闇より深い暗い闇

伊皿子 魚籃

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闇-127

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 宵越祭当日と翌日は基本的に帝国も含め近隣諸国では国民や王族、貴族は休日を取り、ゆっくりと家族や親族らと過ごす。

 ゴドリバー帝国では、休みや祝い事が大好きなアレックスが皇帝位に就いたときに『宵越祭っていうやつが他の国にあって楽しそうだから休みにするからな!働いたら俺が呪い殺す』の一言で帝国にそれまでなかった宵越祭が勝手に導入され、休日とされた。
 それ以来、呪い殺されたくないため他国と同じように各種族は自宅や巣、洞窟、土の中、湖や池の中などで過ごすこととして定着をした。
 雪深い地域では元々外出もままならないため、家で家族と過ごすことには変わりはないが少しいいものを食べたり、贈り物をしたりなどを楽しむささやかな一日となっている。

 帝国は皇帝を頂点に政治の中心となる『五公』と呼ばれる存在がある。
 …とはいっても、実際はアレックスが勝手に決めて物事を自ら進めてしまうため出番はほとんどないが宰相であるレオを筆頭に法務、財務、国土、軍務…と大まかに決められているが所詮は魔族ゆえ各自が適度にまとめあげているようなものであったが当然、数字や細かいことは正確性を求められるのでそこは真面目に五公として勤めていた。

 その五公の筆頭でもあるレオことレアンドロ・トゥルナ・リゲル公爵はいつもよりも少し遅く起床をして身なりを整えて居候をしている―――アレックスの管理のために住み着いている―――アレックスの屋敷の私室から出る。
 宵越祭翌日ではあるが昨日も最低限の料理人や使用人が出勤しており、彼らに労いの言葉をかけつつ特別手当を渡すと「おはようございます」とパリッと糊のきいたメイド服を着たフロリナが挨拶をしてきた。
「あぁ、おはよう…ん?それは?」
 フロリナが手にきれいな包装紙に包まれた大小様々な箱を幾つか抱えていた。
「これは、エストシテ王国の国王両陛下とマルセル様とエリ様、木工職人のブラウンさん一家からの贈り物です」
「応接室に入れておけばツキヨちゃんが起きたら…無事に起きられたら…確認すればいいかと…」
「えぇ…生存確認はできていますのでいずれ起きる…かと」
 二人の間にどんよりとした空気が流れる。

 アレックスは夜間、私室に鉄壁の結界を張っているため物音も聞こえない上に状況も結界を破ることができなければ確認をすることはできない。
 なお、ツキヨは浴室から出たあとに寝台が整え直されているのはフロリナか侍女が行っていると長らく思っているが、実は寝台を清め整えているのはアレックスが痴態のあとすら見せたくないとして、無理矢理鍛えた魔鬼死魔無君である。
 眠ることもないただの自身の魔気の塊であり、夜中に人を起こすこともないのでやらせているが、未だにツキヨは勘違いしているためいつも浴室から出ると恥ずかしそうにするのをアレックスは事後のデザートとしてニヤニヤと楽しんでいた。

「魔鬼死魔無君からこっそりと戦況報告がありましたわ…」
「料理人には昨夜のうちに食べやすいものを用意させているからこっちは準備万端だ…」
 二人で大きなため息をついたあと、フロリナは箱を応接室へ運び、レオはアレックスの執務室へ向かった。



 アレックスが目を覚ますといつもと同じように腕の中にツキヨが眠っていた。
 国宝となった腹巻をして寝たがやっぱりきちんとツキヨの隣で目を覚ましたため、やっぱり腹巻の必要はないのかと思いつつもガッツリ割れた腹筋がツキヨの小さな手で優しく包まれているような気がするのは悪くないなとニヤリとする。
 眠るツキヨの寝衣の隙間から見える首筋やうなじには赤い所有印がちらちらと見える…が、朝の生理現象も重なり更に熱がアレックスの中心部に集まり始める。
 あれだけ大量に放出したはずなのにと思うが、さすがに命の危機を感じるので寝台からそっと起き上がり洗面所の個室に籠り二度ほど処理をする。

【俺はガキかよ】

 またも大量に出た白濁汁を見て笑う。

 洗面所で髪を整え、顔を洗い寝室に戻るがツキヨは相変わらずくてーっとして眠っているのをしばらく愛でて、眠っているのをいいことに頭の先から爪先まで口付ける。
 気を遣って眠るツキヨは、なかなか起きない上、アレックスが犯人であるため用事がなければ無理に起こすことはしない。

 毎月の月のものと翌朝が早い用事があるとき以外は、大半はこの調子だが。

 アレックスは衣装部屋で腹巻を大切に箱に収めてから、手早くシャツとベスト、トラウザーズに着替える。
 そして、アレックスしか届かない棚に隠しておいた『本当の贈り物』を取り出して手に持ち、眠り姫にまた口付けて私室をあとにした。



