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第15章 領主の娘の帰る場所
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「う……ん」
翌朝。
この日は朝から日差しが強く、レイピアは窓から差し込む光が眩しくて目を覚ました。
昨夜お酒を飲んだせいで二日酔いで頭が重い。頭を押さえ、のろのろと体を起こす。
昨夜はとても良い夢を見た。
会いたくて会いたくてたまらなかった人が現れ、そのうえプロポーズをしてきたのだ。
良い夢を見ると気持ちが弾み心が軽くなるものなのだが、レイピアの胸中は少々複雑であった。寂しさと切なさが心の半分ぐらいを占めている。
「やっぱり、あれは夢だったのよ……ね」
夢は夢であって現実ではない。覚めてしまえばそこで終わる。
それにしてもやけにリアルな夢だったと思う。いや、そうとも言い切れない。感触は確かにリアルだったのだが、内容はそれとはほど遠いものだったから。
彼はホットリープに伝わる風習をちゃんと覚えていてくれて、銀の指輪をはめてくれたのだ。そして「ずっと側にいて欲しい」と言った。
愛してる、とも言ってくれた。
これ以上ないくらい真剣で、緊張した面持ちで。
レイピアは特に結婚という形にこだわっていたわけではない。
むしろ彼と結婚したいという思いは一度も抱いたことはなかった。どう考えてもスキルは結婚などするようなタイプではない。彼は何者にも縛られることなく、風みたいに自由に生きる人だから……。意図的に考えないようにしていたのかもしれない。
形などどうでも良かった。ただ彼に愛されて側にいることができたらそれだけで良かったのだ。
だが、夢というのは心の奥底にある願望を表すともいう。あんな夢を見てしまったということは自分は心の奥底では彼と結婚することに憧れを抱いていたのだろうか?
「銀の指輪。……結婚、か」
何気なく左手の薬指を見て、レイピアはその動きを硬直させた。まぎれもなく夢の中で見たものと同じものが薬指にはまっていたのだ。
「うそ……」
視線だけは指輪に落としたままで絶句する。
「あれは夢じゃなかった? うそ、うそ」
頭を抱え、しきりに「うそ、うそ!?」と繰り返しつぶやく。一体どこからどこまでが現実でどこまでが夢だったのだろうか。
それとも全部現実のものだったのかもしれない。
しばらく頭を抱えてうなっているとドンドンドン、と扉がノックされた。続いて「姐さーん!」と呼ぶ声。
「どうしたの、ラグス?」
「あ、姐さん。明日の仕事が終わったら息抜きにサーカスでも見に行きやせんか?」
「サーカス!?」
「なんでも明日から公演があるらしいですぜ」
そう言ってラグスはサーカスのビラをレイピアに見せる。
「どこで、これを……?」
「昨日屋敷の前にサーカスのやつがビラ配りに来たんですよ」
それはまぎれもなくスキル達サーカス団のビラだった。団ごとレイピアを追って来たのだ、彼は。呆けたようにそのビラを見ていたレイピアだったが、突然額を押さえ笑い始めた。
「何て無茶苦茶なのかしらあの人は……」
「わあ! ね、姐さん。どうしたんですかい!?」
突然レイピアが笑いはじめたので戸惑い驚くラグス。大丈夫、と言って首を振る。
「私……っ。行かなくちゃ!」
「へ? 行くってどこへ」
「……私ね、ある人の元から逃げ出してしまったの。その人と向き合うのが恐くて。でも、その人は私を追って来てくれた。そして―――逃げるなって。逃げないで自分と向き合って欲しいって言ってくれたの」
約束は今日だ。
あの人は返事を待っている。
「姐さんが昨日言ってた帰りたくても帰れない場所……。そいつが姐さんの帰る場所なんですね」
頷くレイピアを見てラグスは自分の両手を握り締め、顔を輝かせる。まるで自分のことのように喜んでくれている。レイピアの胸に熱いものが込み上げる。
「だったら姐さんはそいつのところへ行くべきです! そうと決まったらこんなところでグズグズしてちゃあいけやせん。ロワーズの旦那には俺から言っておきますから姐さんはそいつのところへ行ってくだせえ」
「ラグス、ありがとう。今すぐにあの人に伝えたい言葉があるの。それが終わったらまた改めて挨拶に来るから!」
時間を惜しむようにして駆け出す。
一刻も早く、スキルに答えを伝えたかった。
彼のプロポーズを受け入れようと思っている。
嬉しかった。
彼の申し出は本当に嬉しかった。
自分はもう一生、結婚とは縁がないと思っていたし、何よりその申し出を受け入れることによって彼とずっと一緒にいられるのだから。
もう迷わないし、逃げない。
すれ違いを繰り返してしまったけれど、今ならわかる。彼と一緒だったら、きっと上手くやっていけるに違いない。
今度こそ自分の気持ちをちゃんと伝えるのだ。
温かい仲間達のいるサーカス団と、スキル。
(あそこが……私の帰る場所)
レイピアの足がロワーズの屋敷の門まで差し掛かったとき、突如それは起こった。
一瞬、閃光が空を走り、続いてドオン!と地を揺るがすほどの凄まじい爆発音が響き渡った。
「きゃあっ!」
そのあまりの大きな音にレイピアは耳を塞ぎ、悲鳴を上げた。恐る恐る片目を開けて音のした方向を見て、凍りつく。
たった今出てきたはずの場所。真っ黒い煙を上げて屋敷の一部が燃えていた。
窓を突き破って炎が上がり舞い散った火の粉は次々と別の部屋を焼いていく。その勢いは凄まじく門の付近にいるレイピアの元にまで炎の熱が伝わってくる。
「な、なにこれ……?」
状況を理解することができず、しばらく呆然と屋敷を見上げる。
「レイピア姐さーん!」
名前を呼ばれ、その方向を振り向くと屋敷の1階の窓から飛び出してきたラグスの姿があった。駆け寄り、彼が無事であるのを確認する。
「ラグス! 無事だったのね。ねえ、これは一体どういうことなの?」
「盗賊団が爆弾を使って裏庭から攻めて来やがったんです。ここは危険ですから、姐さんは早く行ってくだせえ」
「盗賊団が!?」
爆弾を放って屋敷を燃やし、その混乱に乗じて盗みをする。
火を消すために人出の大半が流れてしまうので、火の回りにさえ気をつけていれば捕まる心配もなく盗みを行うことができる。リスクを伴う方法だがある意味効率のいいやり方である。
レイピアはハッと我に返って辺りを見回す。使用人達が次々と逃げ出してくるが、いくら目を凝らしてみても屋敷の主人の姿がどこにもないのだ。
「ロワーズさん! ロワーズさんはまだあの中にいるの?」
「そ、そういえば……ロワーズの旦那が見あたらねえ!」
口を押さえて絶句する。
「大変!」
屋敷から離れるどころかそちらに向かって駆け出したレイピアを見て、慌てふためいたラグスもまたその後を追う。
「姐さんっ! 何する気ですかい!?」
「何って助けに行くのよ。賊も放っておくわけにはいかない」
「何を馬鹿なことを! 危険です。下がっていてくだせえ」
「そんなことこの仕事に就くときに覚悟していたことだわ! 今は一刻を争うのよ。こんなことを言い合っている場合じゃない」
「姐さん!」
半ば叫ぶようなラグスの制止を振り切る。
「ラグス、あなたの心配は嬉しいわ。でもね、本当にこのままだと危険なの。屋敷全体に炎がまわってからでは遅いわ。ロワーズさんを助け出せなくなってしまう」
「だったら俺も行きやす!」
