誠剣士武勇伝~現代から連れ戻された悪役令嬢は渋々救世主になる~

はるとき

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Act.5

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 最初、せいは『急に新キャラがたくさん出てきたな』と思いながら、自称・神の話を聞いていた。
 
 ゲーム内ですでに故人となっているエインズワース家の人間はともかく、自称・神に言わせればメインの一人である『フィン・ダーウィン』は、参考図書として開かされている完全オフィシャルガイドブックにきちんと載ってさえいない。
 誠自身もずっと他人事としか思えずに、フィンと自分の前世の話を聞いていたし、何より、前世の『イヴァンジェリン・エインズワース』の名も『イヴ・エインズワース』の名も、どちらを聞いても何とも思わなかった。
 
 ――なのに。

『世界を喪った少年の救済――』
『お嬢は、俺の主で世界そのものだからさ』

 キャッチコピーに、ふと懐かしい声が重なった。
 現世では一度も聞いたことのないはずの声だが、身近で強いて言えばひでが少しだけ似ているか。
 誠をどこまでも甘やかす、優しい声だ。
 酷い頭痛が誠を襲ってくる。
 後頭部を鈍器で殴られているような、こめかみを鋭い刃物で貫かれているような。
 吐き気もしてきて、誠はとっさに口を塞ぐ。
 すると、指はどんどん涙で濡れて、口から漏れてきたのはまさしく嗚咽だった。
 声を出して泣くなんて、誠の記憶のある限り殆どない経験だ。
 それでも、抑えていなければ大声で泣いてしまうだろうという確信があった。
 滲んだ視界で、スマートフォンに映し出された青年の顔を見る。
 こんなに凛々しい顔なんてしていなかった。もっと優男風で、全然強そうになんか見えなくて、狼姿のほうが頼り甲斐があるなんてよくからかっていたくらいで。

 ――そうだ、あいつは私の傍にいると誓ったくせに。
 
 酷い奴だ。お前は結局平気で私を置いて逝ったじゃないか。
 私が、お前がいなくても生きていけると思っていたのか。
 
 と、無性にを罵りたくなった。
 
 酷い奴だ。お前は平気で私を置いて逝ったじゃないか。
 私が、お前と違うように思っているとでも思ったのか。
 
 と、理由もなく誰かを罵りたくなった。
 決して犯してはならない自然の摂理。
 神でさえも叶わない、唯一自分だけが曲げてしまうことのできる、世界の約束。
 だからこそ、絶対に使わないと誓った魔法を、自分で誓約を破ってまで使ったのに、黄泉返ってこなかった薄情な奴――だと思っていた。