「……お館様、おはようございます」
「……おはようございます」

 食堂で二人にふっ笑われつつ、爽やかな朝の挨拶をされる。
「…お、ぅ。おはよう…ございます」
 フロリナの淹れた熱い紅茶を一口飲むが突き刺さる二人の視線が痛い、今までも何度か似たようなことはあったがさすがに今朝はいつもより痛い。
「ツキヨ様はまだしばらくはお休みかと思いますが、朝食と反省文はどちらから先に手をつけられますか?」
「あ、はい。反省文からでお願いいたします…」
 横からスッとレオが紙と愛用のペンを差し出してきた。
「状況的に100枚は必要かと…」
「ですよねーって、なんで状況を知ってんだよ」
「そんなもん、簡単に想像がつくだろうがっ!!」
「勝手に想像すんじゃねぇよ!!ツキヨが汚れるだろっ!!」
「お前が汚してんだろ!!」

 紙が50枚追加された。



「うううう…身体が重い…」
 原因となったアレックスとの情交をつい思い出してしまうがくんずほぐれつつあんなことそんなことになればこんなことになるだろうと涙目になる。
 ぐったりとしながら窓の外を見ると薄暗い雪雲が覆う空であったが昼か昼過ぎ辺りだろうと予想をしていると寝室の扉を叩く音がする。
「ツキヨ様、おはようございます…入ってもよろしいですか」
 声に答えるとシャッキリとしたフロリナが入ってくる。
 ボロボロの自分と正反対の姿にトホホ…と泣き言が出そうになるがなんとかゆっくり寝台で起きて「おはようございます…」とやや掠れ声で挨拶をする。
「横になっていても結構ですが、具合はいかがですか」
 寝台横にきてフロリナは優しく尋ねる。
「…いつも通り声と筋肉が…うぅ…」
「また、少し治療の魔気をかけましょう」
 起き上がったツキヨを横にならせるとフロリナは手のひらに魔気を集めて、ふっと息を吐くと同時にツキヨの身体を魔気で包み込む。
 目に見えない魔気に包み込まれたツキヨは、じんわりと鈍痛や凝り、違和感のようなものがすぅっと軽くなり喉の腫れもなくなった。
 魔族に属するものは魔気で怪我を治療するのが不得手なものが多いが、フロリナはツキヨの朝の苦痛を取るためだけに意地で習得をした。
「ふー。いつもありがとう。楽になりました…うぅ」
 もそもそと起きて寝台から立ち上がる。
「いいえ、その原因を作る原因が悪いのですから!まったく、もう!」
 ぷりぷりと文句を言って、アレックスの寝室に新たに作ったツキヨの衣装部屋にフロリナが向かうとツキヨはその間に洗面所で顔を洗い、髪を簡単に整えた。
 特に楽そうな意匠のドレスを何枚か手に取ってフロリナはツキヨに選んでもらうと着替えを手伝い、鏡台で髪を再度整えて髪飾りをつける。
 ツキヨは私室でのんびりと過ごすこともあるが、日に日にアレックスの部屋で過ごすことが多くなったため衣装部屋や鏡台など女性であるツキヨのための設えがアレックスの手によって勝手に増えてきた。
 
 フロリナは着替えの最中にあちこちにつけられたアレックスの赤い所有印は見なかったことにしているが今度、ツキヨに魔気で治療をしたら全部消してしまうことを計画した。
 ツキヨは見られることを既に諦めていた…。



 ふんわりとした柔らかい毛糸のような生地―――アラクネの冬糸でできた冬物のドレスを着たツキヨがフロリナと一緒に食堂に入ると、椅子に座ったまま燃え尽きたアレックスの姿があるが目の前には大量の紙の束が置かれていた。
「おはようございます」
「レオさん、おはようございます…あの…アレックス様は?」
「遺書…じゃなくてツキヨちゃん宛ての反省文を200枚を書いて燃え尽きました」
 途中で何かがあったのか枚数がまた追加されていた。
「そんな書かなくても…」
 アレックスの正面のいつもの席にツキヨが座ろうとするとレオが椅子をさっと引いて、座る。
「いや、それでも3枚目の途中から売れないロマンス小説になって、最終的には美味しい野営食の作りかたに内容が変わっていたので反省文とは言い難いかな、と…」
「美味しい野営食は、ちょっと気になりますが…」
「ちらっと読みましたが雑草を炒めていたようなものでしたのでツキヨ様にはお勧めしたくないですわ…」
 熱い紅茶を淹れてフロリナが燃え尽きているアレックスを情けない顔で見つめる。
「ざ、雑草ですか…」
 紅茶を飲み、しばらくするとレオが『滋養強壮がある消化にいいもの』の朝食兼昼食を運んできてツキヨの前に並べる。
「いただきます…」

 身体はフロリナのお陰で調子はいいが、お腹にいい美味しいものを口にするとそれが呼び水となりどんどん食べ進めてしまう。

「ツキヨ様、エストシテ王国の国王両陛下、マルセル様にエリ様、ブラウン様ご一家から贈り物が届いておりますわ」
 だいぶ前にフロリナとレオと一緒に贈り物の手配はしていたものの、こちらへも届くと何かが巡り繋がっていたことを感じて嬉しくなってしまう。

 自然と食事をする速度が早くなるツキヨだった。
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