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闇-131
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日々、変態紳士淑女同盟に怯え続けるのもすっかり慣れた…というよりも、だいぶ前から既に諦めていたツキヨは式や披露宴のこと以外にも未来の皇后としてアレックスと一緒に国内外の政務に少しずつ関わることも始めていた。
「俺はやんなくてもいいんだぜ~。面倒臭せぇんだし。今は式とかのことで忙しいんだしよ…それに、俺と全然遊べねぇ…」
大きな執務机に顎を乗せてぐだぐだしているアレックスが悪の誘いをかける中、ツキヨはいつもの長椅子に座って書類を読んでいた。
「式とかのことで忙しいのは今のうちだけですし…終わって落ち着けば…」「落ち着けば新婚旅行だろ!蜜月!ハニームーン!!!」とツキヨの横に座る。
「俺は海がきれいでうまいものがたくさんあって暑いところに行きてぇが、ツキヨのご希望はっ!?」
仕事のときより何千倍も真剣な眼差しで問う、そして謎の圧力。
「えぇ…っと。新婚旅行ですか…」
「おうよ。物凄い重要で大切なもんだ。期間は最低でも一週間だな、豪華でも質素でもなんでもいいぞ。あぁ、せっかくだからこの間の美味しい野営食の作りかたの実践版でもいいんだぜ」
菫色の瞳は遠足前日の子供のようにきらきらとしている。
「確かに野営食は気になりますが、そんな長期間は…」「よし、一ヶ月だな!決まりだ!」「え…」ツキヨの意見を聞いて、あっという間に旅行の期間が無事に決まった。
「あ…」
「やっぱり、二ヶ月にしよう!短すぎだ!」
そしてまたあっという間に期間が延長された。
その後、期間は三ヶ月に変更されて『豪華山海の珍味食べ尽くし南国らぶらぶ新婚旅行!ポロリもあるでよ☆』が決定した。
ツキヨの希望は結局……山菜、きのこ狩りとなったが野営食以前に頭が痛いことになりそうだとツキヨは今から頭を抱えていた。
その夜、三ヶ月の新婚旅行計画に怒ったレオと『第?回帝国魔族最強決定戦!』が開催されるとそれにフロリナも参戦。
慣れとは恐ろしいものでツキヨは早々に寝てしまった。
*
「うるせーとツキヨが起きるだろう!毎日働きもんの皇帝陛下は休んでも問題ねぇ!」
「この際はっきりと断言するがっ!!お前が休んでも一切問題はない!!が、ツキヨちゃんはすぐに帰して残りは一人で行け!」
「ツキヨ様は私がお預かりいたしますので…お二人で仲良くあの世へ視察でも行かれては?」
「あの世に行くのが新婚旅行か?!お前はいつもそばにいるからって自分の魔気をまとわせてウフフしているのを知ってるんだぞ!」
「ど変態猥褻淫乱卑猥エロ色魔皇帝の加齢臭を消していると感謝していただきたいですわ。それにアレコレ記録しているほうがド変態かと!」
「俺は加齢臭なんてないぞ!フロリナが日々『どすけべ姫様淫乱花びら大回転』を想像して、最近は『淫乱新妻の秘蜜の貝合わせ昼下がり偏』に変更されたのを俺は知ってるぞ!」
「それは女の嗜み。お二人より慎ましいもので…。汗とおっさん臭いのは一切合切全て完全に不必要!」
「ナイスヤングに加齢臭なんてあるか!お前ら、靴をはくときに絶対に左右反対に靴が並ぶ呪いをかけるぞ!ばーか!ばーか!闇より生れし、闇。来い!」アレックスの右手にうぞぞぅと黒い炎が這いずると黒い刀になり、ギィンッと構える。
「おっさん二名様!あの世の視察旅行にご招待!この、どクソ畜生どもがっ!!神代の古武器…今、命を吹き返せ…銀の流星!」ぽぅ…とフロリナの手が光ると黒鉄色の塊が現れ、それを小脇に抱える。
「はぁっ!?お前らこそ木っ端微塵コの粉塵にでもなって猫用の砂にでもなるがいい!脳みそすっからかんのピーマン頭!」レオの手から細い糸が伸びた…瞬間、また『第?回帝国魔族最強決定戦!』が開催された。