「駄目よ! あなたは消火のために人を集めてきて。広場にいるサーカス団に助けを求めてちょうだい。きっと、手伝ってくれるわ。そして外にいる護衛の人達を集めて屋敷から出てきた盗賊を捕まえるよう指揮してちょうだい!」
なおもレイピアと共に屋敷に入ろうとしたラグスだったが「これはあなたにしかできない仕事なの!」と言われ、結局彼の方が折れた。
だが、その表情は心配と不安で暗く沈んでいた。
「わかりやした。でも、姐さん。くれぐれも無茶はしねえでくださいよ。俺は、俺はあなたに何かあったら……」
「ありがとう。気をつけるわ。……お願いね、ラグス」
レイピアは燃え盛る屋敷の中へ。
ラグスは逃げ出してきた者達に、盗賊対策の指示を与えると助けを求めるため、レイピアの言うサーカス団へと向かった。
屋敷内の廊下は火の手はまわっていないものの、煙が立ち込めていて視界が悪い。
レイピアはタオルを口に当て煙に喉を焼かれないようにし、できるだけ姿勢を低くして進んでいく。盗賊と遭遇する危険も考えて空いている方の手で剣の柄を握りしめる。
ロワーズがどこにいるのか見当もつかなかったので、まずは彼の部屋から確かめることにした。
「ロワーズさん! いたら返事をしてください」
声を掛けながらロワーズの部屋へ向かう。
階段を上がるにつれて熱気も上昇していく。とうに暑いという段階を越えていて体が焼けそうなほどに熱い。滝のように汗が流れていく。せめて水を被ってから中に入ればもう少し状況は違っていたかもしれない。
(馬鹿ね、私は……)
いつも冷静な判断を失って行動に移してしまうのだ。
ピンクダイヤモンドを取られてスキルを追って一人、乗り込んだ時もそう。そして今も―――。もう少し配慮をしていれば状況はずっと良くなっているはずなのに。
だが、今さら悔やんでいても仕方がない。
やるべきことをやるだけだ。
ロワーズを助け出して、絶対に帰るのだ。彼の元に―――昨日の返事をするために。
だから絶対にこんな場所で力尽きるわけにはいかない。
再び前を見据えるとロワーズを探すべく歩き出した。
「う……ん」
翌朝。
この日は朝から日差しが強く、レイピアは窓から差し込む光が眩しくて目を覚ました。
昨夜お酒を飲んだせいで二日酔いで頭が重い。頭を押さえ、のろのろと体を起こす。
昨夜はとても良い夢を見た。
会いたくて会いたくてたまらなかった人が現れ、そのうえプロポーズをしてきたのだ。
良い夢を見ると気持ちが弾み心が軽くなるものなのだが、レイピアの胸中は少々複雑であった。寂しさと切なさが心の半分ぐらいを占めている。
「やっぱり、あれは夢だったのよ……ね」
夢は夢であって現実ではない。覚めてしまえばそこで終わる。
それにしてもやけにリアルな夢だったと思う。いや、そうとも言い切れない。感触は確かにリアルだったのだが、内容はそれとはほど遠いものだったから。
彼はホットリープに伝わる風習をちゃんと覚えていてくれて、銀の指輪をはめてくれたのだ。そして「ずっと側にいて欲しい」と言った。
愛してる、とも言ってくれた。
これ以上ないくらい真剣で、緊張した面持ちで。
レイピアは特に結婚という形にこだわっていたわけではない。
むしろ彼と結婚したいという思いは一度も抱いたことはなかった。どう考えてもスキルは結婚などするようなタイプではない。彼は何者にも縛られることなく、風みたいに自由に生きる人だから……。意図的に考えないようにしていたのかもしれない。
形などどうでも良かった。ただ彼に愛されて側にいることができたらそれだけで良かったのだ。
だが、夢というのは心の奥底にある願望を表すともいう。あんな夢を見てしまったということは自分は心の奥底では彼と結婚することに憧れを抱いていたのだろうか?
