闇より深い暗い闇

伊皿子 魚籃

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闇-56

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 結局、魔鬼死魔無君がエリザベスとツキヨにこっそりとアレックスの存在を主張して、やっと戻ってきたと気がついてもらったアレックスだったが仮縫いや調整で『ドレスを着たツキヨを先に見られること』…それだけを楽しみに生きていこうと決意をしていた。

「それじゃあ、アレちゃんもツキヨちゃんも楽しみにしていてねぇん゛」
 ちゅっぽん!と強烈な投げキスをされた。アレックスもツキヨも自分の額にグッサリとエリザベスの愛情が刺さったような気がした。
「エリさん、よろしくお願いします。楽しみにしていますね」
「どんなのかは今ひとつわかんねぇけど、そこはエリの仕立て屋根性に任せるからよ。頼んだぜ!」
「うっふん!頑張っちゃうわぁん!仮縫いができたらアレちゃんにぃ…愛の言霊を送るからぁん゛…よろしくねぇ」
「お手柔らかに頼むぜ…」
 青ざめて怯えている様子を見るとエリザベスの言霊がどんなものかは気になるが、本人は「うっふっふっふん」と嬉しそうだった。
「俺らは、戻るからよろしく」
 ツキヨをそっと抱きかかえると手を振りながらアレックスの影にずずりぃっと沈んだ。

 

-------------------------
 屋敷のダイニングにそのままずりぃと影から2人で姿を現す…それが当たり前のように何事も無く「お帰り~」とレオはあっさりと声をかけた。
「おう、戻ったぜ」
「ただいま戻りました」
 アレックスの腕の中からツキヨは下ろしてもらうとレオやフロリナに少し自慢げに布のことやドレスについて説明をした。
「ドレスはどのような感じなのですか?」
 興味津々なフロリナが聞くが…当の本人たちはあの『抽象画』を説明をすることができなかった。
「仮縫いの時点でどんな風になるかわかると思うのでその時にフロリナたちに説明をしますね…本当に…その…なんと言っていいのか…ぶわっとしているそうです。ぶわっと。裾も重なっているとか…うぅーん…」
 四人で腕を組んで考え込んでしまった。

 その後の、夕食はもやもやとしながらもやもやと食べた。
 全てもやもやしていた…。

------------------------
 エストシテ王国カトレア男爵領では、もやもやなんて関係なく相変わらず絶好調だった。

「おほほほほほほ!この世の春とは正にこのこと!メリーアンもミリアンも侯爵家へ一度に嫁ぐなんて王国中の年頃の娘たちが歯を食いしばって悔しがっているのか!おっほほほほほほ!!!」
 ばっしんばっしんと扇子を先日より埃が積み重なった応接室の長椅子を叩く、もうもう…と埃が舞うが気にはならないらしい。
 気が大きくなったのかマリアンナのドレスが豪華になっていて、扇子も高そうな螺鈿細工が施されている。
「お母様ぁ…この間、ひどいのですよぉ。領都でお姉様とお買い物のとき女子学校で一緒に学んだ子と久しぶりにお会いしたらわたくしがマリスス侯爵家へ嫁ぐというと『警備隊にご相談をされたらいかがかしら?』って嘲笑うんですぅ…」
「私たちを羨むのは致しかたないこと。たかが商人の娘なんて嫁いだあとに侯爵様の力でどうとでもしておしまいなさいな!」
「でもぉ…その子、たかが商売人の娘のくせにフリージア子爵のご子息と来年結婚されるとか。商人の娘が貴族に嫁ぐだなんて…フリージア子爵はお金に困っていらっしゃるのか目を疑ってしまいますわぁ!」
「ミリアン、それは本当?貴族が商人と縁続きになるなんて…信じられないことだわ!その子は何もわかっていらっしゃらない頭の可哀想な方なのよ。嘆かわしい!」
 三人でワァワァと応接室で騒ぐ。すると、扉が叩かれる…と挨拶もせず当たり前のように背の低い、赤毛に茶色の瞳をした男が入ってきた。