なお、この低レベルの決定戦の回数は未だ持って不明である。
*
お馬鹿三人による惨劇?から数日後、ツキヨの元にエリから式のドレス一式が届いた。
フロリナはツキヨには内緒ですといい鍵つきの部屋に皺にならないようにトルソーに着せて置いた。
届いたドレスを全て確認をしたアレックスはツキヨの知らない『白い布』のドレスの出来栄えに賞賛の声をあげた。
【アレちゃぁぁぁん゛!!!感謝してよぉぉぉん゛!!徹夜続きでお肌に悪いからぁ、しばらくは寝てるからぁぁ!今度はトマホークベーゼよぉぉ゛!】
野太い声の言霊がアレックスの耳に響いたが、今はツキヨのために奔走してくれたエリに感謝をした。
「私もどんなのか見たいのですが…ぁ…」
ツキヨが珍しく上目遣いでおねだりをする。精神衛生的と技術的にツキヨにはこれ以上はできなかったが甘ったれな感じのミリアンを見習うべきかと今となって悔やむ。
「ん~。珍しいツキヨからのおねだりに応えたくなるなぁ。困ったなぁ…でへへ」
鼻の下を伸ばしに伸ばし切ったアレックスに「…その、す、菫色の瞳は神々すらも恐れる気高い瞳…えーっと、えーっと…と、とにかく見せてください」とメリーアンのように言葉を紡いでみた。
二人と継母のマリアンヌは元気にしているかと何故かこんなときに思い出した。
「ははは。見せてやるよ!」
にっかりとアレックスは微笑む。
「本当ですか!!?」
「あぁ、当日にな!」
日々の騒々しい生活には慣れても、慣れないことはしないほうがいいことを学んだツキヨだった。
*
たまに冷え込む日はありつつも、少しずつ暖かい日が続くようになると帝都サイドービ周辺は雪解けで水溜りだらけになり魔気のあるものたちは水を蒸発させたり、凍らせて近くの川へ投げ込んだりとあの手この手で水溜り対策をするのが春先の風物詩だった。
日当たりのいいところの木は新芽を覗かせ始めると通りを行く人も増えて賑やかになるが、今年は皇帝が結婚をするという祝賀ムードも相まって財布の紐も少し緩めになりがちで舞踏会に参加する帝国内の豪商や各種族、魔族の族長、魔人たち貴族階級たちもいつもよりいい品質の服飾品や宝飾品を買い求めている。
帝国民には庭を開放して城の正面露台からアレックスとツキヨがお披露目の挨拶をすることになっているがレオとしては心配の元でもあった。
普段、帝都でウロウロしたり買い物をしているアレックスのことを皇帝と知っている人もいるが、帝国では当たり前の光景のためあまり畏まったり、恐れ慄くようなことは滅多にない。
せいぜい「あ、皇帝のおっさんがいるわ~」「あら、女の子連れね。うふふ」くらいの感覚である。
しかし、帝国は必ずしも皇帝の子が次の皇帝位につくということはなく、基本的に弱肉強食の国でありアレックスも先代皇帝を倒し、皇帝位についた。
子が皇帝を継いだということもあるが、長い帝国の歴史では稀なものであった。
そのため、現在も皇帝に正々堂々と挑むものもいれば、影から暗殺を試みるものもいる。
当然、ゲオルグの木の葉が対処をしたり、アレックスが暇つぶしとして相手をすることもあるが今のところ本人が『飽きた』『ツキヨと遊ぶため引退』などと言い出さない限りは皇帝位は安定している。しかし、常に命を狙うものがいる状態であることは間違いはなく、お披露目で露台に出たとしたら結界などで対策は練っていたとしてもここぞとばかりに狙うものが現れて面倒臭いことになるとレオは溜息をついていた。
いくらアレックスでも能天気にそこで命を落とすことはないとは分かっていても、面倒なことは面倒なのだ。
露台に出たらどうなるかは、当日のお披露目の記憶のひとコマとなる花火の一種だとレオは考えるようにした。
「ツキヨちゃんが生きてれば問題なし」
守りは充分だ。
あとは木の葉やアレックス、レオ、フロリナ…エリなど高位魔族、魔人が待ち構えている布陣の中でどれだけ小バエが飛んでくるか…面倒臭いと思いつつも楽しみだと感じてしまうのは、魔族…魔人としての本能なのだ。