「銀の指輪。……結婚、か」
何気なく左手の薬指を見て、レイピアはその動きを硬直させた。まぎれもなく夢の中で見たものと同じものが薬指にはまっていたのだ。
「うそ……」
視線だけは指輪に落としたままで絶句する。
「あれは夢じゃなかった? うそ、うそ」
頭を抱え、しきりに「うそ、うそ!?」と繰り返しつぶやく。一体どこからどこまでが現実でどこまでが夢だったのだろうか。
それとも全部現実のものだったのかもしれない。
しばらく頭を抱えてうなっているとドンドンドン、と扉がノックされた。続いて「姐さーん!」と呼ぶ声。
「どうしたの、ラグス?」
「あ、姐さん。明日の仕事が終わったら息抜きにサーカスでも見に行きやせんか?」
「サーカス!?」
「なんでも明日から公演があるらしいですぜ」
そう言ってラグスはサーカスのビラをレイピアに見せる。
「どこで、これを……?」
「昨日屋敷の前にサーカスのやつがビラ配りに来たんですよ」
それはまぎれもなくスキル達サーカス団のビラだった。団ごとレイピアを追って来たのだ、彼は。呆けたようにそのビラを見ていたレイピアだったが、突然額を押さえ笑い始めた。
「何て無茶苦茶なのかしらあの人は……」
「わあ! ね、姐さん。どうしたんですかい!?」
突然レイピアが笑いはじめたので戸惑い驚くラグス。大丈夫、と言って首を振る。
「私……っ。行かなくちゃ!」
「へ? 行くってどこへ」
「……私ね、ある人の元から逃げ出してしまったの。その人と向き合うのが恐くて。でも、その人は私を追って来てくれた。そして―――逃げるなって。逃げないで自分と向き合って欲しいって言ってくれたの」
約束は今日だ。
あの人は返事を待っている。
「姐さんが昨日言ってた帰りたくても帰れない場所……。そいつが姐さんの帰る場所なんですね」
頷くレイピアを見てラグスは自分の両手を握り締め、顔を輝かせる。まるで自分のことのように喜んでくれている。レイピアの胸に熱いものが込み上げる。
「だったら姐さんはそいつのところへ行くべきです! そうと決まったらこんなところでグズグズしてちゃあいけやせん。ロワーズの旦那には俺から言っておきますから姐さんはそいつのところへ行ってくだせえ」
「ラグス、ありがとう。今すぐにあの人に伝えたい言葉があるの。それが終わったらまた改めて挨拶に来るから!」
時間を惜しむようにして駆け出す。
一刻も早く、スキルに答えを伝えたかった。
彼のプロポーズを受け入れようと思っている。
嬉しかった。
彼の申し出は本当に嬉しかった。
自分はもう一生、結婚とは縁がないと思っていたし、何よりその申し出を受け入れることによって彼とずっと一緒にいられるのだから。
もう迷わないし、逃げない。
すれ違いを繰り返してしまったけれど、今ならわかる。彼と一緒だったら、きっと上手くやっていけるに違いない。
今度こそ自分の気持ちをちゃんと伝えるのだ。
温かい仲間達のいるサーカス団と、スキル。
(あそこが……私の帰る場所)
レイピアの足がロワーズの屋敷の門まで差し掛かったとき、突如それは起こった。
一瞬、閃光が空を走り、続いてドオン!と地を揺るがすほどの凄まじい爆発音が響き渡った。
「きゃあっ!」
そのあまりの大きな音にレイピアは耳を塞ぎ、悲鳴を上げた。恐る恐る片目を開けて音のした方向を見て、凍りつく。
たった今出てきたはずの場所。真っ黒い煙を上げて屋敷の一部が燃えていた。
窓を突き破って炎が上がり舞い散った火の粉は次々と別の部屋を焼いていく。その勢いは凄まじく門の付近にいるレイピアの元にまで炎の熱が伝わってくる。
「な、なにこれ……?」
状況を理解することができず、しばらく呆然と屋敷を見上げる。
「レイピア姐さーん!」
名前を呼ばれ、その方向を振り向くと屋敷の1階の窓から飛び出してきたラグスの姿があった。駆け寄り、彼が無事であるのを確認する。
