでもない量の大荷物をまとめた覚えがある。
土産話に国王を始め、王妃や側室、高位貴族たちが煌びやかなドレスに身を包み華麗に踊り、美酒美食が饗されて夢のような集まりだったと。
そして…「なんとか様が婚約されていた」「何々侯爵が素敵だった」「独身の貴族の息子に声をかけられた」「お見合いをする用意を…」「側室のヨハンナ様の着ていたのと同じドレスが欲しい」…と騒いでいた。
そんな華やかな舞踏会でも皇帝の席は空席で毎年同じ内容の挨拶の手紙が読まれるだけだった。
三人は「所詮は魔物の王。牛のような顔で角が生えて牙があって凶暴で乱暴で粗雑なものであり、華やかな席に自ら参加をしないと判断するくらいの知性があるのだけは褒められるわ」というのが感想だった。
「面倒臭いから行かなかっただけだ。ただ、今回はツキヨを俺の愛する女…可愛い奥様(予定)を紹介をしておきてぇんだ。ツキヨの顔が分かれば、おかしなやつも手を出さなくなるからな」
ツキヨはあの好色な公爵の顔を思い出して身震いがした…が、アレックスがそっとツキヨの隣に座り肩を抱きしめた。
「こーてーへーかの奥様に手を出す馬鹿はいねぇよ。俺はツキヨに誓った…俺が守る。安心しろ」
こめかみに軽く口づけた。
「仲のいいことも見せておけば尚いいかと」
レオも簡単に言う。
「え…」
再び、固まったツキヨだった。
「ドレスは今、布の用意をしている。それをエリに仕立ててもらう予定だ。まさにお披露目に相応しいものだ」
アレックスはニカニカと笑う。
「もしや、以前見せてもらったあの不思議な糸ですか?」
「そうだ。それを布にして最新のドレスに仕立てて舞踏会へ行く」
「あの…つまりそれは…母の織機が完成をしたのですね?!」
「おう。近く見に行くか。織機もどんどん作るように頼んである」
「はい!ぜひ、連れて行ってください!母の織機を…見たいです!!」
ツキヨは思わず飛びつく勢いでアレックスに抱きついた…そしてツキヨに顔が見えないのをいいことにデレデレとしていた。
二杯目の温かい紅茶がレオによって淹れられた。
「婚約に関してはこれで滞りなく進むかと思うので…あとは落ち着いたら式をする…となる…。それは城でやるのか?それなりに人が集まることになるけど…」
1人の応接用の椅子にレオも座っている。
「まぁ、ここでいいだろ。他に広いとこもねぇんだし。作るもんでもないだろ」
「せっかくだから季節のいい時期にちょっと豪奢な雰囲気の屋敷を建てて、そこで式をしたら他の貴族や裕福なやつらも真似をして同じことをすれば経済も動くと思う。それがだめなら迎賓館として使うとか…公共事業として短期的だけど雇用にも繋がると思うんだが…」
「それも考えたが、一時的なのはどうかと俺は思うんだよな。中長期的なものならいいけどよ…あぁ、そうかそこで完成後にそこの人員として雇うのもいいな」
ツキヨはアレックスとレオのあーだこーだと規模の大きすぎる話を聞いているだけだった…。
そして、この大規模な話を聞いて皇帝陛下の元へ嫁ぐことを初めて意識した。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
追放された王女は、冷徹公爵に甘く囲われる
vllam40591
恋愛
第三王女エリシアは、魔力も才覚もない「出来損ない」として、
婚約破棄と同時に国外追放を言い渡された。
王家に不要とされ、すべてを失った彼女を保護したのは、
王家と距離を置く冷徹無比の公爵――ルシアン・ヴァルグレイヴ。
「返すつもりだった。最初は」
そう告げられながら、公爵邸で始まったのは
優しいが自由のない、“保護”という名の生活だった。
外出は許可制。
面会も制限され、
夜ごと注がれるのは、触れない視線と逃げ場のない距離。
一方、エリシアを追放した王家は、
彼女の価値に気づき始め、奪い返そうと動き出す。
――出来損ないだったはずの王女を、
誰よりも手放せなくなったのは、冷徹公爵だった。
これは、捨てられた王女が
檻ごと選ばれ、甘く囲われていく物語。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される
絵麻
恋愛
桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。
父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。
理由は多額の結納金を手に入れるため。
相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。
放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。
地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~
深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる