闇より深い暗い闇

伊皿子 魚籃

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闇-119

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「ぶふふ…」

 新種のふわもこな小動物となったツキヨがアレックスの目の前をきゃあきゃあと声を上げながら積もった雪を掬って撒き散らして遊んでいる。

「ぬふふ…」

 さっきから変な笑い声しか出ていないがアレックスは菫色の瞳を優しくいやらしく?細めて、小動物を観察をしている。
「雪は降ったのを見たことはありますが、こんなにたくさん降って積もったのは初めて見ました!やっぱり、父の領地のある南部とは違うんですね!!」
 雪に足をとられつつもツキヨは雪原と化した庭で雪の感触や冷たさ、まだまだ降り止まない様子に興奮した声で感想を述べる。
「おう。もっと山のほうは積もるが、この辺は冬になると何日かに一度は雪が降ってこんな日が続くんだ。ただ、馬車も使えねぇから外出が大変になるのが難点だな」
「あぁ…そうですよね。買い物などはどうしているのですか」
 小さい雪玉を作って並べて遊んでいるツキヨはアレックスの話す大雪の現実を知る。
「種族によっては食べないでも問題がないやつらもいるが、普通にメシを食うような種族は春から秋の間に用意していた保存食を食っていることが多い…はず。近所で誰かが町へ出かけるときに頼んだり、いろいろ買って帰って分け合ったりしてるようだ」
 アレックスの黒い外套に雪が降り積もる。長い絹糸のような銀髪を更に彩るように雪が纏わりついている。
「雪が降るって、憧れがありましたが想像していた以上に大変なんですね…」
「まぁ、雪国はこんなもんだし慣れている。ただ魔気が弱いやつらには辛い季節であることは間違いはねぇな」
 さくさく…と雪を踏みしめてアレックスはツキヨのそばにしゃがみ、ツキヨがせっせと作った小さな雪玉を、そっと二個ずつ重ねると小さい雪だるまが列を成す。
「寒さに強くて空を飛べたり、雪に強いかたが買い物の代行とか集落へ運ぶことができたら…なんて、単純ですかね」
 それに対抗するようにツキヨはどんどん雪玉を作る。
「いるにはいるが…あんまり商売として荷物を運んだりするようなことは考えたことはねぇな。雪が降るっていうのが当たり前になっているからなぁ…」
 アレックスも雪玉をどんどん重ねる。

「ククク…俺は考えたぞ。雪深いところに食品や荷物を運んで引き篭もっている奴らを家から引きずり出して困らせて苦しめてヒィヒィ言わしてやる。死にそうなジジィやババァのために医者も派遣して苦い薬を処方して苦しめて長生きさせて、帝国から逃げ出そうなんざ甘いということを洗脳してやる…おれのかんがえた、さいきょうのけいかくだ」
 悪い笑顔でツキヨの雪玉をひょいひょいと重ねる…気がつくと雪玉製造工場ツキヨに到達してしまう。
「遅いな…ククク」
「すいません」
 雪まみれのままアレックスはツキヨを抱き締めるとごろごろと降り積もった雪の上を転がる。
「ひゃああぁぁあっ!!冷たいです!冷たいです!!!」
「ハハハ!今度は氷の上を滑りに行くぞ!楽しいぞぉ!!」
 仰向けになったアレックスは地面の雪を避けるようにツキヨを筋肉布団の上に乗せる。ごろごろと転がったせいで、ツキヨの黒髪は白い綿帽子をかぶっていた。
 アレックスは大きな手で白い外套や髪の雪をそっと掃い、ツキヨの頬に触れる。不思議なことにさっきから素手で雪に触れていたはずが温かく感じ、思わずツキヨは目をぱちくりとする。
「そんなビックリすんな。俺が冷たい手でツキヨに触れると思うか?そろそろ屋敷に戻って暖かくしねぇと俺がフロリナに殺される」
「アレックス様も雪だらけで風邪を引きますよ」
 毛糸の手袋をした手を伸ばしてツキヨはアレックスの髪の雪を掃う…その手を取り、手袋越しに口付けをしてまた抱き締める。
「俺は…最高の幸せもんだな…早く春になるように天候を動かす禁術を使いてぇ」
「それは気が早過ぎで余所に迷惑になりますよ。冬もあっという間に終わります。春になれば…その…アレックス様の…」
 ツキヨもきゅっと抱き締め返す。
「そうか…楽しみにしながら春を待つか…早く俺の嫁さんになれ…」
「はい…私も楽しみです」

 二人で静かに降り積もる雪を眺めて、屋敷へ戻った。



 フロリナは冷え切ったツキヨを風呂へ入れて、温かい室内着を着せると着替えたアレックスの待つ応接室へ向かう。
「風邪は引かないとは思いますが、少しでも体調がおかしいと思ったら早めに言わないと大変なことになりますアレックスの暴走
「えぇ…分かっています…」
 簡単に想像ができるのは、この生活にすっかり慣れた証拠…ツキヨはアレックスのことを想像して肩を竦めた。

 応接室に入るとアレックスが座り、レオが紅茶を淹れている最中だった。
「お。今、ちょうどレオが紅茶を淹れているから一緒に飲もうぜ」
 アレックスの正面の長椅子にツキヨが座る。
「そっちに座んのか?」
「えぇ…こっちがいいかなと…思っていて」
「寒いから俺のお膝に座るのをおすすめするぜ。座り心地も最高で今ならマッサージ機能も兼ね備えている上に大胸筋枕が付属している最高級の椅子だ」
 満面の笑みでツキヨを膝の上に誘う…長い足で自慢の蹴りを繰り出す両太股をポンポン!と叩いてアレックスは椅子のご利用をお勧めする。

 確かに座り心地はいいことは認めるがツキヨは躊躇をする。
 そして、その膝に座った。

 
 
「よっ…と。失礼します」
 レオが。
 アレックスの膝にレオがちょこんと座る…のを見てフロリナとツキヨは固まる。

「おい…この構図ってよ…需要あるのか?」
 膝の上のレオの背後から低い声が響く。
「恐らく、需要はないな」
「そうだろ。俺たちにそんな需要はない」
「新しい刺激を求める…そんなものも必要かと思ったんだが」
「なんの刺激かは詳しく聞かないことにしておく。だが、俺とレオの需要がないことは素直に認めよう」
「あぁ…」
「需要って言うのは難しいんだ」

 【ですよねー】

「ん?レオ、何か言ったか?」
 すっとレオが立ち上がる。
「いや、何も言ってないが」
 全員で首を傾げながら温かい紅茶を飲み始めると謎の天の声は紅茶の湯気と一緒にかき消された。


***

 雪が降る日が続いていたある日、フロリナはツキヨに頼まれた黒、濃紺、青の毛糸―――実は高級なアラクネの冬糸―――を購入して渡す。
 喜んで受け取るツキヨには何も言わず、フフフ…とフロリナは心に留める。
「内緒にしてね」
「はい、もちろんです」
 秘密の共有にニッコリと良い笑顔で応えた。

 それから数日間はツキヨはアレックスが「寂しいよー、寂しいよー…」と嘆くほど自室に籠りせっせと何かの作業に夢中になっていた。
 当然、レオがアレックスのケツを蹴り飛ばして仕事をさせるがいい歳したおっさんがメソメソとした姿を見ても残念ながら何にも得にはならなかった。
 
 秘密を知るもの同士、フロリナはツキヨが根を詰めていないか様子を見に行くがさっと隠されてしまう。
 それでも、にんまりとだけして紅茶を淹れて部屋を出ることを繰り返した。

 宵越祭クリスマスまであと少しだった。
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