「おお!私の愛しい三美神!今夜も美しい!」

「ウィリアム!いつ、戻っていらっしゃったの?!」
「はぁ…全く、私の妻が実にうるさくてね。やっと、こっちへ戻ってこれたんだよ…私の天国はまさにここだ…妻はを理解しない実につまらない女だよ。嘆かわしい!」
「まぁ!それはかわいそうに。ここでゆっくりして元気を出して…」
「マリアンナは天使だね…元気が出るよ。ありがとう」

 ウィリアム・ドゥ・デンファレ子爵…当然既婚者であるがマリアンナの愛人で土地の投資や売り買いで財を成したこともあり、彼の手筈でマルセル名義だった土地や屋敷等をマリアンナに有利になるようにあれよあれよとマルセルから名義を変えてしまった。
 過去にマルセルはウィリアムと商品の取引をしていたことがあったが、未納品、低品質なものの混在、支払い遅れにマルセルも怒り、取引を中止してしまったことがある。
 未だにそれを根に持っているのかいそいそと楽しそうにマリアンナの名義を変えてしまった。

「マリアンナの天使たちも嫁ぎ先も一度に決まって…まさに日頃の行いの良さの表れだね」
「ウィリアム様も私たちの結婚後はお母様と王都付近に住まわれるのですよね?家が無くてもアルフレッド様にお願いをすれば小さくても素敵なお屋敷をご用意していただけますわ!そうすれば、慣れない王都の侯爵家の生活もミリアンとウィリアム様とお母様がいれば安心ですわ!」
「わたくしもお姉様、お母様…そしてウィリアム様がいればより安心ですわぁ」
 四人でうふふ、おほほと楽しそうな未来予想図を描く。

 美しいドレスで装った女主人にかしずくメイドや使用人…そのドレスは全ての淑女が憧れる最先端の型でそれは王都の貴婦人の間で流行になる。そして、惜しげもなく金銀宝石で身を飾り立てる…隣には王国の地味な王太子なんて吹っ飛んでしまうほどの麗しい夫。

 思わずうっとりしてしまっていると思い出したようにマリアンナが意識を取り戻す。

「…噂では今回の舞踏会には帝国の皇帝が参加をすると聞いたわ。しかも、婚約者の披露も兼ねているとか…全く、忌々しい。我々こそ侯爵家の婚約者として披露をするのに相応しいのに…所詮、帝国の皇帝といえども何も考えていない魔物と同じ粗忽者。おお、嫌だわ」
「いやぁ!お母様ぁ!ミリアンは怖いですわぁ!魔物の王なんて恐ろしい…!!婚約者もきっと恐ろしい姿をしているのかと考えるとぉ…震えてしまいますわぁ!!」
「ははは、ミリアンちゃん。大丈夫だよ。この私も参加をするんだ。怖いことがあっても私の天使たちはこの身が砕け散ろうとも守るよ…」
「まぁ、ウィリアムったら…おほほほほ!」
「わたくしもアルフレッド様が守ってくれるとも思いますがやっぱり頼りになる殿方が一番ですわ…」

 天井裏で木の葉隠密が爆笑に耐えられず一度、離脱をした。

 幸せなのはいいことだ。
 …多分。


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 その日、昼食に食べるとアレックスは一人、いそいそとしていた。
 
 ドレスの仮縫いを見るだけでこの状態ということは完成した日にはどうなるのかフロリナは不安だった。
「お館様、落ち着いてくださいませ。今、ツキヨ様のお支度をしているのですから…」
 さっさっさ…と黒髪を整えると繊細な金細工に珊瑚玉が映える髪飾りを刺した。
 本音を言えばフロリナだって、ツキヨのドレス姿を仮縫いとはいえ本当に見たくて見たくて仕方が無いのだ。
あの布がツキヨの体をどのように包み込むのか…どのような型にも合うように多彩な宝飾品を揃えたち、誂えたりしたがどれが相応しいか見比べてみたいのもあるが…私利私欲でフロリナはツキヨのドレス姿が見たくて見たくて仕方が無いのだ。
 レオも見たくて見たくて仕方が無いのだ。
 アレックスも見たくて見たくて仕方が無いのだ。

 ツキヨはなぜか殺気を感じていたが、早くドレスが見たくて見たくて仕方が無い。
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