 なんだ、お前生きてたんじゃないか。

 フィン・ダーウィンを思い出して、誠――イヴはその場に泣き崩れた。
 
 □
 
「――お嬢、やっと見つけた!」

 声変わりが始まりかけた、少し掠れた少年の声に呼ばれて、イヴァンジェリンは渋々下を見た。
 すると彼女の予想通り、白銀の髪に太陽の光が反射して、やたらキラキラと眩しい少年が、遥か下の樹の根元で腰に手を当てている。
 その表情は怒っているのか、彼の柳眉はきゅっと真ん中に寄っていた。
「もう、木の上で寝たらダメだって何度言わせんの。ほら、降りた降りた」
「べつに、もんだいない。落ちてもケガなんてしない」
 不思議なことに、イヴァンジェリンは赤ん坊の頃から気ままに浮遊し、モノを自在に動かすことができた。
 飛行魔法の原理はまだ、誰も解明できていないらしい。原理が解明できない魔法は、基本的に使用できないのが世界の理だ。
 しかし、イヴァンジェリンとしてはできるものはできるのだし、飛べる彼女にとって高所は地面と何ら変わりない場所だった。
 それでも、飛べない人々からすると、やはり危険な行動に見えるらしい。
 よく見ると彼女の従僕であるフィンの顔は、元々色白の顔色がさらに少し青くなっていた。
「そういう問題じゃないの。いいか、絶対動いちゃダメだからな」
 きつく言いつけると、フィンはたんっと軽く地面を蹴った。
 イヴァンジェリンも令嬢にしては――それも五歳児としてはあるまじき恐ろしくそっけない口の利き方だが、彼女の従僕も人目がなければ、基本的には彼女の兄たちよりも砕けた口調で話しかけてくる。
 フィンは、体重を感じさせない軽やかな動きで、苦なくひょいひょいと主のところまで登ってくる。敷地内で一番の大樹なので、イヴァンジェリンがいたのは屋敷の屋根よりも高い位置のはずだが、半魔の彼にはなんてことない障害物らしい。
 あっという間にイヴァンジェリンの真横にまで移動してくると、距離が近くなった分だけ説教がうるさくなった。
「ったく、こんなデカイ樹の中心部分なんて、俺じゃなかったら見つけらんないでしょうが。今日はいつまで隠れてるつもりだったんだよ」
「だれも探さない。探したとしてもおまえくらいだ。フィンが見つけられるならもんだいないだろう?」
 イヴァンジェリンが稽古の前後に、こうして行方をくらますのは、いつものことだ。それでも屋敷総出で探されたことどころか、騒がれたことすらない。
 双子の兄は、どちらかがいなくなっただけで大騒ぎなのに。
 真っ先に、唯一イヴァンジェリンを見つけるのは、いつだってフィンだった。
「それは、お嬢のかくれんぼが上手すぎるからだよ。こんなところ、メイドの誰が見つけられるんだっつの。ほら、みんな心配してるから、早く戻ろう? ピアノのレッスン、そんなに嫌だった?」
「心配はされてない。今日教わったところはもうできるようになった。だからいまはやすみ時間だ」
「また、そうやってこじつけやがって……」
 言いながら、フィンは許可も取らずにひょいっとイヴァンジェリンの小さな身体を抱き上げる。
 しかし、その格好を見てさらに顔をしかめた。
「しかも、またズボンなんて履いて……これが原因で逃げ出したんだな」
「課題曲はちゃんとこなしてきた」
 しれっと言ってのけるが、イヴァンジェリンの服装を見たガヴァネス家庭教師の表情が魔王の如き険しさになったのは言うまでもない。
 動きが制限されるドレスをことごとく嫌がるイヴァンジェリンは、兄の適当なお下がりのシャツとズボンを拝借して、行動することが多い。
 まず子供が、それも貴族令嬢が自分で着替えるなど言語道断だが、イヴァンジェリンにとっては容易なことだった。
 ただ、兄の服が仕舞ってある場所を想像して、欲しいものを思い浮かべて、手元に落とすだけだ。
 あとはそれを着ていた兄を、あるいは似たような服装をしているフィンを想像して身につけるだけである。
 兄が着ていたのだから、別に自分が着ていても恥ずかしくはあるまい。市井では、男子がエプロンドレスを着ていることもあるくらいだ。男女の差など子供の身からすれば些末な問題である。