「ラグス! 無事だったのね。ねえ、これは一体どういうことなの?」
「盗賊団が爆弾を使って裏庭から攻めて来やがったんです。ここは危険ですから、姐さんは早く行ってくだせえ」
「盗賊団が!?」
爆弾を放って屋敷を燃やし、その混乱に乗じて盗みをする。
火を消すために人出の大半が流れてしまうので、火の回りにさえ気をつけていれば捕まる心配もなく盗みを行うことができる。リスクを伴う方法だがある意味効率のいいやり方である。
レイピアはハッと我に返って辺りを見回す。使用人達が次々と逃げ出してくるが、いくら目を凝らしてみても屋敷の主人の姿がどこにもないのだ。
「ロワーズさん! ロワーズさんはまだあの中にいるの?」
「そ、そういえば……ロワーズの旦那が見あたらねえ!」
口を押さえて絶句する。
「大変!」
屋敷から離れるどころかそちらに向かって駆け出したレイピアを見て、慌てふためいたラグスもまたその後を追う。
「姐さんっ! 何する気ですかい!?」
「何って助けに行くのよ。賊も放っておくわけにはいかない」
「何を馬鹿なことを! 危険です。下がっていてくだせえ」
「そんなことこの仕事に就くときに覚悟していたことだわ! 今は一刻を争うのよ。こんなことを言い合っている場合じゃない」
「姐さん!」
半ば叫ぶようなラグスの制止を振り切る。
「ラグス、あなたの心配は嬉しいわ。でもね、本当にこのままだと危険なの。屋敷全体に炎がまわってからでは遅いわ。ロワーズさんを助け出せなくなってしまう」
「だったら俺も行きやす!」
「駄目よ! あなたは消火のために人を集めてきて。広場にいるサーカス団に助けを求めてちょうだい。きっと、手伝ってくれるわ。そして外にいる護衛の人達を集めて屋敷から出てきた盗賊を捕まえるよう指揮してちょうだい!」
なおもレイピアと共に屋敷に入ろうとしたラグスだったが「これはあなたにしかできない仕事なの!」と言われ、結局彼の方が折れた。
だが、その表情は心配と不安で暗く沈んでいた。
「わかりやした。でも、姐さん。くれぐれも無茶はしねえでくださいよ。俺は、俺はあなたに何かあったら……」
「ありがとう。気をつけるわ。……お願いね、ラグス」
レイピアは燃え盛る屋敷の中へ。
ラグスは逃げ出してきた者達に、盗賊対策の指示を与えると助けを求めるため、レイピアの言うサーカス団へと向かった。
屋敷内の廊下は火の手はまわっていないものの、煙が立ち込めていて視界が悪い。
レイピアはタオルを口に当て煙に喉を焼かれないようにし、できるだけ姿勢を低くして進んでいく。盗賊と遭遇する危険も考えて空いている方の手で剣の柄を握りしめる。
ロワーズがどこにいるのか見当もつかなかったので、まずは彼の部屋から確かめることにした。
「ロワーズさん! いたら返事をしてください」
声を掛けながらロワーズの部屋へ向かう。
階段を上がるにつれて熱気も上昇していく。とうに暑いという段階を越えていて体が焼けそうなほどに熱い。滝のように汗が流れていく。せめて水を被ってから中に入ればもう少し状況は違っていたかもしれない。
(馬鹿ね、私は……)
いつも冷静な判断を失って行動に移してしまうのだ。
ピンクダイヤモンドを取られてスキルを追って一人、乗り込んだ時もそう。そして今も―――。もう少し配慮をしていれば状況はずっと良くなっているはずなのに。
だが、今さら悔やんでいても仕方がない。
やるべきことをやるだけだ。
ロワーズを助け出して、絶対に帰るのだ。彼の元に―――昨日の返事をするために。
だから絶対にこんな場所で力尽きるわけにはいかない。
再び前を見据えるとロワーズを探すべく歩き出した。
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