闇より深い暗い闇

伊皿子 魚籃

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闇-138

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 国民たちには非公開の城の中庭にはお茶会に招待をされた王侯貴族、豪商たちが華やかな衣装に身にまとい各テーブルに着席をして、主役二人の登場を待っていた。

 中庭はお茶会のためにオジーがここぞとばかりに腕を奮って、この日に合わせて各種の花が咲き誇るように整えて満開の見頃となっている。
 さながら植物園のような品種の多さに招待客も驚きながらも美しさに溜息を漏らすほどだった。

 給仕たちが担当する各テーブルにティーワゴンを置き紅茶の準備を始める。
 今日のお茶会の菓子類はツキヨの見立てで用意をされいているが紅茶もエストシテ王国から輸入をしているツキヨがお気に入りの一級品紅茶でも特に花の香りが芳しいものを用意した。
 アレックスがツキヨの出身国であるエストシテ王国の若き国王夫妻の後ろ盾であり、帝国として最重視している国というアピールでもあり『帝国の後ろにエストシテ王国があり、王国の後ろにゴドリバー帝国がある』……大国同士が繋がっていることを理解すれば、馬鹿な国でも手を出すことはないという考えの下でもあった。

「お待たせいたしました。ゴドリバー帝国アレクサンダー皇帝陛下並びにツキヨ皇后陛下のご入場いたします」
 留守中に城を預かる年嵩の代官が声を高らかに宣言をすると、招待客たちはザッと立ち上がり各国の最上級の礼をする。

 さくさく……と芝を踏み歩く二人分の足音が招待客の前のやや高い位置に作られた長テーブルの椅子の辺りで止まる。
 先程の露台からのお披露目から比べれば人数は少なく、気軽なお茶会形式ではあるがツキヨはやや緊張をして呼吸が乱れていることにアレックスが気がつくと、エスコートをするためにツキヨの右手が載せられていた左腕の肘に力をこめ筋肉でムキッと挟んだ。
 ツキヨは筋肉の弾力を感じると緊張していた呼吸が一気に『ふはぁ』と変化したのを実感するとアレックスはニヤニヤと笑っていた。緊張感より筋肉とは、現金なものだと思いつつ珍しくツキヨは反省しなかった。

「よい。楽にせよ」
 アレックスは中庭によく響き渡る声で声をかけると、招待客たちは頭を上げた。
「皆の祝福に感謝をする。そして、ここは皇后からの菓子や茶を味わい花を愛でる席である。気を楽にして過ごしてほしい」
 招待客から拍手をされるとアレックスとツキヨが着席をして年嵩の代官も招待客に着席を促した。

 それと同時にちょうど飲み頃になった紅茶がティーカップに注がれた。
 庭の満開の花々に紅茶の香りが混ざり合いより芳しくなる。
「オジーの整えた花も香りがいいですが、紅茶と一緒になるとまた良い香りが楽しめて贅沢な気持ちになります」
 アレックスは幸せそうに香りを楽しむツキヨの姿に鼻の下が地面につきそうなくらい伸び……ないように顔を引き締める。
 招待客たちからも花々を愛でながら紅茶の香りを褒め称える声が小波のように聞こえる。
 中庭の花にも負けずに身なりを美しく着飾り、宝石が煌めく中で素朴で甘さ控えめの焼き菓子が給仕される。
「皇后陛下のご実家の領地にて栽培された木の実と干し果物の焼き菓子でございます」
 この日のためマルセルは領地の焼き菓子工房をフル稼働して最上級のものを用意した。
「まぁ、ご実家の……エストシテ王国の南部の方で……輸出とか……」
「……木の実だけでも美味いな」
 各テーブルで算盤を弾く声がアレックスの地獄耳には聞こえていた。
【これでマルセルもガッポリだぜぇ。働いている奴らを儲けさせて困らせてやる。ククククク】
 悪い笑顔と腹積もりに気がつかないツキヨは久しぶりにマルセルの焼き菓子を小動物のように齧る。
「やっぱりマルセルのところのは美味いな!!『甘いもんが苦手でもこれは食べられる男』は多いって聞いたな!」
「えぇ、レオさんもこれなら好きだって言ってましたね」
 少し大きな声でアレックスが感想を言うと他国から招待された豪商の男が内ポケットから紙を取り出し何かを書き留めていた。

 次に給仕されたのは帝国でしか収穫することができない『食べられる花』で飾られた果物のタルトだった。果物は甘煮にしてあるが食べられる花が涼味を加えすっきりとした味わいになっている。
「今日のために特にきれいな花を選んでくれたと聞きました。食べるのがもったいない気がします」
「ここは俺みたいに豪快に食っとけ。そうすりゃ、魔気の弱い奴らが育ててるこれがガッポリ売れるんだぜ。イヒヒ」