お祝い用に手先の糸もお手入れをしようかとレオは心が久し振りに沸き立っていた。
「俺はやんなくてもいいんだぜ~。面倒臭せぇんだし。今は式とかのことで忙しいんだしよ…それに、俺と全然遊べねぇ…」
大きな執務机に顎を乗せてぐだぐだしているアレックスが悪の誘いをかける中、ツキヨはいつもの長椅子に座って書類を読んでいた。
「式とかのことで忙しいのは今のうちだけですし…終わって落ち着けば…」「落ち着けば新婚旅行だろ!蜜月!ハニームーン!!!」とツキヨの横に座る。
「俺は海がきれいでうまいものがたくさんあって暑いところに行きてぇが、ツキヨのご希望はっ!?」
仕事のときより何千倍も真剣な眼差しで問う、そして謎の圧力。
「えぇ…っと。新婚旅行ですか…」
「おうよ。物凄い重要で大切なもんだ。期間は最低でも一週間だな、豪華でも質素でもなんでもいいぞ。あぁ、せっかくだからこの間の美味しい野営食の作りかたの実践版でもいいんだぜ」
菫色の瞳は遠足前日の子供のようにきらきらとしている。
「確かに野営食は気になりますが、そんな長期間は…」「よし、一ヶ月だな!決まりだ!」「え…」ツキヨの意見を聞いて、あっという間に旅行の期間が無事に決まった。
「あ…」
「やっぱり、二ヶ月にしよう!短すぎだ!」
そしてまたあっという間に期間が延長された。
その後、期間は三ヶ月に変更されて『豪華山海の珍味食べ尽くし南国らぶらぶ新婚旅行!ポロリもあるでよ☆』が決定した。
ツキヨの希望は結局……山菜、きのこ狩りとなったが野営食以前に頭が痛いことになりそうだとツキヨは今から頭を抱えていた。
その夜、三ヶ月の新婚旅行計画に怒ったレオと『第?回帝国魔族最強決定戦!』が開催されるとそれにフロリナも参戦。
慣れとは恐ろしいものでツキヨは早々に寝てしまった。
*
「うるせーとツキヨが起きるだろう!毎日働きもんの皇帝陛下は休んでも問題ねぇ!」
「この際はっきりと断言するがっ!!お前が休んでも一切問題はない!!が、ツキヨちゃんはすぐに帰して残りは一人で行け!」
「ツキヨ様は私がお預かりいたしますので…お二人で仲良くあの世へ視察でも行かれては?」
「あの世に行くのが新婚旅行か?!お前はいつもそばにいるからって自分の魔気をまとわせてウフフしているのを知ってるんだぞ!」
「ど変態猥褻淫乱卑猥エロ色魔皇帝の加齢臭を消していると感謝していただきたいですわ。それにアレコレ記録しているほうがド変態かと!」
「俺は加齢臭なんてないぞ!フロリナが日々『どすけべ姫様淫乱花びら大回転』を想像して、最近は『淫乱新妻の秘蜜の貝合わせ昼下がり偏』に変更されたのを俺は知ってるぞ!」
「それは女の嗜み。お二人より慎ましいもので…。汗とおっさん臭いのは一切合切全て完全に不必要!」
「ナイスヤングに加齢臭なんてあるか!お前ら、靴をはくときに絶対に左右反対に靴が並ぶ呪いをかけるぞ!ばーか!ばーか!闇より生れし、闇。来い!」アレックスの右手にうぞぞぅと黒い炎が這いずると黒い刀になり、ギィンッと構える。
「おっさん二名様!あの世の視察旅行にご招待!この、どクソ畜生どもがっ!!神代の古武器…今、命を吹き返せ…銀の流星!」ぽぅ…とフロリナの手が光ると黒鉄色の塊が現れ、それを小脇に抱える。
「はぁっ!?お前らこそ木っ端微塵コの粉塵にでもなって猫用の砂にでもなるがいい!脳みそすっからかんのピーマン頭!」レオの手から細い糸が伸びた…瞬間、また『第?回帝国魔族最強決定戦!』が開催された。
なお、この低レベルの決定戦の回数は未だ持って不明である。
*
お馬鹿三人による惨劇?から数日後、ツキヨの元にエリから式のドレス一式が届いた。
フロリナはツキヨには内緒ですといい鍵つきの部屋に皺にならないようにトルソーに着せて置いた。