 と、ここまで細かく考えていたわけでは勿論ないが、イヴァンジェリンはメイドにドレスを着せられるよりも早く起きて着替えて顔と歯を洗い、食堂に潜り込んで食事を済ませ、レッスンを短時間で済ませてはのんびりとする気ままな日々を送っていた。
 あれが嫌だ、これが嫌だと言っても無駄ならば、言われる前に行動してしまえばいい。わたしには魔法があるのだから。
 そう、イヴァンジェリンが割り切ったのは、若干四歳の頃である。
 今日も、ガヴァネスが怒り出す前に課題曲の楽譜を盗み見て、目の前でさらりと奏でるなり、飛び出してきた次第だった。
 自分で言うのもなんだが、ピアノ演奏に文句の付け所はなかっただろう。
 ならば、稽古は終了のはずである。
「あーあ、またガヴァネスが替わらなきゃいいけど」
 魔法社会の中でも貴族社会の中でも異端中の異端を極めるイヴァンジェリンは、両親の英断によってまだ社交界に披露されていない。それでも、デビュタントまで領地から一歩も出ないということは、辺境伯の娘としては不可能だろう。
 それまでの間に淑女レディとして最低限の振る舞いを、という両親の努力はなかなか報われない。
 算術や歴史、政治を含む勉学はすでに八歳上の兄と同じレベルに到達するところまで来ており、楽器は一度奏で方を見ただけで、イヴァンジェリンは何でも自在に操る。
 そして、それは楽器に限ったことではない。剣術、弓術、馬術すべてにおいて彼女は五歳児の格を――というより、子供という枠を大幅に飛び越えて習得していた。
 だがだが、しかし。
 肝心の淑女レディとしての振る舞いの方は、とんと身につく気配はない。
 最低限の食事のマナーは叩き込まれているが、そもそもドレスを着ない令嬢にカーテシーを覚えさせるなど、至難の業を極める。ドレスを翻して舞うダンスなど以ての外だ。
 令嬢につけられる教育係は各分野によって入れ替わるが、淑女レディ教育は大抵貴族出身のガヴァネスに委ねられる。
 今回のガヴァネスは楽器から作法まで何でもござれといったオールマイティな人材だったが、彼女がその任に就いてから額に青筋が浮いていなかった日を、少なくともフィンは見ていない。
 フィンは基本的にイヴァンジェリンの傍を長く離れることはないので、気のせいでなければそれはすなわち、毎日ということである。
 そしてそれは、過去のガヴァネスたちとの哀しい共通点でもあった。
「もういっそ、ガヴァネスなんて雇わずにお前がすべて教えてくれればいいのに」
「俺じゃ、淑女レディの細々した規則だの、カーテシーだなんて教えらんないでしょ」
 五歳児を抱き抱えたままでも危なげなく大樹から降りるフィンの首っ玉に、当のイヴァンジェリンが、ぶうたれながら白く丸い頬を乗せる。
 フィンはイヴァンジェリンの双子の兄と同い年の十三歳だが、すでに一般的な貴族の令息が教わる教養を収めているという。剣術、弓術でも、魔法なしでは、今のイヴァンジェリンではどれも歯が立たない。
 フィンだけがいればいいのに、とイヴァンジェリンは何度思っただろう。
 生まれたての頃は可愛がってくれたという双子の兄は、自分たちより出来がいい上に滅多に笑いもしない妹を不快に思っているようで、一昨年頃から一緒に食事すらとりたがらなくなった。
 多忙な両親は、帰ってくれば子供たちに平等な愛を注いでくれるが、いかんせん屋敷内に留まっているのは、全日程をかき集めても半シーズン程度なものだ。
 しかし、両親の更に上を行く多忙さを誇るらしいフィンはなんと、イヴァンジェリンが産まれてから一回も里帰りをしていないという。
 何度か理由を訪ねてみたり、両親に頼もうかと提案したこともあるが、曰く「帰っても居場所がないから」と困った顔で笑われた。
「お嬢のお傍が、俺のいる場所だからね。お嬢がいない場所に帰るっていうのがそもそもおかしいんだ」
 というのが、本人の弁である。
 強がりかと思いきや、五歳になったイヴァンジェリンは察していた。こいつは本気でこう言ってるし、こう思っている、と。
 変な奴、と思いながらも、イヴァンジェリンもフィンなくしては生きていけない。
 だったら、もう二人だけでいいのに。
 みんな、ほっといてくれたらいいのに。
 なんで中途半端に、わたしたちの世界に入ってくるんだろう。
 