 弱肉強食の帝国で力や魔気の弱い魔族たちの収入源として帝国以外栽培できない薬草を弱者救済として国をあげて育てていると聞いていたツキヨがアレックスと農地を視察した際に生育のため摘花したものは捨てるか汁物の薬味にすると聞いたときに「花のまま冷菜とかにできたらきれいですね」と呟くと「あぁ、そのままでも食べられますが花は凍結でもしないとすぐに萎れるのです」と摘んですぐに萎れた花を手に持ち残念そうに説明された。
 そこで商売根性で閃いたアレックスが王城の文官で氷魔の雪女を母を持つ男を薬草園に引きずってきた。
 アレックスが「ちょっとだけ凍らせろ」と言うと泣き顔の文官が氷の魔気をふっとかけると適度に凍った花は魔気による転移陣で王城の厨房へ届けた。
 すぐに厨房にいたレオから「到着したぜ!問題なし!」と言霊が聞こえた途端アレックスは文官に告げた。
「お前、明日からここの凍結させる業務をしながら農業管理の管理責任者な。今の給料に追加して出来高払いもやる。摘花して凍結して送る……それが売れたら全員でガッポリだ!!」
 文官、改め管理責任者は腰が抜け座り込んだが、農民らは捨てるものが売り物になることに大喜びをした。


 
 その花を今、ツキヨとアレックスが笑顔で口にする姿を見て各テーブルの客人たちは花を恐る恐る口に運ぶ。
 すると、タルトの甘みに加わる涼味に驚きの声が各テーブルから聞こえる。
 そして、絶賛と算盤を弾く声がアレックスの地獄耳に心地よく聞こえる。
【来月から泣き喚いて嫌がるほど特別手当だな!グヒヒ】
 アレックスはほくほく恵比須顔だった。

 招待客も多種多様な味を楽しむと緊張も解れたのか同じテーブルの知らないもの同士でも会話が弾む。
 そして、テーブルに新しい茶が用意されると同時にプルプルした緑色の固まりが行き渡る。
 花にも驚いていたが、白いクリームが乗っている緑の固まりを前にした招待客はそれ以上に驚き、固まっていた。
「皆様は大変驚かれていると思いますが、ぜひとも一口お召し上がりください。新しい味わいがお楽しみいただけると確信しております。
また、お茶も『緑茶』と言われる珍しい茶葉でございます。優しい苦味が甘いものと相まってより一層味わい深くなり、喉を潤すかと思います」
 年嵩の代官が朗らかな声で招待客に優しく勧める。



 ある日、ハービービル王国から輸入した緑茶を薬草と間違えた王城の薬草師が石臼で全て挽いて粉にしてしまった。
 輸入品で高額な緑茶とは知らず失態をおかした薬草師は土下座でアレックスとレオに許しを乞うた。
「まぁ、粉になっただけだろ?元々紅茶と同じようにして飲むもんだから、粉を溶かして飲んでも大して変わらねえよ。気にすんな」
 アレックスは笑いながら許し、逆に薬草師に「帝国民をもう死にたいって泣き喚くほど健康になるような薬ができねぇか研究しろ」と粉の緑茶分け与えた。
 そして、厨房の料理長とレオとフロリナが粉の緑茶を湯に溶いて飲みやすくなる加減を考えだしたが、フロリナが紅茶を飲むときの癖で砂糖と牛乳を入れてしまい勿体無いからと飲んだところ苦味と甘味が絶妙になったのを料理長がデザートとして開発したものだった。



「やっぱり飲んでも美味しいけど、甘く固めてプルプルになるともっと美味しいですね」
「俺はツキヨのプルプルが美味しいけどな」
 アレックスはテーブル下でツキヨのドレスに包まれた太股に触れる。
「晩餐会のスコーンは没収です」
「ひぃ!すいません!」
 太股から手を離したアレックスは緑のプルプルに何か思い馳せながら口にした。
 ほろ苦い甘さが喉をツルンと滑り落ちる。

【俺のツキヨはほろ苦くない。甘いんだよ!】

「何か変なこと考えていませんか?」
「そんな、ツキヨ様の甘さについて考えるなんて……ハハハッ」
 フロリナの発案でツキヨの手元にはなぜか使う予定のないデザートフォークが余分に置かれていた。

『ツキヨ様、何かございましたらお使いください……ふふふ』

 それをそっと手にしてツキヨはアレックスの太股をチクチクした……最近のツキヨは逞しくなったなと涙目でアレックスは喜びを噛み締めた。

 招待客も口にすると意外な味に驚き、ざわめく。
 しかし、持ち帰るにも、レシピを手に入れるにしてもいずれも困難なことに気がつくと嘆息する。
 『帝国にしかない味』を楽しむには、また来る機会を得ないといけないことに王族や高位貴族たちは気がつく。
 お茶会の招待客は事情で晩餐会に参加できない者を除くと帝国としては『お付き合いは二の次』扱いの国である。その扱いに気がついているかアレックスは知る気もないが、お茶会のもてなしに招待客は『帝国との付き合いを考え直す』機会になるとレオとアレックスは踏んでいた。

 珍しいものを手に入れることは、権力の証にもなるのである。



 お茶会はしばしの休息を挟むと招待客たちはアレックスやツキヨに美辞麗句の詰まったお祝いの言葉を述べる。
 幾人かと言葉を交わすと二人の目の前に目に眩しいくらい派手な服に身を包んだ国王夫妻とその息子二人が下品な笑顔を浮かべながらお祝いを述べている。

 なんとなく嫌な予感がすると、そばに立つレオは嘆息した。
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