届いたドレスを全て確認をしたアレックスはツキヨの知らない『白い布』のドレスの出来栄えに賞賛の声をあげた。
【アレちゃぁぁぁん゛!!!感謝してよぉぉぉん゛!!徹夜続きでお肌に悪いからぁ、しばらくは寝てるからぁぁ!今度はトマホークベーゼよぉぉ゛!】
野太い声の言霊がアレックスの耳に響いたが、今はツキヨのために奔走してくれたエリに感謝をした。
「私もどんなのか見たいのですが…ぁ…」
ツキヨが珍しく上目遣いでおねだりをする。精神衛生的と技術的にツキヨにはこれ以上はできなかったが甘ったれな感じのミリアンを見習うべきかと今となって悔やむ。
「ん~。珍しいツキヨからのおねだりに応えたくなるなぁ。困ったなぁ…でへへ」
鼻の下を伸ばしに伸ばし切ったアレックスに「…その、す、菫色の瞳は神々すらも恐れる気高い瞳…えーっと、えーっと…と、とにかく見せてください」とメリーアンのように言葉を紡いでみた。
二人と継母のマリアンヌは元気にしているかと何故かこんなときに思い出した。
「ははは。見せてやるよ!」
にっかりとアレックスは微笑む。
「本当ですか!!?」
「あぁ、当日にな!」
日々の騒々しい生活には慣れても、慣れないことはしないほうがいいことを学んだツキヨだった。
*
たまに冷え込む日はありつつも、少しずつ暖かい日が続くようになると帝都サイドービ周辺は雪解けで水溜りだらけになり魔気のあるものたちは水を蒸発させたり、凍らせて近くの川へ投げ込んだりとあの手この手で水溜り対策をするのが春先の風物詩だった。
日当たりのいいところの木は新芽を覗かせ始めると通りを行く人も増えて賑やかになるが、今年は皇帝が結婚をするという祝賀ムードも相まって財布の紐も少し緩めになりがちで舞踏会に参加する帝国内の豪商や各種族、魔族の族長、魔人たち貴族階級たちもいつもよりいい品質の服飾品や宝飾品を買い求めている。
帝国民には庭を開放して城の正面露台からアレックスとツキヨがお披露目の挨拶をすることになっているがレオとしては心配の元でもあった。
普段、帝都でウロウロしたり買い物をしているアレックスのことを皇帝と知っている人もいるが、帝国では当たり前の光景のためあまり畏まったり、恐れ慄くようなことは滅多にない。
せいぜい「あ、皇帝のおっさんがいるわ~」「あら、女の子連れね。うふふ」くらいの感覚である。
しかし、帝国は必ずしも皇帝の子が次の皇帝位につくということはなく、基本的に弱肉強食の国でありアレックスも先代皇帝を倒し、皇帝位についた。
子が皇帝を継いだということもあるが、長い帝国の歴史では稀なものであった。
そのため、現在も皇帝に正々堂々と挑むものもいれば、影から暗殺を試みるものもいる。
当然、ゲオルグの木の葉が対処をしたり、アレックスが暇つぶしとして相手をすることもあるが今のところ本人が『飽きた』『ツキヨと遊ぶため引退』などと言い出さない限りは皇帝位は安定している。しかし、常に命を狙うものがいる状態であることは間違いはなく、お披露目で露台に出たとしたら結界などで対策は練っていたとしてもここぞとばかりに狙うものが現れて面倒臭いことになるとレオは溜息をついていた。
いくらアレックスでも能天気にそこで命を落とすことはないとは分かっていても、面倒なことは面倒なのだ。
露台に出たらどうなるかは、当日のお披露目の記憶のひとコマとなる花火の一種だとレオは考えるようにした。
「ツキヨちゃんが生きてれば問題なし」
守りは充分だ。
あとは木の葉やアレックス、レオ、フロリナ…エリなど高位魔族、魔人が待ち構えている布陣の中でどれだけ小バエが飛んでくるか…面倒臭いと思いつつも楽しみだと感じてしまうのは、魔族…魔人としての本能なのだ。
お祝い用に手先の糸もお手入れをしようかとレオは心が久し振りに沸き立っていた。
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