 イヴァンジェリンは知っていた。
 双子の兄や屋敷中の人間が、自分を怖がっていることを。
 両親がなかなか帰ってこないのは、人間として過去に類を見ない魔力量を持つ自分の存在をできるだけ秘匿するためだということを。
 
 フィンだけが、イヴァンジェリンに躊躇いなく触れてくれる。
 フィンだけが、イヴァンジェリンと同じ銀色を持っていてくれる。
 
 ――家族の誰も持っていない、銀色を。
 
「お嬢? 眠くなっちゃった? 夕食まですぐだから、今寝るのはやめてね」
「……フィンのにぶちん」

 これがイヴァンジェリンの、長い初恋が始まったときだった。
 
 □
 
「――いま、なんて?」
 
 イヴァンジェリンの最初の失恋は、七歳のときだった。
 どこか哀しげな顔をした父が、イヴァンジェリンの銀髪を遠慮しがちに撫でる。
「お前の婚約が決まった。お相手は、第一王子アレクシス・アウクトゥス・スペンサー様だ」
 なんと王子直々にイヴァンジェリンを指名し、王に直訴までしたらしい。
 この娘が欲しいと。
 そして、王は愛息子の願いをあっさり受諾したという。
「我が家は辺境伯としての地位をいただいている。身分も申し分なく、王子はお前より二つ上で年回りも丁度いい。お断りできる話では……なかったんだ」
 ということは、王からの勅命でも下ったのか。
「そんな、ふざけた話がありますか…?」
 数ヶ月ぶりに見る父の顔を、殆ど睨みつけるようにしてイヴァンジェリンは見上げた。
 怒りで声が震えることがあるのだと、イヴァンジェリンは産まれて初めて知った。
 この二年間で(未成年時に)修めるべきは淑女レディ教育のみとなったイヴァンジェリンは、フィンにそそのかされるようにして時にはドレスを着て、先月にはついに初めて外部を招いた誕生パーティーを開(かされて)いた。
 フィン以外の前では鋼鉄のようになる表情筋を、気合とフィンの声援で無理やり動かし、ぎこちないカーテシーをあちこちで振る舞っていた覚えしかないが、見初められたとすればそのときか。
 こうなるとわかっていれば、笑顔を浮かべるどころか、すべてのテーブルを浮かべてやったのに。
 イヴァンジェリンとしては、ドレスを着て笑顔でカーテシーをこなすより、よほどそのほうが容易い。
 たとえ、公の場に初めて姿を表した自分を、多くの人々が「妖精姫」と称していたとしても。
 美貌と優秀さで知られ、立太子目前と言われる第一王子に見初められても。
 家族や使用人には畏怖の目を向けられ、窮屈に感じるこの家から出られるとしても。
 フィンしか傍にいらないと心底思っているイヴァンジェリンにとっては、この報せは災厄でしかなかった。
「……とにかく、近日中に登城するようにとお達しをいただいている。その心づもりでいなさい。新しいドレスも仕立てねばね」
 イヴァンジェリンの言葉には応えずに、父が立ち上がる。
 ドレスなんかいらない。
 だが。
「……フィンを、連れて行ってもいいですか」
 せめてもの抵抗で、イヴァンジェリンは父の背中に問う。
 しかし、どんなに抑えようと思っても魔力の一部がこぼれ出ているのか、イヴァンジェリンは自身の銀髪が風もないのに宙へ翻るのを見た。
 メイドたちの悲鳴が上がっているということは、恐らく浮かんでいるのは自分の髪や服だけではないのだろう。
 しかし、構うものか。
 イヴァンジェリンは、頭に血が上る感覚で、魔力によって自身の目が普段よりも強く赤く輝いていることを自覚した。
「いつもどおりの姿で、忍ばせていくなら構わないよ。挨拶の機会は別に設けるようにする」
 父はそれだけ言い残し、今度こそ去って行った。
 途端に部屋中から落下音と粉砕音が響き渡るが、何が壊れたかも、父がどこへ行ったかも些事だ。
 イヴァンジェリンは、慰めるように鼻先を擦りつけてきたフィンの背中に縋り付いた。
 
 □
 
 フィンは基本、人前では銀色の毛並みが見事な狼の姿でイヴァンジェリンに侍っている。
 侍れないときは、他の影と同じように人の姿で隠形するか、獣姿でイヴァンジェリンの影に忍ぶ。
 人の姿を晒すのは、エインズワース家、ダーウィン家どちらかの当主の命が下ったときか、イヴァンジェリンと二人きりのときだけだ。
 それも、イヴァンジェリンが三歳頃のときに、散々ごねにごねて強請り続けた成果で、二人のときにも人身をとるようにしてもらっているのだ。

 ――そして、それが許されるのは、婚約者ができるまでだと約束させられていた。

 室内では魔力の暴走で何を破壊するかわからないイヴァンジェリンは、泣くときには自然と屋敷外に出る癖ができていた。
 いくら他者よりも魔力量が多いとしても、いつまでも暴走させるのははしたない。
 と、怒られるからというより、イヴァンジェリンの魔力暴走の場合は、周囲に甚大な被害と危険が伴うからだ。
 屋敷の結界外に出ても、相手から自由に魔力を奪えるイヴァンジェリンを襲う“魔物”は、いない。
 その気になれば草木、光や空気、水などすべての元素から無尽蔵に魔力をことができるイヴァンジェリンは、魔力が尽きることを知らなかった。
 いつもなら自分で飛び出すところだが、今回はフィンの背に乗って連れ出された。
 屋敷からかなり離れた、いつか登った大樹に似た樹の上に下ろされ――フィンが人身になった瞬間にイヴァンジェリンは、彼に抱きついて泣いた。
 令嬢が大声で泣くだなんて、と意外にも五歳の頃から替わらなかったガヴァネスは目を尖らせるだろうが、今、イヴァンジェリンの泣き声を聞くのはフィンしかいない。
「悔しい悔しい悔しい…!!」
「うん」
 フィンはイヴァンジェリンを抱えながら大きな枝の上で幹に背を預けて胡座を組み、足の間に自身の主を座らせる。
 体勢を整えられている間も、イヴァンジェリンはフィンの胸元を涙で濡らし続け、その涙に呼応するように二人を支える巨木の周辺には大粒の雨が降り出していた。
「令嬢なんてやめたい…!! この力も顔も髪も全部、望んだわけじゃないのに!! 今より窮屈な生活なんてまっぴらだ!!」
「そうだね、全然令嬢らしくないお転婆だしね。でも、俺と同じ銀の髪まで否定しないでほしいな」
 フィンが苦笑交じりに言いながら、イヴァンジェリンの背中を宥めるように優しく叩く。
「父上も母上も、やっぱり兄上たちと同じでわたしのことなんて嫌いだったんだ!! だから王家に行けっていうんだ!!」
「どうかなぁ、お嬢が見ないようにしてるだけで、俺はお嬢のことがみんな大好きだと思うよ?」
 何度イヴァンジェリンが否定しても、フィンは家族の点だけは譲らない。
 愛されている、と何度でも諭してくれる。
 今までは諭して、代わりに抱きしめてくれる腕があるから耐えて――信じてこられたのに。
 それさえ奪おうとする家族を、王家をイヴァンジェリンは、とてもではないが信じられなくなった。
 フィンの頬に、涙で濡れた頬を擦りつけ、真正面から向き合う。
 フェンリル一族は成人まで、人間と変わらない速度で成長するという。
 十五歳の彼の顔を忘れないように、この顔が変わらないうちにと、イヴァンジェリンは、涙目でフィンの顔を必死に目に焼き付けた。
「なんとか婚約破棄して、またお前にこうして抱っこしてもらう。絶対だ!!」
「婚約破棄って、穏やかじゃないなぁ。獣姿ならいつもどおり一緒にいられるんだから、いいじゃない。人間の一生なんて一瞬だよ。お嬢は、俺ら魔物よりもずっと魔力が強いから、千年も生きるっていうエルフよりもきっと長生きだから、その一瞬くらい人の子と連れ添ってみたって」
「……フィンのにぶちん!!」

 そう怒鳴って、二人連れ添って王城に上がった三年後。
 
 ――エインズワース家の治める土地が、近くのダンジョンから発生した魔物のスタンビートによって崩落したという報が、城に入った。
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